第2節 日本の厳しい財政事情と国民の理解

 日本においては、依然厳しい経済・財政状況が続いており、日本経済が厳しい中、なぜ現在の水準のODAを継続しなければならないのかとの声も聞かれる。また、ODAに関する透明性向上や説明責任の徹底を求める声もある。
 政府としても、これらの意見には謙虚に耳をかたむけ、ODAの適正かつ効率的な実施、更には重点的・戦略的な実施を進めていく必要があり、また、日本国民に対しODAを維持・強化していくことが直接間接に自らの利益にも合致するものであることを説得力のある形で説明していかなければならない。特に、日本が自らの安定と繁栄を維持・強化していくためには、東アジア、更には世界の平和と繁栄に強く依存していることは大切な視点である(注1)。このような考え方に基づき、世界の平和と繁栄に貢献する手段として、他の先進国がODAに加えて、国連平和維持活動(PKO)や多数の難民の受け入れなどを通じても積極的に貢献している中で、日本はODAを中心として国際貢献を行い、国際的にも高い評価を得てきた。
 特に、日本のODAの約6割がアジアに供与されているのは、日本の経済・社会の発展がアジア諸国のそれと深いかかわりを有することの反映であり、70年代以降の東アジア経済の奇跡的な成長や97年のアジア通貨・経済危機克服の過程(注2)でも日本のODAは大きな役割を果たし、これがひいては日本自身の経済・社会の発展に寄与してきた。
 また、世界の貧困削減や環境、感染症など地球規模の課題に対し、日本が積極的な取り組みを続けていくことはグローバル化した世界の中で日本自身の利益にかなうことと考える。九州・沖縄サミットにおけるイニシアティブ(注3)など国際的な約束についてはこれを着実に実施していくことは国際社会の有力な一員としての日本の責務とも言えよう。
 まさにODAを含む日本の経済的・社会的な国際貢献は日本の国際的発言力の源泉の一つであると考えられる。
 もとよりそうした貢献を実りあるものとしていくためにODAのあり方を常に改善し、国民の理解と支持を得てODAを進めていくことは何よりも重要である。
 政府自身が行ってきたODA改革のための具体的な努力については、以下第3章を中心として詳しく述べたい。
 また、2001年度の政府予算編成の過程で、2000年11月には「ODAに関する与党プロジェクトチーム」が設立され、ODAについて議論が行われた結果、同年12月8日に発表されたプロジェクト・チームの見解は、ODAは「わが国外交の重要な手段であると同時に、国益、国際協力の観点から必須不可欠な要素」と述べた上で、「量的規模の見直しを含め、さらなる改革に向けた努力が求められている」として、ODAに関する中長期的なあり方につき今後とも引き続き検討を行っていくこととしている(囲み2.参照)。
 より良いODAを目指し、幅広い国民的議論が従来以上に必要となっていると言えよう。

囲み2.ODAに関する与党プロジェクトチーム見解(全文)
ODAに関する与党プロジェクトチーム見解

平成12年12月8日
与党ODAに関するP.T.

 ODAはわが国外交の重要な手段であると同時に、国益、国際協力の観点から必須不可欠な要素である。しかしながら、厳しい国内の経済・財政状況の中で、ODAの使途に対する国民的批判の高まり等を背景として、量的規模の見直しを含め、さらなる改革に向けた努力が求められている。
 このような状況を踏まえ、当面、可及的速やかにとるべき対応としてODA予算の透明性を一層高め、効率化を図るとともに、わが国の財政事情の厳しさを踏まえ、過去の国際約束及び国際公約等に基づく事業の執行に影響を与えないよう配慮しつつ、ODA予算全体の量的規模を縮減する。

 その際、以下の点を踏まえ、関係省庁の所管の枠を超えた調整を行い、重点的・効率的なメリハリの効いた予算配分を行うこととする。
(1)「顔の見える援助」の推進
(2)地球的規模の問題(IT、感染症、環境等)への対応、貧困対策等の社会開発の促進、人道分野における貢献等を強化する。
(3)アジア経済支援を強化する。
(4)途上国の人材育成、留学生、日本語教育等に対する支援の重要性に配慮する。
(5)NGO、地方自治体などとの「国民参加型のODA」を促進する。
(6)援助受け取り国に対し、自国民へテレビ等をはじめとするマスメディアを通じて広報・周知が図られるよう求める。

 また、当プロジェクトチームは、ODAに関する中長期的なあり方につき今後とも引き続き検討を行っていくこととし、とくに、ODA大綱、ODA中期政策等を踏まえ、関係省庁別のODA事業予算についても精査していくこととする。

