囲み12.政策研究大学院大学(GRIPS)と国際開発高等教育機構(FASID)との共同プログラム
1.共同プログラムが目指す人材育成
 
 共同プログラムは、21世紀に開発分野で国際的に活躍できる以下の分野での高度な人材育成を目的として、2000年4月に開設された。
  • 将来国際機関の幹部となる人材
  • 日本の政府、援助実施機関における開発協力実施の中核となる人材
  • 国際開発NGOの幹部として活躍する人材
  • 民間の国際開発部門を先導する人材
  • 日本の政府系団体で国際関係業務に従事する人材
  • 途上国において公共政策実施の中核となる人材
2.本共同プログラムの具体的内容
 
  • 共同プログラムの履修期間は原則2年、学生は政策研究大学院大学(国立)の学生身分を保障される。また、本プログラム修了者に対して、同大学院修士号が授与される。
  • クラスは留学生(途上国の政策担当者、研究機関職員など)15名、日本人15名から編成され、授業は全て英語で行われる。また、教授陣についてもFASID、GRIPSの常勤スタッフに加え、外国大学付属の開発問題関係研究所、世銀やアジア開発銀行研究所等から教授陣が招聘されている。
  • 共同プログラムでは、開発戦略マクロ経済、貧困削減、統治(ガヴァナンス)と開発、プロジェクト・サイクル・マネジメントをはじめとする幅広い分野での専門科目の履修が可能となっている。
     なお、その他詳細については関連のホームページ(http://www.grips.ac.jp 或いは http://www.fasid.or.jp)を参照。

(3) 援助人材の裾野の拡大

 国民参加型援助の典型として、第2節で述べたNGOによる活動に加え、JICAが実施する青年海外協力隊とシニア海外ボランティアの派遣事業が挙げられる。
 「青年海外協力隊」の99年度の派遣実績を見ると、農林水産、保健衛生、教育文化等の7分野、60ヶ国に2,498人の青年海外協力隊員が派遣されている。1965年の事業開始以来の累計は20,141人に上る。青年海外協力隊は20~39歳の日本の青年男女を開発途上地域に派遣し、地域住民と一体となってその地域の経済・社会の発展に協力することを目的とする事業であり、途上国への技術移転、友好親善の増進、更には日本青年の広い国際的視野の涵養に寄与しており、日本の「顔の見える援助」の一つとして、内外の高い評価を得ている。

トピックス:3.シニア海外ボランティア制度
 シニア海外ボランティア制度は、豊富な経験と知識をもつ熟年世代に、途上国支援の一翼を担ってもらおうと、91年度から派遣が開始されたものである。年齢は40歳から69歳が対象であるが、99年1月までに派遣された215人のうち、45%が60歳以上と、元気なお年寄りが目立つ。しかしシニア海外ボランティアはとにかく健康が第一条件。気候も環境も日本と違う途上国での1年以上にわたる生活は、熟年層にとって予想以上に厳しいものとなる。書類による技術審査は、条件さえ合えば比較的通過しやすいが、2次の健康診断では、1次合格者の半数近くが不合格になるという。また、派遣後に体調を崩し帰国を余儀なくされた例もある。
 そのような厳しい状況の中、マレイシアに派遣された元保母の女性は、現地の地方開発省に勤務、幼児教育指導やカリキュラム立案などを手がけている。だが、彼女はオフィス内だけの仕事に飽き足らず、合間をぬって高等専門学校にある保育所での指導を買って出ている。彼女とのふれあいに無邪気に喜ぶ子供たちに、ふと手を伸ばし頭をなでてやりたくなるが、決してそうはしない。マレイシアでは頭は神聖なところとされており、不用意に触れることは許されない。相手の価値観や文化の違いを尊重することも、シニア海外ボランティアにとって不可欠な認識なのである。
 また、最近までJICA総裁を務めていた藤田公郎氏も、本制度に応募した一人である。これまでは日本における技術協力実施機関のトップとして技術協力の陣頭指揮をとってきたが、2000年10月サモアに赴任、現在は政府の政策アドバイザーとして経済協力の現場に直接携わっている。
 高齢社会の到来を背景に、シニア海外ボランティア事業は広い世界での活躍の場を中高年層に提供するという意味で、貴重な存在だ。経験豊かなシニアの方々に対する途上国側の評価も高く、現在17ヶ国の受け入れ国も大幅に増加する見込みだという。また、第2の人生を途上国で過ごし、帰国後はその経験を糧に第3の人生を日本国内でのボランティア活動で過ごす人も増えているという。中には小学生や中学生に自らの体験を伝える語り部として活躍している方もいる。こうした人々が生き生きと活動できる体制づくりの一環として、本制度の一層の充実が期待されている。

