II.ODA中期政策の実施状況


 以下、昨年8月に公表された「ODA中期政策」に掲げられた項目に沿って実績を説明する。

1.重点課題

(1)貧困対策や社会開発分野への支援

 96年のDAC新開発戦略では、社会開発分野において、基礎教育、保健医療等を中心に貧困削減に向けた具体的開発目標を掲げており、また、95年の国連社会開発サミットでは先進国は開発援助の20%以上を、途上国は国家予算の20%以上を基礎的な社会分野に配分するという「20/20イニシアティブ」が申し合わされている(注)。我が国としても「人間中心の開発」を重視するとの観点から、貧困対策や社会開発分野への支援に積極的に取り組んでいる。

(注) 93年以降我が国二国間援助に占める基礎的社会開発分野への支援の割合は20%前後を占めている。また、我が国は、98年の第二回アフリカ開発会議(TICADII)の「東京行動計画」策定の際、同計画を踏まえ、社会開発分野において教育・保健医療・水供給分野で向こう5年間を目途に900億円程度の無償資金協力を行うことを表明するなど対アフリカ支援においても社会開発重視の姿勢を示している(この結果アフリカ地域において、約200万人の児童生徒に新たな教育施設が提供され、1.500万人以上の生活環境が改善されることが期待される)。

(イ)基礎教育

 貧困削減のために教育の果たす役割の重要性は、広く認識されつつある。
 1990年にタイ(ジョムチェン)で開催された「万人のための教育世界会議」では、2000年までにすべての人々が初等教育の機会を与えられ、また、非識字率を1990年の半分まで減らすことなどを目標として掲げている。本年4月にセネガルで開催された「世界教育フォーラム」では、万人の教育へのアクセス確保、教育における男女格差の解消など国際開発目標の達成に向けた方策をまとめた「ダカール行動枠組(DakarFrameworkforAction)」が採択された。
 我が国は、国連教育文化科学機関(UNESCO)、国連児童基金(UNICEF)などの国際機関とも連携を取りつつ就学率や識字率の向上に向けた取り組みを支援しているほか、無償資金協力や技術協力、青年海外協力隊員の派遣等を通じ教育関係施設建設、放送教育の拡充、教員の養成・再教育、理数科教育等への支援、並びに円借款を通じて教育関連施設拡充等を実施している。
 例えば、パレスチナ暫定自治区の「西岸地域小中学校建設計画」に対する無償資金協力により、西岸地域のヘブロン及びベツレヘム地区において二部制授業や借り上げ教室の減少、遠距離通学の是正及び男女生徒の平等確保が図られるが、これにより6,000人以上の就学生に適正な教育環境が提供され、パレスチナ暫定自治区の人的資源の開発に貢献することが期待されている。
 また、フィリピンの「貧困地域中等教育拡充計画」では、貧困26州における中等教育の質・量的改善を目的として、学校施設増改築、教育器材整備、教員訓練、教科書配布等を円借款で実施し、既に実施中の「貧困地域初等教育計画」と共に、基礎教育分野の拡充が教育行政、現場の双方で確立することが期待される。
 なお、99年度に決定した無償及び有償資金協力により13か国において120万人を超える小・中学生の教育環境が改善されることが期待される。また、我が国は99年に教育分野全体で12億ドル(二国間援助の8.7%)の支援を行っている。

(ロ)保健医療

 多くの途上国では、依然として基礎的な保健医療サービス及び衛生的な水の確保が不十分であり、そのための対策が不可欠である。特に、HIV/AIDS、結核、マラリアといった感染症・寄生虫症は、途上国の開発にとっての重大な阻害要因となっており、その対策は貧困削減の重要な課題の一つでもある。また、貧困や栄養不足等の影響を最も受けやすい子供への配慮も重要である(注1)
 我が国は、より多くの途上国の人々に平等かつ基礎的な保健医療サービスを提供するプライマリー・ヘルス・ケアの視点を重視し、医療施設整備・機材供与、人材育成、調査研究等を支援している(注2)。また、途上国の人々の健康を守る基礎として、上下水道整備、井戸掘削等による衛生的な水供給の面での支援を行っている。99年度には、19か国において合計約2,084万人が居住する地域に対し安全な水の供給のための協力を行っている(注3)
 我が国の水供給を含めた保健医療分野に対する99年の協力実績は、11.66億ドル(二国間援助の8.5%)であり、このうち無償資金協力及び技術協力を合わせた贈与による支援は6億ドル(保健医療分野の援助の51.4%、贈与全体の11.3%)であった。
 また、98年のバーミンガム・サミットにおいて橋本総理(当時)が提唱し、同年10月の第二回アフリカ開発会議(TICADII)においても取り上げられた、国際寄生虫対策のための「人造り」と「研究活動」推進センター(拠点)をアジアとアフリカに設置するとの構想については、その実現に向け準備が着実に進められている。そのうち、アジアにおける拠点はタイのマヒドン大学熱帯医学部とすることとなり、本年度から「国際寄生虫アジアセンター・プロジェクト」として人材育成を中心としたプロジェクト方式技術協力及び第三国研修が開始された。
 また、我が国としては、子供の健康への支援として、特にポリオ根絶への協力を積極的に推進してきている。これまで世界保健機関(WHO)やUNICEF等の国際機関及び他のドナーやNGOと連携しつつ、主に西太平洋地域を対象として、国際社会のポリオ根絶に向けた取り組みに積極的に参加してきた。その結果、西太平洋地域においてポリオ根絶はほぼ成功しており、本年中にはWHOによる同地域のポリオ根絶宣言が出される見通しとなっている。こうした成果を踏まえ(注4)、我が国はポリオ根絶の協力の重点を南西アジア地域やアフリカ地域へ移行しつつある。ポリオ根絶に向け、99年度は南西アジア及びアフリカ地域への支援を中心に無償資金協力を始めとして合計約38億円の協力を行っている。
 なお、保健医療分野では、我が国独自のイニシアティブとして、99年9月に、「人間の安全保障基金」を活用し、国連開発計画(UNDP)との共催で「セミパラチンスク支援東京国際会議」を開催した。同会議には24か国からの代表のほか、WHO、国際原子力機関(IAEA)等12の国際機関、被爆医療の専門家、内外のNGO等が参加し、旧ソ連時代の核実験場となったカザフスタンのセミパラチンスクの周辺住民の健康問題を様々な視点から取り上げ、支援の方向性について議論を行い国際社会による支援の動きを後押しした(注5)
 さらに、本年7月の九州・沖縄サミットにおいては、HIV/AIDS、結核、マラリア・寄生虫を中心とした感染症対策が、途上国の開発、特に貧困削減計画の中心課題の一つとして取りあげられ、明確な数値目標を掲げるとともに、先進国、途上国、国際機関、民間、NGOなど全ての関係者を含む「新たなパートナーシップ」の下での取り組み強化が合意された。また、我が国はこの機会に、「沖縄感染症対策イニシアティヴ」として今後5年間で30億ドルを目途とする協力を行う旨発表した。同イニシアティヴでは、(1)途上国における主体的取り組みの強化、(2)人材育成、(3)市民社会組織・他の援助国・国際機関との連携、(4)南南協力、(5)研究活動の促進、及び(6)地域レベルでの公衆衛生の推進・支援を基本的柱とし、各援助スキームによる感染症対策及びこれに関連する社会開発分野(初等教育、安全な水供給等)への取り組みを強化することとしている。

