第3章 アフリカ

 アフリカは世界で最も貧困人口の割合が高く、また、紛争や飢饉、HIV/AIDSなどの感染症、更には累積債務など、困難な諸問題が凝縮して存在する地域である。その意味で、アフリカは、開発の分野において最も大きな課題を抱えた地域といえる。また、近年では、IT革命などにより加速しつつある世界経済統合の流れからアフリカが取り残され、他の地域との格差が一層拡大する惧れも指摘されている。2000年9月の国連ミレニアム・サミットで採択されたミレニアム宣言も、アフリカの問題を特に取り上げ、「世界各国が貧困撲滅および持続可能な開発におけるアフリカの人々の努力を支持し、それにより世界経済の主な潮流にアフリカを統合していくべき」である旨訴えている。また、2001年1月、森総理は、「アフリカ問題の解決なくして21世紀の世界の平和と繁栄はなし」との基本認識の下、現職総理として初めてアフリカ(南アフリカ、ケニア、ナイジェリア)を訪問し、南アフリカにおいて行った対アフリカ協力の基本的な考え方に関するスピーチの中で、アフリカ問題に取り組む日本の決意を表明するとともに、開発協力並びに紛争予防及び難民支援を対アフリカ協力の車の両輪とすること、幅広い双方向交流に基づく新たな日・アフリカ関係を発展させていくことなどを表明した。
 90年以降日本の二国間援助総額のうち約1割がこの地域に向けられており(99年には約9.5%)、食糧・農業を含む基礎生活分野を中心とした無償資金協力、開発を支える様々な分野での人造りに資する技術協力等を中心とした支援を実施している。日本は、2回の アフリカ開発会議(TICAD)の開催などを通じ、開発に向けたアフリカ諸国の自助努力と、それを支援する国際社会のパートナーシップの重要性を提唱するとともに、98年に開催された第二回アフリカ開発会議(TICAD02)で採択された「東京行動計画」を、日本の対アフリカ支援の指針として、その実現に資するべく様々な具体的施策を講じてきている。更に、森総理は前述の政策スピーチの中で、TICAD03に向けた準備として2001年12月にアフリカ開発に関する閣僚レベル会合を東京で開催することを提案した。また、今後のTICADプロセスの重点として、TICADをアフリカ自身による開発戦略を話し合う場として位置付けること、南南協力を一層発展させること及び新たな重点分野として感染症対策とIT協力を重視することを表明した。
 また、日本は、アジアにおける開発協力の経験をも踏まえ、アフリカにおける開発協力が効果を収めるようにするため、下記に挙げるいくつかの点を重視している。
 第一に、民主主義及び良い統治は、アフリカの社会・経済開発にとって不可欠であり、また、アフリカの多くの国における紛争の終結が持続的開発の前提条件となっているとの認識から、こうした側面での開発の基盤を整備するための取り組みに力を入れている。
 第二に、成長なくして持続的な貧困削減は達成しえないとの認識から、貧困削減とそのための経済成長の双方を重視している。いうまでもなく貧困を削減するためには、成長の果実が社会に広く行き亘ることが必要である。その関連で、日本は、アフリカの総人口の約7割を占める農業の開発と農村における貧困削減に力を入れており、具体的には、農業技術の移転や農村の自立・活性化に資する支援等を行っている。
 第三に、アフリカでは、援助の吸収能力の不足や援助への過度の依存による弊害が指摘されていることを踏まえ、基礎教育や職業訓練の充実などを通じた人造り・制度造りや、貿易投資の促進、インフラ整備などを通じた民間部門の活性化を目的とした支援に力を入れており、自立的かつ持続的な成長に資することを目指している。また、アフリカはITの進展への対応の遅れが最も懸念される地域であり、IT分野での支援も重要な課題となっている。
 第四に、アフリカでは保健・医療分野での遅れが、人々が健康に学び、働くことを妨げ、貧困削減にとっての障害になっている。感染症・寄生虫症の蔓延は深刻であり、特にHIV/AIDSに関しては、世界の感染者の7割がアフリカに集中している等、経済・社会の人的基盤を崩しかねない問題となっていることから、緊急に対応する必要がある。
 第五は、南南協力の重要性である。他の途上国地域での経験を、アフリカという多様性に富む大陸にそのまま移植できるとは限らないが、開発の面で先行する他の地域からアフリカが学ぶべきことは多い。この点を踏まえ、TICAD02においてまとめられた「東京行動計画」においても、アジア・アフリカ協力を中心とする南々協力推進が重要な柱の一つとして取り上げられている。その関連で日本は、TICAD02のフォローアップとしてアフリカ支援においてアジアをはじめとする他地域との南南協力推進に力を入れており、「アジア・アフリカフォーラム」に代表されるように多くの取り組みを実施している。(第3部第6章「南南協力と広域協力」参照)。
 第六に、各先進国による援助方式の違いや援助案件の多さから、支援を受けるアフリカ諸国が十分対応できないという問題が指摘される。こうしたことから、近年、援助の効率を高め開発の効果を上げていくための連携・協力を推進するための努力が多くのアフリカ諸国で進んでおり、日本としても、その一貫である貧困削減戦略ペーパー(PRSP)の策定やセクター・ワイド・アプローチの試みに積極的に参加していくこととしている。
 近年、南アフリカのムベキ大統領が提唱する「アフリカン・ルネッサンス」(注)やアフリカ諸国自身による開発の青写真造りの試みや、国際社会による様々なアフリカ支援イニシアティブが見られる。TICADプロセスを通じてアフリカ諸国の主体的取り組み(オーナーシップ)と国際社会のパートナーシップの涵養を目指してきた日本として、こうした動きは評価すべきものである。一方、取り組むべき課題は多く、日本としては、こうした新たな流れを踏まえつつ支援を進めていく考えである。


(注) 貧困、紛争、疾病といったアフリカの諸問題に対しアフリカ自身が取り組み、21世紀を「アフリカの世紀」とすることを目指すヴィジョン。ムベキ大統領は、更にこうした展望に基づくアフリカ自身の手による開発計画(「アフリカ再生特別計画」)を策定するため、現在アフリカ各国と協議を行っている。

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