第3部 主要援助国としての日本の課題別取り組み


 九州・沖縄サミットにおいて、日本は議長国として開発の問題が重要な課題として積極的に取り上げられるよう努力した。HIV/AIDSなどの感染症については、単に個人の健康の問題だけでなく途上国の経済・社会の根幹を揺るがしかねない問題と認識されるに至っており、九州・沖縄サミットにおいてはこの問題を開発の中心的テーマの一つとして位置付けた。また、重債務貧困国の債務問題、教育、紛争予防における開発の役割についても取り上げた。
 これらの分野について、日本は、リーダーシップを発揮するため、自らの貢献として、2000年4月に重債務貧困国(HIPC)イニシアティブを促進するために重債務貧困国に対する非ODA債権の削減率を100%に引き上げるなど独自の措置をとることを決めたほか、サミットに際して「国際的な情報格差問題に対する日本の包括的協力策について」、「沖縄感染症対策イニシアティブ」、「『紛争と開発』に関する日本からの行動」と題する3つの援助政策を発表した。こうした日本のイニシアティブは各国から高く評価された。
 これらの課題に取り組み、具体的な成果を上げるためには、G8他の先進国、途上国、更には国際機関、NGOを含む市民社会等との連携(パートナーシップ)の強化が不可欠である。そうした視点から、サミット首脳会合に先立ち、森総理はじめ各国の首脳は、G77・非同盟運動(NAM)・アフリカ統一機構(OAU)の代表やUNCTAD総会の主催国首脳及び国際機関の代表と会談しその意見に耳を傾けるとともに(注1)、森総理はNGOの代表とも懇談した。サミットにおいて合意された事項を着実に実施していくためには、今後こうしたパートナーシップを強化していく必要がある。

九州・沖縄サミットの開催に先立ちG8側及び途上国首脳等と会談する森総理大臣

 「一層の繁栄」、「心の安寧」及び「世界の安定」をもたらす21世紀の実現に向けて、希望をもって共に前進することを誓ったサミットのG8首脳コミュニケにおいては、開発問題は主として「一層の繁栄」の下にまとめられている。そこでは、情報通信技術(IT)が提供する機会(デジタル・オポチュニティー)の活用とともに、債務・保健・教育問題への取り組みが重視された。また、紛争における予防の意義が強調され、具体的分野での取り組みが合意される中で、その一環として紛争予防における開発の役割も取り上げられた。
 以上の分野に加えて、地球環境問題や薬物等の地球規模の問題や「開発における女性」の参加と裨益についても引き続き重視していく必要がある。

図表―19 麻薬対策における日本のODA実績

無償資金協力

・92年度
対タイ
「チェンキアン高地農業開発センター設立計画」
・94年度
対ミャンマー
「食糧増産援助」
・98年度
対ミャンマー
「食糧増産援助」
・98年度
対ペルー
「ノンプロ無償」「食糧増産援助」
・99年度
対ペルー
「食糧増産援助」
(草の根無償協力)
・90年度
対インド
「麻薬撲滅啓蒙計画」
・92年度
対タイ
「山岳民族開発支援計画」
・94年度
対ミャンマー
「麻薬中毒患者に対するエイズ対策計画」
・95年度
対ペルー
「代替作物栽培計画」
・96年度
対レバノン
「ホウシュ・エル・サイイド・アリー村住民に対する飲料水供給計画」
 
対ラオス
「ルアンブラバン県麻薬患者更正支援計画」
対ドミニカ共和国
「麻薬・エイズ対策印刷機供与計画」
・97年度
対ラオス
「ナム・プン・ノイ小学校建設計画」「ナム・プン・ニャイ小学校建設計画」
 
 
「ポン・カム小学校建設計画」「ナム・ヤク小学校建設計画」
「ソブ・ヤク小学校建設計画」
「ビエン・トン小学校建設計画」「シェンクワン県婦人職業訓練センター建設計画」
「ビエン・トン郡灌漑施設改善計画」
(以上の案件プロジェクトサイトはいずれも麻薬対策の重点地域)
対ミャンマー
「ターシェエタン村教育及び医療改善計画」
 
