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(5)貿易・投資の円滑化
開発途上国の持続的な経済成長のためには、民間セクターの主導的な役割が鍵となることから、貿易・投資を含む民間セクターの活動を促進、活性化することが重要です。しかし、民間セクターを呼び込むための投資環境整備において、開発途上国政府が実行しなければならない政策は膨大であり、多くの貧しい国にとっては自力での対処が困難です。そのため、他国あるいは様々な国際的枠組みによる支援が必要となります。日本はODA、OOF(Other Official Flows:ODA以外の公的資金)などを活用して、こうした開発途上国の投資環境整備のために、インフラ整備、制度構築、人材育成などの支援を行っています。
例えば、2003年度に円借款を供与したインドネシアの西部ジャワ地区最大のタンジュンプリオク港の改修工事に引き続き、2005年度は、同港へのアクセス改善を図るための「タンジュンプリオク港アクセス道路建設計画」に対し、2004年度に続き2度目の円借款の供与を行いました。同港は地域経済に必要な原材料・製品の国際的な玄関口となっており、同事業が物流の改善を通じてインドネシアの経済活性化に貢献することが期待されています。

タンジュンプリオク港(写真提供:JBIC)
このほか、2006年3月には、カンボジア唯一の国際港であるシハヌークビル港に隣接する区域を経済特別区として整備する「シハヌークビル港経済特別区開発計画」に対して、本計画を進めるためのコンサルティング・サービスのための円借款を供与することを決定しました。日本が行ってきたシハヌークビル港の改修・拡張計画に引き続き、経済特別区を整備することは、カンボジアに対する海外直接投資の導入を促進し、貿易を拡大させることとなります。これら一連のプロジェクトにより、カンボジアの民間セクターの活動を活性化するとともに、持続的な経済成長を図ることが期待されています。

シハヌークビル港(写真提供:JBIC)
海外からの直接投資と並んで、貿易は開発途上国の発展に重要な意義を有します。多角的貿易体制の維持・強化のための国際機関として、WTOがあり、今次ドーハ・ラウンドでは、開発途上国の貿易を通じた経済成長と貧困削減が中核的テーマになっています。2006年11月現在、WTOの加盟国は149か国あり、そのうち約4分の3が開発途上国です。そして、それら開発途上国のうち32か国はLDCです。そのため、加盟国間で貿易量や国民総所得(GNI:Gross National Income)など経済状況は大きく異なり、WTO協定という一つのルールに基づいて貿易をするためには様々な調整が必要になります。このため、WTOは開発途上国のWTO協定履行・交渉参加能力向上のために技術協力計画を策定し、WTOの各分野に関する地域セミナーや専門家派遣などを実施しています。日本は2001年のドーハ・ラウンド開始以降、技術協力計画実施のための基金であるドーハ開発アジェンダ・グローバル・トラスト・ファンドに約3億8,000万円を拠出してきました。また、二国間の支援としてWTO協定関連を始めとする貿易関連技術支援/キャパシティ・ビルディングを年間約1,200件実施しています。
今次ラウンドでは、2003年9月にメキシコのカンクンで、2005年12月に香港でそれぞれ閣僚会議が開催されましたが、いずれの閣僚会議においても交渉は合意に至りませんでした。WTO加盟各国は2006年末のラウンド交渉妥結に向けて努力を重ねていましたが、2006年7月末にジュネーブで開催されたG6閣僚会合の結果を受け、いったん交渉が中断されました。
日本は、従来から、経済成長を通じた開発途上国の貧困削減を主張しています。そして、貿易が開発途上国の発展に果たす役割は非常に大きく、貿易の促進を通じて開発途上国の開発を支援することの重要性を訴えてきました。そのため、交渉が中断することは、多角的貿易体制を貿易政策の根幹と捉え、その発展強化のために今次ラウンドの早期妥結を目指して積極的に貢献してきている日本にとっても、また、LDCを始めとする開発途上国にとっても、大きな影響を与えるものと思われます。
現在、さまざまな国際フォーラムにおいて、「貿易のための援助(Aid For Trade)」に関する議論が活発化していますが、日本はその一環として、2005年12月の香港閣僚会議を前に「開発イニシアティブ」を発表しました。「開発イニシアティブ」は、貿易の促進を通じて開発途上国の開発に資することを目的とした包括的支援パッケージで、貿易を構成する「生産」、「流通・販売」、「購入」の各局面で、LDC産品の市場アクセスの原則無税無枠化やODAを通じた様々な支援を組み合わせ、総合的かつきめ細やかな支援を行うものです(開発イニシアティブについては囲みI-1を参照してください)。日本はラウンド交渉の中断に関わりなく、「開発イニシアティブ」をはじめとする開発途上国の貿易振興に貢献していきます。
開発途上国の市場アクセスの改善に関しては、特に開発途上国の産品の輸入時において一般の関税率よりも低い税率を適用する一般特恵関税制度(GSP:Generalized System of Preferences)による開発途上国の輸出能力・競争力の向上が、国際的に重視されています。とりわけLDCに対する無税無枠の市場アクセスの推進は、WTOにおける貿易交渉のみならず、MDGsやLDC行動計画(Programme of Action for the Least Developed Countries for the Decade 2001-2010)をはじめ、国連の場においても取り上げられています。
日本は、1970年の国連貿易開発会議(UNCTAD:United Nations Conference on Trade and Development)における国際合意に基づき、1971年からGSPの拡充に努めてきました。DDA(Doha Development Agenda:ドーハ開発アジェンダ)開始以降の取組として、2003年4月より、LDC以外の開発途上国に対しては約120品目の特恵対象品目の拡大、LDCに対しては、農水産品約200品目を無税無枠措置の対象品目に追加しました。この結果、LDC産品の輸入に関しては、金額ベースで約93%が無税無枠化されることとなりました。特に、全世界のLDC50か国の6割以上を占めるアフリカのLDCに限ってみると、無税無枠対象品目の輸入額が約99%(注)を占める結果となっており、これら諸国の市場アクセスの確保に貢献しています。今後も、「開発イニシアティブ」の中で表明したLDC産品に対する市場アクセスの原則無税無枠化を着実に実施し、LDC産品の市場アクセスの更なる拡大を支援していきます。
さらに、近年、日本が積極的に推進している経済連携の取組には、貿易・投資の自由化に加え、経済制度の調和を進めることにより、人、モノ、カネ、情報の国境を越えた流れを円滑化し、関係国全体の成長に資するという重要な意義があります。そこで、中期政策では、日本が経済連携を推進している東アジア地域をはじめとする各国・地域に対し、その効果を一層引き出すために、ODAを戦略的に活用し、貿易・投資環境や経済基盤の整備を支援していくこととしています。(詳細は第I部第2章第2節を参照してください)
具体的には、貿易・投資に関連する諸制度の整備や人材育成支援、知的財産保護や競争政策などの分野における国内法制度構築支援、税関、入国管理関連の執行改善・能力強化支援、IT、科学技術、中小企業、エネルギー、農業、観光、環境といった分野の支援など、様々な分野における協力を行っています。
日本は今後も、二国間支援や国際機関との協力を通じ、ODA政策と貿易政策の一貫性を確保し、貿易と開発の総合的な観点から開発途上国の多角的貿易体制への参画及び経済連携の強化を通じた貧困削減・持続的成長に積極的に協力していきます。

WTO香港閣僚会議