日本の中南米に対する2007年の二国間政府開発援助は、約2億2,559万ドルで、二国間援助全体に占める割合は約3.9%です。
中南米諸国の多くは、日本にとって、民主主義や市場経済などの価値観を共有する重要なパートナーです。地理的に日本とは離れていますが、日本人移住者とその子孫である日系人を「架け橋」に、伝統的に友好的な関係を築いている地域です。さらに、この地域は5.5億人の人口(ASEANとほぼ同じ)を擁し、域内総生産は2.95兆ドルとASEANの2.8倍にもなる大きな市場となっています。中米統合機構(SICA(注170))や南米南部共同市場(MERCOSUR(注171))、カリブ共同体(CARICOM(注172))、アンデス共同体(CAN(注173))といった地域統合の動きや諸外国との間での自由貿易協定の締結によって、この地域の存在感を高めています。また、近年の資源価格の高騰とも相まって、鉄鉱、銅鉱、銀鉱、原油、天然ガスなどの鉱物資源やバイオ燃料や食料資源の供給地としても注目を浴びています。また、平均所得は政府開発援助対象国の中では比較的高く、自由経済を維持している一方で、貧困や国内での貧富の格差が著しいこともこの地域の特徴です。アマゾン川流域などに広がる熱帯雨林に代表される豊かな自然が存在することから、地球規模の課題である環境・気候変動問題への取組も重要となっています。
日本は政府開発援助を通じて、経済関係の強化などの課題への支援、地域統合の促進を含む広域的な支援、南南協力支援などを行っています。
経済関係の強化としては、中南米地域の持続的な経済発展を支援するため、インフラ整備や裾野産業振興、中小企業育成、職業訓練などの分野で協力を行ってきました。2007年度においては、エクアドルの職業訓練強化のための技術協力プロジェクトを採択しました。さらに、2005年4月に発効した日本・メキシコ経済連携協定(EPA)に関連した中小企業・裾野産業支援などが進められています。また、この地域の歴史的な課題となっている貧困と所得格差の改善のため、保健医療、教育、水と衛生、農村開発などの社会開発分野での支援も実施しています。
中南米地域では、アマゾンの森林減少のほか、オゾンホールの拡大、気候変動によるアンデス氷河の減退やハリケーンなどの自然災害の多発といった環境問題も深刻化しつつあります。これらに歯止めをかけ、また影響を緩和するため、公害対策や自然環境保全、防災などの面での支援を展開しています。例えば、オゾン層観測強化プロジェクトや日本の観測衛星のデータを利用したアマゾンの違法伐採の取締監視能力強化、中米でのコミュニティの防災能力向上のための支援などを行っています。また、パナマでは、パナマ湾浄化といった大都市の公害対策も支援しています。
平和構築分野では、ハイチやコロンビアなどで政情不安や国内武力抗争が継続しており、平和の定着に向け、コミュニティ開発や食糧援助、国内避難民や投降兵士家族への職業訓練などの支援を行っています。
効果的・効率的な援助政策の実施のため、中南米地域に共通した開発課題について複数国に利益となる広域案件の形成を進めています。また、経済連携を強化するため、日本は、地域統合に向けた動きに対して協力をしています。日本は、中南米地域の地域統合イニシアティブであるメソアメリカ統合発展計画(旧プエブラ・パナマ計画)や南米インフラ統合計画に対して協力しています。例えば、広域開発無償資金協力として、「日本・中米友好橋建設計画」をエルサルバドルおよびホンジュラス政府へ、また、「新マカラ国際橋建設計画」をエクアドルおよびペルー政府に対し実施することを決定しました。
さらに、国境を越える感染症の対策にも協力しています。熱帯病であるシャーガス病対策に積極的に取り組んでおり、2002年にはグアテマラ、2004年以降はエルサルバドル、ホンジュラスと対象を拡大しています。また、地域の子どもの基礎学力向上のために、2003年にホンジュラスで実施し、高い評価を得ている「算数指導能力向上プロジェクト(PROMETAM(注174))」も、グアテマラ、ニカラグアなどに対象の範囲を広げています。
カリブ共同体に対しては、カリブ共同体を相手機関として、漁業、水産業について初めて広域の開発調査(注175)を実施しました。また、MERCOSURに対しても観光分野での支援(注176)を実施しています。
さらに、日本の援助体制に関しても広域化に取り組んでいます。中米においては、現地ODAタスクフォースのほかに、これら現地ODAタスクフォースのメンバーに日本国内の援助関係者を加え、中米広域タスクフォースを立ち上げ、広域協力の重点分野の明確化といった広域案件形成に向けた活動を行っています。
地域の援助国との連携を強化し南南協力を実施しています。チリ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコの4か国とパートナーシップを結び、主に他の中南米諸国を対象として、第三国研修や第三国専門家派遣などを実施しています。例えば、日本とブラジルが協力して、ブラジルと同じポルトガル語圏であるアフリカのアンゴラの病院に日系ブラジル人専門家を派遣し、看護サービスの質の改善や人材強化を図るなど、様々な事業を実施しています。また、日本はメキシコ政府とも共同で中米などにおいて技術協力を行っています。