アジア、アフリカ、中南米等の地域において、より開発の進んだ途上国が
新興援助国として域内の他の途上国による開発努力への支援を進めている。また、同地域の複数国の間で国境をまたがる規模での開発事業の実施に向けた動きが見られる。更に、近年ではアジアとアフリカの協力など地域を越えた協力関係も見られるようになっている。
こうした南南協力や広域協力は、途上国自身による主体的取り組み
(オーナーシップ)を通じ
開発パートナーシップの裾野が広がるとの観点から、また援助資源を拡充するとともに途上国が直面する開発課題に関する様々な経験の共有を促進し、国際社会全体による開発への効果的な取り組みを強化するとの観点から重要である。
南南協力の重要性は、日本がその策定に重要な役割を果たしたDAC「
新開発戦略」においても掲げられている。日本は98年5月、沖縄において
新興援助国を招き、「南南協力支援会合」
(注1)を開催したほか、同年10月、東京で開催された第2回
アフリカ開発会議(TICAD

)においてまとめられた「
東京行動計画」においても、アジア・アフリカ協力を中心とする南南協力の推進が大きな柱の一つとして掲げられる等、日本として南南協力推進のため様々な取り組みを重ねてきている。また、アジアやアフリカなど地域レベルでの効果的な援助の実施を目指す広域協力への支援にも取り組んでいる。以下、これらについて各々見ていくこととしたい。
途上国が開発や貧困削減を進めていく道のりは、各々の国を取り巻く自然環境や社会情勢、経済発展段階、更には文化的背景等によって、それぞれ異なる。したがって、ある途上国における開発の道筋がそのまま他の途上国に適用できるものではない。しかしながら、ある程度経済的発展を遂げた途上国の開発経験から、他の途上国が、その成功例や必ずしもうまくいかなかった点を学びとり、自国の開発に役立てていくことは極めて有意義である。また、経済発展が順調に進んだ途上国が相対的に開発の余地の大きい他の途上国を支援することは、先進国による支援と比較した場合、被援助国の発展段階により適合した技術の移転が可能となるとの利点がある。更に、途上国による技術移転のコストは、先進国が行うよりも低い場合が多いため、途上国の専門家や研修機関を活用する方が限られた開発資源の効率的活用との観点からも有益である。
近年、シンガポールやマレイシア、タイなどいわゆる新興援助国が、近隣諸国、更には、他の地域の途上国の開発を支援するようになってきているが、このような南南協力は、上記のような観点から、途上国の開発にとり極めて有効な手段と言える。また、こうした協力は、途上国間の経済・技術面での格差縮小や、貿易・投資の促進に資すると同時に、結果として援助実施主体の裾野を広げ、国際的な
開発パートナーシップを強固にするという意義も有する
(注2)。
以上に述べた南南協力の意義に鑑み、日本はこれまで、新興援助国によるこうした努力を積極的に支援してきている。
例えば日本は、途上国が日本の協力により建設された研究・研修センターなどを利用してその周辺国から研修員を受け入れて実施する研修を資金的・技術的に支援する「
第三国研修」や、途上国の人材を専門家として別の途上国へ派遣する「
第三国専門家」制度等を通じ、南南協力に対する支援を行ってきている。99年度には、31ヶ国において第三国研修が実施され、2,344人が研修を受けたほか、115名の「第三国専門家」が日本の支援によって他の途上国に派遣された。また、日本はいくつかの新興援助国との間で、第三国研修のコース数や費用負担等に関する中期的な目標・計画を設定し、専門家の共同派遣などを含めた総合的な協力の枠組みを定める「パートナーシップ・プログラム」を結び、これら諸国がより主体的な援助国へと移行できるよう支援している。これまでのところ、シンガポール、タイ、エジプト、チュニジア、チリとの間でこのような枠組みに基づく協力を実施しており、2000年3月にはブラジルとの間で新たに「日本・ブラジル・パートナーシップ・プログラム」の署名を行った。
また、アジアの経験をアフリカの開発に活かすとの観点から、TICAD

の際に採択された
東京行動計画において、アジア・アフリカ協力を中心とする南南協力の重要性が謳われた。これを受け、日本は、5年間で約2,000名のアフリカの人材が南南協力の下で研修を行えるよう支援していくことを表明した。その一環として、99年より「インドネシア南南技術協力センター」において、日本が拠出したUNDP人造り基金を活用して、5年間で約1,000名程度のアフリカ諸国の研修生を受け入れる予定である。また、JICAの第三国研修スキームを通じて既に約900名のアフリカの研修員を受け入れている。
更に、TICAD

