6. 中南米地域

中南米地域の人口は5億7,000万人で、この地域は域内総生産4.8兆ドルの巨大市場です。また、民主主義が根付き、安定した成長を続けてきた上、鉄鉱、銅鉱、銀鉱、レアメタル(希少金属)、原油、天然ガス、バイオ燃料などの鉱物・エネルギー資源や食料資源の供給地でもあり、国際社会での存在感を高めつつあります。平均所得の水準はODA対象国の中では比較的高いものの、国内での貧富の格差が大きく、貧困に苦しむ人が多いことも、この地域の特徴です。また、アマゾンの熱帯雨林をはじめとする豊かな自然が存在する一方、地震、ハリケーンなど自然災害に弱い地域でもあることから、環境・気候変動、防災での取組も重要となっています。

標高3,500mのアンデス山地で畑を耕すエクアドルの先住民

標高3,500mのアンデス山地で畑を耕すエクアドルの先住民

< 日本の取組 >

日本は中南米諸国と伝統的に友好的な関係を築いています。日本のODAを通じて、これらの国々の持続的な成長への基盤づくり、貧困削減・格差の是正のための支援、平和の定着、南南協力などの支援を行っています。中南米地域の持続的成長への支援としては、インフラ整備、中小企業育成などを行っています。また、この地域の歴史的な課題となっている貧困と所得の格差を改善するため、保健医療、教育、地域開発などの社会開発分野での支援も実施しています。さらに、2010年1月に発生したハイチの地震や同年2月に発生したチリの地震など、被災国に対する緊急・復興支援も積極的に実施しています。

より効果的で効率的な援助を実施するため、中南米地域に共通した開発課題については、中米統合機構(SICA)(注77)やカリブ共同体(CARICOM(カリコム))(注78)といった地域共同体とも協力しつつ、広い地域にかかわる案件の形成を進めています。2010年9月、第2回日本・カリコム外相会議を東京で開催しました。そこで「日本とカリコム諸国との平和・開発・繁栄のためのパートナーシップ」を採択し、また日本は「日本・カリコム・パートナーシップ・プログラム」(用語解説参照)として、世界経済への統合、環境・気候変動の分野等での協力を向こう3年程度かけて実施していくことを表明しました。

また、長年の日本の経済協力の実績が実を結び、第三国への支援が可能な段階になっているブラジル、メキシコ、チリ、アルゼンチンの4か国と提携し、中南米、アフリカ諸国などを対象として、第三国研修や第三国専門家派遣などを実施しています。たとえば、ブラジルと協働して、アフリカのモザンビークでの農業開発協力を進めるほか、メキシコ、アルゼンチン、ドミニカ共和国と協力し、震災後のハイチの復興支援を行っています。

中南米地域では、アマゾンの森林が減少し、劣化した上、オゾンホールの拡大、気候変動によるアンデス氷河の減退やハリケーンなどの自然災害の多発といった環境問題も深刻になりつつあります。これらに歯止めをかけ、また影響をやわらげるため、自然環境保全、防災などの面で支援を実施しています。

日本は官民連携で地上デジタル放送の日本方式(ISDB-T方式)(注79)の普及に取り組み、2011年11月時点までに中南米では10か国が、日本方式を採用しています。日本はこれら採用した国々に対して、同方式を円滑に導入できるよう技術移転を行い、人材を育成しています。

また、地震により多大な被害のあったハイチに対し、日本は地震発生直後から国際緊急援助隊医療チームおよび自衛隊部隊の派遣、国際機関を通じた医療・衛生分野での支援、食料・水・シェルターの供給、日本のNGOを通じた被災者支援を行ってきました。2010年3月、ニューヨークで開催されたハイチの復興支援国会合において、日本は1億ドルの支援を約束し、ハイチの国家再建のために、教育・人材育成、保健医療、食料・農業の分野を中心に着実に支援を行っています。

