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民間資金との連携

パキスタンに対する円借款「ポリオ撲滅計画」(2011年8月交換公文署名。49億9,300万円)は、日本のODAと民間財団との連携による画期的な案件です。

パキスタンは、アフガニスタン、ナイジェリアと並ぶポリオ常在流行国(ポリオが過去に一度も撲滅されたことのない国)の一つです。2010年には、洪水被災に伴う大規模な人口移動が一因となって感染が拡大し、症例数は144人に増加しました。これは、2010年の全世界における報告例1,290件の約11.2%を占めます。

パキスタン政府はポリオ根絶のため、定期予防接種活動に加え、ワクチンの全国一斉接種であるポリオ撲滅キャンペーンを実施しています。また、2011年1月には、特にポリオ撲滅に焦点を当てた国家計画を発表しました。

日本は、これまで15年間にわたりUNICEF(ユニセフ)と連携して無償資金協力によりポリオ対策に必要なワクチンを供与し、また技術協力により定期予防接種活動の拡大を支援するなど、パキスタン政府の努力を支援してきました。しかしながら、前述の洪水等の影響もあってパキスタン政府の取組は難航しています。そこで日本は、同じくポリオ撲滅に取り組んでいるビル&メリンダ・ゲイツ財団(マイクロソフト創設者ビル・ゲイツ氏とその配偶者により設立された民間の慈善基金団体(以下ゲイツ財団))と協議を重ね、同財団と連携して円借款を供与することにしました。パキスタン国内のポリオ撲滅キャンペーンに必要なワクチンの調達およびワクチン投与のための活動費用を約2年間にわたって支援するというものです。

今回の円借款では、高いワクチン接種率などの一定の目標が達成されたことが確認された段階で、円借款の債務全額について、ゲイツ財団がパキスタン政府に代わり日本に返済することになっています。目標が達成されれば、パキスタン政府には返済の必要がなくなる仕組みとすることで、パキスタン政府からはポリオ撲滅に向けたより一層大きな努力を引き出すことができます。また、最終的にパキスタン政府に債務負担を課すことなく資金規模の大きな支援を行うことが可能になります。今回の事業は、ゲイツ財団を含め、世界銀行(ポリオ・ワクチン調達のみを支援)との協調融資、UNICEFおよびWHOとのワクチン調達・キャンペーン実施での連携など、多種多様な開発パートナーとの連携により実施される点においても新たな、そして意義深い試みとなっています。

このゲイツ財団との連携のように、日本政府が持つ途上国政府との緊密なネットワークや援助の現場で得た経験・知見と、新たな援助の担い手である民間セクターがもつ高い技術・資金力や政策提言能力を融合することにより、今後、開発に向けた努力が広範囲にわたって効果を現し、展開していくことが強く期待されています。

日米でテレビ会議を通じて行われた調印式での緒方JICA理事長とゲイツ財団共同議長(写真提供:JICA)

日米でテレビ会議を通じて行われた調印式での緒方JICA理事長とゲイツ財団共同議長(写真提供:JICA)


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