II.ODA中期政策の実施状況


3.援助手法

(1)ODAの政府全体を通じた調整及び各種協力形態・機関間の連携

 ODAは現在17省庁によって実施されており、政府全体としての連携及び調整を強化していく必要がある。また、資金・技術協力の各種協力形態の特性を最大限に活かしつつ、有機的な連携を図っていくことが求められている。
 ODAの政府全体を通じた調整については、既に技術協力に関しては関係省庁連絡会議が年3回程度開催されており、情報交換の促進等を通じ技術協力の効率的実施に努めている。
 また、政府開発援助や円借款についての基本的方針や政府開発援助に関する政策、国別援助方針・国別援助計画及び個別の円借款の供与について十分、関係省庁の意向が反映されるよう外務省と関係省庁間の協議の場を設けるとの昨年11月の閣議口頭了解(注)に基づき、本年3月には、関係省庁の有する知見、ノウハウを活用し、ODAの効果的・効率的実施を図るため「政府開発援助関係省庁連絡協議会」第一回会合が開催された。また、2001年の省庁組織再編後は、外務省が政府開発援助全体に共通する方針に関する関係行政機関の行う企画の調整並びに政府開発援助のうち技術協力及び有償の資金供与による協力に関する関係行政機関の行う企画・立案の調整を所掌することとなった。こうしたODA調整機能の強化は、99年6月に公表された経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)による「日本の開発協力政策及び計画に関する審査報告書」においても歓迎されている。
 また、各種協力形態・機関間の有機的連携については、現在、主要援助国について国別援助計画を順次策定中であり(後述)、これにより各種援助形態を一体的に捉え、援助機関・民間セクターとの連携を視野に入れた上で、現地のニーズに則したODAを実施することとしている。

(注) 平成11年11月閣議口頭了解関連部分:「政府開発援助や円借款全体についての基本的方針はもちろん、政府開発援助に関する政策や、国別援助方針・国別援助計画及び個別の円借款の供与についても、閣議等において決定する前に、十分、関係省庁の意向が反映されるよう外務省と関係省庁間の協議の場を設けることとする。」

(2)ODA以外の政府資金(OOF)及び民間部門との連携

 開発に関わる資金の規模を見ると、旧日本輸出入銀行による公的輸出金融やアンタイド・ローンなどODA以外の政府資金(OOF)や貿易保険の付保が占める割合は大きく、また、直接投資や銀行貸出など民間セクターの果たす役割の重要性も高い。途上国向け資金の効果的な投入のためにも、途上国の状況を踏まえ、ODA、OOF、貿易保険、民間資金の役割分担を明確にした上で、これらの間の連携を図ることが求められている。
 ODAとOOFとの連携に関しては、海外経済協力基金(OECF)と日本輸出入銀行の統合により99年10月に成立した国際協力銀行(JBIC)が我が国の円借款(ODA)とODA以外の政府資金(OOF)双方を実施する機関となった。これにより旧輸銀と旧OECFの両機関が培ってきたノウハウ、経験が共有され、相乗効果を生み出すことにより、相手国の状況や案件の特性に応じたより効率的、効果的な資金供与が期待される。
 また、民間部門との連携に関しては、本邦企業が開発途上地域において行う開発事業のうち、900JBIC1050からの資金供給が困難なものにつき、開発協力効果の高いものを対象に、900JICA1050がソフトな条件で資金を提供する「開発投融資制度」が活用されているが、99年度には同制度の債権保全措置及び貸付条件の緩和が図られている(注)
 なお、近年途上国においては、先進国からの援助のみならず、民間部門が有する資金・ノウハウの導入によるインフラ整備(民活インフラ整備)が増えている。我が国は、途上国のこのような取り組みを支援するため、97年度より、途上国政府、国際機関、現地金融機関、現地邦人企業等の参加を得つつ「民活インフラ・ワークショップ」を開催し、我が国の民活インフラ整備支援のための経済協力スキームを紹介するとともに、民活インフラ整備についての理解の増進・普及に努めている。同ワークショップは本年3月にカザフスタンでも開催されている。

(注) 「開発投融資制度」融資条件の緩和:債権保全措置の緩和としては、十分に保証能力を有すると認められる銀行以外の企業等まで保証人の対象を拡大するとともに、国債等確実性の高い債券を担保とする場合は、当該担保のみによる貸付を認めることとした。貸付条件の緩和としては、事業規模の上限及び融資率の引き上げとともに、償還期限及び据え置き期間の一部拡大を実施することとした。

