国民の幅広い参加を得てODAを実施し、また、ODAに対する国民の支持と理解を得ていくためには、十分な情報公開に基づき国民に対する説明責任を果たすとともに、内外に対し適切な広報努力を行うことが極めて重要である。特に、現在のように厳しい経済財政事情の下でODA予算に対し納税者の理解と支持を得ていく上で、このことは従来にも増して重要である。
ODAは大半が海外で行われる事業であり、また、日本は極めて多くの途上国においてODAを実施していること、更には、多様化する途上国の開発上の課題に対応して日本のODA事業も広範かつ専門化・複雑化しているため、一般の国民にとって、個々の事業のみならずODAの全体像を簡単に把握することは容易ではない。これは日本に限らず主要援助国に共通の問題である。それだけに、政府としても、十分な情報をできるだけわかりやすい形で国民に提供することが不可欠となっている。そうした努力の一環として、99年度からは、海外にあるODAの現場に国民が直接触れる機会を提供することを狙いとして、「
ODA民間モニター制度」を導入した。モニターは全国各都道府県にて募集・選出され、数チームに分かれてアジア各国の経済協力プロジェクト現場を視察した後、報告会、国際協力フェスティバル及び報告書を通じて視察の印象、意見等の報告を行う。
99年度は各都道府県から選ばれた計47名のモニターが6チームに分かれてフィリピン、タイ、中国、バングラデシュ、ヴィエトナム、ラオスにあるODAプロジェクト現場を視察、2000年3月に山本一太外務政務次官(当時)に報告書を提出した。
(注1)
2000年度は参加募集人数を104名に増やしたのに対し、全国より5,440人の応募があった。また、視察国も上記にインドネシア、ネパール及びマレイシア及びモンゴルを加え、10カ国とした。
ODAに関する情報公開と主として国内を念頭に置いた広報については、政府は従来より囲み14.にまとめたような公刊文書を通じた広報努力のほか、「
国際協力の日」を記念した「
国際協力フェスティバル」等、広く国民が参加し、ODAを通じた日本と途上国との関わりをより身近に感じられるような行事を開催し、ODA広報に努めている。なお、87年に10月6日を「国際協力の日」と定め、この日を中心に毎年、全国各地で様々な行事を開催している
(注2)。
そのほか、93年10月には、「
国際協力プラザ」がODAに関する市民への窓口として開設された
(注3)。同プラザはODAの資料・情報の整理、公開を行うほか、NGOの情報交換の場として、また、最近は学校の課外授業やグループ学習にも広く利用されている。更に、地方メディアや地域社会への情報発信のため、地方展開にも取り組んでおり、これまでに国内38ヶ所に「国際協力プラザコーナー」が設置されている。
また、外務省は、ホームページによる情報発信に積極的に取り組んでおり、97年より
「我が国の政府開発援助」上下巻、「
経済協力評価報告書」概要版を、98年よりは「
我が国の政府開発援助の実施状況に関する年次報告」も掲載し、動画映像と音声によりプロジェクト視察の擬似体験ができる「
ODAバーチャルツアー」なども設けた。ODAコーナーへのアクセスは着実に増加してきており、99年度は80万件以上に達し、外務省ホームページ
(注4)上でも最もアクセス数の多い項目の一つとなっている。ODAコーナーを一層拡充し、ODAに関する総合的なホームページの機能を持たせるべく、99年度にODAコーナーの拡充が行われた。現在、本書や「年次報告」のみならず、各論部分を含む「
経済協力評価報告書」なども掲載し、提供情報が大幅に拡充されるとともに、構成や検索機能などの利便性の向上も図られている。
納税者である国民の理解と支持を得つつODAを進めていくためには、国民に対してODAの透明性を一層向上させることが不可欠である。透明性の向上を図るためには、ODA全体に対する政府としての考え方、取り組みをはじめ、個別案件の実施過程、更には、事業終了後の評価に至るまで、様々な側面、段階での努力が必要となる。こうした観点から、政府は98年11月、ODAの課題や国別の援助計画を明確にし、案件の選定から事業の実施、事後評価に至るまでのプロセスの透明性の向上とODAに関する情報公開の促進に取り組んでいくことを表明した
