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(2)政策立案、制度整備
開発途上国の持続的成長のためには、経済社会基盤の整備とともに政策立案、制度整備や人づくりといった観点からの支援が必要です。ODA大綱では、開発途上国の発展の基礎となる人づくり、法・制度構築に対する支援は、日本のODAの重要政策であると位置付けています。ODA大綱を受け、ODA中期政策ではこれらの具体的な措置として、汚職の撲滅、法・制度の改革、行政の効率化・透明化、地方政府の行政能力の向上を支援する方針を定めています。
また、日本は、1996年のG7リヨン・サミットの際に「民主的発展のためのパートナーシップ(PDD :Partnership for Democratic Development)」を発表し、法制度、行政制度、公務員制度、警察制度などの各種制度づくり支援、選挙支援、市民社会の強化、女性の地位向上支援などの取組を強化しています(PDDの主な実施状況については、図表III-31を参照してください)。
■ガバナンス強化への支援
制度政策支援の一環として、日本は2006年3月、昨年に引き続き、インドネシアに対し、開発政策借款(DPL:Development Policy Loan)を供与しました(世界銀行、アジア開発銀行との協調融資:日本1億ドル、世界銀行4億ドル、ADB2億ドル)。開発政策借款はインドネシア政府によるマクロ経済の安定化、投資環境の改善、公共財政管理及び汚職撲滅等のガバナンスの分野における改革の推進及び貧困削減を支援するものです。
また、2005年6月、日本とアフリカ開発銀行(AfDB:African Development Bank)グループはアフリカ諸国の持続的成長のために、アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ(EPSA for Africa:Enhanced Private Sector Assistance for Africa)を発表しました。EPSA for Africaは投資環境整備、金融セクター強化、経済・社会インフラ整備、中小零細企業支援、貿易・直接投資促進を主要5分野として、アフリカの民間セクター開発を包括的に支援することを目的としています(EPSA for Africaについては第II部第2章第3節4.を参照して下さい)。日本の支援の一例として、ノン・プロジェクト無償資金協力による民間セクターの開発があげられます。例えば、ガーナにおいては、2006年8月に供与が決定されたノン・プロジェクト無償資金協力の資金を、民間セクターからのニーズに基づいた設備・加工用原料等の輸入に充てており、この結果同国の民間企業の生産性の向上及び雇用機会創出の進展が期待されています。
この他にも、市場経済化・対外開放政策に取り組む中で各種法制度の整備が課題となっているベトナム、カンボジア、ラオスやウズベキスタンなどの諸国に対し、2004年度に引き続き、2005年度も民法、民事訴訟法などの法案起草・改正、立法化への支援及び法曹人材の育成のための法整備支援を実施しています。これらの支援の結果、ベトナムでは、改正民法、民事訴訟法及び破産法が国会で成立し、いずれも施行されています。また、カンボジアでも、民事訴訟法が2006年7月に国会で成立するなどの成果を挙げています。日本は、上記の取組とともに、法曹人材の育成も行っており、ベトナムの国家司法学院やカンボジアの司法官職養成校などを対象に支援を実施しています。
国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI:United Nations Asia and Far East Institute for the Prevention of Crime and the Treatment of Offenders)(注)では、2005年10月から11月にかけて、汚職防止刑事司法支援研修を実施し、アジアを中心とする開発途上国15か国からの参加を得て、汚職の現状及び刑事司法上の対応に関する問題点と対策等の検討を行いました。
国内治安維持の要となる警察機関の能力向上については、制度づくりや行政能力向上への支援など人材育成に重点を置きつつ、施設整備や機材供与を組み合わせた支援を実施しています。日本は2001年から「インドネシア国家警察改革支援プログラム」として専門家の派遣や研修員の受入を行っています。インドネシアでは、2000年に国家警察が国軍から分離・独立し、市民警察としての定着を目指して組織の民主化が促進されています。こうした動きを支援するために、2005年6月までに合計94人の研修生を受け入れており、研修参加者は日本の警察の事件捜査等に対する姿勢や鑑識技術等を学びました。このほか無償資金協力により、無線機器や薬物簡易鑑定試薬などを供与しており、無線通信網の整備により市民からの通報に迅速な対応が可能となったり、物証に基づく薬物捜査技術が向上するなど、市民の安全に貢献する支援を行っています。

無線機を使用する様子(インドネシア国家警察改革支援プログラム)
また、ブラジルに対しては、引き続き交番制度の技術移転を行っています。具体的には、同国政府からの要請に基づき、短期派遣専門家や研修員の受入れなどをしています。2005年1月からは、これまでの経験を生かし、交番制度の運用を向上させ、中南米地域における交番制度の技術移転のモデルとするため、「ブラジル地域警察活動プロジェクト」を開始しました。2005年中には20名の研修員受入を行い、警察署や交番での日本警察の地域活動の様子を紹介しました。
海上における治安の維持及び安全の確保という観点から、様々な取組を行っている東南アジア諸国に対して、制度づくり、人材育成を中心に支援しています。フィリピンでは、1998年に海上保安機関が海軍から独立しており、日本は同機関に対して、犯罪取締りや海難救助などの技術力向上、将来の体制整備に欠かせない人材育成の面における研修教育カリキュラムの策定、講師の育成等積極的な支援を行っています。マレーシアについては2005年11月30日に正式に運用が開始された海上法執行機関である「マレーシア海上法令執行庁」に対し、創設準備段階から、専門家を派遣し全体的なアドバイスを行っています。インドネシアにおいては、より効率的な業務遂行を目指し、日本からのアドバイスの下、省庁横断的な調整機能を有する「海上治安調整機構」を立ち上げるための検討が進められています。

マレーシア海上法令執行庁設立式典(写真提供:海上保安庁)
さらに、適正な政治プロセスの確保のため、中央アジアに位置するキルギスに対し、2005年度、大統領選挙支援のため講師を派遣し、政治資金の運用や公正かつ適正な選挙管理を目的としたセミナーを開催しました。また、平和の定着に向け国づくりに取り組んでいるイラクについては、イラク独立選挙委員会メンバーを日本に招へいし、選挙管理の基礎的知識の習得を目的とした研修を実施しました。