外務省 English リンクページ よくある質問集 検索 サイトマップ
外務省案内 渡航関連情報 各国・地域情勢 外交政策 ODA
会談・訪問 報道・広報 キッズ外務省 資料・公開情報 各種手続き
トップページ 外務省案内 聞きたい!知りたい!外務省
聞きたい!知りたい!外務省

今なぜアフリカなのか?-外交の未来を見据えて-
アフリカ第二課 植澤利次課長に聞く

収録:平成14年9月12日

慶応義塾大学法学部4年 谷岡亜希子さん
慶応義塾大学法学部4年
谷岡亜希子さん

 今年、8月25日から9月6日まで、川口外務大臣がアフリカのエティオピア・アンゴラ・南アフリカの3カ国を訪問されました。今日は、「どうしてアフリカなのか?」という素朴な疑問から出発し、私達の日常生活には縁遠いアフリカという地域が日本にどのような影響を与えるのか、国際社会の関心事としてのアフリカを取り巻く環境についてお話を伺いたいと思います。お話を伺うのは、今回の川口外相のアフリカ訪問にも同行し、タンザニア・ケニアに7年も住んでいらしたアフリカのスペシャリスト、中東アフリカ局植澤利次アフリカ第2課長です。(谷岡)


谷岡:「アフリカ問題の解決なくして21世紀の世界の安定と繁栄はなし」といわれ、アフリカ情勢は国際社会の重要な関心事になっていますが、その理由はなんでしょうか?

植澤:大きな要因の一つは、その悲惨な状況です。簡単に数字だけ見てみても、アフリカは世界のGDPの1%しか生産していない、難民・国内避難民をふくめて5人に1人が紛争の影響下にある、世界のHIV感染者の7割がアフリカに集中している、などの現実があります。こうした状況は一人間として目をおおうというより心をおおう悲惨さです。このような現実がグローバル化している国際社会に大きな影響を及ぼすのだという認識が国際社会の注目を集めている大きな理由です。アフリカの抱えている問題は環境問題・HIV・貧困などですが、これらの問題はアフリカ内だけにとどまる問題ではありません。大気・水は世界中で繋がっているわけですから、アフリカでの汚染は世界に広がります。また、貧困はテロリズムの温床にもなりかねません。記憶に新しい昨年の9・11事件のようなグローバルな問題を引き起こします。このように悲惨な状況が世界に影響していく。その観点で、アフリカ問題はもはや地域の問題ではなく国際社会全体の課題であり、世界が注目しているのです。

谷岡:アフリカにおける紛争の要因は、過去の恣意的な国境の設定や、貧困、部族対立、天然資源の利権をめぐる争い等多くの諸要因が複雑に絡み合っているといわれますが、その根本原因をどう捉えていらっしゃいますか。

植澤:冷戦期には、アフリカには西側・東側どちらの陣営につくかという構造がありました。加えて地域の利害関係(資源・内陸の国の港を求める争い)によって、紛争がおこる土台ができていました。そこに、国境紛争など個別の紛争が絡み合い現在の状況を作っています。
 根本原因を正確に捉えることは難しいですが、大きな要因の一つに、開発プロセスでの失敗があると思います。アフリカは60年代に独立しましたが、生まれたばかりの国を引っ張っていくために一人の強いリーダーシップで国をぐっと推進していく開発独裁が行われました。この開発独裁により、ものごとがいい方向に進んでいるときは効率がいいけれども、道を誤ったときにチェック&バランスで道を正す機能を果たすほどに市民社会が成熟できなかった。そうした国家の脆弱性が結果的に開発の失敗をもたらしたと思います。アジアと比較すると違いがよくわかります。ガーナと韓国は独立時はほぼ同じ状況だったけれども、今ガーナは重債務貧困国、韓国は日本に追いつけ追い越せの状況です。シンガポールやマレーシアも開発優先のアプローチで大きな経済発展を遂げています。これらの成功した例と比較してみると、「人に対してどれほど投資をしたかどうか」が決定的な分かれ目になっていると思います。

