地球的規模の協力
1.現状
日米両国は、21世紀において平和で豊かな世界を構築するという共通の目標を目指し、二国間のみならず、地球規模の問題への取組を含む幅広い協力を行ってきています。
2001年6月の日米首脳会談において発表された「安全と繁栄のためのパートナーシップ」の中で、小泉総理とブッシュ大統領は、複雑な地球規模の課題に取り組む上での両国の過去の協調的努力を認識し、これらの成功を踏まえて、更に協力を拡充することとなりました。
2002年2月のブッシュ大統領訪日時においても、同大統領は国会演説において開発、教育、科学、環境等の分野での日米協力の重要性を指摘しています。
これまでの日米間の協力の多くは、現在も進行中であり、今後も各分野毎において引き続き実施されていくことになります。
2.「地球的展望に立った協力のための共通課題(日米コモン・アジェンダ)」
(1)基本的枠組み
「地球的展望に立った協力のための共通課題(日米コモン・アジェンダ)」は、ますます深刻となりつつある地球環境問題、世界的な人口問題、各種の災害等の地球的規模の課題に対し日米両国が共同で対処することを目的として1993年7月の宮沢・クリントン首脳会談で発足しました。それ以来、「保健と人間開発の促進」、「人類社会の安定に対する挑戦への対応」、「地球環境の保護」及び「科学技術の進歩」の4つの柱の下で約100件の案件が実施されてきました。コモン・アジェンダの特徴は、二国間の協力そのものではなく、地球規模の問題に取り組むことにあり、その結果、共同プロジェクトや共同研究の中には、両国の共同イニシアティブのもと、他の諸国や国際機関を含めた協力に発展していったものが少なからず見られたことです。
コモン・アジェンダに関する両国政府の協議メカニズムは次官級会合(日本側:経済担当外務審議官、米側:地球規模問題担当国務次官)であり、この会合では、進行中のプロジェクトの現状の確認と今後の優先分野に関する協議が行われてきました。
2000年7月の日米首脳会談時には、日米コモン・アジェンダ共同報告が野上審議官とロイ国務次官より、森総理及びクリントン大統領へ提出されました。本報告書において、コモン・アジェンダのもと日米両国によって示されたイニシアティブやリーダーシップが国際的な努力を誘発し、ポリオの撲滅や珊瑚礁保全などの分野において多数国間の協力に大きく貢献してきたこと、またARGO計画や統合国際深海掘削計画など、二国間ではじまったプロジェクトの重要性を他の国々が認識し、参加する状況があること、並びにNGO/CSO等民間との連携が、近年の二国間協力の最も重要な成果であることが確認されました。
(2)主な個別の成果
日米コモン・アジェンダのもとで、日米両国政府の関係機関間の協力は著しく進展し、その多くが現在も進行中です。特に、援助協力、政策対話、研究協力等の分野での協力の成果が大きく、具体的には、コモン・アジェンダのもとで主に以下のような成果が見られました。
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(イ)保健と人間開発の促進
この分野はコモン・アジェンダの枠組みの中では、もっとも成功した分野で、特に、途上国における日米援助協力が最も効果を発揮した分野であると思われます。
中でも多くの実績が上がったのが、感染症をはじめとする「人口・健康」であります。「人口・健康」以外では、日米医学協力委員会による感染症に関する国際会議の開催等を通じた新興・再興感染症分野、グアテマラにおける「女子教育セミナー」等を通じ行われた途上国の女性支援分野、1996年の日米首脳会談でコモン・アジェンダの協力分野に加えられることが決まった世界的食糧供給分野における協力などが挙げられます。
(ロ)地球環境の保護