(注1) これまで、子供に対する感染症対策、微量栄養素供給、母子保健対策を対象として実施してきた「子どもの健康無償」(99年度実績67.4億円)を、2000年度からは「子どもの福祉無償」として拡充し、子供の健康のみならず、子供の福祉改善のための基礎教育、人口・エイズ、女性・家庭などの分野への支援も可能としている。
(注2) 例えば、グァテマラに対する「第三次国立病院医療機材整備計画(99年度E/N署名の無償資金協力案件)」により、98年時点で年間29万人程度であった受診可能患者数が50万人程度に増加することが期待されている。
(注3) ニカラグアは、ハリケーン・ミッチによりインフラに大きな被害を受けたが、マナグア市中部及び南部は、95年から97年にかけて我が国が無償資金協力により上水道施設の整備を行い、同地域の上水道普及率はほぼ100%に達していたことから、今回のハリケーンでも、飲料水に汚染は全く発生せず、疫病の蔓延防止にも役立ち、ニカラグア国内で非常に高い評価を受けている。
(注4) 93~99年までの我が国のポリオ・ワクチン供与により、推定で西太平洋地域の子供延べ約2億5,200万人がポリオの恐怖から救済されている。
(注5) 同会議において我が国は、唯一の被爆国としての経験を踏まえ、現地で最も必要とされる「医療・検診体制の基盤整備」を中心に、「医療を効果的・効率的に行うための基礎データ整備」、及びカザフスタンの行政能力向上に寄与する「行政ノウハウの移転」の三つを柱として打ち出し、二国間ODAによる医療分野での協力を行うことを表明した。また、地域経済振興のために、女性の自立支援、NGO支援、民間セクター支援の三分野についてUNDPを通じ2年間を目途に総額100万ドルの支援を行っていく旨表明した。
(ハ)途上国の女性支援(WID:WomeninDevelopment)/ジェンダー

 全世界で貧困状態におかれている13億人のうち約7割が女性であり、教育、健康、雇用面等で男性に比して脆弱な立場に置かれている。開発援助に当たり、途上国の女性の立場や視点に配慮し、男女格差の是正及び女性の地位向上を図ることは、貧困削減や開発促進の上で重要な課題である。
 我が国は、95年の北京女性会議において表明した「WIDイニシアティブ」に基づき、(1)教育、(2)健康、(3)経済・社会活動への参加という重点分野を中心に、女性が主たる受益対象者となる援助案件を積極的に実施している。また、その他、一般案件の形成・実施の段階でも女性の参加を引き出し、その受益に配慮するよう努めている(注)
 WID/ジェンダーは分野横断的な取り組みであり、その実施形態は、研修受け入れ、専門家派遣、青年海外協力隊、草の根無償資金協力等NGOの活動を通じた支援など、極めて幅広く、多様である。なお、99年度に草の根無償資金協力を活用した女性の職業訓練・女性の零細企業家支援は、52件に上る。

(注) こうした努力の一環として、国際協力事業団(JICA)調査団にWID配慮担当団員が参加しているほか、ODA案件評価においてWID配慮を調査する、WID/ジェンダー分野の国内専門家を育成するなど、WID/ジェンダー配慮への体制整備が図られている。

(2)経済・社会インフラへの支援

 貧困削減への取組を持続可能とするためには経済成長の達成が不可欠である。その意味で、途上国の持続的な成長の基盤となる運輸、通信、電力、河川・灌漑施設等や都市・農村の生活環境などの経済・社会インフラ整備は貧困対策や社会開発のために不可欠であり、またその成果が人々に広く享受されることが重要となる。
 我が国は、これまで円借款などを通じて、中国の鉄道電化総延長の38%、タイ・バンコクの高速道路の32%、マレイシアの全発電設備容量の24%、インドネシア・ジャカルタ市内の上水道供給の60%の整備に寄与するなど、アジアを中心とした途上国の経済・社会インフラ整備に重要な役割を果たしてきた。
 効率的な運輸インフラは、一国あるいは国境をまたぐ地域的な経済社会開発を促進し、地域間格差の是正や貧困緩和にも資する重要な役割を担っている。我が国は99年度において、運輸分野で29億ドル(二国間援助の21.1%)の支援を行っているが、この分野は道路、鉄道、空港、港湾等のインフラに見られるように大規模、かつ経済的便益が見込まれるものが多いことから、円借款の比重が高い(運輸分野全体の90%)。また、この分野では、運輸関連の工場設備、教育訓練施設等の建設に対する資金協力から、総合交通計画策定等に対する技術協力まで幅広い協力を実施している。
 情報通信は、情報の円滑な伝達・共有を通じ経済社会の活動全般の発展に資するものであり、通信・放送インフラは、教育、保健・衛生知識の普及、経済活動の活発化に資する等貧困削減や住民生活の向上、その他、緊急災害発生時等の住民の安全確保にも重要な役割を果たしている。例えば、「南太平洋大学通信体系改善計画」では、12の島嶼国が加盟する南太平洋大学において衛星を活用した遠隔教育の実施に向けた通信体系改善に取り組んでおり、我が国として豪州、ニュー・ジーランドとも協調し、フィジー、サモア等に対し無償資金協力を通じた支援を実施しており、今後同通信体系を活用しての人材育成を行っていくこととしている。この南太平洋大学の遠隔教育システムの活用は、本年4月に開催された「太平洋・島サミット」において我が国が発表した「宮崎イニシアティブ」の一つの柱である「持続可能な開発に対する協力」における「太平洋IT推進プロジェクト実施」の一環にもなっている。更に、98年12月に発表した「経済構造改革支援のための特別円借款」について、本年1月に対象国と対象分野を拡大したが、その際「物流の効率化」の分野において情報通信も対象として追加した。

