第3章 | 分野別に見た外交 |
第1節国際社会の平和と安定に向けた取組 |
1. |
日米安全保障体制 |
日米安全保障体制は、戦後、アジア太平洋地域における安定と発展のための基本的な枠組みとしても有効に機能し、日本及び極東に平和と繁栄をもたらしてきた。同時に、北朝鮮の弾道ミサイル及び核問題が示すとおり、アジア太平洋地域には、冷戦終結後も地域紛争、大量破壊兵器やミサイルの拡散など、不安定な要素が依然存在している。このような状況において、日本及び地域の平和と安全を確保するために、同盟国である米国と日米安保体制を一層強化していくことは重要な課題である。
日米両政府は、在日米軍の再編を含め、日米安保体制を一層強化するための各種協議を続けてきている。また、米国の対日防衛義務を果たす約束が揺るぎないものであることは、累次の機会に確認されている。例えば、2006年の北朝鮮による核実験実施発表直後、ブッシュ大統領は米国が日本の安全保障のためのすべての義務を果たすことを明言した。また、2007年5月に開催された日米安全保障協議委員会(「2+2」会合)においても、米国のあらゆる種類の軍事力が、米国の抑止力を日本にも提供する拡大抑止の中核を形成し、日本の防衛に対する米国のコミットメントを裏付けることを再確認した。
さらに、2007年11月に訪日したゲイツ国防長官と高村外務大臣との会談において、日米安保体制を中核とする日米同盟の重要性及び今後も同盟関係を一層強化していくことを日米双方で確認した。同会談では、高村外務大臣より、在日米軍が日本の平和・安全の維持に命懸けで日夜尽力していることに謝意を表明し、ゲイツ国防長官より、日米防衛協力を一層強化したい旨述べた。
日米協議の全体像
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在日米軍の兵力態勢の再編等 |
冷戦終結以降、米国をはじめ日本を含む西側諸国がかつて直面したソ連という脅威は消滅した一方で、国際テロ、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散など、新たな脅威が顕著化している。米国はこのような新たな安全保障環境における課題に対処するため、軍事技術の進展を活用し、より機動性の高い態勢を実現することを目標に、米軍の全世界的な軍事態勢の見直しを行っており、日本を含めた同盟国、友好国等と緊密に協議している。
2007年5月の日米安全保障協議委員会(以下、「2+2」会合)で、前年5月に発表した兵力態勢再編の具体的施策を実施するための計画(「再編実施のための日米のロードマップ」)について、この1年の作業の進捗を確認するとともに、日米合意に従った着実な実施の重要性を確認した。この「ロードマップ」に基づいた在日米軍再編の着実な実施の重要性は、2007年11月のゲイツ国防長官と高村外務大臣との間の会談でも再確認されている。また、この「2 +2」会合において、日米両政府は、新たに発生している安全保障上の課題に対して、より効果的に対応するために、二国間の情報協力及び情報共有を拡大し、深化する必要性を強調した。この関連で2007年8月には、「秘密軍事情報の保護のための秘密保持の措置に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(日米軍事情報包括保護協定(GSOMIA))が締結され、日米間で相互に提供される防衛関連秘密情報の取扱い、提供のための具体的な手続き等が共通化され、明確化された。これにより、日米間の防衛関連秘密情報の交換がより円滑かつ迅速に行われることが期待される。
また、2008年8月には、横須賀基地を中心に展開する通常型空母キティホークが退役し、原子力空母ジョージ・ワシントンと交替する予定である。これは、地域の不安定要素に対する米軍による抑止力の維持に寄与するものである。日本政府として、地元の理解を得つつ、空母交替を円滑に実現する観点から、引き続き安全と安心の確保のために米側及び地元と緊密に協力していく考えである。
ゲイツ・米国国防長官(左)と会談する高村外務大臣(右)(11月8日、東京) |
(2) |
弾道ミサイル防衛(BMD) |
弾道ミサイル防衛(BMD)システムは、弾道ミサイル攻撃から日本国民の生命・財産を守るための純粋に防御的でほかに代替手段のない唯一の手段である。日本としては、北朝鮮による弾道ミサイル発射(2006年7月)及び核実験(同年10月)等の動きも踏まえ、米国との緊密な連携の下に、BMD協力にかかわる取組を強化・加速化することを通じて、日米安保体制の抑止力及び信頼性を一層向上させることが喫緊の課題となっている。
