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●人の交流と人材育成
 上記のようなODA事業の実施にあたっては、日本の技術や知見を伝えるために、日本の専門家が開発途上国の関係者に対して研修、指導を行います。こうした現地での研修、指導のほかに、日本の大学への留学支援や専門家の研修員を受入れる事業も実施されています。開発途上国の人材を育成し、日本の有する技術や知見を開発のために役立てることは、相手国にとって重要な意義があります。日本の経済発展の歴史を振り返ってみても多くの優秀な人材が日本の技術力向上、ひいては経済の発展に寄与してきました。このような経験から、日本のODAは人材育成を重視しています。また、開発途上国では、専門家、青年海外協力隊員、シニア海外ボランティア等が現地の住民との人間関係を築きあげながら援助に携っています。日本語教育や日本人材開発センター(通称:日本センター)の設立(詳細は第II部第2章第2節2.(3)を参照してください)を通じて、市場経済化を推進するための実務人材の育成、日本に関する情報の発信や日本への現地の情報の発信による相手国と日本の人々の交流・相互理解の推進も行われています。こうしたODAによる人的交流は、「日本の顔が見える援助」の一翼を担っています。

●研修員受入れ事業
 日本は1954年のODA開始後、今までに合計約23万人以上の研修員を受入れ(2005年度末累計)、開発途上国の開発を担う人材育成に貢献してきました。日本における研修に対する開発途上国の人々の評価は高く、集団研修に参加した開発途上国関係者の8割以上が、研修を通じて当初の目標を達成したと報告しています。
 ODAによる研修員受入れ事業は、母国の開発に役立っているのみならず、日本に対する理解の増進や親日的な人々を増やすことにもつながっています。例えば、研修員受入れ事業の経験者によって、世界91か国で105の同窓会が形成されており、それぞれの分野における日本との協力関係の維持、強化に大きく貢献しています。また、選ばれて日本で研修を受けた行政官や技術者、研究者の中には、母国で枢要な地位につく人が少なくありません。日本の研修事業に参加した開発途上国の人の中から、40名を超える人が母国で閣僚に就任しています。例えば中国、韓国、シンガポール、モンゴル等では研修事業経験者がかつて閣僚になっており、インドネシアでは、10人の研修経験者が現職の議会議員となっています。研修を通じて培われた開発途上国と日本との間のきずなは、帰国後も様々な形で役立っています。

交番で指導を受ける研修員たち(写真提供:JICA/今村健志朗)
交番で指導を受ける研修員たち(写真提供:JICA/今村健志朗)

帰国研修員の同窓会でのプレゼンテーション風景(サモア)(写真提供:JICA)
帰国研修員の同窓会でのプレゼンテーション風景(サモア)(写真提供:JICA)

column I-2 人と人がつなぐ援助 ~インドのフセイン・サガール湖流域改善計画~

●留学生事業
 2005年には日本への留学生の総数が約12万人を超えています。日本は留学生の受入れを積極的に進めており、ODAを通じた援助としては国費留学生の受入れを含む留学生交流事業の促進に対して、2006年度では約420億円が予算として計上されています。東南アジア諸国連合(ASEAN:Association of Southeast Asian Nations)からの留学生の約73.5%が日本留学に満足しており、同地域の日本留学経験者の8割以上が帰国後、周囲の人たちに日本留学を勧めているほどです。また、日本語ができ、日本人、日本の政治、経済、社会について理解すると、日本との仕事が上手く進むなどの理由から、ASEANの日本留学生の約7割が帰国後の仕事で日本語が役立っていると報告しています。
 例えば、日本はマレーシアとの間で、円借款を通じて、1992年からマレーシア人学生が現地教育機関で2~3年間学び、予備教育、日本語及び大学1、2年次の専門科目を習得した後、日本の大学に留学する等のプログラムを実施しています(高等教育借款基金計画(HELP))。2006年4月の時点で、669人が日本に留学しました。マレーシアは、2020年までの先進国入りを目標とする政策を掲げ、高度な科学技術に支えられた経済発展及びそのための人材育成に力を入れており、従来から日本、韓国等東アジアの経済社会を模範とする「東方政策」の下、日本へ留学生・研修生を派遣してきました。
 これらの留学生・研修生は、帰国後、マレーシアの日系企業への就職者や大学院への進学者も多く、研究機関への就職や、大学を含む高等教育機関で教職に就く場合もある等、日本留学で学んだ知識や経験が生かされ、マレーシアの経済発展に貢献しています。HELPはこのようなマレーシアの人材育成に貢献するプログラムとして高く評価されています。
 さらに日本は、「東方政策」の新たな展開として、ASEAN全体における人材育成も視野に、日本型の大学をマレーシアに設立し、日本の価値観・労働倫理・文化的環境の中で学生を教育する「マレーシア日本国際工科大学構想」をマレーシア政府とともに推進しています。同大学は、2009年開校を目指しており、現在、マレーシア高等教育省の下に設置されている大学設立準備センターに日本の常駐専門家3名が派遣されています。