「ターシェエタン村水供給施設及び農業所得向上計画」
対タイ
「スラムの子供のための麻薬防止計画」
対ネパール
「薬物依存症の青年への社会復帰のための職業訓練支援」
対フィリピン
「エイズ及びドラッグに関する情報提供・教育活動」
対ベリーズ
「麻薬患者社会復帰のための職業訓練」
対ペルー
「麻薬需要削減に関するグローバルイニシアティブ・米州―アジア対話」開催支援計画」
・98年度
対ラオス
「ナハン地区灌漑施設建設計画」「ムアンボー地区灌漑施設建設計画」
 
 
「ワンノム地区灌漑施設建設計画」(以上3点のサイトは麻薬対策の最重点地域)
対メキシコ
「薬物中毒患者等社会復帰施設整備計画」
対ペルー
「薬物乱用予防指導教材配布計画」「アブマリック・総合的カカオ栽培促進計画」
・99年度
対ラオス
「サンパントン村灌漑施設建設計画」「ナトゥアン村灌漑施設建設計画」
 
 
「モクサラ山村道路建設計画」「エト郡立病院改造計画」
「ソッパオ郡立病院改善計画」「ナシェエンデイ山村道路建設計画」
対インドネシア
「少年非行・麻薬中毒にかかる社会リハビリテーション機器供与」
対パナマ
「少年非行・麻薬中毒にかかる社会リハビリテーション機器供与」
対ミャンマー
「バモー地方水力発電供給計画」「ワ地区共生計画」
対モンゴル
「有害薬物撲滅活動増進計画」
対ペルー
「麻薬消費予防のための啓蒙教材作成センター設置計画」

技術協力(JICAによる麻薬関連事業実施分)

・研修員受入事業「薬物取り締まりセミナー、薬物乱用防止啓蒙活動等」
 
94年度
95年度
96年度
97年度
98年度
99年度
17人
27人
31人
29人
32人
37名
 
・第三国研修
94年度
95年度
96年度
97年度
98年度
99年度
タイ 「麻薬犯罪防止」:
20人
15人
17人
20人
18人
20名
コスタリカ「麻薬犯罪防止」:
21人
20人
18人
31人

99年度よりコース名を「麻薬撲滅および犯罪取締」に変更
・個別専門家派遣
・92年度
対タイ
1名
「薬物分析及び麻薬・精神薬分析」
 
・93年度
対ポーランド
1名
「麻薬分析」
・98年度
対カンボディア
1名
「麻薬取締実務」
・99年度
対タイ
1名
「薬物対策」
・99年度
対タイ
2名
「麻薬撲滅および犯罪取締(第三国研修)」
・99年度
対ミャンマー
4名
「覚醒剤対策」
 
・麻薬代替作物
 
・97年度
対ミャンマー
個別研修員1名
 
 
個別専門家1名派遣
「ソバ栽培」
・開発協力事業(開発投融資業務)
 
2000年度
対ミャンマー
「ミャンマー・菊苗生産試験事業」
 
融資承諾額 64.7百万円
(麻薬代替作物栽培)

国際機関への搬出

DAP
(コロンボ・プラン)
94年度
95年度
96年度
97年度
98年度
99年度
55,000ドル
155,000ドル
155,000ドル
140,000ドル
70,000ドル
70,000ドル
UNDCP
550万ドル
600万ドル
670万ドル
500万ドル
381.7万ドル
375.4万ドル
CICAD
米州機構全米麻薬乱用取締委員会
250,000ドル
250,000ドル
250,000ドル
220,000ドル
155,000ドル
155,000ドル
580.5万ドル
640.5万ドル
710.5万ドル
536万ドル
411.2万ドル
397.9万ドル

