開発途上国の持続的な経済成長のためには、民間部門の主導的な役割がかぎとなることから、貿易・投資を含む民間部門の活動を促進、活性化することが重要です。しかし、民間セクターを呼び込むための投資環境整備において、開発途上国政府が実行しなければならない政策は膨大であり、多くの貧しい国にとっては自力での対処が困難です。そのため、他国あるいは様々な国際的枠組みによる支援が必要となります。
日本は政府開発援助やそれ以外の公的資金(OOF (注23))などを活用して、開発途上国の投資環境整備のために、インフラ整備、制度構築、人材育成などの支援を行っています。
2006年度には、タンザニアに対して、国際幹線道路改良計画を支援するため、円借款の供与を決定しました(注24)。タンザニアとケニアを結ぶ国際幹線道路を改良することで、持続的な経済成長の基盤を整備し、経済成長促進、地域経済が活性化することが期待されます。さらに、中長期的には、東アフリカ共同体(EAC (注25))域内の経済統合推進と経済活性化への効果も期待されます。また、この事業は、アフリカ開発銀行との協調融資の案件であり、日本がタンザニア側を、アフリカ開発銀行がケニア側とタンザニアの一部を支援の対象としています。
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海外からの直接投資と並んで、貿易は開発途上国の発展に重要な意義を有します。多角的自由貿易体制の維持・強化を目的とする世界貿易機関(WTO(注26))では、途上国の存在感が高まっています。実際、WTOの加盟国151か国(2007年10月現在)のうち、約4分の3が開発途上国であり、それら開発途上国のうち、32か国は後発開発途上国(LDC (注27))です。そのため、現在進められているドーハ・ラウンド交渉では、開発途上国の貿易を通じた経済成長と貧困削減が中核的なテーマになっています。
WTO加盟国間で貿易量や国民総所得(GNI (注28))など経済状況は大きく異なり、WTO協定という一つのルールに基づいて貿易を行うためには様々な調整が必要になります。そのため、WTOでは、開発途上国のWTO協定履行・交渉参加能力向上のために技術協力計画を策定し、セミナーや専門家派遣などを実施しています。このようなWTOの取組を支援するため、日本は2001年のドーハ・ラウンド交渉開始以降、技術協力計画実施のための基金であるドーハ開発アジェンダ・グローバル・トラスト・ファンドに約4億8,000万円を拠出してきました。また、二国間の支援としてWTO協定関連をはじめとする貿易関連技術支援・能力強化を2006年度においては約1,600件実施しています。さらに、WTOをはじめとする6国際機関によるLDC向けの貿易関連の技術支援の枠組みである統合フレームワーク(IF (注29))を支援するため、2006年にIF信託基金に2,000万円を拠出しました。このほか、主にアフリカのLDCを支援する観点から、国際貿易センター(ITC (注30))の信託基金に対し、2007年に約800万円を拠出しました。
ドーハ・ラウンド交渉については、農業や非農産品市場アクセス(NAMA (注31))に関する論点について主要国の立場に一致が見られず、2006年7月末に、いったん交渉が中断されました。日本は、従来、貿易の促進を通じて開発途上国の開発を支援することの重要性を訴えてきました。交渉の中断は、多角的自由貿易体制を貿易政策の根幹ととらえ、その発展強化のために今次ラウンドの早期妥結を目指して積極的に貢献してきている日本にとっても、また、LDCをはじめとする開発途上国にとっても、望ましくない結果でした。そのため、日本は、交渉の早期再開に向け、様々な働きかけを行いました。このような日本の努力もあり、2007年1月には、交渉が本格的に再開され、交渉の早期妥結に向けた種々の協議がジュネーブ等で精力的に行われています。
現在、WTO、世界銀行、OECD等の様々な国際フォーラムにおいて、「貿易のための援助(AFT (注32))」に関する議論が活発化しています。このような流れの中で、日本は、AFTに対する包括的取組として、2005年12月のWTO香港閣僚会議を前に「開発イニシアティブ」を発表しました。「開発イニシアティブ」は、貿易の促進を通じて開発途上国の開発に資することを目的とした包括的支援パッケージで、貿易を構成する「生産」、「流通・販売」、「購入」の各局面で、LDC産品の市場アクセスの原則無税無枠化や政府開発援助を通じた様々な支援を組み合わせ、総合的かつきめ細かな支援を行うものです(「開発イニシアティブ」については、2006年版ODA白書囲みI-1(24ページ)も参照してください)。日本は、ラウンド交渉の進ちょく状況にかかわりなく、「開発イニシアティブ」を着実に実施しています。
開発途上国の市場アクセスの改善に関しては、特に開発途上国の産品の輸入時において一般の関税率よりも低い税率を適用する一般特恵関税制度(GSP (注33))による開発途上国の輸出能力・競争力の向上が、国際的に重視されています。とりわけLDCに対する無税無枠の市場アクセスの推進は、WTOにおける貿易交渉のみならず、ミレニアム開発目標(MDGs)やLDC行動計画(Programme of Action for the Least Developed Countries for the Decade 2001~2010)をはじめ、国連の場においてもとりあげられています。
