本編 > 第I部 > 第3章 ODA今後の展望
第3章 ODA今後の展望

青年海外協力隊の派遣でインドネシアで日本料理を教える協力隊員
Point
●これまでの成果と歩みを踏まえつつ、政府は、新しいODA大綱に則して、今後とも改善に向けたたゆまぬ努力を行う決意。
●より効果的な援助実施のために、ODAの成果の明確化、相手国政府との政策協議の強化、結果重視のアプローチ、他の援助主体との連携の強化、評価の拡充等を重視。
●援助の進め方の改善については、現地ODAタスクフォースの一層の機能強化、関係府省やNGOとの連携の強化、情報公開の強化、国民参加の拡大が課題。
●援助実施体制の整備については、援助実施機関との連携の強化、人材育成、大学研究機関との連携が必要。
以上述べてきたとおり、日本の援助は、過去50年間、その時々の状況にあわせ変化を遂げるとともに、大きな成果を上げてきました。
世界の現実に目を向けてみると、今日なお途上国を中心に11億以上の人々が1日1ドル未満の絶対的貧困の中で暮らしているほか、8億近い人々が飢餓にさいなまれています 。また、冷戦の終了後、グローバル化が進展する中で、貧富の格差、民族的・宗教的対立、紛争、テロ、自由・人権及び民主主義の抑圧、環境問題、感染症、男女の格差など、数多くの問題が絡み合い、開発に関わる問題は新たな様相を呈するようになっています。2003年に改定されたODA大綱は、このような状況の下での日本のODAの目的、重点課題、重点地域などを包括的に提示しています。これまでの50年間に積み上げてきた日本のODAの成果と歩みを踏まえつつ、日本は、今後とも、新ODA大綱に則して、貧困削減、持続的成長、地球的規模の問題への取組、さらには平和の構築といった課題に取り組む決意です。
これまでのODAの歩みを振り返ると、もちろん、日本のODAに課題がなかったわけではありません。しかし、50年の間に、いくつかの課題は克服され、日本のODAの進め方に修正が加えられてきました。例えば、ODAの開始当初、当時の経済情勢等にかんがみて輸出振興と深く結びついていた日本の援助は、 日本の経済力の向上に伴い、徐々に性格を変え、今日では、日本の援助の理念においても、実施においても、援助と日本の輸出振興とを結びつけるようなことは既になくなっています。誤解に基づく批判はあるとしても、この点に関する本質的な批判は、もはやほとんど見られなくなりました。
他方で、日本の援助については、引き続き、様々な観点からの問題点の指摘があります。例えば、援助の有効性、効率性に対する疑問や、各府省間の連携が十分でないなどとの批判などです。2003年8月に改定されたODA大綱は、こうした課題に政府としてどう対処しようとしているかを示すものです。また、新ODA大綱は、人間の安全保障の視点の重視といった基本方針や、平和の構築といった日本が今後重点的に取り組むべき課題を挙げています。今後は新ODA大綱に即してODAをより戦略的、効率的に、また透明性の高い形で実施していく必要があります。
本章では、今後、日本がODAを行っていくにあたり、どのような課題が残されており、そして、それら課題にどのように対処していくべきかについて、やや中長期的観点から、政府の考え方をまとめて説明します。以下では、援助の結果、援助の進め方、援助実施体制の3つに分けて論じます。
■援助の結果: より効果的な援助実施のために
援助の総額については、これを大幅に増加させる事が困難な状況にあります。それゆえ、援助自体の有効性、効率性を高め、援助の質を向上させることがますます重要となっています。援助の効果を高め、途上国の発展に一層資する援助を行うことができれば、日本に対する評価も高まり、ひいては日本の利益にもつながります。
援助の有効性を高めるためには、様々な方法を検討する必要があります。第一に、援助の目的、援助により期待される成果を明確にすることが重要です。改定されたODA大綱は、日本の援助の目的、重点課題、重点地域などを明確に示していますが、新ODA大綱に示された考え方を踏まえ、これを更に、中期政策、国別援助計画、分野別イニシアティブなどの下位の政策、そして、個々の援助プロジェクトに反映させていく必要があります。このような方策を通じて、援助の戦略性を高めることが重要となっています。
第二に、これら政策を個別の援助によって実施していく際には、被援助国政府との緊密な政策協議を通じ、先方の援助需要を正確に見極めることが大切です。また、新ODA大綱の重点課題やその時点における国際的な課題、さらには、日本が援助を行うにあたり、日本の経験と知見を活用することができるか否かなどといった要素も考慮に入れ、総合的に判断する必要があります。同時に、限られた資源をできるだけ有効に活用するため、選択と集中の考え方に立って資源を重点的に配分するとともに、ODA以外の政府の政策や非ODA資金(ODA以外の公的資金や民間資金)との連携を図りつつ援助を進めていく必要があります。もとより、日本の援助は途上国の自助努力支援を基本としており、被援助国の自主性とオーナーシップを尊重しつつ、押しつけにならないよう配慮する必要があります。このためにも、被援助国政府との密接な政策協議を通じて、互いの援助に対する認識や進め方を共有し、開発を実施していくことが必要です。この政策協議の強化のためには後述する現地ODAタスクフォースの役割が重要となります。
