第2節 NGOとの連携の推進

 先進国・途上国を問わず、近年、幅広い分野でNGOの活動が活発化し、国際的なつながりも大きくなり、経済・社会のあり方に影響を持ち始めている。開発協力の分野においては、既に相当の実績を有する国際的なNGOも少なくない。
 開発協力の原点は、人と人との交流を通じた途上国の人づくり・国造りへの支援にある。住民に直接行き亘るきめ細かな援助を行う上では、NGOの果たす役割は極めて大きい。特に住民の生活に直接係わる保健・医療や教育等社会分野での協力に当たっては、NGOとの連携を欠いては、十分に効果的な援助が行えないケースも少なくない。また、紛争、自然災害等に起因する人道問題への対応に関して、様々なNGOが実施する難民や被災者等への迅速な支援活動が世界的に注目を集めている。
 特に99年は、コソヴォや東チモールにおける避難民・帰還民への支援、トルコや台湾の地震被災者支援に際して、日本のNGOによる積極的な支援活動を通じて、緊急人道援助におけるNGOの役割が国民に改めてはっきりと示された一年であった。欧米においては、従来よりNGOがODAの実施に深く係わっている国が多い。日本としても、この経験を日本の援助のあり方の転機として、緊急人道支援のみならず開発協力分野においてもNGOとのパートナーシップ(連携及び支援)をより幅広く進めていく必要があろう。
 しかしながら、NGOの活動が長い歴史と強い財政基盤を有し、政府の援助自体が相当程度NGOを通じて実施される欧米諸国と比較すれば、日本のNGOの活動が拡大・強化されるべき余地は大きい。そのためNGO側においても、組織運営能力や専門性、更に活動内容に関する説明責任(アカウンタビリティー)を一層向上させる努力が期待される。
 以上を踏まえ、政府としても、開発協力事業や緊急人道支援活動などにNGOが積極的に応えていけるよう、NGOの抱える諸課題に対応し、NGOにとっての利便性に一層配慮しつつ、NGO支援策の充実・多様化や、NGO活動環境整備事業の拡充に引き続き努めていくことが重要と考えている。また、保健・医療、教育、農業等NGOが国際協力活動を行っている主要な分野での専門性や実施能力の育成・強化(キャパシティー・ビルディング)策を図っていくことも併せ望まれる。

(1) 緊急人道支援分野でのNGO支援制度の整備

 冷戦終結後、世界各地では地域紛争が後を絶たず、それによって生じる難民、避難民の流出が続いている。また、近年では中米諸国を襲ったハリケーンやトルコ、台湾での地震等、自然災害が多発する傾向にある。この結果、難民支援や被災者支援等の緊急人道支援活動の需要は近年高まっている。
 NGOは機動的に被災地の現場に入り緊急人道支援活動を展開できること、草の根レベルで難民や現地住民のニーズに沿ったきめ細かい支援を行えることなどから、その果たしうる役割は大きい。
 こうした観点から、政府は、従来より、草の根無償資金協力やNGO事業補助金等の制度を利用して、この分野におけるNGOの活動への支援に取り組んできた。しかしながら、これらの制度は紛争や自然災害発生直後にまとまった量の物資や人員を投入する緊急人道支援活動を支援する上で、支援の規模、スピード等で制約があり、NGOに対し必ずしも十分効果的な支援を行えないこともあった。
 以上を踏まえ、99年8月、緊急人道支援活動に従事する日本のNGOが、より迅速かつ機動的に活動を立ち上げられるよう新たな支援措置(「わが国NGOの緊急人道支援事業に対する支援措置」(注1)(以下「支援措置」)を導入し、01支援額の拡大(注2)02手続きの迅速化(注3)03支援対象となる経費の範囲拡大とNGOの利便性の向上(注4)を図ることとした。
 この「支援措置」により、99年度中には、コソヴォでの帰還民支援や、トルコ及び台湾での被災者支援、また東チモールにおける緊急人道支援に従事した日本のNGO計11団体、18プロジェクトに対し約4億7,920万円が供与された。また、この「支援措置」を今後も継続的に実施するため、2000年度外務省予算において、緊急無償予算の内枠として新たに「NGO緊急活動支援無償」5億円を計上している。

