column II-3 南アフリカ共和国 ~ドミニカンろう学校に対する教育機材の供与~
開発途上国を支援するに当たっては、国内の貧富の格差や地域の格差と並んで、社会的弱者の状況も十分に考慮する必要があります。日本は、ODA大綱の中で、「公平性の確保」を基本方針として掲げています。その一環として、教育の分野で能力開発のための支援も行っています。例えば、日本は2005年に、南アフリカ共和国(以下、「南アフリカ」)のドミニカンろう学校に対し、「草の根・人間の安全保障無償資金協力」を通じた支援を実施しました。この学校は、南アフリカの首都プレトリア北郊外、ハウテン州の最北端に位置し、1962年に設立された公立のろう学校です。同校はアパルトヘイト時代にはハウテン州唯一の黒人ろう学校であり、その後も旧黒人居住区に住む多くの低所得者の児童を受け入れています。
現在、南アフリカでは、約225万人(注1)の身体障害者が存在し、そのうち聴覚障害者は約31万人にのぼると言われています。これら聴覚障害者のうちの66%が機能的識字能力(注2)を有しておらず、また70%は無職であると言われています。彼らは身体的及び経済的に二重のハンディキャップを背負っており、そのため、教育及び職業訓練を通じた聴覚障害者の社会的自立支援が、重要な課題となっています。
こうした課題に取り組むため、ドミニカンろう学校では社会生活で必要な識字能力の向上を目指して、手話での教育のみに頼らずできるだけ普通の小学校のカリキュラムに沿った教育を実施しています。また、将来に向けた様々な職業訓練を段階的に行うことで、児童の能力開発にも力を入れています。
この学校では、こうした児童の能力開発に効果的な「オキュペーショナル・セラピー(作業療法)」を実践しています。このセラピーは、ボール、マット、ロープ等の器具を用いて児童が体を動かすことで、聴覚障害により妨げられている身体機能を向上させるという治療方法です。しかし、ドミニカンろう学校ではこのセラピーを専門教材なしに行っていたために、療法士は各児童の発達段階に合った指導が十分に行えずにいました。
こうした状況を受けて、日本は、オキュペーショナル・セラピーに使用される専門教材を購入するのに必要な資金、約140万円を「草の根・人間の安全保障無償資金協力」により支援しました。これによって同校では、療法士が聴覚障害に有効なセラピーを専門的かつ適切に行えるようになりました。
この支援については、地元の新聞「プレトリアニュース」でも記事として採り上げられました。その記事の中で同校の療法士カニングさんは、「児童は日本の支援を大変喜んでいます。僅かな支援であったとしても聴覚障害児童たちにとっては、きっと一生を大きく変えるものになることでしょう。」と述べています。


供与された専門機材を実際に使用する生徒たち
注1: 南アフリカ統計庁2001年国勢調査による。
注2:社会活動に参加するのに必要となる読み・書き・計算能力のこと。