(3)人材育成・知的支援

 人造り(人材育成)が国造り(経済・社会開発)の基本であることは、我が国自身の発展の経験に裏打ちされた信念であり、我が国援助の重要な柱となっている。グローバル化への適応を迫られる中で、途上国における人造りのニーズが多様化し、同時に知的支援等の援助需要が近年益々高まりつつある。この分野では、我が国の人的資源やノウハウを活用しつつソフト型の支援を含めた積極的な取り組みが行われている。

(イ)人材育成

 人材育成の支援は、途上国の開発を担う人造りに貢献するばかりでなく、「人」と「人」との交流を通じた相互理解の促進や、途上国の将来を担う各界指導層との人間関係の樹立を通じて二国間関係の増進に果たす役割も大きい。
 また、冷戦崩壊後、多くの旧社会主義国が民主化、市場経済化を進めており、そのために必要な体制造りを進める上で多様な分野の人材育成を必要としており、開発援助を通じた貢献の余地は大きい。
 技術協力を通じた人材育成は、行政、農林水産、鉱工業、エネルギー、保健・医療、運輸・通信のほか市場経済化、法整備支援、中小企業育成、職業能力開発といった幅広い分野で、専門家派遣、研修員受入を通じて行われている。特に、アジア経済危機に際しては、アジア諸国の金融部門の脆弱性、経済・開発政策の立案・実施に必要な人材の不足等の構造的な問題が指摘されたが、我が国はこれらの国々の金融セクター支援の拡充のために、99年度、7か国に対して合計87名の専門家を派遣している。
 また、円借款を通じた人材育成については、97年12月より、我が国への留学・研修、我が国よりの専門家派遣及びこれらのプログラム実施に必要な施設の整備に対して、金利0.75%、償還期間40年(据え置き期間10年を含む)という国際的に最も優遇された条件を適用し、積極的に支援している。99年度はマレーシアの「高等教育借款基本計画(II)」(約53億円)、タイの「国家計量基盤整備計画(I)」(約7億円)及びバングラデシュの「北部農村インフラ整備計画(I)」(約66億円)の一部にこの優遇された条件を適用している。
 また、我が国では、留学生等への援助、留学生宿舎の整備等、渡日前から帰国後まで体系的な留学生受入れのための施策を総合的に推進している。99年度には、137の国・地域より計8,774人の国費留学生を受け入れるとともに、私費留学生9,690人に対し学習奨励費(奨学金)を給付している。
 このほか、99年度からは「留学生支援無償」が新たなスキームとして導入された。これにより、市場経済への移行に対応すべく法整備、経済・経営等の分野で人材育成への需要を抱えている途上国に対して、政府による組織的・計画的な我が国への留学生派遣事業計画を支援することが可能となった。当面はアジアの体制移行国であるインドシナ諸国及び中央アジア諸国を中心に実施することとしており、初年度については、ラオス及びウズベキスタンより各々20名の留学生受入を支援している。
 また、99年11月には、東アジアにおける人的ネットワーク構築のための人材育成・人的交流を強化を目的とした包括的な計画である「東アジアの人材の育成と交流の強化のためのプラン」(いわゆる「小渕プラン」)が発表されている(下記「(5)アジア通貨・経済危機の克服等経済構造改革支援」を参照)。同プランでは、前述の金融セクター支援のほか、東アジア諸国の開発を担う人材に対して高度な開発教育を実施するため、市場経済化や貧困対策等の分野において、我が国の関係高等教育機関への長期の研修員受け入れを目的とする「長期研修プログラム」を策定し、99年度にはASEAN諸国より22名を受け入れた。また、市民レベルの人材交流の強化策として、シニア海外ボランティアを本年4月末現在ASEAN地域に82名を派遣している。

(ロ)知的支援

 市場経済移行国のみならず、途上国はグローバル化に伴う急速な変化に経済・社会体制を適応させる必要に迫られており、法整備等の制度的インフラ造りや、政策形成等への知的支援などソフト面での支援の重要性が益々高まっている。特に、重債務貧困国(HIPCs:HeavilyIndebtedPoorCountries)への債務救済の前提となる「貧困削減戦略ペーパー」(PovertyReductionStrategyPaper:PRSP)や、分野毎の計画(セクター・プログラム)が、今後の途上国の開発計画の重要な位置を占めることとなる動きも見られ、これらの策定作業への支援が著しく増大するものと考えられる。
 この分野では、法整備や経済諸改革等の政策立案形成を担当する途上国政府機関の中枢において我が国の学者等専門家が助言・指導を行う「重要政策中枢支援プログラム」が実施されている。99年度にはヴィエトナムでの市場経済化に適応した民法・商法等の整備への支援を実施しているほか、カンボディアに対する民法、民事訴訟法典整備のための支援も開始された。
 さらに、開発調査等の枠組みを活用して経済政策等の策定や制度的インフラ造りへの提言を行う政策支援型の協力も近年増加している。特に、ヴィエトナムに対する市場経済化支援計画策定調査(石川プロジェクト)は、同国の第6次5ヶ年計画にも提言の内容が反映されるなど先方政府からも高い評価を受けており、99年よりヴィエトナムの開発戦略及び経済改革プログラム策定に資する提言を目的とするフェーズ3を開始した。
 また、ヴィエトナム、ラオス、モンゴル等市場経済移行期にあるアジア諸国の若手人材をビジネス教育等を通じ育成するとともに、日本語教育等により我が国との相互理解を深め、人的絆を幅広く形成し、「我が国の顔」が見える人造りの拠点として「人材協力センター(日本センター)」建設に向けた支援を進めている。
 その他、中国に対しては、昨年7月の小渕総理(当時)訪中の際の提議を踏まえ、本年3月には我が国の国鉄民営化の経験を基に鉄道改革に関するセミナーを北京において開催した。

