日本の対外経済政策の基本は、世界の中で、日本国民と日本企業が安心して働き、利益を上げることのできる環境をつくることにあります。政府開発援助(ODA)を活用し、開発途上国の貿易・投資環境を改善し、その国の経済成長を促すことは、日本の経済活動の幅を広げることにもつながります。
冷戦の終えんにより、従来の社会主義諸国が、市場経済への移行を果たした結果、世界のほぼすべての国家が、国際的で自由な貿易・投資市場のプレイヤーとして参加するようになりました。また、昨今の情報通信技術の進歩(IT革命)と世界的物流ネットワークの構築により、世界経済の一体化がますます進んでいます。このようにグローバル化が進展する中、高所得国と低所得国の所得格差(一人当たり国内総生産(GDP)の格差)は1980年代より拡大しています(グラフ(1))。高所得国(先進国)が順調に所得を拡大している一方で、所得の低い開発途上国で所得が伸び悩んでいるのが現状です。ただ、開発途上国の中でも、中国、インドなどは高成長(注1)を続け、先進国との所得格差を縮小させています(グラフ(2))。
これらの国のように持続的な成長経路への「離陸」に成功した開発途上国では、貿易額や対内直接投資の増加が目立つ国があり、発展パターンの一つとして、経済のグローバル化を通じた「離陸」の事例を見ることができます。例えば、中国では、生産拠点の海外からの移転(資本流入)に伴い、輸入した中間財を組み立てて最終財を輸出したり、中間財の一部製造工程を請け負うようになりました。その結果、所得水準が上昇し、自らも有力な消費地へと発展してきています。
その他の国についても所得水準(一人当たりGDP)の低い国では、対内直接投資残高の増加率が高い国ほど貿易額の拡大も大きく(グラフ(3))、加えて貿易額の伸びが大きい国ほど所得の伸びが大きい(グラフ(4))様子がうかがえます。こうしたことから、開発途上国はグローバル化の恩恵を享受できるように必要な対策を講じ、自立的・継続的な経済成長を実現することが重要です。そのような取組に対して、日本が政府開発援助を活用して協力することは、開発途上国の経済成長を促すとともに、日本の経済活動の可能性を広げることになります。