援助の効果を高めるための第三の方策としては、結果重視のアプローチが挙げられます。従来、各国の援助を語る際には、ともすれば援助の投入量の多寡にのみ関心が集中しがちでした。しかし、一部の途上国などからは外国政府による援助は効率が悪く、コストばかりかかって有効な援助が行われていないという批判も少なくありません。MDGsなどにも典型的に示されているとおり、最近の援助を巡る国際的潮流においては、結果重視のアプローチがますます重視されるようになってきています。日本としても、今後は、援助の結果、成果に着目したアプローチを一段と進めていく必要があります。各種の政策文書の中で、単に当面の援助投入目標を示すのではなく、援助の実施によって到達すべき目標をできるだけ具体的に示すことが求められています。また、援助の実施にあたっては、その過程で、援助の効果についてのモニタリングを行うとともに、プロジェクト完了後にはそれぞれの事業が生んだ成果を含め、十分な事後評価により援助の効果を検証していくことが求められています。モニタリング・評価の実施のためにはそのための手法の研究や、評価実施のための体制整備も重要であり、可能な範囲で、徐々にこうした面での取組を強化していく必要があります(評価については後述)。
columnI-17 野口記念医学研究所の新たな挑戦~研究者の現場参加
第四に、他ドナーやNGOなど、他の援助実施主体との連携を一層強化することも援助の効果を高めるためには必要です。途上国の開発のための資源は限られており、効率的な援助の実施の観点から、援助の手続きの調和化などの援助協調は最近の国際的な課題の1つです。HIV/AIDS対策に関するThree Onesの考え方(注)に典型的に示されるとおり、各国の支援を調整することなくして援助の効果を上げることはできません。ドナーがバラバラに援助を行うことによる途上国側の負担(transaction cost)を押えることを通じて、援助効果の向上を目指すこうした最近の議論においては、ドナーは共同で資金を提供(直接財政支援など)すべきであり、各国の「旗を下げた援助」を行うべき、との声すらみられるようになってきています。こうした極端な考え方をすべて受け入れる事はできませんが、日本としても援助手続きの調和化などを含む援助協調については、[1]オーナーシップの尊重、[2]国別アプローチ、[3]多様性の尊重を主張しつつ、積極的に対応しています。厳しい経済・財政状況の中で援助を実施している日本は、納税者の理解を得るべく、日本の援助が目に見える成果を上げることが必要だと考えていますが、このような要請と援助協調の必要からくる要請とをどうバランスさせていくのかは、日本にとって大きな課題です。日本としては、国際社会の流れに追随するのではなく、国際目標の設定や援助手法の改善等において、独自の援助戦略や考え方を発信し、更に積極的に参画・リードしていく必要があります。また、国際社会との連携のもう1つの側面として、日本が世界の中で積極的に進めている南南協力の推進が挙げられます。新しいODA大綱も、「アジアなどにおけるより開発の進んだ途上国と連携して南南協力を積極的に推進する」としています。より開発の進んだ途上国が、自国の開発経験と人材などを活用して、他の途上国に対して行うという南南協力は、社会・文化・経済事情や開発段階などが比較的似通った状況にある国々による協力が可能となることから、効果的かつ効率的な協力の実施が可能となるメリットがあります。日本は、1975年以来、南南協力を通じた援助を実施してきており、この分野では世界をリードしていますが、これを更に進めていく必要があります。
第五に、環境社会配慮ガイドラインなどの活用による、援助の公平性の確保の問題があります。ODA政策の立案や実施にあたっては、ODAの成果が現地の住民を含む被援助国国民に公平にゆきわたるように配慮する必要があります。そのためには、援助の実施に際して、特に被援助国内における子供、障害者、高齢者等の社会的弱者が置かれている状況や被援助国内の貧富の格差や地域格差をも考慮し、日本のODAの案件自体が現地の環境や地域社会に与える影響等にも十分注意を払う必要があります。さらに、途上国において均衡のとれた持続的な開発を実現していくためには、開発における男女共同参画の視点は重要であり、男女の均等な開発への参加と受益を図る必要があります。こういった考え方は、新しいODA大綱において、「基本方針」の一項目と位置づけられていますが、援助の効果的実施のためには欠くことのできない重要なものです。
