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本文 > 第II部 > 第2章 > 第2節 > 2.持続的成長 > (1)経済社会基盤(インフラ)への支援

2.持続的成長
 貧困削減を達成するためには、開発途上国の経済が持続的に成長し、雇用が増加することにより生活の質も改善されることが不可欠であることから、日本は、開発途上国の持続的成長に向けた努力を積極的に支援していく方針です。

(1)経済社会基盤(インフラ)への支援
 日本は、貧困削減のためには、貧困層に直接影響を与えるような貧困対策や社会開発分野の支援のみならず、経済成長を通じた持続的成長が不可欠であると考えています。そのため、日本は開発途上国の発展の基盤となる経済社会基盤(インフラ)整備を重視しています。例えば、都市と農村地域との交流拡大、災害からの安全確保や海外との貿易・投資を促進するための道路、港湾、飛行場といった運輸、通信等のインフラ、教育、保健、安全な水、居住の場の確保、病院や学校等へのアクセス改善のための基礎社会サービスの拡充に資するインフラ整備、そして、農水産物市場や漁港、農道等地域経済の活性化を目指す小規模インフラの整備などを進めています。
 2005年度のインフラ整備の実績は、運輸分野では円借款約1,942億円、無償資金協力約227億円の合わせて約2,169億円の援助を行いました。また、運輸分野等における約565億円の円借款に対して、本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)(注)が適用されました。
 インフラ整備に関する具体の案件例として、2005年度はベトナムに対する「ニャッタン橋(日越友好橋)建設計画(I)」に対する支援をSTEP案件として実施しました。ベトナムでは近年の経済発展に伴い自動車交通量が増大していますが、ハノイ市内では道路整備の遅れにより慢性的な交通渋滞が発生し、経済活動を阻害しています。本事業は、ハノイ市の環状道路の全線完成に向け、紅河に架かる橋梁等を整備するもので、通過車両の迂回により市内中心部の交通渋滞が緩和されるとともに、市南部の既存市街地と北部の空港や新規開発地域が結ばれることにより北部地域の開発が促進されます。また、ハノイ市は2010年に遷都千年記念を迎えるため、本事業はハノイ市発展のモニュメント及び日越友好のシンボルとなることが期待されています。また、2005年度にラオスに対しては「ビエンチャン1号線整備計画(第1期)」に対する無償資金協力を実施しました。ビエンチャン1号線は、ラオスの首都ビエンチャン特別市における都市内道路網の骨格となる幹線道路であるばかりでなく、市中心部とラオスの2大玄関口であるワッタイ国際空港及びタイ国境のメコン河に架かる橋を結ぶ道路です。ラオスを訪れる外国人の約6割はこのメコン架橋から、1割強はワッタイ国際空港から入国しています。しかし、ビエンチャン1号線の道路状況は極めて悪く、路面の劣化進行と各種車両の通行の混在とが相まって、安全かつ円滑な交通の確保、社会経済活動や日常生活行動等に支障をきたしています。本件計画の結果、ビエンチャン1号線の道路改良及び道路排水施設整備を行い、安全な交通の確保、幹線道路としての機能向上、人及びモノの流通の改善、社会経済活動の活性化、排水機能向上による沿道の保健・衛生環境の改善等が期待されています。
 インフラを開発途上国における適切な開発政策に基づき整備し、持続的に管理・運営するためには、それらに対応しうる人材の育成が不可欠です。技術協力による支援では、国土計画や都市計画の策定、建設した施設を維持管理・運営する技術者の育成、維持管理・運営に必要な機材供与及び開発調査など幅広い協力を行っています。
 また、近年インフラ整備が貧困削減に果たす役割が注目を浴びており、国際機関や日本を含むドナーによるインフラ研究が活発に行われています。例えば、OECD-DACの下部機構である貧困削減ネットワークで2003年以来進められていたインフラ分野の議論では、ドナーが実践すべき「活用指針(ガイディング・プリンシプル)」を策定しました。この「活用指針」には、被援助国の開発計画にのっとったインフラ支援計画の立案・実施や、貧困層のインフラ・サービスへのアクセス改善など、貧困削減のためのインフラ支援のための提言がまとめられています。また、2005年JBICは世界銀行、ADBと共同で東アジアにおけるインフラ整備についての研究成果として「東アジアのインフラ整備に向けた新たな取組」をまとめました。この報告書では、インフラ整備が東アジアの経済成長と貧困削減に果たした役割を評価し、今後のインフラ・ニーズへの対応がまとめられています。さらに、日本とUNDPは、開発途上国の貧困削減におけるインフラの重要性について共同研究を行い、「日本・UNDPインフラ共同研究(Making Infrastructure Work for the Poor)」(注)として2006年3月に発表しました。この共同研究では、ザンビア、セネガル、バングラデシュ及びタイの4か国における小規模インフラ整備の経験を検証し、インフラ整備がいかに貧困削減と人間の安全保障に貢献できるかを実証しました。また、日本は2006年5月に東京で「開発経済に関する世界銀行年次会合(ABCDE会合)」を世界銀行と共同開催しました。この会合では「開発のためのインフラを考える」がテーマとされ、インフラ整備と経済成長や貧困問題に関する議論が行われました。日本からは、アジアにおける日本の経験に基づく研究成果を紹介し、各国の専門家によりインフラの開発に果たす役割が検証されました。

column II-4 日本の伝統工法を活かしたメコン河の河岸侵食対策


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