(注5)。
具体的には、向こう5年間にわたる日本の援助方針を具体的・体系的にまとめたODA中期政策を99年に策定・公表しているほか、主要な被援助国毎の国別援助計画の策定作業を進めている。これら中期政策や国別援助計画は、インターネットで閲覧可能である
(注6)。
また、相手国に対する援助の中・長期的な展望をより具体的に明らかにし、円借款案件の効果的・効率的な発掘・形成・採択に資するため、ヴィエトナムとの間で1999年度から2001年度までの3年間に円借款を供与する可能性のある案件リスト(「
ロング・リスト
(注7)」)を確定・公表した。こうした円借款候補案件リストの公表は、援助の透明性を高めるとともに、一貫性のある援助の実施や、各種援助形態(技術協力・開発調査等)間の連携、他の援助国、国際機関や民間分野との連携を促進する効果が期待される。ロング・リスト方式については、その他の主要な円借款供与国についても順次導入を検討していく予定である。
無償資金協力、円借款事業等における調達過程に係る透明性向上についても、入札に関する情報(応札企業名、応札額、落札企業名、落札額)及び受注に関する情報(受注企業名、契約額)の開示措置拡充に努めており、関連情報はODA年次報告やJICA、JBICのホーム・ページ等で閲覧可能である
(注8)。
更に、援助案件のフォローアップについては、従来よりJICAのフォローアップ事業やJBICの援助促進調査等により、終了案件のフォローアップに努力しているほか、JICAでは、プロジェクト実施地域住民への裨益の視点から案件の実施中や終了後の協力効果をモニタリングする「現地NGO等による草の根モニタリング」制度を2000年度から導入している。
評価体制の改善強化については、第1部第3章第1節(3)で触れているとおり、個別プロジェクトの評価結果の速やかな公開に努めているほか、評価の客観性を高めるため第三者評価制度の充実等に取り組んでいる。
なお、88年よりは毎年会計検査院がODA事業についても個別の案件視察を実施しており、その結果は、改善すべき点等を含め、同院が毎年作成する決算検査報告に記載されている。
ODA広報の努力は、国内のみならず海外においても重要である。日本のODA事業は、日本と途上国との間の架け橋であり、資金的には日本国民の税金や郵便貯金等がその原資となっていること、技術協力をはじめ様々な形で日本人が関与していることから、被援助国側に十分周知され理解・評価されることは、日本国民の理解と支持を得る上でも不可欠である。ODA案件に関連した署名式や引き渡し式の機会には、在外公館やJICA・JBICの現地事務所を中心として現地における広報に努めているほか、日常的にも、現地語でのパンフレット配布や在外公館ホームページによる発信なども行いつつ、ODA事業を通じた被援助国への貢献と両国間の交流の周知を図っている。また、途上国の政府や報道関係者を対象として、日本が協力しているODAの現場を実際に見てもらう「経済協力プロジェクト視察ツアー」も実施している。更に、対外発信のため、我が国の政府開発援助、評価報告書をはじめ、各種パンフレットについても、英語版のほか一部は仏語版・西語版も作成しており、外務省ホームページの英語版では、ODAサマリー(「我が国の政府開発援助」の要約版)、評価報告書(概要版)をはじめ、日本のODAの基本政策に関わる様々な情報を発信している。
援助の現場においても、緊急援助物資を含む日本の援助物資・機材には、
ODAシンボルマーク(本書裏表紙左上のマーク)を表示し、現地で日本の援助によるものであることが一目でわかるようにしている。更に99年よりは、従来よりのODAシンボルマークに加え、とりわけ我が国国民の協力であることを明示するために「From the People of Japan(日本国民より)」の表記を加えた日章旗ステッカーを作成しており、コソヴォ帰還民、トルコ及び台湾の震災被災民用に供与する仮設住宅に貼付された。
途上国の抱える諸問題に対する国民の関心と理解を増し、援助活動の重要性に対する理解を得ていくためには、教育の現場においてODAの意義と実態が正確に伝えられる必要がある。
