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●今後の取組
貿易・投資を通じた開発の実現において、WTO体制の下での自由貿易の推進は極めて重要な意義があります。WTOドーハ・ラウンドは2001年ドーハで開催されたWTO閣僚会議において立ち上げられました。ドーハ・ラウンド交渉は正式には「ドーハ開発アジェンダ」交渉と呼ばれ、多角的貿易体制への参画による開発途上国の開発促進を重視しています。
貿易を通じた経済成長と貧困削減を中心テーマに据えた今次ラウンドの成功は、開発途上国にとって意義深いものです。また、経済活動を貿易に依存している日本にとっても、開発途上国をも含めた自由貿易体制の一層の推進に向けた今次ラウンドの成功は、重要な意味を持ちます。しかしながら、ドーハ・ラウンドは、加盟国間の意見の乖離が埋まらないことから、2006年7月末、いったん交渉が中断されました。このことは、WTO体制下での自由貿易の発展強化のために今次ラウンドの早期妥結を目指して積極的に貢献してきている日本にとっても、また、後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)をはじめとする開発途上国にとっても、大きな影響を与えるものと考えています(ドーハ・ラウンドの現状については第II部第2章第2節2.(5)を参照してください)。
また、開発途上国を含めた自由貿易体制を推進することを目的として、日本は2005年12月のWTO香港閣僚会議に先立ち、「開発イニシアティブ」を発表しました。日本はWTOに加盟している149か国のうち開発途上国は全体の約4分の3を占めるに至った現状を踏まえ、開発途上国が自由貿易の利益を十分享受できるよう、特に競争力の低い開発途上国に重点をおいて経済の実態に合わせて開発途上国自身が自立していく手助けをするために、「生産」、「流通・販売」、「購入」の3つの局面でインフラ整備を含めた資金協力や技術協力等の支援を包括的に実施することにしています。その一環として、LDC産品に対する市場アクセスを原則無税無枠化することを表明し、現在2007年度中の実現を目指し、準備を行っています。
開発イニシアティブについては、各国から高く評価されています。例えば、2006年3月14日に東京で開催された「開発イニシアティブの実施及び対アフリカ協力に関するシンポジウム」では、ケニア大使やベナン大使より、開発イニシアティブは、人々の能力開発というソフト面での貢献が期待でき、実際的なイニシアティブであると評価されました。マラウイのムタリカ大統領が訪日した際には、開発イニシアティブの一村一品運動に対するマラウイへの技術支援等につき、小泉総理大臣(当時)に対して謝意が示されました。また、5月の小泉総理大臣(当時)のアフリカ訪問の際には開発イニシアティブを含む、アフリカ支援全般につき、アフリカの首脳より感謝が表明されました。
また、国連本部において、日本のこうした取組を紹介するための国連主催シンポジウムが開催され、日本の開発イニシアティブは各国代表より高い評価を受けました。このシンポジウムを主催したチョードリー国連事務次長(LDC特別代表)も新聞への寄稿の中で、開発イニシアティブをはじめとした日本の取組は真に開発途上国の立場に役立つものであるとして高く評価しています。
また、日本はWTO体制を補完・強化するため、開発途上国を含む各国とのEPA(注2)の締約にも積極的に取り組んでいます。日本と発展段階の異なる開発途上国との間でEPAを締結する際には、人づくり、知的財産保護や競争政策の分野における国内法制度の構築支援といった投資環境整備や、情報通信技術、科学技術、中小企業といった分野に対する支援など、相手国の人材育成や経済制度への踏み込んだ支援が不可欠です。
特にEPAには、関税や輸出入に関する数量制限の撤廃といった物品貿易に関する要素に加え、締約国間で経済取引の円滑化、経済制度の調和のような、双方の経済関係を強化するための取組及びそのための協力が含まれています。そのため、経済取引の円滑化や経済制度の調和の基礎となるインフラや法制度が整っていない相手国に対しては、ODA等を活用してそれらの制度を整え、EPAの経済効果をさらに高めることが重要となります。
開発途上国にとってEPAを締結することは、相手国との貿易を活性化して経済成長を促し、また先進国、開発途上国、双方が貿易を通じて利益を得ることとなります。特に開発途上国においては、自国の人材育成や経済制度の整備・強化につながる枠組みともなります。
例えば、2005年12月にEPAを締結したマレーシアに対しては、農林水産業、教育・人材育成、情報通信技術、中小企業などの7分野を、貿易・投資に関する能力向上を図るための協力分野としました。日本は、「高等教育借款基金計画(HELPIII)」、「中小企業開発公社の能力開発」などを含む24案件を早期実現案件として選定し、ODA等を通じてマレーシアの人材育成と制度整備に向けた努力を支援しています。
東アジア地域における経済成長の経験を踏まえて、貿易・投資の活性化による経済成長を重視する日本は、引き続きこのために積極的に開発途上国の努力を支援していきます。
囲み I-1 開発イニシアティブの概要

高等教育円借款基金計画(HELPIII)で来日した留学生がイベントに参加している様子(写真提供:JBIC)