カンボディア、ボスニア、モザンビーク、アンゴラ、アフガニスタン等の紛争地域を中心に埋設された対人地雷は、紛争の終結後も除去が進まない中、無差別に一般市民を殺傷し続けており、人道上看過し得ない問題である。また、開発の観点からも、対人地雷は住民の故郷への帰還・再定住や農業開発を妨げ、復興の大きな障害となっている。こうした対人地雷が惹起する問題の深刻さについて国際的な認識の高まりを背景に、97年9月に「
対人地雷禁止条約」が採択され、同年12月にオタワにて同条約の署名式が行われた。
同署名式においては、小渕外務大臣(当時)が「
犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱し、普遍的かつ実効的な
対人地雷の禁止の実現と地雷除去や犠牲者支援の強化とを車の両輪とする包括的なアプローチを打ち出したが、以来日本はその推進に積極的に取り組んでいる。日本は小渕総理(当時)のリーダーシップの下、対人地雷禁止条約を98年9月に締結し、同条約は99年3月に発効した。
また、日本は、対人地雷禁止条約成立に先立ち97年3月には「対人地雷に関する東京会議」を開催し、そこでは「犠牲者ゼロ」の目標の設定、地雷除去、技術開発及び犠牲者支援の3つの分野について国際的指針となる「東京ガイドライン」が策定された。同年11月に、日本は同ガイドラインを自ら実践するため、98年からの5年間を目途に100億円程度の支援を行うことを発表した。
次いで、99年5月にモザンビークのマプトにて開催された第一回締約国会議(オタワ条約は99年3月1日に発効、日本は98年9月30日に締約国となっている。)においては、日本は、「犠牲者ゼロ・プログラム」の下での地雷除去及び犠牲者支援のための国際的取組の推進の重要性を強調するとともに、日本の支援にあたっての三つの原則
(オーナーシップ、パートナーシップ及び「
人間の安全保障」)
(注1)を示した。
更に、2000年1月、小渕総理(当時)はカンボディアにおいて、「犠牲者ゼロ」を実現し、地雷によって被った「社会の傷」を和らげるためには、包括的に対応(アプローチ)していくこと
(注2)が重要である旨強調した。
これらに基づき日本は、二国間援助と国際機関やNGOを通じた支援の有機的な連携を図りつつ、

地雷除去のための支援と

犠牲者支援の活動に積極的に取り組んでおり、2000年9月までに既に約5,500万ドルの対人地雷関連支援を行っている。
例えば、地雷除去については、国際機関を通じた地雷除去活動支援(例:UNDPに緊急無償援助として100万ドルを拠出し、モザンビークのマシンジー地雷除去プロジェクトを実施したのに加え、二国間援助により地雷除去関連機材の供与、地雷除去及び犠牲者支援分野での専門家の派遣を行っている。また、従来の草の根無償資金協力の支援対象費目、供与限度額の拡大を通じて、この分野でのNGO支援を強化することとしている
(注3)。更に、犠牲者支援について、日本は、国際機関及びNGOを通じた支援、二国間援助により、義肢製作や犠牲者のリハビリ等に関わる施設や機材の整備を支援している。また、2000年9月にジュネーブで開催された対人地雷禁止条約第2回締約国会議において、日本は同条約会期活動の下での一環である犠牲者支援等常設委員会の共同議長に就任することが正式に決定された。
2000年7月に宮崎で開催された
九州・沖縄サミット外相会合では、主要議題の一つとして紛争予防が取り上げられた。そこでは、日本がこれまで主張してきた紛争予防における「包括的アプローチ」の重要性が、「予防の文化」を涵養していくことの重要性とともにG8の共通認識として確認された。
更に、これまでは総論の段階にあった「紛争予防」の問題に関し、小型武器、
紛争と開発、ダイヤモンドの不正取引、紛争下の児童、国際文民警察といった分野について、初めてG8としての共通の立場をとり、「
宮崎イニシアティブ」としてまとめるなど、具体的な取り組みへの一歩を踏み出した。
この「宮崎イニシアティブ」を踏まえ、日本は小型武器分野において国連内に創設された小型武器基金への更なる拠出を発表するとともに、開発分野における紛争予防の強化のための日本の取り組みを「アクション・フロム・ジャパン」として打ち出した。
「アクション・フロム・ジャパン」では、紛争予防に効果的に取り組むためには、紛争の様々な要因に対して包括的に対処することが重要との認識の下、日本の開発協力においても、紛争予防の観点を積極的に取り入れ、紛争を予防し、その拡大や再発防止に資することを目指すとの方針を明らかにしている。また、そうした観点から、紛争予防の各段階における援助の強化及びNGOとの連携重視という二つの柱を打ち出している。
第1の柱は、

紛争予防に資する支援として、民主主義の基盤強化、法制度整備、市場志向型経済への支援等
統治(ガヴァナンス)強化への支援、

紛争時・直後の各種の困難緩和のための緊急人道支援におけるNGO・民間との連携の重視、

復興計画策定支援のため、NGO等を含む調査団の早期派遣及び調査と同時並行的なパイロット事業の実施、

復興・開発支援として、除隊兵士の社会復帰、難民・国内避難民の再統合、地雷除去、小型武器の規制・回収に対する支援を強化することにより、紛争の各段階を通じて包括的な取り組みを行うことである。
また、第2の柱として、これらの取り組みを実現する上で、開発協力及び紛争予防の重要な主体であるNGOとの連携を一層重視していくことを謳った。具体的には、NGOへの支援として、「NGO緊急活動支援無償」
(注4)、対人地雷対策分野における草の根無償の拡充
(注5)等を行っている。また、NGO・民間との連携強化、特にNGOが初動の段階で必要とする情報、資金、ノウハウ等の手当て強化を目指し、政府・NGO合同調査団の派遣、「
ジャパン・プラットフォーム」
(注6)への参加・協力、さらにUNHCRによる「アジア・大洋州地域国際人道支援センター」への協力等を通じた人材育成支援を行っていくこととしている
(注7)。
「アクション・フロム・ジャパン」は、紛争予防から再発防止までの様々な段階において、官民の多様な支援主体との連携を図りつつ、開発協力を通じ効果的に対応していくための包括的ガイドラインとなっている。
(注1)オーナーシップとは、地雷の被埋設国の主体的取組の促進と地雷除去体制整備の重要性であり、パートナーシップとは、国連を中心としたドナー・国際機関・NGOと被埋設国との間の連携と調整の必要性であり、「人間の安全保障」では地雷除去を復興に繋げること、犠牲者の社会への統合に留意することを強調している。
(注2)包括的アプローチとは、地雷除去、犠牲者支援、地雷回避教育、地雷問題に取り組むNGOへの支援を組み合わせて実施することを指す。
(注3)2000年度より対人地雷対策分野における草の根無償資金協力の限度額を2,000万円から1億円に引き上げるとともに、機材供与等のハード面
のみならず、地雷除去作業に係る人件費等も支援の対象に含めることとしている。
(注4)「NGO緊急活動支援無償」については
第1部第3章第2節(1)「緊急人道支援分野でのNGO支援制度の整備」を参照。
(注5)「対人地雷対策分野における草の根無償の拡充」については
本章第2節「対人地雷問題」への取り組みを参照。
(注6)「ジャパン・プラットフォーム」については
第1部第3章第2節(2)を参照。
(注7)「アジア・大洋州地域国際人道支援センター」については、
第1部第3章第2節(2) に注記。