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2.沖縄感染症対策イニシアティブ
平成12年7月
外 務 省

1.基本理念

(1)開発の中心課題としての感染症への対処
感染症(*1)は、単に途上国住民一人一人の生命への脅威という保健上の問題にとどまらず、今や途上国の経済・社会開発への重大な阻害要因(*2)となっている。特に、貧困層への影響は甚大であり、途上国における急速な人口増加、貧困、性別(ジェンダー)(*3)による格差、脆弱な保健医療システム、予防・看護・治療サービスの不備、安全な水供給の欠如、栄養不良等の問題が感染の危険を高めており、また、健康の悪化が貧困を深刻化させるという悪循環についても断ち切る必要がある。感染症対策は、途上国の開発、特に貧困削減計画の中心課題の一つである。

(2)地球的規模での連携と地域的対応
感染症問題は地球規模の問題として捉え、地球規模での連携(パートナーシップ)をもって取り組む必要がある。他方、感染症対策を効果的に実施するためには、プライマリー・ヘルス・ケア(PHC)(*4)の理念に基づいた地域レベルでの対応が必要であり、地域開発の促進(community development)を目指した包括的なプログラムの中に感染症対策を有機的に組み込んでいくことが重要である。

(3)公衆衛生活動と連携させた日本の経験と役割
日本が世界の感染症対策に積極的に貢献することは、途上国の人々の健康を守るだけではなく、ひいては日本国民の健康にも関係する。日本は戦後、保健所制度の確立、保健婦の育成、母子保健の普及、学校保健の徹底等により、戦後の短期間で乳幼児死亡率を減少させるなど大きな効果をあげた。感染症、寄生虫症対策についても多大の努力を行い、例えば、戦後の公衆衛生活動と連携した結核対策により結核による死亡を激減させた。沖縄自身においても、マラリアやフィラリア等の疾患の撲滅に成功した歴史を有している(*5)。このような取組みの原点に立って、日本の経験を途上国において応用、普及する支援の方策に努める。その際、近年著しい進歩を遂げている情報通信技術(IT)の可能性を踏まえ、遠隔医療の活用を進めていく。

2.感染症対策の方針
上記の基本理念を踏まえ、以下の方針に沿って協力を進める。
●途上国の主体的取組み(オーナーシップ)強化
―途上国による主体的な取組み(コミットメント)の強化・支援
―政策対話と保健制度・政策等のソフト面での協力
―コスト・リカバリーの観点からみた持続可能な保健・医療セクター改革

●人材育成
―途上国の感染症専門家・公衆衛生専門家の育成
―日本人専門家との連携

●市民社会組織、援助国、国際機関との連携
―本邦・現地NGO、国際NGO等との連携によるきめの細かい対応
―援助国、WHO、UNAIDS等国際機関との連携強化

●南南協力
―途上国同士の知見・経験の交流支援
―日本を含めた先進国・途上国における成功例や教訓の共有

●研究活動の促進
―感染症に関する世界の研究機関間のネットワーク構築に向けての支援
―貧困層に裨益すべく貧困国の感染症研究活動の推進
―ワクチン研究・開発に向けた国際協調の推進

●コミュニティレベルでの公衆衛生の推進
―基礎教育における学校保健を通じた支援
―安全な水供給の確保
―地域保健の機能強化

3.我が国の支援する主な感染症対策
●HIV/AIDS
―途上国間の知見の共有:南南協力(ソーシャル・ワクチン(*6)対策の成功例(タイ等)の他国への応用)
―避妊具や安全な注射器の供給などの予防施策及び治療薬配布に関連した支援
―リプロダクティブヘルス(*7)と連携した若者に対する教育・啓発プログラム
―エイズ孤児に対するケア及びカウンセリング
―母子感染対策、ハイリスク・グループ(性産業従事者、長距離トラック運転手等)対策
―安全な血液の供給
―ワクチン開発に係る国際的な努力への協調
―HIV/AIDS・結核重複感染対策

●結 核
―DOTS(直接監視下投薬)(*8)戦略の拡大及び着実な実施:
  WHO西太平洋地域における結核対策の推進
―多剤耐性結核(*9)に対するDOTSプラスの開発(調査、耐性検査、監視)
―PHCに基づいたDOTSのアクセスや効果改善のための実践的研究

●マラリア・寄生虫
―WHOのロールバック・マラリア・イニシアティブ(*10)と連携し、国際寄生虫対策としての「橋本イニシアティブ」(*11)推進
―南南協力(例:メコン・プロジェクト(*12)
―マラリア疫学調査(サーベイランス)
―マラリア対策の評価のための調査・研究(オペレーション・リサーチ)
―安全な水供給の確保

●ポリオ
―西太平洋地域のポリオ野生株根絶確認
―南アジア、アフリカ地域におけるポリオ根絶に向けた協力強化

4.ODAを通じた感染症対策支援の強化
上記2.及び3.の協力を積極的に進めるため、「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」(*13)をも踏まえ、各援助スキームにおける感染症分野及び右に関連する社会開発分野への協力の取組みを強化することとし、無償資金協力、技術協力を中心に、また、相手国のニーズを踏まえ、必要に応じて、円借款による支援の可能性についてもその役割に留意しつつ検討していくこととする。具体的には、一般無償(子供の福祉無償を含む)、草の根無償、JICA開発福祉支援事業、JICA開発パートナーシップ事業、技術協力、開発調査、国際機関への拠出等を活用して、個別の感染症対策支援、公衆衛生の増進、研究ネットワーク構築、初等・中等教育、水供給等の分野での協力を強化することとし、今後5年間で総額30億ドルを目途とする協力を行う。
また、感染症分野における支援を地域の人々まで行き亘らせるためには、途上国におけるNGOの役割が重要であり、国連に設置された「人間の安全保障基金」を活用して協力を行っていく。



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