(2) ジャパン・プラットフォーム

 上記の「NGO緊急活動支援無償」の導入により、日本のNGOが実施する緊急人道支援プロジェクトへの政府の支援はその規模、スピードともに相当程度改善されることになり、NGOからも高い評価を受けている。
 しかしながら、日本のNGOが緊急人道支援プロジェクトを形成する前段階において行う現地での初期調査や体制立ち上げは、NGOの組織的・財政的基盤が脆弱なこともあり、必ずしも十分機動的に行われているとはいえない状況にある。
 実際、コソヴォ帰還難民への支援の際には、日本を含む各国の多数のNGOが現地で活躍したものの、欧米のNGOが各々の専門領域で、幅広い人材のネットワーク、潤沢な資金源等を背景に圧倒的な物量、速さで緊急人道支援活動を行ったことはメディアを通じて幅広く報じられており、記憶に新しい。
 こうしたコソヴォ等での経験を背景として、日本のNGOの間では、現地事情を踏まえた迅速かつ適切な事業計画の策定、現地での活動実施体制(ロジスティック)の立ち上げ、国内での資金調達、医療等緊急人道支援を構成する各専門分野での知見の向上など、様々な面でNGO自身の能力・体制の強化が必要との認識が高まっている。
 また、緊急人道支援活動は一刻一秒を争うものであり、その効果的かつ迅速な実施には、紛争・自然災害等が発生した現場に向かうNGOに資金、物資、情報などを迅速に提供する体制を確立することが不可欠である。こうした認識に立って、2000年に入ってから、日本の緊急人道支援NGOの間で、各NGO単独の活動では実現しえない大規模な支援をより効率的かつ迅速に実施するため、NGO間の連合体を形成し、政府、経済界(企業)とともに三者一体で緊急人道支援を推進する新たなシステムの検討が開始された。2000年3月以降は、NGOに加え、外務省、経団連等の関係者も含め非公式に意見交換を重ねた結果、同年8月、NGO、経団連、外務省の三者により「ジャパン・プラットフォーム」の設立が発表された。

トピックス:2.モンゴル、「ゾド」被害に対する援助
 99年から2000年にかけての冬、モンゴルでは記録的な大寒波(モンゴルでは「ゾド」と呼ばれ、恐れられている)に見舞われた。99年夏の干ばつと、ネズミによる牧草の食い荒らしに追い討ちをかけるような今回の「ゾド」は家畜の大量死という被害をもたらし、牧畜を産業の柱とする同国に甚大な影響を及ぼした。家畜を大切な糧とし、財産とする被災民の人々は、生活に困窮するとともに、豪雪による交通断絶のため、食料、燃料、医療支援も不足するという深刻な事態に直面した。
 日本で活躍中のモンゴル人力士、旭鷲山関はこの被害に心を痛め、自ら設立した「旭鷲山発展基金」を通じ、日本のNGO「ピース ウィンズ・ジャパン」と共同で緊急援助物資輸送団を組織し、被害者の救済に乗り出した。旭鷲山関は力士としてモンゴルの国民栄誉賞を受賞、記念切手のモチーフにもなっており、そのような栄誉に応えようと同基金を設立したという。緊急援助物資(食料品、医薬品、家畜用飼料、燃料など)は日本の草の根無償資金協力によってピースウィンズジャパンが調達し、官民が一体となって援助が行われた。
 輸送団の出発式には花田在モンゴル大使や旭鷲山関をはじめとする多くの関係者が出席し、被災者の人々が「ゾド」被害を乗り越えて新たな生活に取り組めるよう祈った。
 現在「ゾド」被害は山を越えたが、今後は中・長期的な視点から様々な対策を講じていくことが必要とされている。
マッチの配給を受ける被災民
援助物資の医薬品の品質チェックを行う関係者