日本は、2007年4月、LDCに対する無税無枠措置の対象品目を、これまでの7,758品目から8,859品目に拡大しました。この結果、LDC無税無枠品目は品数数で約98%となり、2005年12月の香港閣僚宣言で当面の目標とされている97%を達成しました。また、貿易額では99%超となります。日本としては、このような措置を通じて、引き続き、LDC諸国の市場アクセスの確保に貢献しています。
近年、日本が積極的に推進している経済連携協定(EPA (注34))を通じた経済連携の取組には、伝統的なモノの貿易に加え、投資ルール、サービス貿易の自由化、人の移動、政府調達、知的財産権の保護、競争政策、ビジネス環境整備等をカバーし、日本と相手国の経済連携が進むだけでなく、当事国の経済成長に資するという重要な意義があります。そこで、政府開発援助に関する中期政策では、日本が経済連携を推進しているアジア地域をはじめとする開発途上国の各国・地域に対し、その効果を一層引き出すために、政府開発援助を戦略的に活用し、貿易・投資環境や経済基盤の整備を支援していくこととしています。
具体的には、貿易・投資に関連する諸制度の整備や人材育成支援、知的財産保護や競争政策などの分野における国内法制度構築支援、税関、入国管理関連の執行改善・能力強化支援、IT、科学技術、中小企業、エネルギー、農業、観光、環境といった分野の支援など、様々な分野における協力を行っています。2007年11月1日に発効したタイとの経済連携協定に関する協力においては、同国の優先育成産業である自動車・部品産業について、自立的にすそ野産業の人材育成に取り組むことができるように、日・タイ官民四者で、研修実施体制整備のプロジェクトを進めています。JICA、JETRO等の連携の下、プロジェクト全体の運営管理、機材供与、政府への助言のために専門家を派遣するほか、現地日系企業を中心として、タイ人の指導者育成、技能検定制度の整備を行います。また、両国の農協間の協力を推進しており、タイの農産物の品質改善に係る研修や、農村における指導者の育成を支援しています。
→ このほかマレーシアとの経済連携協定に関してはこちらを、メキシコとの経済連携協定に関してはこちらを参照してください
日本は今後も、二国間支援や国際機関との協力を通じ、開発政策と貿易政策の一貫性を確保し、貿易と開発の総合的な観点から開発途上国の多角的自由貿易体制への参画および経済連携の強化を通じた貧困削減・持続的成長に積極的に協力していきます。
一村一品運動
一村一品運動は、1979年に大分県で始まった取組で、その地独自の特産品の振興を通じて地域の活性化を図るものです。こうした日本国内における地域活性化にヒントを得て、開発途上国における貿易を通じた自発的な経済発展を図るための一つの方法として発展したものが、アジアやアフリカ諸国で行われている一村一品運動です。日本政府は、こうした開発途上国における一村一品運動を積極的に支援しています。例えば、「開発イニシアティブ」の一環として、経済産業省と(独)日本貿易振興機構(JETRO (注35))が中心となり、一村一品キャンペーンを展開しています。具体的には、国内主要空港における空港展「一村一品マーケット」、アフリカン・フェアの実施がその具体的な例となります。
空港展(一村一品マーケット)は、2006年3月から2007年3月(注36)まで、成田、関西、中部、神戸(財団法人対日貿易投資交流促進協会(ミプロ)運営)、羽田、伊丹、福岡の各空港で開催し、開発途上国の工芸品、織物、加工食品、アクセサリー関連商品などの展示・販売を行いました。36万人を超える方が来場し、活況を呈しました。また、アフリカ、アジアの各国首脳、閣僚や国際機関の長の訪日時に、日本政府の取組を紹介する良い機会となりました。
また、アフリカン・フェアは、2006年9月2日から4日にかけて開催され、39のアフリカ諸国の商品展示・販売・イベントを通じて、アフリカの認知度を高めるとともに、アフリカ産品の対日輸出の促進支援を行いました。このフェアには約1万6,000人が来場し、約500件の商談が成立するなど、成功をおさめました。2008年にも、第四回アフリカ開発会議(TICAD IV)とあわせてアフリカン・フェアを開催する予定であり、貿易の促進を通じてアフリカの開発を支援することとしています。さらに、このようなイベントに加え、2006年8月から9月にかけて、財団法人海外技術者研修協会(AOTS)が実施した一村一品研修には、開発途上国45か国から約80名の研修生が参加しました。
このほか、日本政府は、国際機関を通じた支援でも一村一品運動に取り組んでいます。アジア生産性機構(APO (注37))への拠出によるタイ、カンボジア等メコン地域支援の一環として、2006年には、「一村一品紹介テレビ会議(注38)」、大分とタイでの研修(注39)、カンボジアにおける「一村一品国民会議(注40)」の立ち上げ等を実施し、一村一品事業の普及に貢献しました。
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