さらに、2010年2月に発生した地震による被害を受けたチリに対し、発電機やテントなどの緊急援助物資の供与および医療機材の供与や仮設病院設置などの緊急無償資金協力を行ったほか、2010年12月には、長雨により洪水等の災害に見舞われたコロンビアやベネズエラに対し、テント・毛布などの緊急援助物資を供与しました。

用語解説

南南協力

より開発の進んだ開発途上国が、自国の開発経験と人材などを活用して、他の途上国に対して行う協力。自然環境・文化・経済事情や開発段階などが似ている状況にある国々によって、主に技術協力を行う。また、ドナーや国際機関が、このような途上国間の協力を支援する場合は、「三角協力」という。(こちらを参照

第三国研修

開発途上国が、援助国・国際機関の資金や技術支援を受け、他の途上国から研修員を受け入れて、すぐれた開発経験や知識・技術の移転・普及のための研修を行うこと。日本はそれに対して、資金的・技術的な支援を行っている。

第三国専門家

技術協力を効果的に実施するため、協力対象の途上国に他の途上国からの人材を専門家として派遣する制度。


注77 : 中米統合機構 SICA:Sistema de la Integración Centroamericana

注78 : カリブ共同体 CARICOM:Caribbean Community

注79 : 地上デジタル放送 ISDB-T:Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial

●エクアドルペルー

「新マカラ国際橋建設計画」
無償資金協力(2010年3月~実施中)

ペルー・エクアドル両国の国境紛争が終結し、1998年に和平合意が結ばれたことを受け、両国は国境地域の結束強化と開発を目的とした10か年計画を策定しました。日本は、二国間の平和の定着を促進するための象徴的な事業として、同計画に位置付けられた、国境に架かる老朽化した現マカラ橋の架け替えとして、40トンの重量まで耐えられる新たな橋を建設するのに対して、総額16億円を限度とする無償資金協力による支援を決定しました。現在2012年末の竣工に向けて架橋作業が着々と進められています。本事業により、両国間で安定した物流・人員の輸送が確保され、地域の開発、地域格差の是正、国境地域の結束強化および平和の定着が促進されることが期待されています。

着工前の状況(2010年10月時点)既設マカラ橋から下流側を望む。向かって左側がペルー、右側がエクアドル(写真提供:日本工営)

着工前の状況(2010年10月時点)既設マカラ橋から下流側を望む。向かって左側がペルー、右側がエクアドル(写真提供:日本工営)

2011年2月時点の状況(写真提供:日本工営)

2011年2月時点の状況(写真提供:日本工営)

●ハイチ

「ハイチ復興支援緊急プロジェクト」
開発計画調査型技術協力(2010年6月~2011年11月)

政情不安が長く続いているハイチは、国民の約半数が1日当たり約100円(1.25ドル)以下で暮らす、中南米カリブ地域で最も貧しい国です。このような中、2010年1月12日、ハイチをマグニチュード7.1の大地震が襲いました。震災による死者・行方不明者は約31万人にのぼり、震源地に近いレオガン市では約9割の建物が倒壊するなど、甚大な被害がありました。日本はハイチの復興を支援するため、国際緊急援助隊による緊急人道支援を実施。引き続き、復興の道筋をつける「復興計画の策定」と生活再建のための「社会基盤インフラの復旧」の2点を柱とした「ハイチ復興支援緊急プロジェクト」を早急に開始しました。この事業の一環として、レオガン市の給水網の一部を復旧させると共に、市内11か所の学校へ水道を整備するなどして、約9,000人が安全な水を使えるようになりました。また、プロジェクトの中で提言された「レオガン市復興のための市街地道路整備計画」を日本が支援することも決まりました。日本は、被災地の復興に向け、切れ目のない支援を行っていきます。

学校に取り付けた共同水栓を使う子どもたち(写真提供:八千代エンジニヤリング)

学校に取り付けた共同水栓を使う子どもたち(写真提供:八千代エンジニヤリング)

中南米地域おける日本の国際協力の方針

中南米地域おける日本の国際協力の方針

図表 III-13 中南米地域における日本の援助実績


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