第3章 分野別に見た外交 

文化協力
 文化協力は、開発途上国の住民の誇りであり生活の一部でもある自国文化に対する支援として、貧困削減を目的とする経済協力と並行して実施することにより、日本に対する評価を高める効果が高い。

  (1)二国間の文化協力
 日本は、二国間協力の枠組みで、開発途上国に対し、主に文化・高等教育活動に使用される機材を供与する「文化無償協力」を行っている。2003年には、エジプトにおける日本語学習の拠点であるアインシャムス大学に対する日本語学習機材の供与や、世界的な遺跡を多数擁するトルコの考古学研究の中心であるアナトリア文明博物館に対する研究・視聴覚機材の供与等、全世界で58件を実施した。また、同じ枠組みで、人類共通の財産である文化遺産の保護を目的とした「文化遺産無償協力」も行っている。2003年には、日・ベトナム国交樹立30周年を記念し、ベトナム中・南部に興隆したチャンパ王国の聖地として1,300年にわたり繁栄したミーソン遺跡に対し、展示棟建設等の協力を行った。さらに、日本は、非政府組織(NGO)等草の根レベルを対象とした小規模できめ細かな文化協力も行っている(「草の根文化無償協力」)。2003年には、アフガニスタンに対する復興支援の一環として、柔道の人気が高い同国の柔道連盟に柔道着や畳を供与した。

  (2)ユネスコを通じた文化協力
 日本は、従来から、国連教育科学文化機関(ユネスコ(UNESCO))を通じ、有形及び無形の文化遺産の保存・振興に積極的な貢献を行っている。
 有形文化遺産(遺跡等)の保存についてはユネスコ文化遺産保存信託基金を通じて支援しており、その代表例であるアンコール遺跡の保存・修復事業を引き続き実施中であり、11月には、逢沢外務副大臣、ドビルパン外務大臣の日仏共同議長により、「第2回アンコール遺跡救済国際会議」がパリで開催された。同会合では、日本等が実施してきた同遺跡への取組が文化遺産保存のみならず、カンボジアの復興にも大きく貢献していることが再確認された。また、戦後復興支援の一環として、2003年よりアフガニスタンのバーミヤン遺跡保存事業を実施しているほか、イラクについては、古代文明の貴重な文化財を所蔵するイラク国立博物館(文化財の修復研究作業室)の再生支援のために約100万ドルの緊急拠出を行った。
 また、無形文化遺産(伝統芸能、陶芸・染色等の伝統工芸等)の保存については、無形文化遺産保存振興日本信託基金を通じて、保存・振興のための支援を行っている。

  (3)第32回ユネスコ総会
 10月に開かれた第32回ユネスコ総会において、貴重な無形文化遺産を人類の共通遺産として保護することを目的とした「無形文化遺産の保護に関する条約」が、日本の条約交渉に対する積極的な貢献の結果、賛成120、反対0、棄権8の圧倒的な支持を受けて採択された。世界の卓越した有形文化遺産の保護を目的として1972年に採択された「世界遺産条約」と対をなす本条約の採択により、危機に瀕している無形文化遺産の保護が促進されることが期待される。
 なお、同総会では、米国が19年ぶりにユネスコに復帰したほか、文化多様性条約及びアンチドーピング条約という新たな条約作成のための交渉開始が決定されるなど、ユネスコを通じた文化協力の動きが活発化している。

 
 南東欧における対話促進
Column

 2001年は国連総会により「文明間対話の年」に指定され、ユネスコは世界各地で様々な行事を主催しました。2002年以降は地域紛争のあった地域や、紛争には至らないものの緊張が存在する地域を対象に、地域的な文明間の対話の推進が肝要と考え、地域的な会議を開いてきています。
 そのような努力の一環として、私は南東欧(かつてのバルカン半島)に引き続き特別の関心を払う必要があると考え、まず2002年4月に大臣レベルの南東欧会議をパリのユネスコ本部で開きました。右会議には、旧ユーゴスラビア連邦の解体に伴って誕生した5か国(スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア・モンテネグロ及びマケドニア)及びその周辺のアルバニア、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー及びギリシャを入れた10か国を中心に招き、その他の近隣諸国も加えました。各国からは概ね、外務、教育、文化のいずれかの大臣が参加してくれ、域内の教育、文化、科学、コミュニケーション分野をどのように進めていくか集中的に議論しました。
 引き続き2003年8月には同様の国を対象に首脳レベルの会議をマケドニアのオホリッドで、トライコフスキー大統領と私の共催で開きました。上記10か国のうち8か国から大統領が出席し、その他の国々からもハイレベルの出席を得て、2日間の有益な対話を持ちました。非常に嬉しかったことは、8か国の大統領が全員南東欧内での対話の強化及び地域協力の重要性を強調したことです。
 このように、南東欧8か国の大統領なかんずく旧ユーゴスラビア連邦の5か国の大統領が一堂に会したことは、そもそも近年なかったようです。クロアチアのメシッチ大統領は私に対し、「今回の会議は12年前のオホリッドでのユーゴスラビア連邦構成共和国の指導者会合以来のものですが、同会合の失敗を契機に内戦が始まり、ユーゴスラビア連邦が解体しました。今回12年ぶりに同じ場所で会合した我々が近隣国の大統領にも入ってもらい、ユネスコと一緒になって今後地域協力を強化することを謳いあげたことは画期的なことです。」と強調されました。
 2004年にはブルガリアのバルヴァノフ大統領の提案で、ブルガリアで南東欧の文化遺産をめぐる協力について首脳レベル会合を開くことにしており、またアルバニアのモイシウ大統領の提案で異なる宗教間の対話に焦点をあてた会合をアルバニアで開くことも考えています。
執筆:国連教育科学文化機関(UNESCO)事務局長 松浦 晃一郎


 

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