column I-2 人と人がつなぐ援助 ~インドのフセイン・サガール湖流域改善計画~
インドの南部アンドラ・プラデシュ州の州都ハイデラバード市は、近年国際ビジネスの拠点として多くの外国企業が進出し、急速に発展している都市です。しかし発展の反面、同市の中心に位置するフセイン・サガール湖の水質の悪化という深刻な環境問題を抱えています。この問題に対し、インド政府は水・衛生分野で知見を有する日本に支援を要請し、水質改善と周辺地域の衛生環境の改善を目的として、下水処理場の建設・改修・下水管の敷設といったインフラの整備や、湖底の底泥浚渫、湖岸整備といった湖の環境整備などに対し、77億円の円借款による支援を行っています。

フセイン・サガール湖に流入する水質が悪化した河川(写真提供:JBIC)
この事業には、琵琶湖を抱える滋賀県彦根市の経験が反映されていますが、これは彦根市とハイデラバード市を結びつける、半世紀にも及ぶ個人レベルの交流によって可能となったものです。
「そもそも、両市の縁は、1959年4月に東京で開かれた「ワイズメンズクラブ」(注1)の大会で、インドのメンバーと会って意気投合したことから始まった。」この大会に参加した彦根市在住の島野さん(彦根市国際協会監事)は当時をそう振り返ります。この出会いがきっかけとなり、1965年には両市の「ワイズメンズクラブ」が「インターナショナル・ブラザー・クラブ(IBC)」(注2)関係を結び、2005年にはIBC締結40周年を祝して盛大な記念会合が開催され、内外に広く報道もされました。
同じ頃、日本政府がフセイン・サガール湖の流域改善計画への支援を検討していました。その際、JBICの担当者が偶然IBC締結40周年祝賀大会の報道を見て両市の縁を知り、湖と共生し、水質改善という同じ課題を抱える両市の共通点に目を留めました。そして、JBICが彦根市、滋賀県立大学と連携し、ハイデラバード都市開発庁を含めた4者の共催で、「水質改善に関するワークショップ」がハイデラバード市で開催されることになりました。個人レベルに端を発し、長年にわたって培われてきた両市の縁が、国際協力へと発展する結果となった瞬間でした。
このワークショップでは、琵琶湖での深刻な水質悪化の経過と原因や、水質改善の取組やその成果について具体的な説明が行われ、改善結果に大変驚いた参加者から、たくさんの質問がなされました。こうした高い関心を受けて、ワークショップの後、ハイデラバード側の関係者より「是非、琵琶湖に行って現場の取組を実際に見てみたい」との強い要望が出されました。そして2006年5 月に彦根市においてJICAを通じた研修が実施されることになりました。研修では、琵琶湖や浄水施設の見学を通じて、水質改善に関する技術や知識の習得が行われました。
受け入れ先である彦根市市民交流課の川嶋さんは、人口規模(注3)、文化の違い等の不安はあったものの、水質保全対策のありのままの姿を紹介することに主眼をおいた、と述べています。またこうした協力を、市として継続的に行うことは困難を伴うかもしれないが、すでに個人レベルでの人的交流の礎が築かれているので、長期的に良い関係を築いていきたい、と考えています。ODAによる支援は、この半世紀にわたる両市の縁をより確かなものとしました。そして今後、琵琶湖での経験が活かされ、フセイン・サガール湖の水質が改善されていくことが期待されています。

熱心に発表に聞き入るワークショップの参加者たち(写真提供:JBIC)
注1:ワイズメンズクラブ(Y’s Men’s Club)は1922年にアメリカで誕生した任意団体。主としてYMCA (Young Men’s Christian Association)を支援しながら活動を行っている。
注2:各国にあるワイズメンズクラブ同士が、提携関係を結ぶこと。
注3:彦根市の人口が約11万人に対して、ハイデラバード市は約360万人。