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(4)農業・農村開発
 貧困層の約7割が農村地域に居住し、生計を主に農業に依存しているという開発途上国の状況を踏まえると、貧困削減のためには農業・農村開発が不可欠です。MDGsは、「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる」など貧困削減及び飢餓の撲滅を主要目標に掲げています。特にアフリカ地域の状況は深刻で、サブ・サハラ・アフリカの人口の3分の1にあたる約2億人が飢餓に苦しんでいると言われています(注)。この問題を解決するためには、開発途上国が持続的に食料を供給できるような体制を整備することが必要です。

(イ)農業生産向上に向けた支援
 日本は食料不足に直面している開発途上国に対して、危機回避のための短期的な取組として食料援助を行うとともに、飢餓を含む食料問題を生み出している原因の除去及び予防の観点から、開発途上国の農業生産性の向上に向けた努力を中長期的に支援する取組も並行して進めています。具体的には、貧農・小規模農家の食糧生産の向上に向けた開発途上国の自助努力支援のための「貧困農民支援」、かんがい施設の整備や流通システム改善などに資する無償資金協力や円借款による支援、農業技術向上や農民組織の育成などのための研修員受入や専門家・青年海外協力隊の派遣による技術協力、さらにはNGOなどを通じた小規模かつコミュニティ・レベルで行われる活動に対する草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じた支援など、様々な形態による支援を実施しています。こうした日本の農業分野における援助量は、世界的に見て高い水準にあります。OECD-DAC(Organisation for Economic Co-operation and Development - Development Assistance Committee :経済協力開発機構開発援助委員会)の統計によると、日本の2004年の農林水産分野における援助額はDAC加盟国中で最大であり、同分野における全援助額の約21%を占めています。
 日本は、FAO、国際農業開発基金(IFAD:International Fund for Agricultural Development)、国際農業研究協議グループ(CGIAR:Consultative Group on International Agricultural Research)、WFPなどの国際機関を通じた農業分野への支援も行っています。

図表II―14 農林水産分野の地域別供与実績

図表II―14 農林水産分野の地域別供与実績


(ロ)具体的な取組
 2005年度は、農業分野に関し、カンボジアやエジプトにおいてかんがい施設の改修など約24億円の無償資金協力を実施しました。また、パキスタン、ベトナムにおけるかんがい施設の改修や整備、インドにおける農地保全など約511億円の円借款を実施しています。
 貧困農民支援では、日本から被援助国政府に資金供与をし、食料生産性の向上に必要な肥料や農機具の輸入を支援しています。このようにして調達された肥料や農機具は国内で販売され、回収された内貨は見返り資金として、被援助国の貧困対策事業に活用されます。例えば、ケニアでは調達された肥料を現地NGOの協力を得て、別途調達した種子とともに農民に配布しました。また、スワジランドではトラクターの供与に際して、運転・維持管理に関する講習指導を行うなど、きめの細かい支援を行っています。
 また、日本は、安定的な農業用水の確保及び効率的な水利用を図るため、低コスト・節水型の末端かんがい設備の整備手法を開発し、その維持管理を農民自身が行うことを目的とした、農民の組織化に対する支援を実施しています。2005年度は、タイ、ミャンマー、カンボジアなどをはじめとするアジアモンスーン地域の水田地帯において農民参加型水管理組織の育成、及び能力強化に係る技術協力を実施しました。同地域の水田地帯では日本が経験と知見を有する農民参加型水管理組織(土地改良区制度)を参考にハード、ソフト両面において持続的な農業・農村開発協力に貢献しています。なお、タイにおいては、既に日本の協力により土地改良区を参考にした農民水管理組織が設立され、農民主体の運営が開始されており、効率的な水利用が図られています。

農民による用水路の建設(写真提供:(財)日本土木総合研究所)
農民による用水路の建設(写真提供:(財)日本土木総合研究所)

