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(2)保健医療・福祉
多くの開発途上国においては、先進国であれば日常的に受けることができる基礎的な保健医療サービスを依然として受けることができずに、多くの人が苦しんでいます。MDGsでは、貧困削減に資するための保健医療分野の目標として、乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、感染症などのまん延防止の3つが掲げられています。
2003年5月に世界銀行、カナダ、英国の共催で開かれた「保健・栄養・人口に関するMDGsについての調和行動会合」や、その後ジュネーブ、アブジャ(ナイジェリア)、パリで計3回開催された「保健MDGsハイレベル・フォーラム」において、人的資源やグローバルな連携・協調といった課題が議論され、国際社会において保健関連分野のMDGs達成への取組の重要性がより一層強く認識されるようになりました。
日本は同ハイレベル・フォーラムにおいてアジア・大洋州地域会合の開催を提案し、2005年6月、世界銀行、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)、WHOとの協力のもと、「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」を開催しました。この会議では、アジア太平洋地域の24か国から11名の閣僚を含む保健または財務・開発省関係の高官、またドナー国・国際機関・NGOの参加を得て保健に関連するMDGs実現に向けた現状と課題などが協議されました。

保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラムの様子
日本はこの会議で、保健MDGsの達成に焦点をあてた「保健と開発に関するイニシアティブ(HDI:Health and Development Initiative)」を発表し、参加各国から一層の取組の強化・拡充に対する強い期待感が表明されました。このHDIに基づき、日本は母子保健や感染症対策を包括的に支援するため、保健医療システムの整備や分野横断的支援、例えば、ジェンダー平等のための支援、教育分野、水と衛生、インフラ整備などへの取組によって、保健医療の基盤強化などに貢献しています。
ここでは、保健医療体制の基盤整備に関する支援、母子保健に関する支援、国際協調について、日本の取組を説明します(感染症対策については第II部第2章第2節2.(2)を参照してください)。
(イ)保健医療体制の基盤整備に関する支援
保健医療分野への国際社会の支援は、抗ウイルス薬の患者への提供を通じたHIV/エイズ対策やワクチンによる小児感染症対策、蚊帳の配布によるマラリア対策など、直接的な疾病対策に焦点が当てられる傾向にあります。一方、日本としては、このような疾病対策と同時に、開発途上国内における保健医療の基盤強化が、疾病予防を始めとする保健分野の課題への対策に極めて重要な役割を果たすと考えています。このため日本は、より多くの人々へ平等に基礎的な保健医療サービスを提供するというプライマリー・ヘルス・ケアを重視して、特に国全体の保健医療システムの整備に力を入れており、地域保健医療及び予防活動の強化、開発途上国の実情に即した保健医療制度の構築、保健医療に携わる人材の育成及び保健医療インフラの整備などを支援しています。こうした支援の例として、ガーナでは、技術協力プロジェクト「アッパーウエスト州地域保健強化プロジェクト」を2006年度から5年間の予定で実施しており、ガーナでも特に貧困度の高いアッパーウエスト州を対象に、郡保健局、コミュニティヘルスワーカー、受入コミュニティ自身の能力強化を通じて、農村部での基礎保健サービスを拡大させることを目指しています。この取組においては、同地域への無償資金協力、青年海外協力隊と連携したプログラムアプローチによる協力を行っています。また、スリランカにおいては、医療施設における業務改善計画や経営改善、包括的な慢性疾患予防計画等を策定することを目的として、開発調査「スリランカ国保健システム管理強化計画調査」を実施中です。
(ロ)母子保健に関する支援
母子保健を取り巻く問題は、医療サービス、医療制度、公衆衛生から、母親となる女性を取り巻く社会環境まで多岐にわたっています。開発途上国、特に後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)においては、妊産婦の健康の改善、乳幼児の死亡・疾病の低減、性感染症・HIV/エイズへの対策が急務となっています。
妊産婦の健康の改善については、助産師・看護師など母子保健サービスに従事する人材の育成、緊急産科ケアの体制整備、緊急産科ケア施設への物理的・社会的アクセスの確保(道路の整備や、女性が適切な産科診療を受けることのできる社会環境の構築など)に対する支援を実施しているほか、望まない妊娠の低減のために、家族計画の教育・情報提供、避妊法・避妊具(薬)へのアクセス改善、思春期人口への教育の推進などへの支援にも取り組んでいます。例えばベトナムに対する「リプロダクティブ・ヘルス・プロジェクト(フェーズ2)」では、同国の貧困地域であるゲアン省を対象として、地域の保健医療従事者や産婆に対し清潔なお産の教育を行ったほか、地域住民の啓発活動などを通じてリプロダクティブ・ヘルスの向上を支援しました。
乳幼児の死亡・疾病の低減については、乳幼児の死亡原因となりうるポリオ、麻疹、破傷風などに対する予防接種や、蚊帳の配布等のマラリア対策を支援しています(マラリア対策のための蚊帳の配布については第II部第2章第2節3.(2)(ハ)を参照してください)。また、小児下痢症に対し経口補水液の普及を図った基礎医療サービス整備支援も実施しています。ラオスでは、小児保健サービスの強化を図るため、ウドムサイ県を対象として「子どものための保健サービス強化プロジェクト」を実施しており、参加型アプローチを重視しながら、保健医療従事者の人材育成や学校保健、保健サービス機関の調整機能強化などを行っているところです。