・世銀の日本特別基金(PHRD基金)
98年度
対コロンビア
「和平プロジェクトのための農業生産パートナーシップ」
 
(麻薬代替作物関連プロジェクト)

NGO事業補助金

・98年度
(社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
対タイ
「人材育成事業(貧困地区学習援助事業)」
・99年度
(社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
対タイ
「人材育成事業(貧困地区学習援助事業)」

図表―20 途上国の女性支援(WID)/ジェンダー

 日本の「政府開発援助大綱」は、援助の効果的実施のための方策の一つとして、「開発への女性の積極的参加および開発からの女性の受益の確保について十分に配慮する」と明記している。
 95年の第4回世界女性会議(北京で開催)において、日本は「WIDイニシアティヴ」を発表した。その中で、女性の地位の強化と男女格差の是正に配慮し、特に教育、健康、経済・社会活動への参加を重視し、途上国、他の援助国、国際機関、NGOと協力しつつ、開発援助におけるWID分野の拡充に努力する旨発表している。
 また、99年8月に発表したODA中期政策においては、ジェンダー/WIDを重点課題の一つとして掲げており、援助の各分野を横断する取組みや、地域社会に密着した住民参加の手法を重視する支援を行っていくこととしている。
 具体的には、女性が主たる受益対象となる案件を積極的に実施するほか、ジェンダー・WIDの観点から調査、計画作成を行う専門スタッフが調査団に参加する、あるいは援助対象地域の住民(特に女性)から意見を聴取するなど、案件の形成・実施の段階でも女性の参加・受益に配慮するよう努めている。
 こうした取組みにより、99年度の「途上国の女性支援」は、次のような実績(例)を上げている。