以 上


第3節 開発パートナーシップ構築に向けての努力

 上述のような国内事情がある一方で、国際的には、開発の課題が複雑・多様化し、援助需要が高まる中で、先進国からのODA資金は大幅な伸びを期待できない状況にある。そのため、援助の効率と効果を高めることが喫緊の課題となり、「新開発戦略」(注4)で謳われたパートナーシップ構築の必要性が強く認識されるに至っている。
 99年に世銀は、「包括的開発のフレームワーク(Comprehensive Development Framework:CDF)」と呼ばれる考え方を打ち出し、13ヵ国をパイロット国としてその実施を開始した。これは、従来世銀が実施してきた構造調整融資を中心とするマクロ経済面の安定だけでは開発はうまくいかないとの反省に基づき、マクロ経済政策と同時に保健や教育などの社会セクターや、環境、統治(ガヴァナンス)のあり方といった分野横断的な課題を等しく視野において、しかも開発の主体として政府のみならず民間部門や住民組織、労働組合などの市民社会、さらには国際機関や援助国、NGOなどの役割をも俯瞰しようとするものである。
 保健や教育などのセクター・レベルに目を向ければ、個々の援助国が独立のプロジェクトを独自に実施しても効果は限られること、維持・管理や人件費の手当に困難を来たしている途上国が多いことなどから、全国民を対象にサービス提供のシステムを構築することが不可欠な保健や教育などの分野について、途上国政府が援助国、国際機関等と緊密に協議・調整の上開発計画を策定し、このような計画に沿って開発や援助を進めていくという「セクター・ワイド・アプローチ」の試みがアフリカ諸国を中心として行われている。
 また、国際社会全体としての援助の効率化を進めるための具体的方策の一つとして、後発開発途上国(LLDC)向けの援助をアンタイド化すべきとの議論も行われ、具体的内容をめぐりDACで交渉が続けられている(注5)
 以上の動きに加えて、重債務貧困国(Heavily Indebted Poor Countries:HIPCs)の債務救済問題に関して、99年の世銀・IMFの合同開発委員会及び総会でケルン・イニシアティブ実施のための手続きが合意されたが、その中で、救済措置の適用を求める途上国は、その前提として「貧困削減戦略ペーパー(Poverty Reduction Strategy Paper:PRSP)」の作成を求められることとなった。これは債務救済措置によって生じた資金が正しく開発と貧困削減のために充てられることを確保するために不可欠の措置であるが、その作成に当たっては世銀・IMFのみならず援助国も支援することとなっている。PRSPが作成されれば、途上国はこれにしたがって開発計画を進めていくことになり、援助国もこれに沿って援助を進めていくことが期待されている。なお、PRSPは、HIPCsのみならず世銀の無利子貸付である国際開発協会(International Development Association:IDA(第二世銀))のみからの融資適格国にも作成が義務づけられている。
 こうした開発パートナーシップ構築の動きは、今後とも活発化していくものと見られ、日本の考え方を世界に向けて発信していくことが必要である。


(注1) 例えば日本はエネルギー供給の80%を海外に依存しており、また食料自給率(カロリーベース)についても40%となっている。
(注2) 日本は危機発生直後より、経済構造改革支援、社会的弱者支援、人材育成・留学生支援を柱としつつアジア諸国を積極的に支援してきた。具体的には、98年10月に表明された「新宮澤構想」をはじめ、「経済構造改革支援のための特別円借款」(特別円借款)(囲み5.(注3)参照)など、現在その着実な実施に努めている。日本を中心とした国際社会からの支援もあり、東南アジア諸国の経済成長(GDP成長)率は98年に-8.5%だったが、99年は2.9%、2000年には4.8%、2001年は5.1%との予測(アジア開発銀行)がなされている。
(注3) 第3部「主要援助国としての日本の課題別取り組み」を参照。
(注4) 「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献(新開発戦略)」
 96年5月、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)において、21世紀の援助の指針を定めるものとして採択された文書。その策定に当たっては日本が主導し、すべての人々の生活の向上を目指し、具体的な目標と達成すべき期限を設定している。
 具体的には、012015年までの貧困人口割合の半減、022015年までの初等教育の普及、032005年までの初等・中等教育における男女格差の解消、042015年までの乳幼児死亡率の1/3までの削減、052015年までの妊産婦死亡率の1/4までの削減、06性と生殖に関する健康(リプロダクティブ・ヘルス)に係る保健・医療サービスの普及、072005年までの環境保全のための国家戦略の策定、082015年までの環境資源の減少傾向の増加傾向への逆転、が挙げられている。
 新開発戦略では、これら目標の実現のために、開発への途上国の主体的取り組み(オーナーシップ)と、先進国及び開発途上国が責任を分担し、共同の取り組みを進めていくこと(「新たなグローバル・パートナーシップ」)の重要性を強調している。
(注5) LLDC向け援助に関わる物資や役務の調達先をすべての国に対して開放(「アンタイド化」)しようとの主張があるが、援助の中には、人と密接に結びついた技術協力などがあり、すべての援助がアンタイド化に馴染むものではないことに留意する必要がある。また各援助国の援助のアンタイド化率は様々であり、アンタイド化が遅れている援助国により大きな努力を求めるといった負担の衡平も確保されるべきである。
 九州・沖縄サミット・コミュニケにおいては、「ODAの効果を高めるめるために、われわれは、現在までに経済協力開発機構(OECD)において実現した進展およびわれわれがOECDにおけるパートナーと合意する公正な負担分担メカニズムに基づいて後発開発途上国への援助をアンタイド化することを決意する。」とされた。因みに、日本は、相当程度アンタイド化を進めており、99年の日本のアンタイド率は96.4%でDACメンバー国中第4位である(DAC諸国のアンタイド率につき図表―6参照)。


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