II.ODA中期政策の実施状況


4.実施・運用上の留意点

(1)途上国毎の状況把握と国別援助計画の策定

 ODAの効果を高めるためには、途上国毎の開発課題を把握し、各国の状況を十分に踏まえた上で援助を行うことが重要である。この観点から、現行の「国別援助方針」を更に具体化した「国別援助計画」を順次策定している。
 この「国別援助計画」は、ODA大綱及び中期政策の下に位置付けられ、主要被援助国について5年程度を念頭に具体的な援助の意義、目的、重点課題・分野、援助手法などを示すものであり、各援助形態を一体的にとらえ、他の援助国・国際機関、民間セクターやNGOとの連携を視野に入れたものとしている。策定に当たっては、政府部内での議論のみならず、NGO、経済界、学界等の国内各界や途上国政府や市民社会との意見交換を重視している。
 国別援助計画の策定により、我が国の援助計画が内外に広く発信されることとなり、これは我が国の援助政策の透明性の向上にも資するものである。同計画については、バングラデシュ、タイ、ヴィエトナム、エジプト、ガーナ、タンザニア、フィリピン、ペルー、ケニアの9か国につき公表されているほか、今後も策定次第順次公表していく。
 なお、本年1月には国別アプローチの強化や事業実施の効率化を図るべく国際協力事業団(JICA)の機構改革も行われている。

(注) 「国別援助計画」については外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/enjyo.html)を参照。

(2)事前調査、環境配慮、実施段階でのモニタリング及び事後評価

 優良案件の発掘、形成、選定のために事前調査を行い、また、環境および地域社会に与える影響について事前に厳しく審査することが不可欠である。また、厳しい経済・財政事情の下、より一層効率的・効果的な援助を実現するため、案件の評価の重要性が高まっている。
 事前調査に関しては、本年度より、JICA実施のプロジェクト方式技術協力、無償資金協力について、事前の調査段階で期待される効果を定量的に表すための成果指標の導入を段階的に進めているところである。また、JBICにおいても案件形成促進調査(SAPROF)を活用することにより円借款候補案件の事前調査を効果的に実施している。
 環境配慮については、JICA、JBICにおいて、それぞれ環境配慮のためのガイドラインに従って行われているほか、JBICにあっては、国際金融等業務と海外経済協力業務について、それぞれの目的の相違を踏まえつつ、統合したガイドラインを作成すべく、検討及び作業を行っている。
 実施段階でのモニタリングに関しては、JICA、JBICにおいては、事業目的の達成並びに円滑な実施の確保等を図るために事業の進捗状況や問題点等について相手国側と協議し、必要に応じ助言を行っている。また、JBICでは、追加的・補完的な調査や措置が必要と認められた事業について、案件実施支援調査(SAPI)を実施している。
 評価体制全般のあり方については、外務大臣の諮問機関である「21世紀に向けてのODA改革懇談会」が98年に提出した最終報告書において「評価システム確立」の重要性が指摘されたことを踏まえ、98年11月外務省経済協力局長の諮問機関である「援助評価検討部会」の下に「評価研究作業委員会」が設置された。同委員会はODA評価の目的、対象、体系、体制、人材、時期、手法、フィードバック、情報公開・広報の諸点につき体系的かつ包括的な議論を行い、本年3月、ODA評価体制の具体的改革案を提示する最終報告書を外務大臣に提出した。
 同最終報告書においては、(1)従来のプロジェクトレベルでの評価のみならず、政策、プログラムレベルの評価の実施のほか、(2)より具体的かつ集中的に評価研究を行うための「ODA評価研究会」(仮称)の設置、(3)事前・中間・事後の一貫した評価プロセスの確立、(4)在外公館、JICA、JBICの在外事務所の評価機能の強化・活用等が提言されている。
 上記最終報告書の提言を踏まえて、現在、政策レベル及びプログラムレベルでの評価システム導入のための調査研究、第三者評価の拡充、プロジェクト・サイクルの事前から事後までの一貫した評価プロセス導入のための準備を進めており、ODA評価研究会については本年7月に設置された。
 そのほか、関係省庁においても、各省庁の有する評価に関する知見・ノウハウを活用し、援助実施機関と連携してODA評価の拡充に取り組んでいる。また、本年1月からは、評価の分野で外務省及びJICA、JBICの連携強化のため、評価関係者の定期会合が再開され、援助実施機関レベルにおいても評価の拡充に向けた取組が行われている。JICAでは、99年より評価の客観性を高めるため「外部機関による評価」制度を新規に導入した。また、JBICにおいても、事後評価件数の拡大や第三者評価制度の充実等に努めている。今後とも、関係省庁間等における連携の推進が重要である。
 評価結果の情報公開については、外務省、JICA、JBICではそれぞれのホームページで従来の評価報告書を掲載しているが、迅速な情報公開を行うために本年7月より個別プロジェクトの評価結果の速やかな公開を開始している。また、JICAでは、2000年度から、事業評価報告書の英文版も作成し、ホームページに掲載する予定である。
 なお、援助案件のフォローアップについては、JICAでは、プロジェクト実施地域住民への裨益の視点から案件の実施中や終了後の協力効果をモニタリングする「現地NGO等による草の根モニタリング」制度を本年度より新たに導入したところである。なお、JBICにおいても、従来より、援助促進調査(SAPS)等を実施している。
 政府としては、ODA事業の適正かつ効果的な実施を確保するための取組みに努めており、本年4月には、本分野での措置の一環として、ODA事業においてコンサルタント企業や施工業者、調達業者が不正行為(贈賄、談合、独占禁止法違反等の法令違反や虚偽の報告等)を行った事実が確認された場合には、当該企業は一定期間、有償資金協力事業、無償資金協力事業の契約者としては不適格とされ、それらの事業の入札、契約から排除されることとする方針(注)を決定した。