(3)NGO等への支援及び連携

 近年、NGOや地方自治体が開発援助に携わる主体としてその重要性を高めつつある。特に上述のコソヴォ難民支援、台湾やトルコの大地震の被災者支援では、人道的に悲惨な状況にある人々に対し迅速かつきめ細かな緊急人道支援を行うことができるNGOが大きな活躍をした。ODAのNGOとの連携は、国民参加型援助や、わが国の「顔の見える援助」を推進して行く上でも重要である。
 このような観点から、草の根無償資金協力の拡充に加え、NGOの緊急援助活動の立ち上げ、展開を支援するため、コソヴォ紛争発生の際には緊急人道支援を目的とした事業に対し、NGO事業補助金の弾力的運用(補助率の引き上げ、事業終了前の概算払い)を行った。
 また、99年8月以降、コソヴォ、トルコ、台湾、東チモールにおける難民・避難民や地震被災者等への人道支援のための緊急時の措置として、99年度予算(緊急無償援助)の範囲内で、被災地現地での我が国NGOのプロジェクトに対し、従来のNGO支援制度の上限額(NGO事業補助金1,500万円、草の根無償1,000万円)を超えてより大きな額の支援を迅速に行う措置をとった(計18件、約4億7,920万円)。本年度より、この措置を制度化し今後も継続して実施するため、緊急無償援助予算の内枠として「NGO緊急活動支援無償(5億円)」(注1)を計上している。
 さらに、NGOの組織強化など、その活動環境整備を図るべく、NGO活動に関する様々な相談に応じられるようNGOの組織造りや管理運営のノウハウ等に精通した専門家を全国各地のNGOに置く「相談員制度」や、NGOが抱える管理・運営等の諸問題を検討するための「研究会」の設置、更には実際にNGOの事業や運営に参加しNGOが抱える課題や問題点の改善につき調査・提言を行う「調査員制度」といった支援策が99年度より導入された。そのほか、本年度からは、NGO等によるプロジェクトの運営、技術指導などソフト事業と施設・機材供与の双方を含む案件を支援する「ソフト支援無償」(80億円)も導入された。
 NGOとの意見交換を通じた連携強化のために、従来より外務省をはじめ関係省庁機関とNGOとの間で幾つかの定期協議会が開催されているほか、外務省が人口・保健分野で活動するNGOとの間で行っている「GII(注2)に関するNGOとの懇談会」等特定の分野についての意見交換も継続的に行われている。その他、NGO支援策を広報するためNGO・地方自治体関係者の出席を得て行われる「民・官合同セミナー」等のセミナーも99年度は4回に亘り開催された。
 さらに、NGO等の民間の知見、ノウハウ、人材を活用するために様々な措置が講じられている。JICAがNGO等にプロジェクトの実施を一括委託する「開発パートナー事業」については、本年度より新たに小規模な事業の委託が可能となるようにした。また、途上国における保健・衛生改善、高齢者・障害者支援等の福祉向上事業を現地で活動するNGO等の協力を得て実施する「開発福祉支援事業」についても、99年度から「人間の安全保障」が新たに対象分野に追加される等拡充が図られている。
 なお、国民参加型援助を推進していく上では、姉妹都市関係などを通じて諸外国と人的交流を促進する地方自治体の活動も重要である。このような観点から、地方公共団体補助金制度等の従来からの支援策に加え、本年度には、地方自治体などが途上国のNGOや地方自治体に対し中古物資を寄贈することを支援する「リサイクル草の根無償」の拡充が図られている。

(注1) 「NGO緊急活動支援無償」については、武力紛争や自然災害の被災地の復旧・復興支援のうち緊急度の高いものも支援の対象に含まれる。
(注2) GIIについては、「2.重点課題(4)(ロ)人口・エイズ」参照

