国際協力の現場から 03

手指消毒の徹底で院内感染から命を守る
〜 ウガンダでサラヤが取り組む消毒剤ビジネス 〜

宮本さんと、地元の衛生環境改善活動の協力スタッフ(写真:竹谷健太朗/サラヤ(株))

宮本さんと、地元の衛生環境改善活動の協力スタッフ(写真:竹谷健太朗/サラヤ(株))

2011年5月、薬用石鹸や消毒剤のメーカーであるサラヤ株式会社は、アフリカのウガンダに現地法人「サラヤ・イースト・アフリカ」を立ち上げました。というのもサラヤは、これまでUNICEF(ユニセフ)を通じてウガンダ村落部での衛生環境改善活動に協力してきた経緯があり、自社が培ってきた衛生改善のノウハウを活かし、東アフリカが抱える衛生環境に起因する様々な開発課題の解決に寄与できるのではないかと考えたからです。そこには、関連ビジネスを行える可能性を東アフリカ市場に感じていたこともありました。同社は、現在アルコール消毒剤の生産から販売までを現地で行うことを目指して準備調査を進めています。このプロジェクトは、JICAの「協力準備調査(BOPビジネス※1連携促進)事業」に認定されています。

ウガンダでは乳幼児死亡率が1000人中99人、妊産婦の死亡率が出産10万人中310人と高い数字を示しています。乳幼児死亡率は、マラリアを除けば下痢性の疾患、そして呼吸器疾患が大きな原因です。一方、妊産婦の死亡の主な原因の一つも同じく感染症である帝王切開後の敗血症です。ウガンダではインフラの整備が進んでおらず、きれいな水が十分に供給されていない病院が数多くあり、結果として院内感染により命を落とす子どもや妊産婦が多いのです。

2010年、サラヤ(株)はCSR※2活動の一環としてウガンダへの支援活動を始めました。ウガンダでは、サトウキビから砂糖や蒸留酒を生産しており、その副産物である廃糖蜜(はいとうみつ)からアルコール消毒剤の原料となるバイオエタノールが製造できることが分かっていました。水の不要なアルコール消毒剤であれば、きれいな水が得られにくいウガンダでも、手や指の衛生を改善するうえで有効です。そこで、事業化への検討が始まり、その過程でJICAが費用負担をする協力準備調査が行われたのです。

サラヤ・イースト・アフリカの代表である宮本和昌(みやもとかずまさ)さんは、青年海外協力隊として活動し、ウガンダに魅せられ、任期終了後も同国に戻り、2009年から農業を支援するNPOを立ち上げました。「小口融資の農業支援事業を行っているうちに、開発の課題を解決するためには採算を度外視した援助だけではなく、市場原理に則ってできる部分はビジネスとして行った方が、より持続的、効率的に貢献できるのではないかと思うようになりました。そんなときに、ウガンダ支社の立ち上げを検討していたサラヤに出会ったのです。」

宮本さんは、2か所の公立病院でパイロットプロジェクトを開始しました。それぞれに所属する2名の青年海外協力隊員(看護師)の協力も得て、まず、WHOの院内衛生の改善プログラムをベースに、病院スタッフに手指衛生の重要性を説くトレーニングを実施。その後は、アルコール消毒剤を病院内に導入し、手指の消毒での使用状況を継続的に調査し、使用量に応じてどんな成果が上がったかを地道にフィードバックしていきました(こちらのページの写真参照)。その一つであるゴンベ病院ではアルコール消毒剤を導入する以前、毎月平均して帝王切開後の敗血症が5件前後、小児の急性下痢疾患が7件前後発生していました。しかし、導入から半年後の2012年11月には、ついにどちらの感染症発生件数もゼロを達成したのです。「病院長は『こんなこと、病院が始まって以来だ!』と大喜びで、今では院内感染予防の伝道師として国内外での啓蒙活動に努めてくださっています。外から来た私たちがどんなに力説するよりも、自分たちと同じ環境にある病院の成功例を知ってもらう方が、ずっとインパクトがあるのかもしれません。」と宮本さん。

プロジェクトは現在、より多くの病院でアルコール消毒剤が導入されるよう普及活動を行うとともに、現地での生産から流通までのサイクルを確立できるかどうかの調査を行っています。宮本さんは、アフリカでのBOPビジネスを進めるうえでのポイントをこう語ります。

「BOPビジネスだからといって、ビジネスとしての根本は変わりません。地元の人が必要とすれば売れるし、必要でなければ売れないというだけのことです。自信を持って世に送り出せる商品やサービスを適正な価格で消費者に提供する。これから伸びてゆくアフリカの国々の発展に寄与しつつ、可能性に満ちたアフリカ市場から自分たちも恩恵を受けるという気持ちです。そうすれば、地元の人々と進出企業の双方にとって利益のある関係が築けるし、それが社会的な貢献につながるのではないでしょうか。」

※1 こちらを参照

※2 Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)

消毒剤なしでは診察できなくなったと語るゴンベ病院の医師。外来診察室で(写真:竹谷健太朗/サラヤ(株))

消毒剤なしでは診察できなくなったと語るゴンベ病院の医師。外来診察室で(写真:竹谷健太朗/サラヤ(株))


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