日本は、これまでも各種の環境配慮ガイドラインに沿って、途上国側の取組につき事前確認を行っていましたが、そうしたガイドラインに従って、環境や社会面への影響に対する配慮を継続、強化していくことが必要です。
ODAにおける男女共同参画の視点についても、同様に、きちんと配慮していくことが援助の効果的実施のために必要です。今後とも新しいODA大綱を踏まえて、国内外の関係者の連携を強化しつつ、男女共同参画の視点を重視し、公平で効果的な経済協力を目指すとともに、女性の地位向上に一層取り組んでいく考えです。また、女児を含む女性をエンパワーする(能力を開発する)ことにより、社会や経済の開発が促進されることにも留意していきます。
最後に、ODA評価についても改めて触れておく必要があります。政府としては、ODAを効果的・効率的に実施するためには評価が重要であると考えています。ODAの評価については、ODA改革に関する国内の議論や開発援助に関する国際的な会議においてもその重要性が指摘され、日本政府としてその拡充に努めてきました。新しいODA大綱においても評価の更なる充実をうたっています。現在、ODAの評価は政府関係各府省とJICA、JBICといった実施機関が連携しながら実施しています。また、有識者など第三者に依頼した第三者評価が広範に実施されるとともに、政府自身による政策評価も行われています。さらに最近では、国際機関や他の援助国、被援助国政府との合同評価なども行われるようになってきました。援助の実施自体が他の援助国や国際機関と連携して行われるようになるにつれ、評価も連携して行う必要があることは当然のことですが、このような傾向は今後とも拡大していくことが予想されます。日本としては、引き続きこれら合同評価を積極的に推進し、そのための体制整備、評価手法の研究などに力を入れていく必要があります。

現地を視察する評価ミッション(セネガル環境分野協力評価)
評価の結果は、ODAの計画や実施に活用されてこそ、その存在意義があります。現在も、評価の結果を日本側のみならず被援助国の関係者に対してもフィードバックしていますが、政策立案、実施、評価の3つのサイクルが、1つの輪になって、次の政策立案、実施、評価につながっていくという循環が機能するよう、制度全体のシステム化、改善が更に必要です。更に、ODA評価を世界レベルで充実していくために、OECD-DACにおける評価ネットワークの作業に積極的に参加するとともに、被援助国との連携強化の一環として、被援助国の評価能力向上を支援することも必要です。日本政府が、アジアの開発援助関係者及び国際機関関係者の参加を得て行っている「ODA評価東京ワークショップ」は国際的にも高く評価されています。今後ともこのような努力を地道に継続していくことが求められています。
■援助の進め方:時代にマッチした機動的、効率的でより透明性の高い援助実施のために
援助の進め方についても機動性、効率性、透明性を高めるべく、不断の改善を進めていく必要があります。
第一に、戦略性の強化とも関連する問題として、現地ODAタスクフォースの強化などを含む国別アプローチの強化という課題があります。ODAの戦略性・透明性・効率性の向上や説明責任の徹底を図るためには、国別の援助戦略構築における現地の役割の強化が必要です。この考えのもと、新しいODA大綱では「現地機能の強化」の方針が打ち出されました。新しいODA大綱は、「援助政策の決定過程・実施において在外公館及び実施機関現地事務所などが一体となって主導的な役割を果たすよう、その機能を強化する」としています。現地を中心として、被援助国にとって何が開発上の優先課題になっているのか、その中でもどのようなことに日本の貢献が求められているのかを総合的かつ的確に把握するため、在外公館や実施機関の現地事務所などにその国についての知見や経験をもつ「外部人材」を登用したり、現地に精通した現地関係者の協力を得ることにより現地の経済社会状況などを十分把握すること、そして、そのような仕組みを作ることがますます重要となっています。また、このような現地機能の強化は、現地ベースでの援助協調にも良い効果を及ぼします。近年、被援助国政府のオーナーシップの下に、援助を含む関係機関が協力して貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)の策定とその実施が進められていますが、そのような動きに積極的に参画するためにも、援助の重要性の高い国を中心としてこれまでに64か国について立ち上がっている現地ODAタスクフォースの一層の機能強化が必要です。

政府要人も参加して開催された現地ODA政策協議の様子