(ハ)民主化支援

 途上国における強固な民主主義の基盤は、統治(ガヴァナンス)と開発への国民の参画及び人権の擁護と促進につながり、中長期的な安定と開発の促進にとりきわめて重要な要素である。民主化については、成功例がある一方、民主化への意思があっても、その意思を受け止める制度自体の不備により、一時的に混乱を生み民主化が逆行する事態も存在している。こういった事態を招かないためには、移行期にある途上国の民主化プロセスを円滑かつ安定的なものとするため、制度造り、人造りへの支援等を通じ途上国の努力を側面から支えていく必要がある。我が国は、96年のリヨン・サミットに際し表明した「民主的発展のためのパートナーシップ(PDD:PartnershipforDemocraticDevelopment)ba24を踏まえ、ODA等を通じて選挙支援や法・司法制度整備支援、メディア支援、民主化を支える市民社会の基盤作りへの支援等を行っている。
 例えば、99年6月に実施されたインドネシア総選挙に対し、我が国は選挙監視団20名の派遣に加え、選挙等のJICAの専門家20名を派遣するなど人的貢献を行ったほか、NGOによる選挙監視活動や有権者教育支援等、選挙の公正かつ円滑な実施のために総額約3,445万ドルの緊急無償資金協力を実施している。また、南ア総選挙、タジキスタン下院総選挙、東チモール住民投票等に際しても要員派遣、資金援助等を通じ民主的かつ公正な選挙の実施を支援している。
 そのほか、99年度には国連アジア極東犯罪防止研修所等を通じた犯罪防止関連研修コースへの研修員受入や専門家の派遣、コソヴォにおける独立メディア育成への資金援助(1,450万ドル)(注)等も実施している。

(注) コソヴォ全土をカバーする放送局を設置し、民主化プロセスを加速化させるとともに、放送機材提供、番組ソフト提供等の面での支援を行うプロジェクトでUNDPが実施するもの。

(4)地球規模問題への取組

(イ)環境保全

 地球温暖化をはじめとする環境問題は、92年の国連環境開発会議以降、幾つかの新しい多国間環境条約が締結される等、その取り組みに進展は見られるが、世界的な意識の高まりと国内外の様々な取り組みにも拘わらず、決して好転しているという状況にはなく、特に途上国においては深刻な状況になっている。国際的にも21世紀に向け、開発戦略を持続可能なものへと転換するため、これまで各環境条約の締約国会合や国連持続可能な開発委員会(CSD)など数多くの国際的な会議の場で活発な議論が行われている。我が国としては、従来より途上国の環境対策への支援に力を入れており、97年6月の国連環境開発特別総会において発表した「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」の具体化に向けた取り組みを行っている。99年度の環境保全の分野における取り組み実績は、5,357億円(約束額ベース)に上った。
 また、97年12月の気候変動枠組条約第3回締約国会議(京都会議)において発表した「京都イニシアティブ」に基づいて、地球温暖化対策への取り組みを強化しており、99年度に温暖化対策に関連する分野のJICA研修等を受けた者の数は約1,700名、また、円借款特別環境金利による温暖化対策関連案件の99年度の実績は下記の「日中環境関連モデル都市構想」関連案件を始め、計12件2,130億円に上った。
 特に中国に対する環境協力については、97年9月の日中首脳会談で合意された「21世紀に向けた日中環境協力」が着実に進展している。そのうちの大気汚染対策を柱とする「日中環境開発モデル都市構想」(注1)に関しては、99年4月に出された日中双方の専門家からなる委員会の具体的提言を受け、99年11月にはプロジェクト形成調査団を派遣しソフト面での協力方針の検討を行った。また、本年3月の99年度円借款供与に際しては、専門家委員会からの円借款推薦案件の内、条件の整った8プロジェクトが供与対象となった。
 二つ目の柱である中国全土を対象とする「環境情報ネットワーク構想」(注2)に関しては、本年3月に、対象各都市の環境情報センターのネットワーク整備に必要な機材供与を決定した。
 また、日本側でも政府機関や地方自治体、NGO等様々な主体が協力を行っていることから、その情報を共有し、効果的な援助を目指すことを目的として、中国側関係機関・団体と定期的に「日中環境協力総合フォーラム」を開催しており、99年11月には中国・北京において第3回会合が開催された。同会合では、これまでの協力の成果をレビューするとともに、今後の環境協力のあり方につき、意見交換が行われ、日中環境協力の二本柱である「日中環境開発モデル都市構想」及び「環境情報ネットワーク構想」が双方の努力により具体化に向け進展していることを評価するとともに、世界的にも生物多様性が豊かな中国における生態系保全活動の重要性を改めて認識し、同分野での協力可能性について意見交換を続けていくことを確認した。
 そのほか、99年7月の小渕総理(当時)訪中時に、民間ベースの植林緑化協力を支援するための基金設立構想が提案され(いわゆる「小渕基金」)、その後同年11月、両国間の合意に基づき、政府間で「日中民間緑化協力委員会」が設置され、我が国に同委員会事務局である「日中緑化交流基金」を設置した。