(注) 同方針を実施するため、有償資金協力事業については、JBICが円借款事業の調達ガイドラインの改訂を行った。また、無償資金協力事業についても、各被援助国政府より必要な了解を取り付けるべく準備を進めている。また、契約から排除される期間等措置の具体的詳細は、有償資金協力についてはJBICが、無償資金協力については外務省が、各々別途策定する措置要領において定めることとなる。

(3)開発人材の育成

 効率的な援助の実施には、開発に携わる優れた人材の確保と活用が重要である。このため、国内での人材育成を更に拡充するとともに、他の援助国との人的交流、国際機関への人の派遣や調査への相互参加などの強化が重要である。
 高度な知見や技術を有する専門家を十分に確保するためには、政府部内の関係機関や地方自治体の協力に加え、広く民間より公募することも重要な手段となる。そのため97年度よりJICA専門家の一般公募制度が導入され、99年度には2回にわたり20分野で募集が行われた。
 また、教育・研究機関と援助機関との交流・連携強化の観点から、将来の援助人材として有望な大学院生に対し、JICA在外事務所を中心に実習の機会を提供するJICAインターン制度が98年度より開始されているほか、99年度からはJICA実施の調査研究を若手研究員(博士課程修了者)及び客員研究員(大学教授レベル)に委嘱する試みもなされている。
 さらに、援助の一翼を担う開発コンサルタントの果たす役割の重要性への認識が近年強まっており、JICAにおける調達制度の改善等を通じてその育成・強化が図られているところである。

(4)国民の理解と参加の促進

 ODAに対する国民の幅広い理解と支持を得るためには、広報や開発教育の推進とともに、国民の幅広い層の参加・協力を得てODA事業を実施する必要がある。その際、民間企業、地方自治体、NGO、労使団体などとの連携が重要である。
 我が国国民の国際協力へのボランティア参加の代表例である青年海外協力隊(JOCV)については、99年度末の時点で60か国に対し2,498名が派遣されている。さらに、様々な年齢層のODA事業参加の機会を拡大する方途として、90年度に導入されたシニア海外ボランティアについては(対象年齢はJOCVが20~39歳であるのに対し、40~69歳となっている)、新規派遣人数を99年度の100名から本年度には400名に拡充することとなっている。
 また、国内における開発教育については、義務教育用のODA開発教育教材を作成してきており、99年度には小学校を対象にビデオおよび副読本の作成・配布を実施している。さらに、海外における我が国援助の広報努力の一環として、99年度より我が国ODAにより供与された資機材に「日章旗ステッカー」の貼付を図る等、被援助国側の国民にも目に見える形で我が国の貢献への認識と理解を深めてもらえるよう努めている。

(5)情報公開の推進

 ODA事業を継続する上で、国民からの理解と支持は不可欠であり、政府としてもODAに関する情報の公開に積極的に取り組んでいる。
 ODA事業の透明性を高める措置の一環として、円借款案件のより効果的・効率的な発掘・形成・採択に資するため、本年4月、ヴィエトナムとの間で99年度から2001年度までの3年間に円借款を供与する可能性のある案件リスト(「ロング・リスト(注1)」)を確定・公表した。
 円借款候補案件リストの公表により援助の中・長期的な展望を具体的に明らかにすることは、援助の透明性を高めるとともに、一貫性のある援助の実施、各種援助形態(技術協力・開発調査等)間の連携、他の援助国、国際機関や民間分野との連携を促進する効果が期待される。このロング・リスト方式については、その他の主要な円借款供与国についても順次導入を検討していく予定である。
 更に、ODA案件の入札に関する情報についても、これまで開示措置を講じてきているが、99年4月以降の案件につき、無償資金協力については、被援助国の了解を得た上で応札額、契約額を、有償資金協力については、応札額、応札企業名を、技術協力については、応札額を新たに開示することとした。
 また、ODAへの国民の理解を増進するためには、国民が直接我が国援助の現場に触れる機会を提供することが望ましい。99年度より導入された「ODA民間モニター」制度は、国民一般から公募で選出されたモニターを途上国に派遣し、ODA案件を現場で視察する機会を提供する試みである。
 99年度は全国各都道府県より1名を選出し、地域別に組織された6チーム計47名がフィリピン、ラオス、バングラデシュ、ヴィエトナム、中国、タイにそれぞれ約1週間ずつ派遣された。帰国後、各民間モニターにより報告書が作成されており、同報告書は広く公開され、今後のODA事業にも役立てられることになる。なお、2000年度には、モニターを104名とし、人数を大幅に拡大した。
 そのほか、ODA関連情報については本報告書をはじめ、行政機関、経済協力実施機関等の年次報告書、評価報告書の公表、パンフレット等の作成が行われており、また、これら機関によるホームページの開設、アクセスの改善などが図られている(注2)。なお、外務省では、ODA事業の個別の評価結果のインターネットでの迅速な公開を本年7月上旬から開始した。

(注1) 「ロング・リスト」:円借款は経済的波及効果が大きく多年度にわたる計画的取組を必要とするものであることを踏まえ、国毎の多年度に亘る円借款候補案件リストを両国間で確認するもの。
(注2) 例えば、外務省ホームページでは、「政府開発援助に関する年次報告(98年度版)」のほか、動画によりODA案件の紹介を行う「ODAバーチャルツアー」等が閲覧可能である。また、国内の実施機関(JBIC及びJICA)とのリンクがはられている。


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