1.二国間協力
 (1)技術協力
 (イ)研修員受入(新規)
  コース名
人数
 ・家族計画指導者セミナー01―政府とNGOの連携強化
14名
 ・農村女性能力向上
11名
 ・農業人口における保健対策
11名
 ・男女共同参画推進セミナー
10名
 ・女性と経済開発セミナー
10名
 ・女性の教育問題担当官セミナー
9名
 ・農村女性のための生活改善と地域開発
12名
 ・保健衛生指導者セミナー
15名
 ・地域健康開発のためのNGO/NPOの能力向上
13名
等、合計892名
 (ロ)個別専門家派遣
  対象国名
協力分野
人数
 ・インドネシア
WID
1名
 ・フィリピン
女性の地位向上
1名
 ・タイ
開発への女性の参入促進
1名
 ・バングラデシュ 
住民参加型農村開発アドバイザー
1名
 ・ケニア
地域住民生活改善
1名
等、合計88名
 (ハ)プロジェクト方式技術協力
  対象国名
案件名
 ・インドネシア
母と子の健康手帳
 ・カンボディア
母子保健
 ・モンゴル
母と子の健康プロジェクト
 ・スリ・ランカ
繊維製品品質向上計画
 ・パラグァイ
小農野菜生産技術改善計画
 ・ジョルダン
家族計画・WIDプロジェクト
 ・タンザニア
キリマンジャロ農業技術者訓練センター
等、合計48件
 (ニ)開発福祉支援事業
  対象国名
案件名
 ・カンボディア
貧困軽減に向けての女性のリプロダクティブヘルス向上プロジェクト
 ・ラオス
ウドムサイ県収入向上活動プロジェクト
 ・ペルー
貧困女性のための生活向上事業
 ・ザンビア
住民参加型給水事業
等、合計22件
 (ホ)開発調査
  対象国名
案件名
 ・インドネシア
地域教育開発支援調査
 ・マラウイ
プライマリヘルスケア強化計画調査
等、合計79件
 (ヘ)青年海外協力隊の派遣
  対象国名
主たる分野
人数
 ・バングラデシュ 
村落開発、保健、市場調査、手工芸
30名
 ・ネパール
村落開発、看護婦/士、システムエンジニア
25名
 ・パナマ
村落開発、食品加工、看護婦/士、栄養士
19名
 ・セネガル
村落開発、植林、看護婦/士、青少年活動
30名
等、合計479名
 (2)無償資金協力
 (イ)一般プロジェクト無償資金協力
  対象国名
案件名
 ・インドネシア
初等中等理数科教育改善計画
 ・スリ・ランカ
初等中等学校施設改善計画
 ・エティオピア
地方都市給水計画
 ・パレスチナ
西岸地域小中学校建設計画
 ・カザフスタン
アスタナ市小児病院医療機材整備計画
等、合計80件
 (ロ)草の根無償資金協力
  対象国名
案件名
被供与団体名
 ・タジキスタン
農村女性奨学金プログラム支援寄宿舎改修計画
タジキスタン女性連合
 ・タイ
桑の多用途利用による女性のための所得向上計画
ドゥナミス財団
 ・パキスタン
ラホール市識字教育訓練センター設立計画
ブニヤード識字地域委員会
 ・フィリピン
マリキナ市少女たちの新しいスタートの家
CRIBS
 ・エティオピア
メタロピ基礎教育整備計画
マサラタ・クリストス教会
 ・ガンビア
製粉機供与計画
ガンビア食糧栄養協会
 ・中央アフリカ
ピンボ市飲料水供給計画
ピンボ市
 ・モーリタニア
女性のための能力開発計画
エメル女性組合
 ・ジョルダン
女性による食品生産組合事業機材整備計画
ジョルダン女性総連盟
 ・パレスチナ
サンリニヤ女子小学校改善計画
サンリニヤ女子小学校
 ・ニカラグァ
女性自立支援のための研修機材整備計画
住民教育センター/カンテラ
 ・ペルー
女性と子供のための職業訓練センター整備計画
ABプリズマ
等、合計275件
 (3)有償資金協力
  対象国名
案件名
 ・ペルー
山岳地域社会インフラ整備計画
 ・バングラデシュ
配電網拡充及び効率化事業
 ・フィリピン
地方上水道整備計画(05
等、合計6件
 (4)NGO事業補助金
  対象国名
事業名
被供与団体名
 ・ザンビア
女性自立支援事業
ワールド・ビジョン・ジャパン
 ・ミャンマー
女性自立支援事業
ブリッジ・エーシア・ジャパン
 ・カンボディア
地域総合振興事業
日本国際ボランティアセンター
 ・フィリピン
地域総合振興事業
地球ボランティア会
等、合計16件
 
2.国際機関への拠出金
 ・国連開発計画(UNDP)WID基金
312万ドル
 ・国際農業開発機関(IFAD)WID基金
50万ドル


(注1) 日本は、G8議長国として、国際社会の直面 する様々な課題を議論するにあたり、サミット開催に先立ち、途上国の声に耳を傾けることが重要との認識の下、また、途上国側からもG8との対話について要望があったことを踏まえ、途上国の代表者とG8側首脳との意見交換の場を設けることとした。
 2000年7月20日、東京にて開催された同会合には、途上国側より、G77議長国であるナイジェリア、非同盟運動(NAM)議長国である南アフリカ、アフリカ統一機構(OAU)から委任を受けたアルジェリアの各大統領及び国連貿易開発会議第10回総会(UNCTADX)及びASEAN議長国たるタイから首相が参加した。
 このG8側首脳と途上国首脳との意見交換では、「開発への挑戦(Challenges for Development)」というテーマの下、人材育成、債務救済、感染症対策等の課題につき意見交換を行うととともに、南北間でのグローバル・パートナーシップや対話継続の必要性が強調された。
 また、同会合に引き続き、世銀、国連開発計画(UNDP)、世界保健機関(WHO)や民間企業の代表も加わり、IT、感染症、人材育成等について議論するラウンド・テーブルも開催された。

前ページへ 次ページへ