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(2)感染症

 日本は、「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」に沿って、外務省、厚生労働省及びJICAをはじめとする関係省庁及び諸機関が連携して途上国の感染症対策に取り組んでいます。このIDIが契機となって、国際社会の感染症対策に対する関心が高まり、2002年1月の世界エイズ・結核・マラリア対策基金の設立に繋がったことは、第II部1章3-(2)-(イ)で説明したとおりです。主な感染症別に2002年度の具体的な取組状況を紹介すれば以下のとおりです。また、保健分野における感染症以外の取組については、第III部2章1節1-(2)で詳細に説明しています。

(イ)HIV/AIDS
 日本は、若年者層とハイリスク・グループへのHIV/AIDSの予防活動、VCT活動(HIV/AIDSの自発的カウンセリングと検査)、エイズ検査・診断体制の整備等に貢献しています。2002年度の主な実績としては、タイ、ケニア、ザンビア、ガーナにおけるエイズに関する基礎研究支援、タンザニア、ザンビア、南アフリカ、メキシコ等15か国へのエイズ検査キットの供与などを行いました。また、国連合同エイズ計画(UNAIDS)を通じ、世界レベルのエイズ感染状況の動向把握、ワクチン開発及び新治療薬開発の促進、各種予防対策等のガイドライン開発等を行いました。(なお、世界エイズ・結核・マラリア対策基金への資金拠出などについては第II部1章3-(2)-(イ)を参照してください。)

(ロ)ポリオ
 ポリオは、WHOによる2000年の西太平洋地域(注)におけるポリオ根絶宣言をはじめとして、全世界からの根絶まであと一歩のところまで来ています。日本は、まだポリオが根絶されていない南アジア地域及びアフリカ地域に対して支援を行っており、ポリオのワクチン接種のために2002年度は22か国、総額約49億5,000万円の支援を実施したほか、専門家や青年海外協力隊の派遣などを行いました。

(ハ)結 核
 DOTS(直接監視下の抗結核薬の服用)普及のため、2002年度は中国へ総額4億200万円の抗結核薬・検査機材を供与したほか、専門家の派遣、日本の結核研究所における途上国からの44名の研修員受入、イエメンに結核対策の研修及び結核検査・研究を行うための結核対策センターを建設するなどの協力を実施しました。

(ニ)マラリア
 マラリア対策については、主に蚊帳の使用を促進するための援助を行っています。2002年度の主な実績として、小児感染症対策の一環としてポリオや麻疹のワクチン接種等とパッケージにしてマラリア対策用の蚊帳をエチオピアとモーリタニアへ供与したほか、ナイジェリアでは蚊帳の供与とマラリア予防教育を行いました。

マラリア対策のため、薬剤を塗布した蚊帳を使用している病院(ナイジェリア)
マラリア対策のため、薬剤を塗布した蚊帳を使用している病院(ナイジェリア)

(ホ)寄生虫症
 タイ、ケニア及びガーナに日本が設立した国際寄生虫対策センターにおいてマラリアを含む寄生虫症対策のための人材育成と研究活動を行っているほか、NGO支援や青年海外協力隊によるギニア・ワーム、フィラリア、土壌伝播寄生虫などの対策に取り組んでいます。特にギニア・ワームについては、日本は米国に次ぐ大きな貢献をしています。1986年には世界で約350万人いた感染者が、2002年には約5.5万人と98%低減しており、引き続き、全世界からのギニア・ワーム撲滅に向けて取り組んでいきます。また、2003年2月には日本が「国際寄生虫対策ワークショップ2003」を主催し、WHO、UNICEF、世界銀行などとともに国際寄生虫対策の推進について話し合いました。

図表III-13 沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)の主な実施状況

沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)の主な実施状況(2002年度)


(へ)SARS
 重症急性呼吸器症候群(SARS)対策では、2003年3月にベトナムへ緊急援助隊による専門家チーム(注)を派遣しました。3月13日にベトナム政府からSARS対策に関する援助要請を受けた日本は、関係省庁(財務省・厚生労働省・外務省)と実施機関(JICA)の連携・調整により、同月16日には専門家チームがベトナム入りするという迅速な対応を実現しました。また、日本は、これまでに新しい感染症に対する緊急援助の経験がなく、今回のSARS対策への専門家チームの派遣に際しては数々の困難が予想されましたが、日本の技術協力プロジェクトにより協力実施中だった同国のハノイにあるバックマイ病院やWHO等の諸機関と連携・調整を行いつつ、患者の治療方針、感染防御体制などについての助言や感染防御資機材の供与などを実施し、ベトナムにおけるSARS制圧に少なからず貢献しています。

 また、UNICEF、WHO、UNAIDS等の国際機関や、米国などの他の援助国との連携も積極的に行っています。さらに、国連の「人間の安全保障基金」、国際NGOである国際家族計画連盟(IPPF)の「HIV/AIDS信託基金」、国連教育科学文化機関(UNESCO)の「人的資源開発信託基金」、世界銀行の「日本社会開発基金」、国連開発計画(UNDP)の「人造り基金」など日本が資金拠出して設置したそれぞれの基金によっても、HIV/AIDSをはじめとする多くの感染症対策が実施されています。
 この他、広域的な協力として、日本の感染症対策の経験が応用しやすいアジア地域において、HIV/AIDS、結核、マラリア・寄生虫を対象とする「ASEAN感染症情報・人材ネットワーク」を立ち上げ、ASEAN地域の感染症対策を推進しています。

コラムIII-3 顧みられない疾病への取組-大洋州リンパ系フィラリア征圧計画-


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