(4)他の援助国及び国際機関との協調

 開発援助に携わる他の援助主体との連携・協力は、我が国のNGO等国内の主体のみならず、他の援助国や国際開発機関をも視野に入れることが効果的な援助を実施する上で不可欠である。
 各援助国にはそれぞれ援助に対する歴史的な背景や考え方があり、各々の得意分野を活かしつつ相互に補完し合い援助の相乗効果を引き上げることが重要である。そうした努力の一環としてザンビアへは、米国と既に「日米コモン・アジェンダ」の枠組みの下で、保健・医療分野等において緊密に援助連携を実施しており、本年2月にバングラデシュ、6月にはカンボディアに日米合同プロジェクト形成調査団を派遣する等の実績を着実に積んでいる。また、主要な援助国との対話を定期的に実施しており、99年度は豪州、加、仏、英、米、北欧諸国と援助政策に関する定期協議を実施している。
 国際機関との協調に関しては、国際機関を通じたマルチの援助と我が国二国間援助の相互補完を図るべく、マルチ・バイの連携を促進している。例えば国連開発計画(UNDP)に我が国が拠出して設けた「人造り基金」を用いて、UNDPの経験や組織を活用しつつ日本あるいは日本人の貢献が認識されるような形で援助が行われるよう努めている。
 また、保健医療分野では、UNICEFと定期協議を行い連携強化に努めているほか、被援助国政府の実施体制が十分でない国に対しても人道的観点から支援を行う場合、子供の健康無償を活用しUNICEFを通じ援助を実施している。また、西太平洋地域でのポリオ根絶運動の進展を踏まえ、同地域での保健医療分野の協力を強化するため、本年2月にWHO西太平洋地域事務局との定期協議第一回会合が開催された。
 このほか、世界銀行をはじめとする国際開発金融機関との間では、我が国は、主要な出資国(我が国の世銀への出資額は第2位、アジア開発銀行(ADB)への出資額は第1位)として、定期協議の開催や職員派遣等人事交流を含め、各方面において積極的に交流を行っている。特に、ADB等これら国際開発金融機関とは、融資を協調して行うことも少なくなく、99年度は8件で計約1334.9億円の協調融資を行っている。
 国際社会では冷戦の崩壊後、援助への推進力(モチベーション)が減じ、世界的に援助資金が伸び悩んでいる中で、貧困削減に向け、如何に援助を効果的なものとするかについて具体的な方法論をめぐって議論が活発に行われている。こうした文脈において、「包括的開発のフレームワーク(CDF)」(注)や「貧困削減戦略ペーパー(PRSP)」の策定、セクター・プログラム・アプローチ等の新たな援助手法の試みは無視し得ない流れとなっている。
 ケルン・サミットで合意された拡大HIPCイニシアティブを踏まえ、99年9月世銀・IMF合同開発委員会は、同イニシアティブに基づく債務救済措置の適用の要件としてPRSPの策定を義務づけた。同ペーパーの策定は、他の国際開発協会(IDA、第二世銀)融資適格国及びIMFの貧困削減・成長ファシリティー(PRGF)においても必要とされており、現在これらの途上国では、PRSP及びその暫定版たる「暫定PRSP」(InterimPRSP)の策定作業が進められている。PRSPは債務救済と貧困削減及び社会開発との関連を明確にするものであるとともに、これら途上国の今後3年間にわたる開発計画の基本となるものである。
 そのほか、アフリカ地域を中心に幾つかの国においては、途上国のイニシアティブの下、各援助国および国際機関とも連携しつつ、保健・医療、教育等特に社会開発分野において、個々のセクター毎に中長期の開発計画(セクター・プログラム)を策定し、各援助国及び国際機関がそれぞれの援助をセクター・プログラムに沿って実施するという「セクター・プログラム・アプローチ」が実施されつつある。一部の援助国は、究極的には、各セクター別に援助国・国際機関の資金をプールし(コモン・ファンド)、そこから計画実施のための支出を行う等援助手続きの共通化も視野に入れたアプローチを目指している。
 我が国としては、日本の「顔の見える援助」の推進、納税者である国民に対する説明責任や途上国側に各援助国の多様な経験や援助の選択の余地を与える必要性に留意しつつ、これらの援助協調の試みに積極的に参加している。

(注) 「包括的開発フレームワーク」(CDF):持続可能かつ社会的平等を実現する開発のためには、マクロ経済面と構造的、社会的、人間的な側面のバランスのとれた発展を同時に達成する必要があるとの認識に基づき、多くの開発課題に包括的に取り組むことを目的とした開発アプローチ。世銀が99年1月に提唱し、現在13のパイロット国について議論が進められている。

(5)南南協力への支援

 開発が進んでいる途上国が、援助を受けながら一方でより開発の遅れている他の途上国の開発を支援する「南南協力」は、被援助国の発展段階により適合した技術の移転を可能にするメリットがある。また、結果として開発援助主体の裾野を広げる意義も有しており、わが国もこうした努力を積極的に支援している。
 特に、アジア・アフリカ間の南南協力は、98年のTICADIIで採択された「東京行動計画」においても強調されており、我が国が積極的な貢献を行うため、今後5年間で2,000名のアフリカの人材が南南協力の下で研修を行えるよう支援している。その一環として、99年より本格稼働を開始したアジア側の協力拠点たる「インドネシア南南技術協力センター」では、我が国が拠出したUNDP人造り基金を活用して、5年間で約1,000名程度のアフリカ諸国の研修生を受け入れることとなっている。また、JICAの第三国研修スキームを通じて既に約900名のアフリカの研修員を受け入れている。
 また、99年8月、マレイシアにおいて、アジア・アフリカ投資技術移転促進センター(通称ヒッパロス・センター)を設立し、インターネット・セミナー及び研修等を通じ、アジア諸国からアフリカへの投資と技術移転の促進に努めているほか、10月にはアジア・アフリカ間の直接投資と貿易の促進を図るため、「アフリカ・アジア・ビジネス・フォーラム」をマレイシアにて開催した。
 他の援助国・援助機関との援助協調による途上国支援(いわゆる「三角協力」)については、いくつかの新興援助国との間で、研修コース数、費用負担等に関する中期的な目標・計画を設定し、専門家の共同派遣などを含めた総合的な協力の枠組み(「パートナーシップ・プログラム」)を作成し、共同で技術協力を行うこととしている。これまで、シンガポール、タイ、エジプト、チュニジア、チリとの間で、こうした枠組みに基づいて他の途上国への援助協調を実施中である。


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