植澤利次 アフリカ第二課長
植澤利次 アフリカ第二課長
谷岡:それでは、アフリカ問題へのアプローチとして、日本はどのような立場をとっているのでしょうか。

植澤:アフリカ問題の一つの中心は紛争です。そして、紛争を解決していくためには、開発の達成が重要な位置を占めます。開発を行っていく時の観点として、経済成長と貧困者層の救済の2つの座標軸で捉え、紛争の結果でてきた難民支援をプラスアルファとして考えるというのが従来のスタンスでした。しかし、一つの国だけ成功しても他が成功しなければ結局不安定な状況に戻り、開発は行えません。そこで、新たに座標軸をかえて、平和構築と開発の2本立てで捉えていこうというのが現在の開発哲学です。平和構築を進めていくためのアプローチとして大きく2つのアプローチがあります。一つは、政治的なアプローチです。日本は、アフリカの平和構築のための統一機構AU(アフリカ連合)や紛争の地域独特の理由などに対応していくための地域機構に対して拠出金を出して支持したり、日本の紛争担当大使の派遣・国連などへの働きかけなどを行っています。二つ目は、紛争によってうまれた難民・女性・子供など社会的弱者や、紛争後の復興のための開発援助です。例えば、地雷除去・除隊兵の社会復帰への手助け、復興のための開発支援などです。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)などの国際機関を通じても援助しています。また、内戦の多いアフリカで活躍するNGOへの支援も実施していて、今回川口外相もアンゴラで地雷除去のNGOの活動を視察しました。こうした平和構築への支援と開発のための支援を同時平行あるいはシームレスに行っていくというのが「開発と平和構築を二本柱」とする基本的な考え方です。

谷岡:今お話いただいた、開発援助に関連して質問なのですが、今ODAのあり方というのが注目を集めるようになってきています。国力を高めつつある中国に対する援助、日本のPRに必ずしもつながらないプロジェクトなどが批判され、日本の国益につながるという意味でより実効性のあるODAの運営が求められています。その観点で考えると、アフリカは地理的にも遠く必然的にプライオリティが下がると思いますが、この点についてどうお考えですか?

植澤:資本主義経済の中では経済協力は、経済的に関係があるから行っているという要素が強い。すると、必然的に経済のブロック化がおこります。日本にとっての庭はやはりアジアでしょう。日本の資源外交も中東までですし、確かにアフリカは遠いです。しかし、このような見方のみでは、グローバル化する国際社会への対応としては不十分です。中国が発展し中東の石油を輸入する、すると今まで中東の石油を使っていた他の国の分が足りなくなり、アフリカの石油を必要とする。このように考えるとめぐりめぐって間接的に、結果として直接的にアフリカの豊富な資源は世界に影響を与えることになる。世界はそのようにダイナミックに動きはじめているのです。テロについても同じです。貧困が一つの原因であり、その貧困はアフリカにある。何かの原因を考えるとき直接的原因ばかりを人は考えるけれども、実感しづらいが遠いようで近い原因が10年20年後必ずペイバックしてきます。そういう意味でアフリカは必ず玉突きで影響してくる場所です。また、多くの人は「遠い大陸アフリカ」と思っているでしょうが、アフリカは地理的にアメリカよりも近いのです。さらにいうと、対アフリカODAの予算は約1000億円ですが、国民一人当たりがたこやきを1月に2、3個セーブすれば得られる額です。また同時に1000億円というのは大変大きな数字で、それを活用すれば日本国内のいろいろな問題に対処できるのも事実です。すなわち、アフリカの現在の悲惨な状況を十分認識し、この貴重な税金を有効に活用して、引き続きアフリカを支援すべきだと個人的には考えます。

インタビュー
谷岡:そうですね。アフリカの可能性を考えても援助は必要で、妥当なことだと私も思います。今のODAは日本の存在をアピールできていない例が多いといわれますが、ODAの効果的な運用についてアフリカではどのような試みがなされているのでしょうか?

