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column I-1 日本のODAが果たしてきた役割の評価 ~ODA評価有識者会議座長・東京工業大学大学院教授 牟田博光先生~


 ODAは国民の税金をその原資としていることから、その目的が達成できたか、達成されたとしても費用に見合うものであったかについて明らかにしなければならない。ODAとして具体的に何をしたのかという活動内容、それへ投入した人、物、資金、時間等は明確にできるが、その投入が意図した成果を生んだかどうかは自明ではない。投入の結果何が直接生み出されたかという、比較的測定が容易なアウトプット(開発行為の結果)ではなく、そのアウトプットによって達成が期待される社会的成果であるアウトカム(短期的な効果)、さらには広範なインパクト(中・長期的な効果)が重要である。社会の向上に寄与しないアウトプットでは意味がないからである。新ODA大綱(2003年)にはODA の目的として「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資する」と書かれているが、これは援助の最上位のインパクトである。
 これまで行われた多くのプロジェクト評価結果は、わが国のODAプロジェクトは各種インフラを整備することによって生活基盤や生産基盤を構築し、環境対策支援等を通じて持続的発展を促し、教育や保険医療サービスの質の向上と普及等を通じて人間開発に寄与したことを示している。さらに分野別、重点課題別、国別の評価は、これらの成果の蓄積が、東南アジア諸国に典型的に見られるように、各種生産性を向上させ、生活水準の向上や貧困削減に寄与したことを示している。これらの地域の平和と発展は日本の安全と繁栄の必須の条件である。
 ODA投入の規模が大きければ、対象地域や国の貧困率や経済水準を直接向上させることも不可能ではないが、通常できることは相手国に適用可能な各種の開発モデルを相手国側と一緒に作り、さらに相手国がその経験を普及・発展させることを支援することである。多くの評価結果は、ODA活動を通じて、開発途上国側の関係者が新しい知識、技術、生産手段を得ただけではなく、日本人専門家と共に働く中で、勤労意欲、勤務態度、日々の改善努力を含めて、マインドセットが変わり、能力向上がはかられたことも示している。こうして、プロジェクト成果の蓄積が開発途上国の日本や日本人に対する理解を醸成していく。
 援助行為が具体的なアウトプットを生み、アウトカムになり、さらに国際社会の平和と発展、我が国の安全と繁栄という最終インパクトに確実に結びつくためには、因果関係の連鎖が論理的にも現実にも強くなければならない。各種細切れのプロジェクトをいろいろやるだけではインパクトには結びつきにくいところから、プロジェクトを形成、実施する際、そのインパクトが最も大きくなるように、総合的、戦略的に案件を形成・構成することが重要である。そしてそのような努力を通じて、ODAが国際社会の平和や発展、日本の安全と繁栄にますます大きく寄与することを願っている。

牟田博光先生
牟田博光先生


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