ラオスでの「子どものための保健サービス強化プロジェクト」(写真提供:JICA/長倉洋海)
性感染症やHIV/エイズへの対策としては、予防・治療・ケアそれぞれの側面から取り組まなければなりません。保健サービスや情報へのアクセスを考慮し、例えばリプロダクティブ・ヘルス・サービスの中に、性感染症対策や自発的な検査とカウンセリング(VCT:Voluntary Counseling and Testing)活動を導入するなど、多方面からの配慮と包括的なアプローチで支援を行っています。
日本は、2005年度にマダカスカルで実施した「マジュンガ州母子保健施設整備計画」などのように、母子保健医療の改善及び母子保健従事医療者の技術向上・育成を目的とした二国間協力に取り組みつつ、UNICEF主導による緊急産科ケアサービスの整備への協力や、UNFPA、国際NGOである国際家族計画連盟(IPPF:International Planned Parenthood Federation)との連携などを通じた支援も行っています。東ティモールでは、医療機関における初期小児疾病及び出産前後に対応するため、UNICEFの「母子保健改善計画」などに対して支援を実施しました。
(ハ)国際協調
日本は、保健分野の援助に関して様々なパートナーとの間で、政策対話、事業計画、実施、評価・モニタリングの各段階において連携を進めています。例えば、外務省は保健分野の支援に携わる国内NGOと定期的に懇談会を開催して意見・情報交換を行っています。UNICEFとの間では、1990年代初頭からポリオ根絶支援の連携を継続しており、近年は、麻疹、破傷風などの小児感染症のワクチン接種、蚊帳の配布等のマラリア対策、安全な水の供給といった分野にも協力が広がっています。米国国際開発庁(USAID:United States Agency for International Development)との間では「保健分野における日米パートナーシップ」に基づき効率的・効果的な援助実施のために連携を行っています。2006年1月に東京で開催された、同パートナーシップの第3回レビュー会合では、2006~2007年の行動計画を策定し、HIV/エイズ、結核、マラリア、ポリオや、鳥インフルエンザといった感染症対策、及び保健システム強化に向けた取組を重点課題としました。
ASEANとの関係では、2006年8月末、ASEAN事務局及びWHOの協力を得て、ASEAN10か国から社会福祉及び保健医療政策を担当するハイレベルの行政官を招へいし(ASEAN10か国から次官級2名を含む計39名が参加)、第4回ASEAN・日本社会保障ハイレベル会合を開催しました。会合では、「社会福祉・保健医療サービスの連携と人材育成」のテーマのもと、社会的弱者(児童及び女性)支援に焦点を当てて、各国の状況、対応策、モデル事例といった情報・経験が共有され、今後のASEAN諸国の取組に向けて建設的な提言が行われました。

第3回ASEAN・日本社会保障ハイレベル会合(写真提供:厚生労働省)
column II-3 南アフリカ共和国 ~ドミニカンろう学校に対する教育機材の供与~