日本政府は2003年12月にBMDシステムの整備を決定して以来、政策・運用・研究開発等のあらゆる面について米国との協力を図りつつ、その着実な整備に努めてきている。既に2006年には、米軍によるXバンド・レーダー(長距離型監視用レーダー)の展開、迎撃能力を有する米イージス艦「シャイロー」等の展開及びパトリオット・ミサイル(PAC-3)の嘉手納(かでな)配備、並びに日米間のBMD共同開発を可能にする交換公文等の締結等の取組を進めたが、2007年には、日本自身の取組として、入間基地等においてPAC-3の展開を順次開始するとともに、SM-3(イージス艦搭載型迎撃ミサイル)については、日本初となる迎撃能力を有するイージス艦「こんごう」が迎撃実験に成功し(12月)、2008年から実戦展開することとなった。2007年5月の「2+2」会合では、BMD運用・関連情報を直接、相互、リアルタイム及び常時共有する等運用協力の強化、Xバンド・レーダー及びPAC-3の配備・運用、SM-3ミサイル防衛能力の継続的な強化等、BMDシステム能力の向上等について議論された。
在日米軍兵力態勢の再編
日本のBMD整備構想・運用構想
(3) |
在日米軍駐留経費負担(HNS) |
日本政府は、日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を確保していくことが重要であるとの観点から、日米地位協定の範囲内で、米軍施設・区域の土地の借料、提供施設整備(FIP)費等を負担しているほか、特別協定を締結して、在日米軍の労務費、光熱費及び訓練移転費を負担している。
日米両政府は、2006年4月に発効した特別協定が2008年3月末に終了することから、2007年度の前半から交渉してきた。その結果、2008年4月からの3年間を対象とする新たな特別協定を締結することで合意し(2007年12月)、協定案文に署名した(2008年1月)。
新たな特別協定の内容は、[1]労務費については、現行協定の枠組みを維持し、現行協定と同じ上限労働者数(23,055人)とする、[2]光熱費については、日本側は、2008年度は、2007年度予算額と同額の約253億円に相当する光熱水等を、2009年度及び2010年度については2007年度予算額から1.5%ずつ減額し、約249億円に相当する光熱水等を負担する、[3]訓練移転費については、現行協定の枠組みを維持する、[4]米側は、上記の協定対象経費につき、一層の節約努力を行うこととなっている。また、日米両政府は、在日米軍駐留経費負担をより効率的で効果的にするため、包括的な見直しを行うことでも一致した。
(4) |
在日米軍の駐留に関する諸問題 |
日米安保体制の円滑かつ効果的な運用の確保のためには、在日米軍の活動が施設・区域周辺の住民に与える負担を軽減し、米軍の駐留に関する住民の理解と支持を得ることが重要である。特に、在日米軍施設・区域が集中する沖縄県の県民の負担を軽減することが重要であることについては、日米首脳会談、日米外相会談など累次の機会に日米双方が確認している。
日本政府は、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告の着実な実施に取り組んできており、2007年5月の「2+2」会合でも、同最終報告の合意事項の実施が継続的に進展していることを評価した。さらに、在日米軍の兵力態勢の再編を通じて、在日米軍の抑止力を維持しつつ、地元の負担軽減に取り組むこととしており、日本政府としては、普天間飛行場の早期移設・返還等により、引き続き沖縄をはじめとする地元の負担軽減に努めていく考えである。その一環として、[1]駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別措置法の成立(2007年5月)、[2]横田ラプコン(レーダー進入管制業務)への自衛隊管制官の併置(同年5月)、[3]米軍機の訓練移転の実施(年合計6回)、[4]普天間飛行場代替施設の建設に向けた環境影響評価手続きの開始(同年8月)等の取組を行った。横田飛行場の軍民共用化については、2006年10月からスタディ・グループにおいて検討している。
日米地位協定の運用改善についても、国民の目に見える形で一つひとつ成果を上げていくことが重要であるとの考えから、具体的な取組を進めてきている。刑事裁判手続きについては、1995年の刑事裁判手続きに関する日米合同委員会合意により、凶悪犯罪を犯して拘禁された米軍人等の身柄引渡しを起訴前に日本側が要請できる仕組みが作られた(注1)。
また、2007年4月、日米両政府は、日米合同委員会において、災害準備及び災害対応のための在日米軍施設・区域への立入りについて合意した。この合意は、災害時において、地方自治体の人員等が、救助、医療サービス、緊急輸送等の活動を実施するため、または災害に備えた防災訓練等を実施するため、必要な場合に在日米軍施設・区域を使用できるよう、在日米軍施設・区域へ立入るための手続きを定めたものである。
在日米軍関係経費(日本側負担の概念図)<2008年度予算案>
(注1) | 最近では2006年1月に横須賀で発生した米軍人による日本人女性殺害事件において被疑者の身柄が迅速に日本側に引渡された。 |