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(6)ODA以外の公的資金(OOF)及び民間部門との連携
 世界全体の開発途上国への資金の流れを見ると、2004年にはODAが全資金流入量の24.6%(DAC統計:暫定値)を占めているのに対し、OOFや民間資金といったODA以外の資金は全体の4分の3を占めています。このような資金の流れからもわかるように、開発のためには、ODAとともにODA以外の公的資金(OOF)、民間資金との連携が重要です。特に、東アジア地域をはじめとした、インフラ整備・維持管理に必要な、膨大な資金需要に対しては、開発途上国政府の財政資金や、援助国からの公的資金だけでは十分対応できません。従って、民間資金などとの適切な役割分担のもとで、官民協力によるインフラ整備を促進していくことが一層求められています。実際に、経済社会インフラの整備に関しては、最近では開発途上国でも民間部門の資金・技術やイニシアティブを活用したインフラ整備の取組もなされてきています。
 しかしながら、民間企業の開発途上国における事業展開には外貨交換や送金に対する規制があったり、法制度変更、戦争・内乱・政治不安などといったリスクが伴ったりします。そのため、開発途上国で事業展開するにあたっては民間金融機関による融資を受けにくく、積極的な事業展開を図りにくい面があります。このような困難を取り除くために、JBICや日本貿易保険(NEXI:Nippon Export and Investment Insurance)、ADB、世界銀行グループ(注1)のような公的機関は、保険を引き受けたり、民間金融機関と協調しつつ巨額の協調融資を行ったりして、日本企業の開発途上国への事業展開を支援しています。
 また、OOFの活用は、日本企業の海外事業展開を支援するとともに、融資の受入国では経済成長のためのインフラの整備が行われるという利点もあります。特にBOT(Build, Operate and Transfer-scheme)方式(注2)で実施されるプロジェクトは、プロジェクトの成果物が最終的に受入国のものとなります。従って、受入国のその後の経済発展につながるインフラ整備に資することとなり、民間資金の流入を促す役割を果たします。
 開発途上国への民間投資を促進する上で、官民のパートナーシップ(PPP:Public Private Partnership)を強化することは重要です。このような観点から、日本はODAによる取組に加えて、公的機関が民間企業の対外投資のリスクを軽減する投資金融や投資保証・保険などの公的資金を提供することにより、日本から開発途上国への投資を後押ししています。そのような取組の例として、JBICの投資金融、保証、事業開発等金融、及びNEXIの海外投資保険、海外事業資金貸付保険などが挙げられます。
 日本は、2005年度には、5月のルーラ・ブラジル大統領訪日の際に合意された「日伯経済関係再活性化のための共同プログラム」に基づき、ブラジルの鉄鉱石増産に係わる輸送インフラ改修・増強プロジェクトに対する融資を実施しました。このプロジェクトは、ブラジルの鉄鉱石メーカーが保有・運営する鉄道及び港湾設備の改修・増強に必要な資金を供与するものです。資金は日本の民間銀行3行の協調融資であり、これらの民間銀行の融資に対してJBICが保証を供与しました。日本は鉄鉱石のほぼ全量を輸入に依存しており、鉄鉱石の需給が世界的に逼迫している昨今、鉄鉱石の安定供給は喫緊の課題となっています。本融資による輸送インフラ整備を通じて供給量の増大が図られることにより、国際社会における鉄鉱石の安定的な供給の確保につながります。
 また、インドネシアにおいては、経済発展に伴う将来の電力需給逼迫に対応するため、公的資金を活用した電力インフラ開発に加え、民間資金の導入による電源開発を促進し、包括的な電力セクター改革に乗り出しています。日本は同国に対して、電力セクター改革支援と各種金融ツールを活用した電源開発支援といった、ソフトとハードの両面にわたる包括的な支援を行っています。具体的には、世界銀行、ADBと連携し、電力セクター改革に対する包括的な提言を行うとともに、他国の公的輸出信用機関などと協調して、民間部門による発電プロジェクトの形成において主導的な役割を果たしています。
 また、2004年度、日本は「アジア電力タスクフォース」において、民間資金によるインフラ整備の推進、公的資金との連携について検討を行いました。同様の議論で、今後のアジアでのインフラ需要が見込まれる他の分野についても、「アジア官民パートナーシップ研究会」において検討を行いました。このほか、2005年7月公表の「産業構造審議会貿易経済協力分科会経済協力小委員会」中間取りまとめにおいても、PPPの推進が提言されました。それを受けて、2006年1月、60以上の民間企業、関係団体からなる「アジアPPP推進協議会」が設立され、電力、都市交通、上下水道、IT・公共サービス等の分野で日本の技術や知識を活用し、アジアを中心とする開発途上国のインフラを整備できるように積極的に取り組むことが期待されます。
 また、ODAにおける民間部門との連携を強化する動きも進められています。JICAでは、開発途上国で実施している技術協力プロジェクトに対し、民間の活力、創意、ノウハウをより一層生かせるように「提案型技術協力プロジェクト」(注)を実施しています。2005年度は、スリランカの「トリンコマリー県住民参加型農業農村復興開発計画」、バングラデシュの「持続的砒素汚染対策プロジェクト」、メキシコの「チアパス州都市部スラム地域における女性の生活向上プロジェクト」が新たに開始されました。この他、民間団体に事業を委託する「業務実施契約に基づく技術協力プロジェクト」においては、新規に56件(2004年度は22件)を契約して、民間の活力を積極的に活用しています。こうした業務実施契約に基づく技術協力プロジェクトには、NGOや大学へ委託するケースも見られるようになり、多様な団体のノウハウの活用が進んでいます。

チアパス州での女性の職業訓練(写真提供:JICA)
チアパス州での女性の職業訓練(写真提供:JICA)

 また、円借款においても、大学や産業界といった民間部門との連携が進んでいます。マレーシアの高等教育借款基金計画(III)は、現地の日系企業等、民間部門で活躍する人材の育成を目的としており、本事業の現地教育プログラムのカリキュラム開発及び実施は日本の大学からの協力を得て行っています。そして、マレーシア産業界と連携し、産業界のニーズに合った人材を育成することにより、本事業による人材育成支援の効果向上を図る予定です。
 JBICは、開発途上国で多様化する支援ニーズをきめ細かく捉えるため、2001年度より提案型、発掘型案件形成調査を導入しています。提案型は、日本国内の団体などからの提案に基づき、円借款事業に役立つ知見や情報の蓄積を図るものです。これに対し発掘型は、同じく提案に基づき、将来の具体的な案件を発掘・形成することが目的です。2005年度には、提案型についてはスリランカの「NGOによる女性の自立支援」など16件、発掘型についてはブラジルの「バイオ燃料促進プログラム」など10件実施しました。


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