図表―10 プラットフォーム組織図



 「ジャパン・プラットフォーム」は、NGO、政府、民間企業、更に財団、メディアなどが連携・協力し、緊急人道支援活動を推進するための共通の土台(プラットフォーム)を形成するものである。このプラットフォームには、国際緊急援助分野での活動内容・実績や、組織・会計の透明性・説明責任(アカウンタビリティー)に関し、一定の客観的な基準を満たすあらゆるNGOが参加することができる。また、政府や民間企業、財団などが拠出した支援資金がプールされ、武力紛争や自然災害等の現場におけるNGOの初動活動(初期調査、現地での実施体制の立ち上げ、救援物資配布等への支援)に充当されるほか、NGOは民間企業から必要な技術、機材、人材、情報等の提供を受けることができる。既に、一部の日本企業は関連機材の開発・提供等についての協力に関心を示しているほか、経団連として、1%クラブ(注5)が 中心となり本構想への支援を表明している。
 このようにNGOのイニシアティヴにより始まった「ジャパン・プラットフォーム」構想は、市民主導型の緊急人道支援強化を追求し、政府、民間企業、メディア等の様々な主体の間での幅広いパートナーシップの構築を目指す試みでもあり、国民参加型援助の推進に大きく寄与することが期待される。外務省としても、NGOの初動活動を支援するため基金への拠出(資金プール)を実現したいと考えており、またNGOの人材育成・能力向上への支援(注6)など、本構想に積極的に参加、協力していくこととしている。

(3) NGOの活動環境整備支援

 NGOの活動分野は、こうした緊急人道支援のみにとどまらず、保健・医療や教育、農業等の社会開発に至るまで拡大している。しかしながら組織や実施体制はそれに追いつかず依然として基盤が脆弱なNGOも少なくない。このことから、個々のNGOそのものの組織強化など、その活動環境整備のための支援に対する要望が高まっている。
 このため、NGOの実施する事業そのものに対する従来の支援策に加え、NGOの足腰強化を図ることを狙いとして99年度より導入されたのが「NGO活動環境整備事業」であり、以下の三つの制度を柱としている。

NGO相談員制度
 NGOの組織造りや、管理運営のノウハウ、途上国に関する情報をはじめとしてNGO活動に関する広範囲な問題について、国民からの相談に応じられるよう全国各地のNGOの中に相談員を置くものであり、相談員には国際経験豊かなNGOスタッフや公認会計士等の専門家が当てられている。
●NGO研究会制度
 NGO関係者を中心とする「研究会」を設置して、日本のNGOが抱える組織・運営面 での諸問題について、研究・討議し、NGOの組織強化のための改善点を具体的に提言することを目的とする。研究テーマの設定を含め、研究会による自主運営を基本としている。
NGO専門調査員制度
 NGO活動に必要とされる専門性を有する人材に、特定分野・業務の強化を望むNGO団体の活動や業務に一定期間参加してもらい、その分野・業務における組織としての機能を高めるための問題点を調査・研究し、提言を行ってもらうことを目的とする。

囲み10.NGOとの連携・対話及び支援に関する取り組み
 NGOとの連携・対話及びNGOによる活動への支援についてはこれまで以下のような取り組みが行われている。

1.NGOとの連携・対話
 NGOとの連携においては、ODA事業実施に際しNGOの有する人材やノウハウを活用するという側面と、NGO自らの援助活動に対してODAを通じて支援を行うという側面がある。こうしたNGOとの連携を深めていく上では、NGOとの対話が不可欠である。
 政府は、ODAに関する政策や実施面を中心としてNGOとの対話・意見交換を密に行うこととしている。例えば、「NGO・外務省定期協議会」(96年よりこれまで18回実施)や「NGO・JICA協議会」、人口・エイズ分野での協力につき意見交換を行う「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)に関するNGOとの懇談会」(94年よりこれまで36回実施)を通じ、政府とは異なる視点やノウハウを有するNGOとの対話を深めている。
 こうした対話の成果の一つとして、「NGO・外務省による相互学習と共同評価」(97年10~11月:バングラデシュ、99年3月:カンボディア、2000年2月:ラオス)を実施しているほか、保健・医療分野での案件形成のため日米合同の調査団派遣に際し、この分野で専門性を有するNGOのメンバーの参加を得る(98年12月:ザンビア、2000年2月:バングラデシュ、同7月カンボディア)などが挙げられる。
 また、後述する「草の根無償資金協力」においては、97年度からNGO関係者等に調査・モニタリング等を委託する制度を設け、NGOとの連携を通じてより優良なNGO支援案件の発掘に努めている。