(注1) 日中環境開発モデル都市構想:中国全土に広がる環境汚染に関し、3都市(重慶、貴陽、大連)をモデルとして、集中的に環境対策を実施し、その成功例を他都市へ普及する構想。具体的な取り進め方については、日中合同の専門家委員会より提言がなされており、政府は、提言の着実な実行に努めている。提言の中では、構想の基本方針、実施すべきプロジェクト・リスト、関係機関に対する要望等が示されており、大気汚染対策プロジェクトを優先的かつ集中的に実施すること等が述べられている。
(注2) 環境情報ネットワーク構想:中国全国の主要都市の環境情報の収集のため、コンピューターによるネットワークを構築することに対し支援するもの。

(ロ)人口・エイズ

 国連人口基金(UNFPA)は、世界人口が99年10月の時点で60億人に達し、今後の人口増加具合は今後10年の人類の選択と行動にかかっていると指摘している。また、国境を越えて広がりを見せるHIV/AIDSは、途上国住民の生命への脅威のみならず、途上国の開発そのものへの重大な阻害要因となっている。特に、HIV/AIDSについては、本年1月に国連安保理でアフリカのエイズ問題が取り上げられたほか、4月の世銀/IMF合同開発委員会コミュニケにおいても冒頭に取り上げられるなど、国際社会全体による取り組みを強化すべき緊急の課題であるとの認識が高まっている。
 我が国は、HIV/AIDSについては1994年に発表した「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」の枠組みの下で積極的な取組みを行ってきており、98年度までに約8,800万ドルの二国間協力を行っている。
 また、国際機関を通じた協力として、99年度には、人口・エイズ分野についてUNFPAに対し4,825万ドル、エイズ対策のためUNAIDSに対し544万ドルの拠出を行った。
 GIIの実施に際しては、リプロダクティブ・ヘルスの視点を踏まえ、この分野での包括的な取組みを行っており、2000年までの7年間で30億ドルを目途にODAを実施するとする当初目標を超える約37億ドルを98年度末までの5年間で達成した。また、協力の実施に当たっては、主要援助国、国際機関、NGOとの連携も重視している。特に、「日米コモン・アジェンダ」の下、米国との連携実績を積み重ねてきており、98年に派遣したザンビアへの日米合同プロジェクト形成調査団の結果として、99年3月、いわゆるハイリスクグループ(関係国であるザンビアの国境付近の長距離トラック運転手及び性産業従事者)を対象としたHIV予防・啓蒙活動への協力を日米共同で開始した。また、99年2月には、NGOの参加も得てバングラデシュへ日米合同プロジェクト形成調査団を派遣し、ポリオ根絶、予防接種拡大、リプロダクティブ・ヘルス、HIV/AIDS、微量栄養素の分野で日米が協力して案件を実施していくことで合意した。また、6月には同様の調査団をカンボディアに派遣した。
 なお、HIV/AIDSを含む感染症対策については、本年7月の九州・沖縄サミットの機会に、我が国として「沖縄感染症対策イニシアティヴ」を発表し、今後5年間で30億ドルを目途とする協力を行うこととしている(詳細については、上述の「(1)貧困対策や社会開発分野への支援(ロ)保健医療」を参照。)。

(ハ)食料

 世界的な食料需要は、今後も引き続き大幅な増加が見込まれる一方、世界の食料生産の伸びは、様々な制約要因により低下する傾向が見られる。96年11月の「世界食料サミット」においては「世界食料安全保障のためのローマ宣言」が採択され、世界の食料安全保障の達成と2015年までに栄養不足人口を半減することを目指して全ての国で飢餓撲滅の努力を継続することが謳われたほか、98年10月のTICADIIにおける「東京行動計画」では、優先的政策議題の一つとして農業開発が取り上げられ、優先的政策議題の一つとして農業分野が取りあげられるなど、世界の食料・農業問題は重要な課題と認識されている。
 こうした状況を踏まえ、我が国は、99年に農業分野において二国間援助の4.6%を占める6.37億ドルの支援を、また、水産分野においては0.6%を占める0.79億ドルの支援を行った。その内容としては、食糧増産援助(肥料、農業機材等の供与)のほか、灌漑施設整備、漁港の整備、流通システム改善等に関する無償資金協力や研修員受入、専門家派遣、プロジェクト方式技術協力、青年海外協力隊等を活用した農業技術の研究、普及に関する支援、円借款による支援(99年度は、例えばバングラデシュの「北部農村インフラ整備事業」へ約66億円の支援を決定した)等の協力があげられる。

(ニ)エネルギー

 エネルギーの安定的供給確保は、地球環境問題への対応や、持続可能な開発の達成とも密接に関連する地球規模の政策課題である。我が国としては、途上国におけるエネルギー供給体制整備の支援に際しては、持続可能な開発の観点から、エネルギー効率の向上、環境保全に留意しつつ、主に発電所の建設、拡張、送電線拡張を中心とした案件を実施しており、99年は、12.5億ドル(二国間援助の9.1%)の支援を行った。
 エネルギー分野の協力は、比較的規模が大きく、ある程度の収益性も見込まれることから、円借款を中心に実施している。例えば、特別円借款を通じて実施するマレイシア「ポートディクソン火力発電所リハビリ計画(II)」においては、環境負荷の高い老朽化した発電設備を転換してエネルギー効率を向上させることにより、経済的・安定的な電力供給の実現を目指している。
 また、民生向上、貧困対策の観点からも、安定的なエネルギー供給が重要である。例えば、ホンジュラスで実施している電力供給計画では、政府及び地方行政のサービスが行き届かない未電化地域に対して配電設備の整備支援を行っている。これは主に草の根無償資金協力で実施されており、大きな成果をあげている。
 なお、本年度から一般プロジェクト無償資金協力の一環として「クリーン・エネルギー無償」を新設した。この制度は二酸化炭素排出の削減、抑制に資する再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電、小水力発電など)に関わるプロジェクトや火力発電所の改修などへの協力を行うものであり、発電・送電システムの高効率化、未電化地区の電化にも効果をもたらすことが期待される。
 技術協力としては、省エネルギー、環境対策等の技術移転や専門的な人材育成、エネルギー利用に関するマスタープラン作成等の支援を行っている。

