97年の
アジア通貨・経済危機は、貿易・投資を中心としてアジアと密接な関係を有する日本経済にも大きな影響を与えるものであった。包括的な日本の支援策もありアジア経済は回復軌道に乗りつつあると見られるが(我が国の支援策についてはODAを中心として99年版の本書で詳述)、その過程を通じてアジア諸国の経済においては多かれ少なかれしっかりとした開発の基盤(これまで論じてきた途上国自体の
主体性=オーナーシップ)が存在することも明らかとなる一方、グローバル化への適応を進める上での脆弱性や「
統治(ガヴァナンス)」の分野における課題が浮き彫りにされた。
翻って、多様な困難を抱える多くのアフリカ諸国においては、こうしたオーナーシップをいかに確立・強化するか自体が大きい課題である。そこで、開発協力の視点から、国内で関心の高いいくつかの地域・国への日本の協力のあり方を見ておきたい。
なお、本書で例年扱っていたODA大綱「原則」の具体的運用については、先に公表された「
我が国の政府開発援助の実施状況 1999年度に関する年次報告」を参照願いたい。
また、主要な被援助国について
国別援助計画を順次策定することとしているが、これまでに、タイ・フィリピン・ヴィエトナム・バングラデシュ・エジプト・ガーナ・ケニア・タンザニア・ペルーの国別援助計画が公表されている。
日中両国が安定した友好協力関係を構築・発展させることは、それ自体、アジア太平洋地域、ひいては世界の平和と発展への大きな貢献に繋がるものである。このため、主張すべきは主張し、相互理解と相互信頼を一層発展させていくことが重要である。また、中国が更なる改革を進め、中国国民の生活が向上し、社会が安定することは、この地域の平和と繁栄にとり不可欠な要素である。このような観点から、日本は過去20年余り、中国の改革・開放政策を支援すべく、ODAを実施して来た。今後も、両国をめぐる経済・社会状況等の変化を踏まえ、国民の理解と支持を得て、重要課題、分野をより明確にした支援の実施に努めていくことが重要である。
1979年に日本が中国への経済協力を開始して以来、20年を越えた
(注1)。近年、中国は日本の援助の第1位乃至第2位の受取国であり、累積でもインドネシアに次いで第2位となっている
(注2)。これまで日本は、中国の改革・開放政策に基づく近代化努力に対して、できる限りの協力を行うとの方針の下で、中国の自主的な経済開発、民生向上に向けた努力に対して支援を行ってきた。
この間、特に沿海部を中心として中国の経済発展は目覚ましく、経済インフラの整備、マクロ経済の安定、更には中国が必要とする技術の移転に果たした日本の援助の役割は大きい
(注3)。98年に江沢民主席訪日の際に発表された「日中共同宣言」では、こうした日本の協力に対して感謝の意が表明されている。また、2000年10月に中国政府は北京で「
日中経済協力20周年記念式典」
(注4)を開催し、これまでの日本の経済協力に対する謝意を表明した。更に、同月の朱鎔基総理訪日の際、同総理より、日本のODAは中国の経済発展、国家建設に大きな助けとなっており、今後、中国での日本のODAについての広報活動強化などに取り組んでいきたい旨の発言もなされている。
しかしながら、対中経済協力については、日本の厳しい経済・財政事情を背景に、国内において様々な議論がある。中国が高度経済成長を続けていることや軍事費の伸びが大きいこと、最近日本近海において海洋調査船や海軍艦艇の活動が活発化したこと、中国が日本から援助を受ける一方で他の途上国へ援助を行っていること
(注5)、中国の人権状況や民主化の進展状況については一定の進展はあるものの引き続き種々の懸念材料があることなど
(注6)を理由として、対中援助に対して厳しい見方があることも事実である
(注7)。
また、日本の経済・財政事情が厳しさを増していることに加えて、中国においても改革・開放政策の推進に伴い経済・社会面で大きな進展・変化が見られ、中国独自の資金や民間資金でインフラの建設等を実施できるようになっている。一方、環境問題や地域間格差の拡大等中国が直面する開発課題が変化していることも指摘しうる。
こうした変化を踏まえて、対中経済協力については、そのあり方を検討する時期にあると言える。特に79年の対中援助開始以降、その大宗をなす
円借款についてはこれまで多年度(5~6年間)分を一括供与してきたが、2001年度からは、中国側との間で策定する候補案件リスト(ロングリスト)の中から適切な案件を審査し積み上げた額を供与する単年度主義に移行すること、また、来年度からは中国の第10次5ヶ年開発計画が開始される予定であること等技術的理由からも今後の援助のあり方について検討を加えることは時宜にかなっていると言えよう。
それでは、日本としていかなる方針・計画に基づき対中援助を進めていくことが適切か。自民党の経済協力評価小委員会(武見敬三委員長)においては、対中経済協力のあり方について検討を行い、その結果として2000年12月に「中国に対する経済援助及び協力の総括と指針」と題する提言
(注8)をとりまとめ、公表している。また、政府としては、2000年度内に中国に関する「国別
援助計画」を策定することとしているが、その策定にあたっては、幅広く各界の意見を聴取することが不可欠との考えから、宮

