次頁次頁


囲み I-1 開発イニシアティブの概要

 日本は、2005年12月に開催されたWTO香港閣僚会議に先立ち、貿易を通じて開発途上国の持続的な開発を支援するための包括的な施策として、「開発イニシアティブ」を小泉総理(当時)より世界に向けて発表しました。このイニシアティブのねらいは、開発途上国が輸出能力を身につけることを支援し、ひいてはWTOをはじめとする自由貿易制度の恩恵を相応に受けられるようにすることにあります。
 日本は、長年にわたって経済成長を通じた貧困対策の観点から開発途上国への支援を積極的に行い、特にアジア地域の成長に大きく貢献してきています。このイニシアティブは、日本のこうした経験と知見に基づいて取りまとめられたものです。他の先進国及び中進国に対し、このイニシアティブに各々の方法で続くことを様々な場で日本は求めております。
 開発途上国が自由貿易体制から恩恵を得るためには、貿易の自由化だけでなく、[1]競争力のある製品を生産する能力の向上(生産)、[2]流通インフラを含む国内外の物流体制の整備(流通・販売)、及び[3]市場の開拓(購入)という3つの要素が不可欠です。
 「開発イニシアティブ」は、これら3つの局面のそれぞれについて、「知識・技術」「資金」「人」「制度」といった面での支援を組み合わせ、開発途上国における生産者、労働者と先進国、開発途上国の消費者を結びつける包括的な支援を実施することを目指しています。
 特に、後発開発途上国(LDC)諸国に対して原則無税無枠の市場アクセス(LDCの産品について、原則として輸入数量制限を設けずに関税を免除する措置)を供与するとともに、日本の援助手法を組み合わせながら、他の公的枠組みや国際機関、NGOや民間企業とも連携する包括的アプローチを実施します。
 例えば、カンボジアでは、従来、「生産」分野において農業生産性向上を、「流通・販売」分野では、道路・橋梁や港湾施設の整備を支援してきました。現在は、港湾に隣接する地域に経済特区を建設するなど、輸出産業の育成を支援しています。さらに「購入」の分野では、LDC無税無枠措置や、日本国内における各種のイベントの開催などを通じて販路の確保を支援しています。
 日本発の地域経済振興策として始まり、タイなどで成功を収めている「一村一品」運動も、アフリカや東南アジアなどでも積極的に取り入れられており、日本としても「開発イニシアティブ」における重要な施策の一つとして、2006年2月より「一村一品キャンペーン」を実施しております。(詳細は第I部第2章第1節を参照して下さい)。また、アフリカにおけるネリカ米の普及(詳細は第I部第2章第4節を参照して下さい)やアフリカン・ビレッジ・イニシアティブ(詳細は第II部第2章第3節4.を参照して下さい)等を通じた農業生産性の強化や村落振興を実施しています。これらの施策は、開発途上国の人々の真のニーズに合致した支援を行い、中長期的な生産能力向上に資するとの観点から「開発イニシアティブ」の下では重要な施策として位置付けられています。
 2006年7月には、WTOラウンド交渉が一旦、中断することになりましたが、日本は、ラウンド交渉の進捗状況にかかわらず、「開発イニシアティブ」を着実に実施していく方針です。

図
図


  次頁次頁