(ホ)薬物

 薬物問題は国境を越えて我が国にも影響を与える問題であり、その対策は、先進国及び途上国双方が自らの問題として取り組み、関係国際機関を含めた国際的な協力の下に対策を進めていくことが不可欠である。
 この分野では、薬物関連の犯罪防止や取り締まり能力強化のための研修員受入、第三国研修、個別専門家派遣等の技術協力に加え、薬物問題の背景にある貧困緩和のため、食糧増産援助等による代替作物栽培への支援、草の根無償資金協力等による薬物中毒患者のリハビリや職業訓練への支援、薬物乱用防止のための啓蒙活動推進への支援などを進めてきた。
 本年1月には東京で国連薬物統制計画(UNDCP)等の協力のもと「2000年薬物対策東京会合」が開催され、我が国に流入する覚せい剤の大部分の生産・経由地と考えられているアジア・太平洋地域を中心とした37の国・地域の薬物対策機関より、約130名が出席し、薬物関係機関の国際協力の推進を謳ったコミュニケが採択された。同会合は我が国の薬物に対する積極的な姿勢を国際社会に示す機会となった。
 我が国のODAを活用した薬物対策関連事業の99年度実績額は約11.4億円(約1,000万ドル)であり、このうちUNDCPへの拠出金は375.4万ドルであった。

(5)アジア通貨・経済危機の克服等経済構造改革支援

 97年夏にタイに端を発したアジア通貨・経済危機により、翌98年には多くのアジア諸国・地域で景気が大きく後退したが、同危機の発生から3年近くが経過した現在、アジア経済には回復の動きが広がってきている。アジア経済が危機から回復へと転じるにあたっては、各国の改革努力とともに我が国を中心とする国際社会の支援が重要な役割を果たした。
 我が国はアジア通貨・経済危機発生直後より、経済構造改革支援、社会的弱者支援、人材育成・留学生支援を柱としつつアジア諸国を積極的に支援してきた。具体的には、98年10月に表明された「新宮澤構想」(注1)をはじめ、「経済構造改革支援のための特別円借款」(特別円借款)(注2)など、現在その着実な実施に努めている。このような国際社会からの支援もあり、東南アジア諸国の経済成長(GDP成長)率は98年に-7.5%だったが、99年は3.2%、2000年には4.6%となるとの予測がなされている(注3)
 しかしながら、アジア通貨・経済危機を通じて、その必要性が明らかとなった、途上国におけるグローバル化への対応能力の強化に向けた金融部門をはじめとする構造改革の推進、中長期的な成長を支える中小企業分野を含めた人材育成、そして社会的安全網の整備等の社会的弱者支援は、引き続き開発分野での課題として取り組んでいくことが求められている。
 このような観点から、99年夏に我が国のそれまでのアジア支援策を検証し、危機の教訓を踏まえ今後の課題を検討すべく民間有識者から構成される「アジア経済再生ミッション(団長:奥田経団連会長)」を派遣した。同年11月のASEAN+日中韓首脳会議の際にはその成果を踏まえ「東アジアの人材育成と交流の強化のためのプラン」(小渕プラン)を表明し、(1)金融分野と高等教育分野における専門性の高い人材育成の拡充、(2)市民レベルの人材交流の強化、(3)将来の日本とアジア諸国との関係への投資及び我が国の国際知的貢献としての留学生交流への支援強化、を柱として「ヒト」を重視した協力を実施していくこととしており、現在その具体化を着実に進めている。

(注1) 「新宮澤構想」:実態経済回復のための中長期の資金支援として円借款・輸銀融資等150億ドル及び経済改革過程での短期資金需要への備えとして150億ドルからなる。
(注2) 「経済構造改革支援のための特別円借款」:98年末、経済危機に直面したアジア諸国等を支援すべく、景気刺激効果及び雇用促進効果が高い事業の推進や、経済構造改革を進める上で必要となるインフラ整備等への支援のため策定された制度。99年度から3年間で6,000億円を上限として供与される(現在、金利0.95%、償還期間40年(うち措置期間10年)の優遇条件を適用)。なお、本年1月には、昨年11月に発表された「経済新生対策」を踏まえ、特別円借款の対象国・対象分野の拡大が行われた。この結果、アジア危機の影響を直接又は間接に受けたアジア諸国を中心とする途上国に対する支援が可能になったほか、従来対象としてきた物流の効率化、生産基盤強化、大規模災害対策の三分野に該当する具体的な対象案件を拡大した。99年度ではヴィエトナム、マレイシア、フィリピンの3か国を対象にした9案件に対し総額約1,493億円の供与が決定されている。
(注3) アジア開発銀行「2000年アジア開発の展望」より。

(6)紛争・災害と開発

 地域紛争や自然災害は、途上国住民の生活に直接的な脅威を与えており、開発援助を通じてこれらの課題に取り組むことは「人間の安全保障」の観点からも重要である。また、緊急人道支援の展開や国際緊急援助隊の迅速な派遣は、我が国の「顔の見える援助」を推進する上で重要である。