第二に、援助の効率性の向上のための措置として、日本国内の関係者(関係省庁間、NGO、有識者、民間関係者など)との連携を更に強化する必要があります。ODAに関係する各府省間の連携、連絡は近年格段に改善されてきています。そもそも日本では、政府の意思決定において原則としてコンセンサス方式が採用されていることもあり、他の援助国との比較において各府省間の協議が不十分という状況はありませんが、引き続き縦割り行政の不効率や一貫性のなさに対する批判の声が聞かれます。現在、1府12省庁がODA予算を有しており、各府省が実施するODA事業が全体として整合性を保ち、効果的・効率的に実施されるためには、関係府省の有する技術や知見を生かしつつ、府省間での連携・調整を強化することが不可欠です。また、各府省が実施するODAが相矛盾することなく実施され、ODAの効果を発揮することが重要であり、そのためには政府全体が同じ政策や目標を共有し統一性を保つことが重要です。
新しいODA大綱は、政府全体として一体性と一貫性のある政策を立案し、実施するために、「対外経済協力関係閣僚会議の下で、外務省を調整の中核として関係府省の知見を活用しつつ関係府省間の人事交流を含む幅広い連携を強化する」としています。閣僚レベルの対外経済協力関係閣僚会議の下に、政府開発援助関係省庁連絡協議会、政府開発援助関係省庁連絡協議会幹事会、資金協力連絡会議、技術協力連絡会議、ODA評価連絡会議などの各種会議があります。このような仕組みを活用しながら、今後とも、ODAの実施にあたって関係各府省の技術や知見を生かしつつ、より効果的・効率的な援助の実施を図るなど、様々なレベルで関係府省間の連携強化を図っていく必要があります。例えば保健分野では、外務省、厚生労働省、文部科学省、実施機関などが定期的に相互の連携のための協議を行っています。このような形で、特定分野毎に、必要に応じて関係する各府省庁が集まってそれぞれの行っているODAについて連携を強化するメカニズムを構築することも検討すべき課題です。なお、この点は、単にODAの範囲内の話ではなく、政府の政策全体の一貫性の問題でもあります。ODAと貿易・通商政策、農業政策などのODA以外の政策との間の政策一貫性の確保も同様に重要な課題です。
新しいODA大綱においては、また、様々な援助主体が開発において果たす役割を踏まえ、「国内のNGO、大学、地方公共団体、経済団体、労働団体などの関係者がODAに参加し、その技術や知見を生かすことができるよう連携を強化する」としています。このほかにも、日本の民間企業は、過去の経験から環境をはじめとする様々な分野で優れた技術を持っており、また新たに生み出してもいます。それらを現地の援助需要を踏まえつつ活用することは効果的開発に資すると同時に、より直接的な日本国民の援助活動への参加へとつながり、援助に対する国民の理解を深めることにもつながります。NGOや大学、経済界などとの連携の強化は、政府とこれら関係者との意見交換という形のみならず、実際の援助への参画という形で進んできています。関係者との連携が更に円滑に進むよう、必要な制度面での手当を含め、今後一層改革を進めていく必要があります。
第三に、透明性の向上のための措置として、情報公開の強化、国民参加の促進などが挙げられます。日本の外交において大きな役割を担うODAを活用して途上国への開発援助を進めていくためには、広く国民の理解と支持を促進することが不可欠です。新しいODA大綱にもあるとおり、ODAの政策、実施、評価に関する情報を、幅広く迅速に公開し、十分な透明性を確保するとともに積極的に広報することはますます重要です。既に行われている、ODAメールマガジンの発行、ODAタウンミーティングの開催、ODA民間モニターの派遣のような取組を拡充し、国内において積極的な情報公開と広報を進めていくことが課題です。

ODAシンボルマーク・ステッカー
columnI-18 アンコール遺跡の救済
また、以上に述べた日本国内における広報に限らず、ODAを通じての日本の積極的な国際貢献については海外においても正しく認知され、支持されることが重要です。ODA改革を巡る動きの中でも、被援助国における日本のODA広報に対する関心も高まっており、相手国国民に対し、日本のODAの実績等を分かり易く示すような広報努力が求められています。日本は、従来より海外における日本の援助が正しく評価され、個々の案件が日本の援助によるものであることを周知すべく、署名式や引渡式において現地プレスの取材に協力したり、日本の援助物資に日章旗ステッカーやODAシンボルマーク・ステッカーを貼付したり、看板などを設置しています。また、当該国に対する日本のODA政策やその成果について広く相手国国民に訴えるべく、被援助国向けにODA広報テレビ番組を制作して放映したり、現地プレスに対して日本の援助現場視察の機会を設定したり、さらに、在外にある日本国大使館が中心となって現地のJICA・JBIC等とも協力し、日本のODAに関するパンフレットを作成したり、大使等による講演やホームページによる発信を行うなど様々な活動を行っていますが、今後ともこの面での努力を格段に強化していく必要があります。