2.主なNGO支援制度
 NGO活動に対する支援としては、まず、89年度に開始された「NGO事業補助金制度」がある。本制度は、日本のNGOが主として途上国で行う開発協力活動に対し、事業費の一部(1件あたり総事業費の1/2以下、かつ交付上限額1,000万円(注:99年度までは1,500万円))を補助する制度であり、99年度には、農漁村開発、人材育成、環境保全、医療事業、女性の自立支援、保健衛生等の多岐にわたる分野を対象に41ヶ国及び地域で活動する92団体の計154事業に対し約7億2,700万円が交付されている。
 また、同じく89年度に創設された「草の根無償資金協力」は、途上国で活動するNGO、地方自治体、教育・医療機関等が行う社会・経済開発プロジェクトに対し、在外公館が中心となって資金協力を行うものである。1件あたりの規模が原則1,000万円以下と比較的小規模な支援ではあるが、草の根レベルでの多様なニーズに対しきめ細かに対応できる援助として、各方面 から高い評価を得ている。本スキームを活用した日本のNGOへの支援も積極的に行われており、99年度には日本のNGOによる計65事業に対し約4億2,500万円が供与された。
 更に、「国際ボランティア貯金」は、郵便貯金の利用者の委託を受け、貯金の利子のうち20%から100%までの任意の率を寄附として開発途上地域の住民の福祉向上のために活動する日本のNGOの支援のために配分されるものであり、99年度には約6億5,000万円が配分されている。
 この他、JICAが日本のNGO、大学、地方公共団体等に対し途上国の開発支援事業の実施部分を委託する「開発パートナー事業」(99年度より開始)や比較的小規模な事業の実施部分を同様に委託する「小規模委託事業」(2000年度より開始)、途上国に駐在するJICA事務所が、NGOや地域組織の協力を得て、住民参加による福祉向上のモデル事業を実施する「開発福祉支援事業」(97年度より開始)など、支援策の拡充・多様化が図られており、NGO等の知見・ノウハウ・人材が積極的に活用されている。


図表―11 NGO事業補助金の予算額の推移



図表―12 NGO事業補助金の採択案件数の推移



図表―13 草の根無償資金協力の総予算額・件数



図表―14 DAC諸国のNGOの自己資金による協力実績

(注1) 本「支援措置」の対象は、日本のNGOが行う武力紛争、自然災害等の難民や被災者等に対する緊急人道支援プロジェクト及び特に緊急性の高い被災地の復旧・復興支援プロジェクトである。
(注2) 従来の支援制度におけるプロジェクト1件当たりの支援上限額(NGO事業補助金1,500万円、草の根無償援助1,000万円)を超えて支援を行うことを可能とした。
(注3) NGOの申請から早ければ一ヶ月程度で資金支出が行われるなど、審査・支援決定手続きの迅速化に努めている。
(注4) NGO事業補助金は、原則としてプロジェクト終了後の精算払いであり、草の根無償援助についても、原則としてプロジェクトに直接関係する経費(資機材の調達費、施設建設・物資配給等の実施経費等)のみを支援対象としていた。これに対し、本「支援措置」では、現地での間接経費(NGOメンバーの渡航費・滞在費、現地事務所の設営・維持費等)を含めプロジェクトの立ち上げに要する費用を幅広く対象とし、支援金は概算一括払いとした。
(注5) 1%(ワンパーセント)クラブは、経常利益や可処分所得の1%相当額以上を自主的に社会貢献活動に支出しようと努める企業や個人を会員とするものであり、90年11月に経団連によって設立された。
(注6) UNHCR「アジア・大洋州地域国際人道支援センター」事業への支援(紛争に伴う避難民が発生した場合に効果 的な人道支援を行うことができるよう、ジャパン・プラットフォーム参加NGOを含むアジア・大洋州地域のNGO等を対象に、UNHCRが米国のウィスコンシン大学等の協力を得て、インターネットによる遠隔研修等も活用して所要のトレーニング等を実施する)、JICAや海外(国際NGO等)での研修の充実、NGO専門調査員制度による組織強化支援策等を行う。

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