(イ)紛争と開発

 冷戦崩壊後、内戦や地域紛争が多発する中、紛争は重要な開発援助課題の一つとなっている。紛争の背景には、貧困や統治(ガヴァナンス)といった側面もあり、ODAを通じこれらの要因を緩和し改善することが紛争の発生を未然に防ぐことに繋がる。また、紛争発生に伴う緊急人道支援、周辺国への支援、紛争後の速やかな復旧・復興、対人地雷の除去などをODA事業の一環として実施している。99年には、コソヴォ紛争、東チモール独立に伴う紛争などに関し、我が国はこれらへの対応に積極的に取り組んできた。また、カンボディアを始めとする地雷埋設国において、紛争後の対人地雷除去への取組を積極的に支援している。
 コソヴォ紛争に関して、我が国は、99年3~4月、同紛争が激化し周辺国へ多数の難民が流出した際のコソヴォ難民等に対する緊急人道支援や、難民を受け入れた周辺国に対する支援、その後の難民帰還支援、復旧・復興支援など、これまで総額約2億3,700万ドルの支援を表明し、その実施に努めている。4月の紛争激化の際は、緊急人道支援として、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を始めとする関係国際機関を通じた食料、保健・医療サービスの供給等約4,000万ドルの支援が行われた。また、多数のコソヴォ難民を受け入れた周辺国(アルバニア、マケドニア)に対して2年間で6,000万ドルの支援を表明し、99年度中には、即効性のある国際収支支援を中心として約3,000万ドル(約25億5,000万円)の無償資金協力を実施した。その後、99年6月の停戦と空爆停止により、難民の帰還が開始したことを踏まえ、関係国際機関を通じて、仮設住宅の供与を始めとする帰還難民や被災民等に対する約3,700万ドル相当の人道支援、さらに我が国のイニシアティブで国連事務局内に設置された「人間の安全保障基金」及び関係国際機関等を通じて、住宅再建及び修復、学校再建等難民の帰還・再定住、並びに包括的なコミュニティーの復旧・復興のため、約1億ドルにのぼる支援等を行っている。なお、従来のNGO支援制度(NGO事業補助金、草の根無償等)とは別に、緊急時の措置として99年度予算(緊急無償援助)の範囲内で行われた資金支援(6団体、10事業、計約3億5,150万円)を通じて、我が国NGOによる住宅修復、病院・学校修復等の事業も実施されている(我が国NGOに対する緊急無償資金協力については「3.援助手法(3)NGO等への支援及び連携」参照。)。
 東チモールにおいては、99年8月直接投票においてインドネシアからの分離・独立が選択されたが、これと前後して投票結果に不満を持つ勢力による活動のため、現地の状況は混乱した。現在、国連東チモール暫定行政機構(UNTAET)の下、復興・開発に取り組んでいるが、東チモールの人々は、基礎的インフラの破壊等により引き続き厳しい生活環境におかれており、雇用、人材育成、インフラ復旧、産業育成など国造りに向けての課題が山積している。我が国は、紛争発生後、避難を余儀なくされた人々に対し約3,000万ドルの緊急人道支援を実施したのに続き、99年12月東京において、世界銀行及びUNTAETを共同議長として開催された「東チモール支援国会合」において、今後3年間で約1億ドルの支援を表明した。その後、本年1月に東チモール経済協力調査団を派遣したのを受けて、緊急復興計画の策定や道路等の緊急リハビリ事業を行う開発調査を開始したのに続き、3月下旬にも緊急の支援プロジェクトを選定するための調査団を派遣した結果、(1)人材育成、(2)インフラ復旧・整備、(3)BHN(保健医療、初等教育等)、(4)地域社会の再生を重点分野として検討していくこととなった。また、既に緊急援助として医薬品・耕耘機を供与した。
 東チモールにおいては、我が国NGOも避難民等に対する医療、食糧増産等の緊急人道支援活動を実施している。政府としても、こうしたNGOの活動を支援するため、本年3月に緊急無償資金をNGO5団体に供与したほか、我が国及び国際NGOと協力して4件の開発福祉支援事業(注)を実施している。
 なお、他のドナー国、NGOとの経験の交流をはじめとする連携強化の一環として、99年9月には、日加両国の主催により、両国のNGO及び学識経験者も参加して、シンポジウム「開発と平和構築」を開催し、平和と開発への取組における開発援助の役割や課題、NGOを始めとする様々なアクターの役割に関して意見交換を行うとともに、両国官民間のネットワーク造りを行っていくこととなった。
 また、紛争終結後も多くの一般市民を死傷させ、復興・開発に大きな障害となる対人地雷は人道的にも看過できない問題となっている。我が国は、対人地雷除去活動及び犠牲者支援のため、97年12月に「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱し、同分野において98年より5年間を目途に100億円程度の支援を行う旨表明している。
 この分野では、国際機関を通じた地雷除去・犠牲者支援活動への支援に加え、99年度においては、カンボディア、ボスニア・ヘルツェゴビナなどで二国間援助を通じ地雷除去関連機材の供与、犠牲者支援、専門家の派遣などを実施している。また、草の根無償資金協力やNGO事業補助金を活用してNGOを通じた対人地雷対策も積極的に支援している。
 さらに、本年7月の九州・沖縄サミット外相会合においては、紛争予防における開発の役割が取り上げられ、我が国として、開発分野における紛争予防の強化のための協力として、紛争の要因である貧困や経済格差の解消に向けた支援や、紛争時の緊急人道支援、紛争後の復興支援など、紛争の各段階における援助の強化や紛争予防活動の重要な主体であるNGOとの連携・支援の一層の重視等を内容とする「アクション・フロム・ジャパン」を打ち出した。

(注) 開発福祉支援事業:開発途上国における福祉向上活動を推進するため、現地で活動を展開しているNGOや地域組織の協力を得て、保健衛生改善、女性自立支援、高齢者・障害者・児童等支援等の分野において住民参加による福祉向上のモデル事業を実施するもの。