マレイシアの保育所で子供たちとふれあうシニア海外ボランティア


トピックス:4.青年海外協力隊員とオリンピック
 2000年はオリンピック・イヤー、世界各国から選手がシドニーに集まり、様々な競技で熱戦が展開された。
 途上国からも多くの選手が出場したが、中には日本からスポーツ分野の指導で派遣された青年海外協力隊やシニア海外ボランティアがコーチを務め、見事出場権を獲得したケースもある。
 中でもカンボディアの水泳代表選手は、内戦による弾痕が残り、薬品が買えないために衛生状態の悪いプールでの練習を重ねてきた。経済的な問題など、選手たちは様々な理由で練習に集中することができず、実力でのオリンピック出場は難しいと思われていた。しかしカンボディアの選手たちは、毎年行われるメコン河横断水泳大会では泥流の中を泳ぐことに誇りを持っており、日本人にはない逞しさを持っていた。日本の青年海外協力隊が水泳のコーチとして赴任、技術指導のみならず選手の意識改革に努めた結果、ASEAN学生選手権で見事銅メダルを獲得、それがきっかけとなり見事2名の兄弟選手がシドニー・オリンピックへの出場権を獲得した。2名の父親はかつて彼らと同じように青年海外協力隊の水泳指導を受け、引退後国立プールの復興と選手の育成に尽力してきたという。
 「オリンピックで自分たちの記録がどこまで伸ばせるか挑戦したい」と語った2人の兄弟、世界の強豪を相手に予選突破はならなかったが、揃って自己記録を更新した。恵まれたとは言えない環境の下で実力で勝ち取ったオリンピック出場は、カンボディアの人々の希望となるのではないだろうか。
プールサイドで熱心に指導をする協力隊員

 また、90年度からは、40~69歳の日本の中高年齢層を対象に「シニア海外ボランティア」制度が導入された(導入時の名称はシニア協力専門家)。これは、青年海外協力隊と同様に、途上国の開発に自発的に参加し協力する意志を有する人材を広く公募し派遣するものであり、99年度末の時点では、科学、工学、農林水産等の8分野にわたり、14ヶ国に146人が派遣されている。事業開始以来の累計では325人に上る。2000年度予算においては、新規派遣人数が、前年度の100人から400人に大幅に拡大された。対象となる年齢層は幅広い技術と豊富な実務経験、社会経験を有しており、多様化・複雑化する途上国側のニーズに対応するために、本事業の一層の活用が期待される。
 なお、途上国に派遣される専門家の募集に当たっては、主として、政府部内の関係機関や地方自治体の協力も得つつ人選が行われているが、97年度より一般からの公募が開始された。専門家の公募は、国際協力に関心を有し、途上国の発展に役立つ意志と能力を持った一般国民がODAに参加する道を広げるとともに、政府による人選が困難な途上国の要請分野に対応する可能性を広げるものであり、99年度には公募に基づき42名を派遣した。