を契機に、94年以降アジア・アフリカ間の協力推進の方途を協議する政策対話を目的とした「アジア・アフリカ・フォーラム」が開催されてきているが、2000年5月にマレイシアにおいて開催された第三回フォーラムにおいては、アフリカ49ヶ国、アジア10ヶ国、ドナー13ヶ国及び11の国際機関が一堂に会し、農業部門と民間部門に関し、
キャパシティー・ビルディングとITという2つのテーマに沿って、アジア・アフリカ協力推進のための政策対話を行った。こうした政策対話を通じて、急速なグローバル化の中でアジア・アフリカ両地域が相互に重要な開発パートナーであることが確認され、同趣旨がニューミレニアム・ステートメントとしてとりまとめられた。
また、日本は同フォーラムにおいて、
国連ボランティア(UNV)をアジアからアフリカに派遣するTICAD/UNボランティアプロジェクト、及びアフリカ諸国のIT開発とアジア・アフリカ・ネットワーク拡充のためのプロジェクトを提唱し、現在具体的なフォローアップを進めている。
更に、国連工業開発機関(UNIDO)への日本の拠出により、99年8月にアジアからアフリカへの貿易、投資・技術移転の促進を目的とする
「アジア・アフリカ投資・技術移転促進センター(通称ヒッパロス・センター)」が設置された。同センターでは、インターネットによりアフリカ諸国の経済状況、投資環境、投資機会についての情報を提供するほか、アジアの企業投資家のアフリカへの派遣等を行っている。その一環として、2000年10月には、アジア人企業投資家や商工会議所職員等によるビジネス・ミッションをウガンダ、タンザニアへ派遣している
(注3)。その他、同センターでは、対アフリカ投資を考えるアジア企業や、アフリカ諸国への投資受入体制整備のためのアドバイスの提供、アフリカの投資促進庁等の職員によるアジアへの派遣プログラム実施等、民間部門の育成に資する南南協力を推進している。
なお、保健医療分野においては、2000年3月に引き続き、同年11月、東京において、厚生省及び国連合同エイズ計画(UNAIDS)との共催で、アフリカでの
HIV/AIDS対策における南南協力の推進を目的に、第2回保健医療分野アフリカ開発支援セミナーを開催した
(注4)。
(注1) 「南南協力支援会合」では、世界各地域の新興援助国15ヶ国(シンガポール、マレイシア、タイ、インドネシア、フィリピン、韓国、中国、トルコ、エジプト、チュニジア、ケニア、メキシコ、ブラジル、チリ、アルゼンチン)を招き、新興援助国が直面する共通の課題を明らかにし、南南協力を実施するために必要な制度や体制を強化するための対応策につき意見交換を行った。なお、本会合の場でインドネシアより同国の南南協力技術センターの活用につき提案が行われた(後述の
第2節南南協力への支援を参照)。
(注2) 中国による途上国支援については、
第2部「主要な被援助国・地域への経済協力のあり方」第1章「中国」を参照。
(注3) ウガンダへはマレイシア、韓国、インド、パキスタンより33社、51名が、タンザニアへはマレイシア、インド、パキスタンより18社、21名が旅費、滞在費とも自己負担で参加し、政財界要人表敬、投資セミナーの開催、1対1の商談、企業訪問等を実施した結果 、商工会議所間の協力協定が締結されるとともに、企業間でもメモランダム締結に向けた動きが見られた。なお、2001年も引き続きミッションを派遣する予定である。
(注4) 同セミナーには、ピオットUNAIDS事務局長をはじめ、アフリカ8ヶ国(ボツワナ、中央アフリカ、ケニア、セネガル、南アフリカ、タンザニア、ジンバブエ、ザンビア)とアジア(カンボディア、タイ)及び中南米(ブラジル)から保健省の高級行政官や専門家が参加した。
また、同セミナーでは、日本のアフリカに対するHIV/AIDS対策に関し、初めて包括的な形で紹介が行われ、また、HIV/AIDS対策に関する各国の主体的な取り組みと
南南協力を促進すべき分野の言及など、セミナーでの議論の結果がサマリーとして採択された。同サマリーの内容は、12月に沖縄において開催された「
感染症対策沖縄国際会議」での議論にも反映された。また、日本としても、
「沖縄感染症対策イニシアティヴ」を展開していく上で参考としていく予定である。