第I部 共に歩み、共に成長する国際協力

第1章 共に歩むODA

ブルキナファソの農民とともに稲に肥料を施す青年海外協力隊員(稲作・食用作物)。農業技術普及員や稲作農民に技術指導を行い、米の増産を通じた貧困削減に取り組む(写真:飯塚明夫/JICA)

ブルキナファソの農民とともに稲に肥料を施す青年海外協力隊員(稲作・食用作物)。農業技術普及員や稲作農民に技術指導を行い、米の増産を通じた貧困削減に取り組む(写真:飯塚明夫/JICA)

第1節 自由で豊かで安定した国際社会を実現するためのODA-民主化、国民和解を後押しする

グローバリゼーションの急速な進展、広範な情報技術の普及などを背景とする大きな流れの中で、世界各地において自由と民主主義を求める動きが進んでいます。中東では、2010年12月にチュニジアで始まった中東・北アフリカ各国での市民による大規模なデモと、それに伴う長期独裁政権の崩壊(いわゆる「アラブの春」)が次々に起こりました。そうした国々では、現在、より民主的な体制づくりに向けて努力が続けられています。アジアでは、ミャンマー、ネパール、ブータンなどで民主化あるいは民主主義の定着に向けた具体的な進展が見られます。アフリカでも、リベリアやシエラレオネ、コートジボワールなど、内戦や国内の混乱から脱けだし、民主的な国づくりに向けて着実に進展している国が出てきています。

日本も従来ODAを通じて途上国の民主化や国民和解に向けた動きを積極的に支援してきましたが、中東やアジア、アフリカにおけるこうした新たな動きを踏まえ、改めて民主化に向けた国づくりに努力している国々に対する支援を強化していく必要があります。民主的な体制は、政治と開発への国民参加を促すとともに、国民が一人ひとりの持つ豊かな可能性を実現できる環境をつくりだすために不可欠な枠組みであり、長期的な国家の安定と開発の促進にとっても重要です。また、こうした国際環境の大きな変化の中で、途上国における平和と安定の確保を目指し、自由や民主主義といった普遍的価値や戦略的利益を日本と共有する国に対し支援を拡充していくことは、自由で豊かで安定した国際社会の実現のために欠かせません。

以下では、民主化と国民和解に向けて取り組んでいる国々に対する日本の支援の具体例について紹介します。

ミャンマーでは、2011年3月のテイン・セイン政権成立以来、民主化・国民和解・経済改革を急ピッチで進めています。こうした動きを受けて、日本政府は、これらの改革努力を後押しすることで、民主主義が定着し、改革の成果を、より広範な国民が実感できるようにするため、2012年4月にミャンマーに対する経済協力方針を見直し、これまで基礎的生活分野に限定していた支援分野の拡大と協力の強化を決めました。また、本格支援再開の前提となる延滞債務問題を包括的に解決する道筋について合意し、同年10月には、ミャンマーに関する東京会合を主催して国際社会をリードしてきました。その結果、2013年1月、ブリッジローン(短期のつなぎ融資)を活用した返済や債務免除等により、ミャンマーの世界銀行・アジア開発銀行(ADB)および日本に対する延滞債務が解消され、日本による円借款供与が26年ぶり、世銀・ADBによるミャンマーに対する本格支援が30年ぶりに再開されることになります。

「村に学校ができた!」と喜ぶミンダナオ先住民の子どもたち(写真:アジア日本相互交流センター)

「村に学校ができた!」と喜ぶミンダナオ先住民の子どもたち(写真:アジア日本相互交流センター)

今後も、日本政府は、貧困削減に役立つ、農業・保健・教育分野などの国民生活向上のための支援、少数民族への支援(「開発協力トピックス」参照)、人材の能力向上や制度整備のための支援に加え、新たに経済成長を促進するインフラ分野においてもニーズの把握に努め、今後ともミャンマーの改革の行方を見守りながら、バランスのとれた協力をさらに行っていく予定です。
 フィリピンでは、南部のミンダナオ島で、政府とイスラム反政府勢力との間で40年間にわたり戦闘が続いてきました。ミンダナオ和平はフィリピンの安定的発展に不可欠との考え方に立って、日本はミンダナオ和平に積極的に貢献しており、マレーシアなどが参加する国際監視団(IMT)に国際協力機構(JICA)の開発専門家を派遣してきました。歴代の専門家は、危険で不便な地域を回って、必要とされている支援が何かを調査し、小学校や井戸、診療所、職業訓練所などをつくるための援助に結びつけました。J-BIRD(「日本バンサモロ復興開発イニシアティブ」の略称。バンサモロはイスラム反政府派が自分たちを指す呼び方)と呼ばれるこれらの支援は、現地住民やフィリピン政府から高い評価を受けており、和平に向けた環境整備に大きな役割を果たしています。

日本は、フィリピン政府と反政府勢力のモロ・イスラム解放戦線(MILF)との和平交渉にオブザーバーとして参加しています。2011年8月には、日本の仲介により、アキノ大統領とムラドMILF議長との間で初のトップ会談が成田で実現し、翌2012年10月、フィリピン政府とMILFは「枠組み合意」に署名し、和平に大きく近づきました。アキノ大統領は合意に至ることができたのは成田会談により、MILFとの間に信頼関係が築かれたことが大きかったと述べています。

日本は、ミンダナオに真の平和が達成されるよう、和平成立後も見据え、制度づくり、行政官の人材育成など、様々な支援に力を注いでいく方針です。

民主化、国民和解に対する支援はアジアに止まるものではありません。2011年の南スーダンの独立は、記憶に新しいところです。住民投票の実施を経て独立を達成した南スーダンですが、内戦の傷跡はまだ癒(い)えていません。元兵士の社会復帰やスーダンに居住していた南スーダン人の帰還、拡散した武器の回収や地雷の処理、破壊された経済社会インフラの再建・整備など、課題が山積しています。このような中、日本は、南スーダンに対し、基礎生活分野に加え、ガバナンス強化やインフラ整備等を重視した国づくり支援を行っています(「平和構築」についてはこちらを参照)。

西アフリカのリベリアでは長年にわたって内戦が続いていましたが、国際社会の介入等の結果、2005年に国連リベリア・ミッションの協力の下、大統領・国会議員選挙が実施され、翌年1月にサーリーフ女史がアフリカ初の民選女性大統領に就任しました。同大統領のリーダーシップの下でリベリアでは着実に国づくりを進めてきています。2011年には、内戦終結後初めてリベリア選挙管理委員会が実施する大統領選挙・総選挙が実施され、サーリーフ大統領が再選されました。その際、日本もUNDPを通じた無償資金協力により選挙関連物品の供与、選挙監視団への人員派遣を行い、公正で平和的な選挙の実施に貢献しました。その後も、日本は、食糧援助やインフラ整備など、リベリアの安定化と国づくりを支援し、リベリアの民主化の定着を後押ししています。

人道支援で作られた井戸を囲む南スーダンの人たち(写真:ジャパン・プラットフォーム)

人道支援で作られた井戸を囲む南スーダンの人たち(写真:ジャパン・プラットフォーム)


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