(4) 地方自治体との協力

 地方自治体が行う国際協力活動は、姉妹都市等を通ずる海外との友好・提携関係や海外移住者などを接点として、研修員の受け入れや専門家派遣、青年交流など人的交流を伴う技術協力を中心として推進されることが多い。これらの活動とODAが結びつくことは、きめ細かな援助を行っていく上で有益であるとともに、国民がODAを身近なものとして経験する優れた機会ともなっている。
 JICAにおいては、全国にある国内支部・国際センター等の国内機関(20機関)を活動の拠点として、地方自治体、大学、民間等との連携を積極的に進めている。例えば、99年度には、地方自治体を受入機関として、790名を超える技術研修員を受け入れたほか、200名以上の地方自治体職員を専門家として派遣している。
 また、99年度には、例えば、阪神・淡路大震災の体験を有する兵庫県において、自然災害に見舞われる中米諸国からの研修員が、日本の地方自治体における災害・防災体制について学び自国の防災体制造り、強化に役立てることを目的とした研修員受入プログラムが実施された。
 更に、外務省は、「地方公共団体補助金制度」に基づき、自治体が行う技術研修員受け入れと専門家派遣事業等への財政支援を行っており、99年度には、47都道府県と5政令指定都市の行うこれらの事業に対し約9.3億円の補助金交付を行った。
 その他、JICA国際センター、地方支部等と地方自治体との共催により、地方自治体職員を対象に短期間のセミナー等を開催し、青年海外協力隊事業を含むJICA事業全般についての説明を行い、参加の地方自治体職員が国際協力への理解を深め、更にはこれら事業へ参加する契機となることを目的として、「地方自治体職員等国際協力実務研修」が実施されており、99年度は約700名(地方実施分を含む)の自治体関係者が参加している。更に、青年海外協力隊事業においては、多くの自治体職員が現職参加しているほか、各自治体の協力により隊員募集を行うなど、地方自治体は協力隊事業の促進に大きな役割を果たしている。なお、最近は地方自治体の職員が協力隊事業のコーディネーター役である「調整員」として参加する機会も増えているほか、国際緊急援助隊の救助チームに自治体職員が参加するなどの実績がある。

囲み13.地方公共団体補助金制度
 各地方公共団体が主体的に行う技術研修員受入や専門家派遣は、途上国の人々との接触の機会を提供し、人と人とのふれあいを通じて各国との友好関係の発展にも寄与するものである。これらの活動とODAが結びつくことは、きめ細かな援助を可能にするとともに、国民がODAを身近なものと感じ、国民参加型援助を更に推進していく観点からも重要である。
 地方公共団体補助金制度は、1974年度に開始され、現在では、都道府県及び政令指定都市の実施する技術協力事業の技術研修員受入事業、専門家派遣事業や過去に受け入れた研修員の短期再研修事業等を支援対象としている。本件制度を通じて、養蚕、造園、醸造、窯業、養殖、球根栽培、果樹栽培、考古学、義肢作製など各地方公共団体の特性を活かした極めて多岐にわたる協力が行われている。また、都道府県が実施する移住事業の県費留学生受入事業も1978年度以降本補助金に一本化されている。


図表―16 外務省と地方公共団体との関係


(注) 205名の内訳:個別専門家派遣100名、プロジェクト方式技術協力による専門家派遣105名

トピックス:5.ぺルー、「南部鉄器」技術協力
 ペルーは、鉄鉱石をはじめ豊富な鉱物資源に恵まれており、これらは、外貨獲得の重要な品目となっている。しかし、国内に付加価値の高い加工技術を備えた製鉄工場が十分ないため、豊富な資源のより有効的な利用が課題とされていた。
 こうした中、「豊富な鉱山資源の有効利用」と「貧困対策」を重要な政策課題として掲げていたペルー政府が両者を実現させるために注目したのが日本の「南部鉄器」技術であった。
 ペルー政府の協力要請を受け、JICAはプロジェクト形成調査団を派遣、今年6月から岩手県工業技術センターを中心にペルーからの技術研修員を受け入れることとなった。
 技術研修のカリキュラムは、センターでの講義と地元の鋳物工場見学・実習などで構成されている。研修員自身、ペルーに戻れば他の技術者たちの指導に当たる幹部職員であり、学べるものはどんなものであれ、吸収しようという熱意がみなぎっている。
 南部鉄器は、通常の鋳物業と違い、下請け性が極めて低く、いわば「自分で作って自分で売れる分野」。また利益率も高いため、中小の鋳物業者が多いペルーに工業製品とは違った新しい産業分野を創生できる可能性は高いという。
 また、日本側にとっても、地方の伝統工芸が国際的に注目されることは、地域や産業の新たな振興につながる。南部鉄器製造の「名人」といわれる人は今や20人程であるが、これら「名人」が国際的な感覚を養うことは地元にとっても大きなメリットになる。
 技術研修員受入れは今後も続けられる予定であり、「南部鉄器」技術を通じた両国の産業振興への取り組みの一層の活性化が期待されている。
熱心に実習を受ける研修員

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