 また、農村の開発計画の策定や末端用水路、農道などのインフラ整備に地域住民も参加する「村づくり協力」を国際機関と連携して進めています。具体的には、農民参加による土地や水利用に関する計画の策定、施設管理や農機具共同利用のための農民組織の設立・強化、必要資材をドナー側が提供することを前提とした農民の賦役による末端用水路や農道などの整備、施設の維持管理のためのストック・ファンドの創設といったハード及びソフト両面の取組を日本人の専門家が農民に対して直接支援しています。このような「村づくり協力」は、協力の効果が直接農民に届くだけでなく、地方政府や農民の自助努力を誘発・促進させる協力手法としてとても有用です。2005年度には、モンゴルにおいて村づくりの手法を活用しつつ、地方行政職員や農民等のキャパシティ・ビルディングの実施と合わせ、土壌劣化防止に資する土地利用営農及び農業農村開発のモデル計画を策定する調査を開始しています。

(ハ)ネリカ稲の開発・普及支援
 アフリカの農業生産性を高めるための具体的な取組の一つに、ネリカ稲(NERICA:New Rice for Africa)の開発・普及に対する支援があります。日本は、ネリカ稲の開発拠点であるアフリカ稲センター(WARDA:West Africa Rice Development Association、CGIARの研究機関)の活動を支援しているほか、UNDPを通じて普及事業に対する支援を行っています。また、2004年6月よりウガンダにネリカ稲普及技術の専門家を1名派遣し、東アフリカにおけるネリカ稲の普及も進めています。その結果、ウガンダやギニア、コートジボワールで、ネリカ稲栽培面積が広がっているだけでなくその周辺諸国でもネリカ稲の栽培が始まっています。この他、ネリカ稲の効果的な普及を図ることを目的として設立されたARI(African Rice Initiative)の活動を支援するため、栽培および種子増殖に関する専門家を2005年3月よりアフリカ稲センターに2名派遣しています。今後とも日本は、ネリカ稲の普及を促進しアフリカ諸国の米の生産量を拡大するとともに流通を改善し、アフリカ地域の食料安全保障に貢献できるように国際機関、NGOなどと協力していきます。(ネリカ稲については第I部第2章第4節も参照してください。)
 
(ニ)農業分野における砂漠化対策
 砂漠化の問題は地球規模における重要課題として注目されており、農業分野においても砂漠化の問題に直面しています。雨水を利用し営農する天水農業地帯は、発展途上国に広く分布し世界の農用地面積の85%を占めていますが、急速な人口増加や貧困問題などによる家畜の過放牧及び過耕作により、農地の土壌が劣化し、砂漠化が進行しています。日本は1998年12月には砂漠化防止対処条約の締約国となり、開発途上国に対し積極的・効率的な支援を約束しています。こうした取組の中で、砂漠化の進行状況の把握や原因分析、砂漠化の進行が著しい現地の実証圃場での試行を通じ、農業農村開発のための各種「技術マニュアル」の開発をしてきました。2005年度は住民参加型の総合的な農業農村開発を実施し砂漠化防止対策を進めるため、各種技術について、農民が技術の概要を理解し、実践手順を理解するための農民用技術マニュアルを開発するとともに、効率的に行政機関から農民に技術移転を行うために教育マニュアルの開発及び民間セクターを活用した推進体制について調査を行いました。今後、農業農村開発を通じた砂漠化防止対策に関する技術の持続的な活用や周辺地域への技術移転など広範囲にわたり効果が期待できます。

(ホ)水産分野での取組
 水産分野においては、漁港や魚市場などのインフラ整備、漁業訓練センターへの訓練機材などの供与、漁業・養殖業などに係る技術協力のほか、草の根・人間の安全保障無償資金協力により地域漁業団体を通じた零細漁民の生活向上のための支援などを実施しています。また、地域国際機関を通じた協力として、東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC:Southeast Asian Fisheries Development Center)によるASEAN域内の小規模漁業・養殖業開発を支援しており、ASEAN各国から高い評価を得ています。

囲み II-3 バーチャル・ウォーター(仮想水)ではかる日本の海外食料依存度


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