本文 > 第I部 > 第2章 > 第2節 > ●ベトナムの投資環境改善への日本の貢献
●ベトナムの投資環境改善への日本の貢献
次に、ODAによる経済成長支援の例として、ベトナムの事例を紹介します。
1986年、ベトナムは社会主義体制を維持しつつ、経済の自由化をはかるドイモイ政策を採択し、以降市場経済化を推進しています。その具体的成果として1996年にはAFTA(ASEAN Free Trade Area:ASEAN自由貿易地域)への加盟を果たしました(注3)。
日本は1992年のベトナム援助再開以降(注4)、ベトナムに対して総額54億2,477万ドル(2005年までの実績)のODAを供与しています。この支援の内訳はインフラ整備から制度政策支援、人材育成と多岐にわたっています。
制度政策面におけるベトナム支援の代表例として、1995年より開始された市場経済化支援のための開発調査が挙げられます。ベトナム政府は、計画経済から市場経済への移行を決め、具体的な方策について日本に対して助言を要請してきました。日本はこの要請を受け、石川滋一橋大学名誉教授を総括主査として、1995年から2001年にかけて開発調査を行い、ベトナム政府関係者と共同で財政金融、産業貿易、農業農村開発、国有企業改革の各分野の政策に関する提言を作成しました(通称「石川プロジェクト」)。このプロジェクトにおいては、日本自身の経済復興の経験を生かしています。
また、2003年には、日越両政府及び日系企業が緊密に協力し、ベトナムに投資する企業が実際に直面する問題についての解決に取り組む日越共同イニシアティブを立ち上げました。日本はベトナムの投資環境整備に対する努力を積極的に支援し、最終的には行動計画の85%が達成されました。この成功を受けて、2006年にはフェーズ2を立ち上げ、ベトナムの更なる制度改善への支援を進めています。このイニシアティブを実施した2003年から3年の間に、ベトナムへの外国直接投資は30.6億ドルから60.2億ドルに増加しました。この他にも包括的貧困削減成長戦略(CPRGS:Comprehensive Poverty Reduction and Growth Strategy)の推進を支援するため、25億円の協調融資を世界銀行とともに行ったり、ベトナム社会政策銀行に対する小規模金融の専門知識・ノウハウ向上への支援や2010年の実施を目指した税制改革の支援など、ベトナムの制度政策整備に積極的な役割を果たしています。

ベトナム社会政策銀行における実地調査の様子(写真提供:財務省)
また、日本は政策面での支援に加えて、経済活動を促進するインフラ整備にも大きく貢献しました。その一例は、1994年から進めた北部への交通インフラ整備です。それまでベトナムでは、ドイモイ政策以来ホーチミン市を中心とした東南部に直接投資が集中していました。日本はベトナム北部の投資環境を整備し、直接投資を呼び込み、北部の経済活性化をはかるため、ベトナム北部で最大の貨物取扱量を誇るハイフォン港の改修工事、及び同港と首都ハノイを結ぶ高速道路である国道5号線の改良工事を実施しました。
図表I―5 ベトナム北部-国道5号線とハイフォン港

この時期ベトナムでは、外国企業からの投資が活発に行われていました。特に北部地域には、日本企業が現地企業と合弁で工業団地を建設したり、外資系企業および現地企業も進出するなど、経済が活性化しました。タンロン工業団地には、日系企業を中心として約60の企業が入居しています。タンロン工業団地を開発・運営・販売している業者によれば、工業団地全体への海外直接投資は2006年3月時点で約11億ドルにのぼり、この工業団地の製品は全て輸出に向けられ、輸出総額は7.3億ドル、ベトナムの総輸出額の2.2%を占めているということです。国道5号線の改良工事及びハイフォン港の改修工事は2000年に終了しました。これらの影響により、ハノイの工業生産額成長率が1999年の8.2%から2002年の24.8%へ、ハイフォンでは、1999年の17.6%から2002年の24.9%へと急激に増加しています(注1)。

国道5号線改良事業(ベトナム)(写真提供:JBIC)

ハイフォン港リハビリ計画(ベトナム)