勇元経済企画庁長官を座長とする懇談会を外務省経済協力局長の下に設置し、外部有識者からの提言を得ることとした。
同懇談会は、ODAをとりまく日中両国における状況の変化を踏まえ、国民の理解と支持を得つつ、日本の国益に合致した対中経済協力のあり方を検討するとの立場から、委員間の意見交換のみならず、中国側を含め様々な外部の専門家、関係者からも意見を聴取しつつ議論を重ねた。
2000年12月に懇談会の提言
(注9)が発表されたが、そのポイントは以下のとおりである。
第一は、日中関係の現状と展望を見据え、日本の対外関係の基本を日本の安全と繁栄の維持・強化にあるとした上で、そのためにはなかんずく東アジアの平和と発展が不可欠であること、また、中国が開かれた社会となり、国際社会の一員としての責任を一層果たしていくことが望まれること、この観点から、中国が国際社会への関与と参加を深めるよう働きかけ、そうした中国自身の努力を支援することが重要としている。
そして、そのためには日中間の広範な二国間協力と人的交流の強化を通じ相互理解・信頼を増進するとともに、貿易・投資活動の発展に加え、ODAを通じた改革・開放政策支援が引き続き重要であることを指摘している。
第二は、対中ODA開始から20年を経て見られる様々な変化への対応である。日本の厳しい経済・財政事情の下、上述のとおり、ODAのあり方について厳しい議論が行われていること、中国における経済成長の結果、開発における民間資金の役割が拡大し、ODAに対する期待や需要が環境や貧困対策等に変化していること、更に制度整備や人材育成等ソフト面での開発需要が増大している点を指摘している。
以上を踏まえ、今後の対中ODAの実施に当たっての考え方として、国民が納得し支持できるような援助を実施すること、中国が自らが実施できることは自ら行うこと、ODAとその他公的資金や民間資金との連携を図ること、国際経済への中国の一体化を促進支援すること、及びODA大綱の原則に一層注意を払うことの五点を挙げている。
なお、対中援助の「額」については、従来の支援額を所与のものとすることなく、新たな支援需要に適切に対処しつつ、日本の厳しい経済・財政事情を勘案し、具体的案件を個別に審査して実施するという「案件積み上げ方式」を提案している。
第三は、21世紀の対中経済協力における重点分野・課題である。この点については、従来型の沿海部中心のインフラ整備支援から環境保全、内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、制度造り、技術移転等をより重視することとし、分野・課題として、

改革・開放支援、

環境問題など地球規模問題解決のための協力、

相互理解の増進、

貧困問題克服のための支援、

日本の民間活動への支援、

多国間協力(第三国支援、地域協力等)の推進などを具体的に提案している。
第四は、対中ODA実施上の留意点である。

ODA大綱についての中国側の認識の徹底、

国民に対する対中援助の透明性向上、

広報努力の強化を含めた「
顔の見える援助」の推進、

技術協力の一層の活用とそのあり方の見直し、

モデル・アプローチの導入、

円借款と旧輸銀資金との役割分担の明確化と連携の強化、

対中援助評価委員会の設置などに取り組んでいくことが重要である旨指摘している。
政府としては、これらの提言等を受けて、今後早急に中国に対する国別援助計画の策定に取り組んでいくこととしている。
(注1)中国への経済協力は、79年に大平総理(当時)が中国に対するODA供与を表明したことを受け、同年より技術協力を開始。円借款については、1980年4月25日に最初の交換公文を署名。
(注2)1969年から99年までの累計額で見た、日本の二国間ODA(支出純額ベース)の被援助国は第1位インドネシア(16,393百万ドル)、第2位中国(14,479百万ドル)、第3位フィリピン(8,839百万ドル)。
(注3) 例えば、円借款を通じ、中国の全発電容量(21万MW)の3%にあたる火力及び水力発電所の建設、鉄道電化総延長(9,941kmの38%の電化線の建設等が行われている。
(注4) 記念式典には、中国側からは呉儀国務委員(副総理クラス)をはじめとする要人が、また、日本からは野中広務特派大使ほか与党代表者他が参加したが、中国がこうした式典を行ったのは今回が初めてである。
(注5) 中国は1950年代初頭よりこれまで100ヶ国以上に対し援助を実施しているものと見られているが、実績の詳細等については公表されていない。中国の対外援助は無償援助、借款、技術協力から構成されるが、借款については商業的な合弁協力と譲許的な借款が含まれると見られる。
(注6) 日本は、中国における人権保障の促進について日中人権対話(第3回会合を2000年1月に開催)等種々の場を活用した働きかけのほか、法制度整備等の分野で民主化に資する支援を行っている。
(注7) 2000年5月に唐家

外交部長が来日したおり河野外務大臣より中国の軍事費の透明性向上に努めるよう働きかけたほか、援助政策協議の機会に対外援助の透明性を高めることを求めている。なお、同年10月の日中首脳会談では、8月の日中外相会談を踏まえて海洋調査船に関する相互事前通
報の枠組みを成立させることが確認された。
(注8) 本文については
http://www.jimin.or.jp/jimin/title.htmlにて参照可能。
(注9) 本文については
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/seisaku_1/sei_1f.htmlにて参照可能。