(ロ)防災・災害復興

 「国際防災の10年(IDNDR)」の最終年にあたる99年、世界各国で多くの自然災害が発生した。昨年は、8月、11月にトルコで地震(死者約17,000人以上)、9月には台湾で地震(死者約2,000人)が発生、11月にはヴィエトナム中部で洪水(死者約500人)、12月にはヴェネズエラで集中豪雨による土砂崩れ等による被害(死者推定約5万人)、また、今年に入り、2月から3月にかけマダガスカルでサイクロンによる被害(直接の死者約130人、衛生状態の悪化に伴うコレラによる死者1,300人以上)、モザンビークで洪水(死者約1,000人規模)が発生した。
 こうした中、99年度中に我が国が実施した緊急援助は、国際緊急援助隊の派遣が10チーム(計256名)、毛布、テントをはじめとする必要な緊急物資の供与が合計22件(総額約4億9,800万円)、緊急無償資金の供与が合計15件(総額約10億3,100万円)となった。
 99年8月にトルコ北西部で発生した地震の際には、我が国は救助チーム(39名)、2次に亘る医療チーム(合計31名)、耐震診断等の専門家チーム(合計35名)を派遣するなど、積極的な緊急支援を行った。このうち、救助チームは震災発生後41時間で被災地に到着するという迅速な対応を行い、生存者の救出(1名)に成功した。このほか、236億円に及ぶ緊急震災復興対策のための円借款を供与する一方、阪神・淡路大震災の際に使用されていた仮設住宅約1,900戸をトルコ政府に提供、そのうち500戸は、自衛隊艦船3隻がイスタンブールまで海上輸送し、我が国が派遣した仮設住宅建設指導専門家チーム(13名)により、現地の技術者に建設指導を行った。500戸が完成した2月には、トルコ政府は日本への感謝の意を込めて「日本・トルコ村」と命名した。なお、「日本・トルコ村」の仮設住宅の建設、補修に関し、我が国は技術指導者を派遣し、開村後のフォローアップを行っている。
 また、台湾中部で発生した地震においては、我が国は直ちに救助チーム(合計110名)を派遣し、地震発生後20時間で現地入りするなど迅速に対応したほか、医療チーム(13名)、建造物の耐震診断等の専門家チーム(15名)を派遣、余震が続く中、緊急援助活動を行った。
 本年2月に発生したモザンビークにおける洪水災害においても、我が国は19名の医療チームを派遣した。同チームは、日々悪路の中2時間もの移動を要する被災地で9日間の活動を行い、活動期間中、総計2,611名の患者に対し診察・処置を行った。
 こうした災害において、99年度、我が国の医療チームが診察・処置を行った患者数は総計6,655名に上った。医療チームは、外傷患者などに対する外科治療のみならず、内科や小児科、精神的ケアを行うための精神科分野などでも幅広い活動を行った。
 このほか、我が国NGOも積極的に援助活動に参加しており、トルコ、台湾の地震の際には政府としてこれらNGOの緊急人道支援事業を支援すべく合計約8,390万円の緊急無償資金を供与した。

(7)債務問題への取組

 アフリカ諸国を中心とする重債務貧困国の問題は、人道的にも、また、国際社会の安定の確保の観点からも看過し得ない重要な問題である。
 我が国としては、99年6月のケルン・サミットで合意された重債務貧困国(HIPCs)に対する債務救済イニシアティブ(拡大HIPCイニシアティブ(注1))の迅速かつ効果的な実施が急務であると考えており(注2)、九州・沖縄サミットの議長国として最大限の努力を払ってきている。この関連で、本年4月には、(1)国際的な枠組みの下での非ODA債権削減率の90%から100%までの拡大、(2)世界銀行の多国間債務救済信託基金に対する、既拠出分と合わせ合計2億ドルまでの拠出、(3)無償資金協力の拡充を含む重債務貧困国に対する様々な方策による支援の継続、といった追加的措置を発表した。また、こうした努力と併せて、他の関係国・国際機関に対しても各々の取り組みの強化を強く求めている。
 我が国は、債務削減により利用可能となった資金が貧困対策や、教育、保健・医療などに有効に活用されるよう促すとともに、これらの国の債務管理能力や経済運営能力の向上を図るための技術協力を積極的に行うなど(注3)、途上国の開発問題全体を視野に入れた取り組みを進めている。

(注1) 96年9月の世銀・IMF合同開発委員会において、重債務貧困国の債務を持続可能なレベルまで引き下げることを目的とした、国際金融機関を含む全ての債権者による包括的な債務救済措置である「HIPCイニシアティブ」が決定された。 ケルン・サミットにおいては、同イニシアティブを拡充し、ODA債権の削減率の100%への引き上げを含む「より早く、深く、広範な」救済を行うこと(「拡大HIPCイニシアティブ」)につき合意された。
(注2) 本年7月時点では、ボリヴィア、モーリタニア、ウガンダ、タンザニア、モザンビーク、セネガル、ホンデュラス、ブルキナ・ファソ、ベナンの9か国が同イニシアティブ適用の要否を決める「決定時点」に到達し、イニシアティブの適用が承認されている。
(注3) アフリカの債務問題の持続的な解決を図るためには、アフリカ諸国の経済・財政・金融政策の立案と遂行能力といった債務管理能力の強化のための人材育成が重要との観点から、98年10月に開催された第2回アフリカ開発会議(TICADII)フォローアップの一環として一連の「債務管理セミナー」を世銀・IMF共催のもと開催してきた。昨年8月ケニアでアフリカ主要国の首脳、蔵相及び中央銀行総裁等の参加を得て開催した他、昨年11月シンガポール、本年4月チュニジアにおいて実務者レベルでの参加を得、セミナーを開催した。

(8)その他

 「ODA中期政策」公表後の動きとして、IT(情報通信技術)と開発との関係が急速に注目されている。
 即ち、近年、IT(情報通信技術)革命と呼ばれる情報通信技術の革新が加速化する一方で、人口100人当たりの電話普及率が1台にも満たない途上国が40か国あまり存在するなど、先進国と途上国間のデジタルディヴァイド(情報通信格差)はますます拡大しつつある。また、通信事業の民営化により、事業採算性が重視される結果、途上国内の都市部と地方部との格差を一層拡大させることも懸念されており、これらへの対応が新たな課題となっている。
 途上国が21世紀においてグローバル化の利益を十分享受していくためには、高度に情報化された世界経済に積極的に参画していくことが極めて重要であるとの観点から、小渕総理(当時)は、本年2月タイで開催された国連貿易開発会議(UNCTAD)第10回総会において、「二国間協力及び多国間協力を通じ途上国の高度情報通信社会の発達のため資金的支援並びに人材育成のための協力を行う。」旨表明している。
 さらに、7月の九州・沖縄サミットにおいても、国際的な情報格差への取り組み強化の問題が強調された。これに先がけて、我が国は「国際的な情報格差問題に対する我が国の包括的協力策」を打ち出した。同協力策では今後5年間で150億ドル程度を目途に非ODA及びODAの公的資金を通じて協力を行っていくものであり、(1)「ITはチャンス」であるとの認識の向上と政策・制度造りへの知的貢献、(2)IT関連の研修、人材育成等を通じた人造り支援、(3)情報通信基盤の整備・ネットワーク化支援、(4)援助における遠隔教育等の面でのIT利用の促進をその柱としている。


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