植澤:アピールするという時、アピールする相手が3つあると思います。まずアフリカの人々に対して、国際社会に対して、そしてODAの出資者である日本の国民に対するアピールです。アフリカにおいては、TICAD(アフリカ開発会議)プロセス(注)がこの3者に対するアピールに貢献しています。(注:日本の主導により93年に開催したアフリカの開発問題をテーマとする国際会議。98年に第2回アフリカ開発会議、2001年にTICAD閣僚レベル会合を開催、2003年には第3回アフリカ開発会議(TICAD III)を開催予定。)
 まず、国際社会に対するアピールですが、日本は冷戦後の経済混乱で、他国が自国の経済を優先させアフリカから離れているときも、アフリカへの経済協力の必要性を国際社会に訴え続けました。もともとポスト植民地化をもくろんでいるわけではない博愛的な要素と、国際社会の場で意見を通していくためにはアフリカが非常に大きな力を持っているという要素との両方があったと思います。こうしたTICADプロセスを続けているうちに、国際社会が再度アフリカに目を向けた。いわば、国際社会がアフリカの重要性に気づいたきっかけを作ったといえます。TICADはアフリカ開発の重要なイニシアティブだという趣旨がWSSD(持続可能な開発に関する世界首脳会議)の実施文書に公式に書かれたのを見ても、TICADの有する大きな意義を御理解いただけると思います。日本の対アフリカ外交が国際社会を動かしたのです。
 次にアフリカの人々に対するアピールですが、日本はアフリカに対する援助の1割しか出していません。フランス・イギリスが多く出資しているにもかかわらず日本はすごく感謝されています。それは、沖縄で行ったG8サミットにサミット史上初めてアフリカ代表を招いたこと等の外交努力、橋などの市民の生活環境への影響力の強い経済インフラを作った点、青年海外協力隊の誠心誠意の活動などトータルな日本の真摯な態度が高い評価を得たのだと思います。
 最後に、日本国民に対するアピールですが、これは難しい。ホームページやタウンミーティングなどさまざまな試みを行っています。こうした努力に加え、私は、具体的にアフリカがどういう状況におかれていて、それに対し、日本国民として、また一人間として具体的に何をなすべきかを行動で示すということをやっていこうと思っています。これは、TICAD IIIの狙いでもあるのですが、今回のTICAD IIIは、農業、安全な水の確保・HIVを中心にメリハリをつけて開発を行っていくということを取り上げようと思っています。結局大事なことは、最初にお話したように人に投資していくということだと考えているので、例えば、農業を教えるだけではなく、その技術をどのように農業に生かし、またそしてそれを生かせる社会のシステムを構築していくこと(キャパシティビルディングと制度構築)を含めて進めていきます。その中で、日本の独自性を打ち出すことも重要です。更には、開発の過程で非常に重要な役割を担うプライベートセクターにおける投資貿易等にも目を向け、官・民そして市民社会とみんなが入っていけるオールアライアンスを作りたいと思っています。また、東アジアの発展のノウハウと活力をアフリカにブリッジしていくアジア・アフリカ協力もやっていこうと考えています。

谷岡:対アフリカ外交の流れがだんだんと分かってきた気がしますが、この流れの中での今回の川口外相のエチオピア・アンゴラ・南アフリカ訪問の目的は何だったのでしょうか?

植澤:今お話してきたように、来年、我が国はTICAD IIIを開催予定で、またG8においても再度アフリカ問題が取り上げられる見込みであるように世界の関心は引き続きアフリカに向いています。このような状況の中で、対アフリカ支援のための大きな第一歩を早く日本の外相に踏み出してほしかったということです。アフリカの問題を語る第一歩はやはりアフリカに出向くことです。安倍外相から18年ぶりの外相訪問への運びとなりました。今、日本のアフリカ外交は、平和の定着と開発の2本柱で行っています。エチオピアは一昨年の停戦合意を経て紛争後復興の正念場にあり、アンゴラも27年間の内戦が4月に和平合意されたばかりで、双方アフリカにおける紛争からの脱却を象徴する国です。日本の対アフリカ協力の焦点となる紛争からの復興国に行って開発に加えて紛争関連分野での日本の取り組みをアピールする、日本のアフリカ政策に関するスピーチをアフリカ全体に向かってしていただくというのが1つ目の目的でした。2つ目は、WSSDに関連して自分の目でアフリカに行ってアフリカを見てアフリカ人に語りかける、魂の入った外交を行うことでした。日本もODAで協力している地雷除去の現場を訪問し、ポリオ(小児麻痺)の患者さんとの交流を行いました。TICAD IIIにむけての第一歩を踏み出すという目的に向け、よい結果を出せたと思います。

【インタビューを終えて】
経験に基づいた臨場感のあるお話で、今まで遠かったアフリカ大陸を少し身近に感じることができました。10年、20年先をみてのアフリカ外交のお話は、今現在の状況を把握することばかりを考えていた私にとって、興味深いお話でした。特に印象にのこったのは、人への投資が開発の成功・失敗を決めるということでした。私達は、当たり前のように教育をうけ、お金を得て生活する方法を教わります。それが全くなかったとしたら、今の日本はなかったでしょう。自分に投資してもらったことへの感謝と共に、将来を見据えた外交政策の重要性を実感しました。(谷岡)


BACK / FORWARD / 目次


外務省案内 渡航関連情報 各国・地域情勢 外交政策 ODA
会談・訪問 報道・広報 キッズ外務省 資料・公開情報 各種手続き
外務省