column I-3 砂漠化防止につながる活動を人から人へ ~マリ共和国セグー地方南部における砂漠化防止への取組を事例として~
砂漠化は地球規模の環境問題です。雨量の減少といった気候の変化に加え、人口増加や貧困問題から起こる過開墾、家畜の過放牧、過度な森林伐採といった人間による活動が砂漠化の原因であるとされています。そのため、砂漠化を防止するには、このような活動を誘発する貧困問題にも取り組む必要があります。
日本は1970年代に始まったアフリカのサヘル大干ばつを受けて、同地域で1985年から2000年にかけ、砂漠化防止のための技術開発を目的とした調査を実施しました。この調査の結果、砂漠化防止のためには、現地で生活している人々のオーナーシップ、すなわち自ら主体となって今までの生産活動を見直し、砂漠化を進行させない持続可能な開発計画を立案、実施する自助努力の必要性が指摘されました。

サヘルでの調査結果をふまえ、マリ共和国のセグー地方南部では、2000年からJICAが中心となり、砂漠化に対する住民参加型の開発調査が行われています。同地域は、ニジェール川とバニ川に挟まれた豊かな土壌を持ち、また雨も多かったことから、比較的農業に適した地域でした。しかし近年、この地域では砂漠化が進行し、住民の生活が脅かされるようになってきたため、砂漠化を防止する有効な対策を必要としていました。
マリにおける開発調査は、地域住民の主体的な参加を通じて、住民の潜在能力を引き出すために包括的な農村開発を推進するもので、砂漠化問題に対する新しいアプローチです。現段階では60村(合計人口約4万人)に対して、サヘルの調査結果により開発された一連の技術を取り入れた、小規模総合事業プログラム(注)を実施しています。
このプログラムを実施するに当たっては、特に村落指導員や住民のリーダーの育成に力を入れています。住民主体の農村開発では、村落指導員の存在が不可欠であり、彼らを通じて、より住民に近い視点を取り入れることが可能となります。また、住民の中から選ばれたリーダーがいることで、住民の参加意欲も高まります。住民同士が話し合った結果や活動計画を記録することができるように、識字教育も同時に実施されています。このような住民の能力開発を行った結果、現在では住民主導による様々な小規模事業が実施されつつあります。
この小規模総合事業プログラムは、現在進行中ではありますが、今までの取組が評価され、2005年の砂漠化対処条約第7回締結国会議において、砂漠化防止の優良事例として紹介されました。今後このプログラムは、現在実施されている小規模事業の効果が確認された後、セグー地方南部の残り440村(人口約43万人)にも導入されていく見込みです。当プロジェクトを通じた砂漠化防止という大きな目標に向かって、住民主体で実施される砂漠化対策の成果が期待されています。

識字教育を受ける住民たち(写真提供:緑資源機構(J-Green))
注:砂漠化、貧困問題、ジェンダー等、複雑に絡み合った問題の解決を図りながら、総合的に推進する農村開発プログラム。このプログラムでは、効果が現れるのに比較的時間のかかる植林等の技術の導入を、住民の生活改善にすぐに効果をもたらすことが期待される小規模な事業(薪の量を減らすことができる熱効率の高いかまどの導入や、安全な水の利用を目的とした井戸の設置等)と組み合わせて行っている。これにより、植林等の成果が調査終了後も維持・拡大することが確認されている。