第2節 新興国との連携の推進
新興ドナー(援助国)による援助を途上国の開発に効果的につなげていくためには、政策面および実施面の両方で新興ドナーとの連携を強化することがたいへん重要です。日本は、開発を取り巻く環境の変化を踏まえ、台頭する新興ドナーとの連携強化のため、セミナー、研修、対話等の様々な取組を行っています。
1. ドナーになるための支援
たとえば、2010年に中東欧諸国に対し、東京およびハンガリーでドナーになるための支援を目的としたセミナーを行いました。また、中国の援助関係者に対する研修を日本で実施しました。いずれも、近年新興ドナーとして重要性を増している国々に対し、能力強化やオーナーシップ(開発途上国の主体的取組)を重視する日本の援助政策や援助体制、援助の効果向上に向けた取組等につき、理解を促す機会となりました。
2. 国際社会における対話
また、日本は援助に関する様々な会合への新興ドナーの参加を促し、対話を進めています。2011年6月には東京で、アジア開発フォーラムを開催し、アジアの経験を踏まえた開発援助のあり方について議論を深めました。同じく6月に東京で開催されたMDGsフォローアップ会合には、中国、インド、ブラジル、南アフリカ等の新興国が参加し、開発に携わるすべての関係国・機関が世界の貧困を削減する手段を持っており、前進のための行動を起こす責任があることを確認しました。
3. 三角協力
新興国がドナーとなるための支援、国際援助協調枠組みへの参加に向けた支援のほか、日本は、これらの新興国が途上国に対し協力を展開すること(南南協力)を、三角協力(こちらを参照)として技術・資金面で支援しています。南南協力自体は比較的歴史の長い協力形態で、1978年9月にブエノスアイレス(アルゼンチン)で国連が開催した南南協力に関する会合の成果文書である「ブエノスアイレス行動計画」にまで遡ります。しかし、日本はそれに先立つ1975年に既にタイとラオス間の協力を支援して以来、多くの協力実績を重ねてきている三角協力の先駆け的存在です。
三角協力の意義として、まず社会・経済環境や開発段階の類似性や、文化・言語の親和性を活かして、援助を受ける側に適した開発の選択肢を提示できることが挙げられます。これは援助受入国での援助の効果を高めるためには有効です。
第二に、援助実施国(新興国)にとっては、日本の支援を得ながら第三国に協力を展開することで、支援の知識・経験を吸収しながら援助国としての自立を目指すことができます。これは新興国にとっても助けになります。
第三に、日本にとって役立つ点として、日本の協力成果を第三国に普及できることが挙げられます。特定の国への援助の成果を他国にも拡大できること、また、同じ量の資源投入でより大規模な効果を与える援助を行える等の利点もあります。
このように、新興国との連携、特に三角協力の意義は大きなものです。現在、日本は12か国の南南協力供与国と「パートナーシップ・プログラム」*を締結し、南南協力支援、援助実施能力強化のための協力を包括的に実施しています。
三角協力の最近の事例として、「ザンビア投資促進プロジェクト-トライアングル・オブ・ホープ-」、「モザンビーク熱帯サバンナ農業開発協力」が挙げられます。前者では、プロジェクト運営管理等を担当する日本人専門家、マレーシア人のコンサルタント(援助の現場において現地政府や地域住民と協力して援助実施の手助けをする専門家)、ザンビアの現地コンサルタントが協力し、国内外からの直接投資の促進と投資家に好ましい環境整備を目標として、2009年8月から2012年8月まで協力を実施しています。具体的には、ザンビア開発庁職員に対する研修や投資環境改善に関する政策・規制枠組みの改善、12分野で投資を呼び込むための計画策定、そして民間セクターとの関係構築による投資環境の改善などに取り組んでいます。
アフリカ諸国の中小企業振興のため、マレーシア標準工業研究所と協力して、研修を行う(写真提供:菅原アラセ/JICA)
また後者では、環境保全に配慮した持続可能な農業開発モデルの構築、市場を意識した競争力のある農業・農村・地域開発の促進を目的に、2009年から協力を開始しました。この事業では、不毛な半砂漠地域と呼ばれたブラジルのセラード地帯を、日本とブラジルとの協力により、大農業地帯に変貌させた1970年代から20年にわたる経験をモザンビークで活かすことを目的としています。具体的にはセラード農業開発を通じて蓄積された土地改良技術や農業の生産性向上に関する技術移転を行っています。
日本はかつて途上国に行った協力の第三国への活用や、開発段階の類似性を活かした効果的な協力の実施、新興国がドナーとなるための支援などを積極的に行ってきました。今後も引き続き、南南協力供与側のオーナーシップの強化や、さらなる開発効果の発現を目指し、新興国との連携を進めていきたいと考えています。
用語解説
*パートナーシップ・プログラム
日本の協力を受けて、ある程度の発展段階に達した国が日本と共同で、より開発程度の低い近隣国や、言語、歴史、文化等が似通った国や地域に対して技術協力を実施する枠組み。1994年にシンガポールとの間で締結した枠組みをはじめ、現在までに12か国(シンガポール、タイ、フィリピン、インドネシア、チリ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、エジプト、チュニジア、モロッコ、ヨルダン)と締結している。