(1) 開発イニシアティブ
このように、グローバル化により、開発途上国が貿易・投資を通じて経済成長をする機会は飛躍的に増大しています。貿易・投資を通じた開発を実現するためには、世界貿易機関(WTO)体制の下での自由貿易を推進することが極めて重要です。WTOドーハ・ラウンドは2001年、ドーハで開催されたWTO閣僚会議において立ち上げられました。ドーハ・ラウンド交渉は正式には「ドーハ開発アジェンダ」交渉と呼ばれ、多角的自由貿易体制への参画による開発途上国の開発促進を重視しています。
経済活動を貿易に依存している日本にとって、今次ラウンドを成功裡に妥結することが極めて重要であることは論を待ちませんが、貿易を通じた経済成長と貧困削減を中心テーマに据えた今次ラウンドの成功は、先進国のみならず開発途上国にとっても意義深いものです。
日本は2005年12月のWTO香港閣僚会議に先立ち、「開発イニシアティブ」を発表しました。このイニシアティブは、WTOに加盟している151か国(2007年10月現在)のうち開発途上国が全体の約4分の3を占めるに至った現状を踏まえ、開発途上国が自由貿易の利益を十分享受できるよう、特に競争力の低い開発途上国に重点を置いて経済の実態にあわせて開発途上国が自立していく手助けをするために、「生産」、「流通・販売」、「購入」の3つの局面でインフラ整備を含めた資金協力や技術協力等の支援を包括的に実施するものです。
日本は、ラウンド交渉の進ちょく状況いかんにかかわらず、これまで「開発イニシアティブ」を着実に実施してきました。実際、既にLDC諸国に対する無税無枠措置の拡充(2007年4月から対象品目を約98%まで拡大(注2))を措置し、また、一村一品運動(注3)への支援といった点で実績を積み上げています。
2007年6月末から7月初めにかけて、日本政府は、マダガスカル・ケニア・ザンビアの3か国に対して、「開発イニシアティブ」ハイレベル・ミッションを派遣しました。その結果、先方の大統領や閣僚をはじめとする政府関係者からは、従来の日本の経済協力や「開発イニシアティブ」の下での日本の取組について一様に高い評価と感謝の意の表明がなされました。このミッションを通じて、「開発イニシアティブ」が開発途上国の期待によくこたえるものであることを確認することができました。
2007年秋には、WTOや各地域の開発銀行等の主催で「貿易のための援助(AFT)」に関する様々なレビュー会合(注4)が開催されました。一連のレビュー会合では、開発途上国が貿易から利益を享受するには流通・インフラの整備が必要であることが言及されるとともに、途上国の開発計画の中で「貿易の主流化」を図ることが重要であるとの認識が共有されました。また、2008年には、アフリカについて議論するTICAD IV、および開発が主要なテーマの一つとなりうるG8北海道洞爺湖サミットなど、開発が主要なテーマとなる日本主催の重要な国際会議が控えています。日本としては、これらの機会も見据え、「開発イニシアティブ」を積極的に推進していく考えです。
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開発途上国にとってEPAを締結することは、相手国との貿易を活性化して経済成長を促し、また先進国、開発途上国、双方が貿易を通じて利益を得ることにつながります。特に開発途上国においては、自国の人材育成や経済制度の整備・強化につながる枠組みともなります。例えば、2006年7月にEPAが発効したマレーシアに対しては、農林水産業、教育・人材育成、IT、中小企業などの7分野を、貿易・投資に資する能力向上を図るための協力分野としました。また、日本は早期実現案件を選定し、政府開発援助などを通じてマレーシアの人材育成と制度整備に向けた努力を支援しています。具体的には、マレーシア人学生に対して日本の大学および大学院への留学により日本の理工系教育を受ける機会を提供する「高等教育借款基金計画(HELPIII)」や、中小企業振興のための人材育成支援、木材産業の国家品質保証システムの構築支援などが挙げられます。また、2007年11月にEPAが発効したタイに対しては、農林水産業、教育・人材育成、ビジネス環境の向上等の9分野を協力分野としており、日本は政府開発援助などを活用し、これらの分野における人材育成や制度整備に係る支援をしていきます。
東アジア地域における経済成長の経験を踏まえて、貿易・投資の活性化による経済成長を重視する日本は、引き続きこのために積極的に開発途上国の努力を支援していきます。