第3節 重要性を増す開発の新たな担い手

開発途上国の開発ニーズはたいへん大きく、かつ、多様です。これに対応するには、ODAなどの政府の支援だけでは不十分です。NGOや民間企業、民間財団などの開発の新たな担い手の参加を促し、その「人」、「資金」、「知識」等を活用していくことが必要になっています。たとえば、途上国への資金流入に占める民間資金の割合は6~7割に達しているといわれていることからも、途上国の開発に政府以外の担い手の占める役割が、大きくなっていることがうかがえます。

こうした開発の新たな担い手の活動を促すことで、より効果的、効率的に開発を進めることが可能となります。そのためには、ODAを活用して新たな担い手の活動の障壁を取り除いたり、ODAによる援助と新たな担い手の活動の連携や補完関係の構築が重要になります。他の担い手との間で、プログラム・アプローチ(図版参照)等を通じて戦略化を進める政府の援助方針を共有したり、開発に関する有益な知識・経験等を交換できるような、互いに役立つことのできる関係を結ぶことが有効です。日本政府として、様々な担い手との対話を強化する一方、具体的な連携案件の形成などを通じて、そうした新たな連携を積極的に進めています。

たとえば、日本は円借款を活用し、民間財団であるビル&メリンダ・ゲイツ財団と連携した革新的な形態で、パキスタンのポリオ撲滅を支援しています。この事業は、パキスタンにおけるポリオ撲滅に向けたワクチンやワクチン接種キャンペーンにかかる費用等を円借款で支援するものですが、通常の円借款とは異なり、パキスタン政府による一定の事業成果を達成した際、ビル&メリンダ・ゲイツ財団がパキスタン政府に代わり、円借款債務の返済を行うというものです。長年にわたるパキスタンへのポリオ撲滅支援を通じて蓄積された日本の知識・経験と円借款資金とが呼び水となって、ビル&メリンダ・ゲイツ財団からの新たな資金を同国に動員することが可能となり、国際的な課題であるポリオ撲滅に向けた取組がますます加速するものと見込まれています。(「民間資金との連携」参照

パキスタンのポリオ撲滅を支援する目的で、1996年から無償資金協力で、ポリオワクチンおよび接種に必要な資金協力を実施。感染症対策の日本人専門家が子どもに経口ワクチンを投与している(写真提供:JICA)

パキスタンのポリオ撲滅を支援する目的で、1996年から無償資金協力で、ポリオワクチンおよび接種に必要な資金協力を実施。感染症対策の日本人専門家が子どもに経口ワクチンを投与している(写真提供:JICA)

また、NGOとの連携の一環として、ラオスでは、ODAとNGO、そして民間企業の三者が協力して、農村部の貧困削減に取り組んでいます。ここでは、日本NGO連携無償資金協力を使って、特定非営利活動法人日本地雷処理を支援する会(JMAS)(注2)が不発弾探査・除去を行う一方で、株式会社ツムラが不発弾が除去された農地で生薬の栽培を行っています。これらは、農民の安全確保と貧困削減、さらには地域の経済発展に貢献することが期待されています。

加えて、日本は潜在性を持った新たな開発の担い手の参加を促す取組も強化しています。すぐれた技術や知識・経験を持ち、海外展開に関心を持つ民間組織などの開発への参加を促すため、民間からの提案に基づく2種類の協力準備調査を実施しています。官民連携(PPP注3)インフラの形成に関する協力準備調査では、民間企業の意見をインフラ案件の形成の早期段階から取り上げて、政府では把握し切れない開発ニーズに対応するとともに、官民の最適な役割分担を検討し、途上国政府に提案します。円借款を含むODAによる相手国政府の公共部門への支援を想定したこの調査では、2011年にはインドネシアやベトナム等の8案件を採択しました。PPPによるインフラ整備の推進が望まれています。

さらに、開発途上国の課題解決の新たなる手法としてBOPビジネス注4)が最近注目されています。このBOPビジネスへの参加を目指す民間の担い手との連携促進を目的とした協力準備調査では、提案を行った法人(民間企業やNGOなど)のBOPビジネスのモデル策定を支援し、またODAとの連携についての提案を求めることで、日本企業やNGO等の途上国のBOPビジネス分野への参加を後押しするとともに、BOPビジネスにおける民間とODAの連携についても支援を進めていきます。

また、外務省は、2011年6月に、ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けた官民連携を促進するための枠組みとして、「MDGs官民連携ネットワーク」を立ち上げました。同ネットワークでは、途上国の開発ニーズ、MDGs達成に貢献する民間企業の取組、途上国の現場で開発支援を行う際に必要とされる情報の発信などを行っています。

開発の分野は非常に幅広く、また開発の新たな担い手も多種多様です。それぞれの分野において技術や知見を有する担い手と新たな連携を試み、ODAだけでは対応できない開発問題に取り組んでいくためにも、今後も積極的に開発の新たな協力関係の構築に取り組みます。また、援助を行う側だけでなく、ODAの主な受け手となる途上国政府も民間企業をはじめとした公的部門以外の資金などのリソース(資源)を開発に活用することへの関心を高めています。開発の新たな担い手との協力関係の中に、途上国政府も巻き込んでいくことで、さらなる開発の進展を実現することが求められています。

ラオスでの日本政府、民間企業(ツムラ)、NGO(JMAS)のODA連携案件である不発弾処理事業の開始式典

ラオスでの日本政府、民間企業(ツムラ)、NGO(JMAS)のODA連携案件である不発弾処理事業の開始式典

用語解説

官民連携(PPP)

官と民が連携して事業を行う新しい官民協力の方法。民間企業の意見を案件形成から取り入れて、基礎インフラはODAで整備し、投資や運営・維持管理を民間で行うといったように、官民で役割分担し、民間の技術や知識・経験、資金を活用し、より効率的・効果的な事業を目指す。協力準備調査の事例:上下水道、空港建設、高速道路、鉄道など。

BOPビジネス

途上国の低所得層(*)を対象にした社会的な課題に役立つことが期待されるビジネス。世界人口の約7割、約40億人を占めるといわれ、潜在的な成長市場として注目されている。低所得者層を消費者、生産者、販売者として、持続可能な、現地における様々な社会的課題の解決に役立つことが期待される。

事例:洗剤やシャンプーなどの衛生商品、水質浄化剤、栄養食品、殺虫剤を練り込んだ蚊帳、浄水装置、太陽光発電など。

*低所得層:1人当たりの年間所得が購買力平価で3,000ドル以下の層。購買力平価とは物価水準の差を除去することによって、異なる通貨の購買力を等しくしたもの


注2 : 日本地雷処理を支援する会 JMAS:Japan Mine Action Service

注3 : 官民連携 PPP:Public-Private Partnership

注4 : 開発途上国・地域の低所得層 BOP:Base Of the Pyramid


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