東京で開催されたマレーシアからの留学生を対象とした歓迎式(写真提供:JBIC)
東京で開催されたマレーシアからの留学生を対象とした歓迎式(写真提供:JBIC

●青年海外協力隊の活躍
 研修員受入れ事業や留学生事業とは反対に、日本から開発途上国へ人材を派遣している事業の一つが青年海外協力隊(JOCV:Japan Overseas Cooperation Volunteers)です。青年海外協力隊は、20歳から39歳の日本の青年男女をボランティアとして開発途上国に派遣し、農林・水産、保健衛生、教育、文化等の分野で相手国の人々と生活や労働を共にしながら、相手国の発展に協力する国民参加型援助です。1965年以来、これまでに28,000名を超える協力隊員が81か国で活動しており、2005年度には約1,400人の隊員を派遣しています。
 協力隊員は、開発途上国の主要都市のみならず離島や村落レベルでの活動を行うことが大きな特徴です。これによって、現地の抱える課題を克服するために必要な知識や技術をきめ細やかに指導することができ、開発途上国の人々から感謝され、高く評価されています。協力隊員の活動の成果は、農業技術の向上や学校教育の改善、保健サービスの強化といった専門分野にとどまりません。受入れ地域の住民や関係機関で働いている人々の時間厳守の習慣や勤労意識の向上に寄与したり、自国文化・価値観の再認識・再評価を促すといった面でも現れています。また、協力隊の活動は、草の根レベルで相手国との友好親善や相互理解の増進にもつながっています。

ひらがなの書き方が間違っていないかをチェックする三上さん(写真提供:JICA)
ひらがなの書き方が間違っていないかをチェックする三上さん(写真提供:JICA)

 このような友好親善・相互理解の促進の例として、日本語教師の青年海外協力隊員としての派遣が挙げられます。青年海外協力隊では、2006年4月までに約1,400名の日本語教師を協力隊員として65か国に派遣しています。例えば、オーストラリアの近くに位置するバヌアツに日本語教師として派遣された三上あずささんは、日本語を教えるだけではなく、授業を受ける態度や、ごみを捨てない習慣等を生徒たちに根気良く教えた結果、生徒たちが自主的にポイ捨てをする友人を注意する姿が見られるようになったと言っています。

松村さんの指導を受けて初めて折り紙を体験する来場者(写真提供:JICA)
松村さんの指導を受けて初めて折り紙を体験する来場者(写真提供:JICA)

 そして、カリブ海に浮かぶ小さな島国であるセントビンセントでは、日本について知らない人が多く、また青年海外協力隊が派遣されてまだ4年で、派遣された人数も累計で10人と少ないことから、日本や隊員について知ってもらうイベントを企画しました。「JAPAN DAY~はじめまして、こんにちは~」と題したイベントでは、日本食のブースやアニメの上映等、様々な企画が大好評でした。現地の人々の日本に対する反応も好意的で、企画に携わった隊員の松村佳子さんにとっても今後活動をしていく上で、異文化理解について考える良い機会となったようです。

山田さんの歌を聞く子供たち(写真提供:JICA)
山田さんの歌を聞く子供たち(写真提供:JICA)

 また、マラウイに村落開発普及員として派遣されていた山田耕平さんは、かんがい設備を整える作業などを行う傍ら、HIV/エイズ感染者のための歌を作り、同国のヒットチャートで1位となりました。その結果、エイズ検査を受ける人が徐々に増加しているという報告もあります。
 JICAの協力隊事業に関する評価(注)によれば、協力隊員の活動により恩恵を受けた人々の間では、日本や日本人に対して好印象をもつ人の割合が協力隊員の赴任前から赴任後の間に倍増しています。この背景には、上記の例のように、協力隊員の活動を通じて、相手国の人々が日本人の仕事に対する姿勢、日本の技術や制度、日本の社会や文化・言葉に関する理解を深めたことが主な要因となっています。


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