■実施体制
以上のような援助の改善を進めていくにあたって、忘れてはならないのは、援助を実施する体制の整備です。1990年代に日本のODA予算が急速かつ大幅に増額された際にも、援助実施体制を支える人員は予算の増額幅ほどには増えませんでした。今日の状況下、援助を支える人員を大幅に増加させることは容易ではありませんので、様々な工夫により援助実施体制を強化していく必要があります。具体的には、以下のような措置を検討する必要があります。
第一に、政府と実施機関の間の連携の強化です。効率的・効果的な援助を実施するためには、関係府省間の連携のみならず、政府と援助実施機関の連携を強化することにより一貫性を確保しつつ有機的な連携の下援助を行うことが重要です。新しいODA大綱においてもこの重要性は確認されており、「政府と実施機関(独立行政法人国際協力機構、国際協力銀行)の役割、責任分担を明確にしつつ、政策と実施の有機的な連関を確保」することがうたわれています。また、それを促進するために人事交流を含む両者の連携を強化するとともに、政府と実施機関間の連携にとどまらず、実施機関相互の連携を強化することも重要です。
政府は、政策の企画・立案を行い、実施機関はその政策に基づき実施を行います。2003年10月に独立行政法人化したJICAについては、政府の採択する案件を実施するにあたっての自主裁量が高まり、より効率的・効果的に業務を実施することが期待されています。既に、政府と実施機関の間の連携は強化されつつありますが、援助の専門機関であるJICA、JBICには援助関係人材が豊富に存在しており、政府としてもこれら有為な人材を十分に活用することが求められています。現地ODAタスクフォースにおいては、大使館とJICA、JBICの現地事務所が一体となって活動しています。こういう形での協力は今後とも強化されなければなりません。また、JICAとJBIC間の連携についても、既に定期的な情報・意見交換のみならず、具体的な案件の形成や実施の場面で連携・協力などが行われてきたところです。今後は更に、現地ODAタスクフォースの枠組みにおいて知見・経験を共有して、国別援助計画の下に両機関が作成している事業実施等計画をすりあわせていくことも重要です。また、人事交流の推進を図ることも期待されています。
第二に、援助を支える人材の育成が緊急な課題です。援助を実施するのは人間であり、優れた開発人材の確保と活用は効率的に援助を進める上で極めて重要です。特に、分野・課題ごとの高度の知見や技術を有し、豊かな国際性も備えた専門家の育成が強く求められています。このような開発人材の発掘・育成はODA改革の重要な柱である国民参加や効率性の向上を推進するためにも重要な要素となります。新しいODA大綱においても「専門性をもった人材を育成する」とされています。同時に、そのような人材が国内外において広く活躍できるよう、「機会の拡大に努める」とともに、「海外での豊かな経験や優れた知識を有する者などの質の高い人材を幅広く求めてODAに活用」していくことが重要です。政府は既に、ODA改革での議論を受けて、JICAに「国際協力人材センター」を開設し、2003年10月よりインターネット上での対外サービスを開始しました。ここでは、広く国際協力に関わる人材の有効活用を図るため、JICAをはじめとする国際協力関係の求人情報の提供、JICA国際協力人材登録制度への登録、研修・セミナー情報の提供などを行っています。
第三に、大学や研究機関との連携も重要です。日本の大学は、国際協力人材育成のため、1990年代に国際協力関係学部・研究科等を設置するなど、人材育成の面から重要な役割を果たしていますが、これに加え、開発途上国に関する地域研究、開発政策研究も大学等の重要な役割です。大学や研究機関における、こうした研究の活発化を図るとともに、日本の開発に関する知的資産の蓄積を図る必要があります。JICAやJBICにおいては、開発援助問題、開発政策、援助手法等につき内外の研究者との共同で調査研究を実施しています。さらに、2003年7月には、日本の大学が有する知的資源を広く開発協力に活用するための「国際開発協力サポート・センター」が開所し大学等が開発協力に参画するための環境整備が進められています。こういった努力を更に積み重ね、日本の援助を支える人材の層を少しでも豊かにしていくことが求められています。
■まとめ
以上述べてきたとおり、日本の援助については、なお多くの課題が山積しています。日本がリーディング・ドナーとして、途上国援助の世界で指導力を発揮するためには、これまでの成果に慢心することなく、たゆまぬ努力を継続していくことが必要不可欠です。