97年3月の総務庁による行政監察報告は、中学校や高等学校で使用されている教科書の記述がODAの正確な実態を反映していないことを指摘した。この報告では、「明らかな誤記の例」や「過去の実態や批判を踏まえ、近年の動向を必ずしも勘案していないと考えられる例」を引きつつ、外務省に対し一層の広報努力を行うよう勧告している。外務省やJICA、JBICは、こうした援助についての誤解を解消し、学生や一般国民にその実情を正確に把握してもらうため、各地で開発教育のセミナーの開催、教材・資料や広報ビデオの配布、あるいは教科書執筆者への「我が国の政府開発援助」の送付など、教員、学生、教科書執筆者への情報提供に努めている。こうした努力もあり、教科書において行政監察で問題とされたような記述は減少してきている。
学校などの教育現場における国際協力についての理解を促進する目的で、開発教育に対する支援を行っている。開発教育に関する教材が不足していることから、98年度には中学校を対象にODA開発教育教材を作成し、99年度は、小学生を対象として、カンボディア、ヴィエトナムでの現地取材を含むビデオと教師用指導冊子からなる開発教育教材キット「世界のみんなの笑顔のために」を作成の上、全国3,000の小学校に配布したところ、教師及び児童からODAや国際協力が分かりやすいと好評であった
(注9)。
また、ODAに関する講演や、「
ODAティーチ・イン」
(注10)という形などで、大学での講演や討論(パネル・ディスカッション)を積極的に行っている。
(注1) 「ODA民間モニター制度」募集要領、実施概要、及び報告書等の関連情報は、外務省ホームページ(
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/minna/minna_3/min_3f.html)及び(財)国際協力推進協会ホームページ(
http://www.apic.or.jp)にて閲覧できる。
(注2) 日本が1954年10月6日に
コロンボ・プラン(南・東南アジア及び太平洋諸国等の経済・社会開発を促進することを目的として1950年に発足した技術協力機構)に加盟し、二国間援助を開始したことにちなんでいる。
(注3) 東京・地下鉄日比谷線広尾駅より徒歩3分(所在地は
図表―18参照)。財団法人国際協力推進協会(APIC)により運営されている。
(注4) 外務省ホームページのアドレスは、
http://www.mofa.go.jp/
(注5) 対外経済協力関係閣僚会議幹事会申合せ「
ODAの透明性・効率性の向上について」(
資料編第5章第1節3)
(注6)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/を参照
(注7) 円借款は経済的波及効果が大きく多年度にわたる計画的取組を必要とするものであることを踏まえ、国毎の多年度に亘る円借款候補案件リストを両国間で確認するものであり、リストは公表される。
(注8) 無償資金協力については、94年度より応札企業名、落札額及び受注企業名をJICA公示室に掲示している。更に99年4月以降交換公文を締結した案件については、各応札企業の応札額及び契約額も開示している。
円借款事業については、89年から受注企業名の開示が行われ、その後98年4月以降に交換公文が締結された案件のうちプロジェクト借款について、事業の本体部分については10億円以上、コンサルタント部分については1億円以上の契約に係る応札企業名、応札額及び落札企業名を併せて開示することとし、前年度契約分をとりまとめのうえ閲覧形式で開示している。
なお、技術協力のうち機材調達に係る契約については、95年から応札企業名、落札企業名、落札額、受注企業名、契約額を、コンサルタント契約についても同年よりプロポーザル提出企業名、契約企業名、契約額をJICA公示室に掲示している。更に98年からは機材調達に係る契約の応札額をJICAホームページに掲載しているほか、2000年からは入札辞退者、欠席者があった場合にはその情報を開示することとしている。
(注9) これらのODA開発教育教材は「国際協力プラザ」でも貸し出しを行っている。
(注10) ODAティーチ・インの問い合わせ先
外務省 経済協力局 政策課 広報班
〒105-8519 東京都港区芝公園2-11-1
電話:03-3580-3311 内線2559
FAX:03-5776-2083