環境保全政策の分野では、日米両国は、地球的規模の気候変動、生物多様性、有害廃棄物、オゾン層の破壊といった国際的な環境問題に取り組んできています。その他、インドネシア生物多様性プロジェクトをはじめとする環境関連開発援助分野、1992年の日米首脳会談で発足し、その後、「アジア・太平洋地球変動研究ネットワーク」(APN)へと発展した地域的地球変動研究ネットワーク分野、アラスカ大学北極圏研究センターとハワイ大学国際太平洋研究センターにおいて共同研究が進められている他、高度海洋監視システム(ARGO計画)により全世界の海洋の状況をリアルタイムで監視・把握するシステムを構築することによって、農業生産等の向上が期待される地球変動研究・予測分野、米国との間での二酸化炭素の隔離技術に関する研究協力、フロンの分解等のテーマに関する研究開発を行っている環境・エネルギー技術分野などにおける協力があります。また、環境教育の分野は、1997年4月の円卓会議主催の「環境教育と日米協力」をテーマとするワークショップでこの分野をコモン・アジェンダの一環とすることが提唱され、深海掘削の分野に関しては第10回次官級全体会合の場で、新たにこの分野での協力が開始されることとなりました。
(ハ)科学技術の進歩
民需産業協力の分野では、1994年7月「民需産業技術に関する協力計画」の下で、日米民需実施取決めが5年間の有効期限で締結されました。その他、1994年2月に伊藤運輸大臣、ペーニャ運輸長官により運輸技術協力に関する実施取り決めが結ばれ、鉄道の地震対策や案内用図記号等の運輸分野全般にわたる協力が行われている輸送分野、科学技術の導入により教育の発展を図ることを目的としており、4つの専門家会合を開催することが決定された21世紀の教育工学の各分野における協力が行われています。
(ニ)人類社会の安定に対する挑戦への対応
麻薬対策の分野では、ペルー及びラオスにおける麻薬代替作物栽培への協力や、国連薬物統制計画(UNDCP)のプロジェクトが実施されています。また、1999年にバンコクに設立された国際法執行アカデミーに対する協力及びフィリピンでの「人の密輸」に関する国連国際犯罪防止センター(CICP)のプロジェクトなどが国際組織犯罪対策分野として実施されています。テロリズム対策の分野は1996年の日米首脳会談でコモン・アジェンダの対象分野に加えられたものであり、自然・人的災害の軽減の分野では、地震等の自然災害及びタンカー事故等による油流出といった人的災害による被害を軽減するための協力が促進されました。市民社会と民主化の分野は、新たに民主化した国における選挙の実施や司法制度の強化等を支援するものであり、1996年の日米首脳会談で対象分野に加えられました。
これまでの主な成功例
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(3)官民パートナーシップ
コモン・アジェンダは日米両国政府関係機関間の協力としてスタートしましたが、時の経過と共に、非政府機関(NGO/CSO)の関与が高まり、このことが日米協力の裾野の拡大に貢献してきました。
2000年7月の日米首脳会談時に提出された日米コモン・アジェンダ共同報告においても、民間、学界、CSO/NGOとの連携が、近年の二国間協力の最も重要な成果として挙げられています。
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(イ)円卓会議
1996年2月から2002年5月まで活動を行った「コモン・アジェンダ円卓会議」(会長:平岩外四経団連名誉会長)は、定期会合を開催し、政府に対し助言と指針を与えてきました。この円卓会議は、経済界、学界、NGO等の代表等幅広い有識者から構成され、日本におけるコモン・アジェンダの裾野の広がりに貢献してきました。
また、円卓会議は、ひとつの試みとして、インドネシアにおいて環境教育プロジェクトを実施し、現在も進行中です。
(ロ)日本NGOとの連携
円卓会議の幹事会からの働きかけもあり、コモン・アジェンダに関心を有する日本NGOの結集が図られ、1999年12月に「CSOネットワーク」が形成されました。同ネットワークは、外務省関係部局や円卓会議と連携を行ってきており、円卓会議終了後も、日米間の協力推進のために米国のNGOと緊密な連携をとり続けています。
(ハ)米側カウンターパートの成立
また、米側においても、米の主要NGOが参加する官民パートナーシップ(P3:Public Private Partnership)が発足し、日米両国の民間団体間でも対話・協力が行われています。
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