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3.地球的規模の問題への取組
 地球温暖化をはじめとする環境問題、感染症、人口、食料、エネルギー、災害、テロ、海賊、麻薬、国際組織犯罪といった問題は、一国だけの問題ではなく、国境をこえた地球的規模の問題であり、人間の生存に関わる脅威となっています。国際社会の安全と繁栄の確保に資するため、日本はODAを通じてこの問題に取り組み、国際的な規範づくりに積極的な役割を果たして行く方針です。

(1)環境問題
 地球温暖化をはじめとする環境問題については、1970年代から国際的に議論されるようになり、1992年の国連環境開発会議「地球サミット(UNCED:United Nations Conference on Environment and Development)」、2002年のWSSDでの議論を経て、その一層の重要性が確認されました。
 日本は環境問題を全人類的課題と位置づけ、重点的に取り組んできました。日本は、2002年のWSSDに合わせ「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD:Environmental Conservation Initiative for Sustainable Development)」(注1)を策定し、地球的規模の環境問題への対応のための支援を行っています。また、2005年2月に策定された新たな「政府開発援助に関する中期政策」においても、「地球的規模の問題への取組」の中で環境問題への取組を取り上げています。
 2005年度の日本の環境分野における援助実績は、無償資金協力、円借款、技術協力及び国際機関に対する拠出金等の合計で約3,092億円であり、ODA全体に占める割合は約29%となっています。

図表II―16 持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD)の2005年度の実施状況(事例)

図表II―16 持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD)の2005年度の実施状況(事例)


(イ)地球温暖化対策
 日本は1997年に発表した「京都イニシアティブ」(注2)のもとで、開発途上国に対して温暖化対策に係る技術の移転・普及を図るとともに、科学的、社会的、制度的側面を含めた温暖化問題への対処能力の向上を進めています。
 京都議定書に定められたクリーン開発メカニズム(CDM:Clean Development Mechanism)(注3)は、温室効果ガスを削減して開発途上国の持続可能な開発の推進に寄与するとともに、日本の排出削減目標を達成する上でも重要なメカニズムです。日本は、2005年2月に京都議定書が発効したことを受け、「京都議定書目標達成計画」を策定しました。その中で、国際的なルールに従いつつ、被援助国の同意を前提として、ODAを用いたCDM事業の推進・活用に主体的に取り組むこととされています。2006年1月、日本として初めてのODAを活用したCDMプロジェクトである、エジプトのザファラーナ風力発電計画を日本政府として承認しました。本プロジェクトは、2006年6月にエジプト政府により承認され、CDM理事会の登録申請手続き中です(CDM事業及びザファラーナ風力発電事業については第I部第2章第3節を参照してください)。

(ロ)環境汚染対策
 日本は、国内の公害問題に取り組む過程で多くの経験と技術を蓄積しており、それらを活用して開発途上国の公害問題への対応に協力しています。特に、急速な経済成長を遂げつつあるアジア諸国を中心に、都市部での公害対策及び生活環境改善(大気汚染、水質汚濁、廃棄物処理等)への支援の重点化を進めています。
 2005年度日本は、インドのコルカタ都市圏の廃棄物管理改善を目的とした円借款の供与を決定しました。インド東部の経済や産業の中枢を担うコルカタ都市圏では、廃棄物が増加したため、一般廃棄物を衛生的に処理するための最終処分場や堆肥化のための施設等を整備し、地域住民の生活・衛生環境の改善を図りました。また、日本は中国に対してこれまでに多くの環境改善事業を支援しています。JBICが2005年に実施した事後評価において、1996年度から2000年度に中国への供与が決定された円借款のうち、重点地域の大気汚染・水質汚濁対策等を目的とした16事業(約1,600億円)を評価した結果、2003年時点で、排ガス中の二酸化硫黄(SO2)については年間約19万トン、排水中の有機物量については年間約34万トン(COD(注4)換算)が削減されました。さらに、都市環境インフラの支援のうち、都市ガス事業で10都市約395万人、地域熱供給事業で6都市90万人以上、下水道事業で28都市1,300万人以上がサービスを受益する見込みです。

(ハ)「水」問題への取組
 環境保全との関連では、日本は、都市部・農村部の特徴を踏まえた上下水道への支援と、水資源管理及び水質保全のための支援を実施しています(詳細は第II部第2章第2節1.(3)を参照してください)。

(ニ)自然環境保全
 日本は、住民の貧困削減を考慮しつつ開発途上国の自然保護区などの保全管理、持続可能な森林経営の推進、砂漠化対策及び自然資源管理に対する支援を実施しています。また、2002年3月の地球環境保全に関する関係閣僚会議において決定された「新・生物多様性国家戦略」において、日本と世界、特にアジア地域は自然環境、社会経済両面から深い関係があることから、アジア地域などの生物多様性保全に積極的に貢献していく必要があることが述べられています。
 過放牧や森林破壊等による砂漠化は深刻な問題に発展しています。日本は2004年より西アフリカのブルキナファソにおいて、砂漠化対処のための伝統知識が生きている現地の在来技術や簡易技術(土壌保全技術、畜耕技術、生活改善技術等)を移転するパイロット事業を支援しています。
 2004年よりエチオピアでは、エチオピア農業研究機構と協力して水、森林の下草、ふん尿など地域資源を利活用した循環型で、農牧林業一体となった土壌保全システムの開発を継続して行っています。また、近年、北東アジアにおいて、遊牧民の過放牧による草原の退化等の理由から砂漠が拡大しており、その影響で付近住民、さらには日本にも黄砂が飛来しています。そのため、日本は黄砂の発生地の一つであるモンゴルに対し、農地・草地保全管理、水資源管理、再生可能エネルギー利用等の技術的問題解決のための実証調査を実施し、黄砂発生抑制対策に取り組んでいます。

モンゴルでの黄砂発生抑制対策(写真提供:(独)緑資源機構)
モンゴルでの黄砂発生抑制対策(写真提供:(独)緑資源機構)

(ホ)国際社会との協調
 世界的な取組として、国際的な資金メカニズムである地球環境ファシリティ(GEF:Global Environment Facility)、国際熱帯木材機関(ITTO:International Tropical Timber Organization)(注)、「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」に基づく多数国間基金(MLF:Multilateral Fund)などが設立・運営されています。日本は、これら国際的な基金の活用や国際機関の場でも積極的な取組を進めており、例えば、ITTOではブラジルの荒廃地の復旧、森林再生技術、環境関連の法整備を進めるための「東アマゾンの荒廃地の復旧と保全」プロジェクトや、コンゴ共和国における国立公園の生態系保全管理計画策定とモニタリングのための「北部国立公園の生物多様性管理と野生生物保護」プロジェクトなどを承認しました。また、モントリオール議定書に基づく多数国間基金では、経済発展が著しい中国やインドなどに対して、オゾン層破壊物質を使用している設備の代替物質・代替技術への転換や技術者のトレーニングを行うためのプロジェクトなどを承認し、地球規模の環境問題対策に取り組んでいます。また、2001年には東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET:Acid Deposition Monitoring Network in East Asia)が始動し、この地域の酸性雨対策で近隣諸国と共同歩調をとっています。


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