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EPA/FTAの多様性
世界には様々なEPA/FTAがあり、その対象を含め形態は多様である。
例えば、2000年発効のEU・南アフリカ通商・開発・協力協定は、投資、競争政策、環境についての規定を含んではいるものの、一般的な内容で、強い規律を含まない。他方、1994年発効の北米自由貿易協定(NAFTA)では、GATTにより定義される伝統的分野のみならず原産地規則、投資、サービス貿易、相互承認、人の移動、エネルギーなど計20の幅広い分野を包括的に扱っている。また、米ジョルダンFTAでは、環境、労働といった新しい分野も取り上げられている。
GATTに基づくモノの貿易に関するEPA/FTAだけでなく、サービス分野においてもGATSに基づいてEPA/FTAを締結することが出来る(現在、サービス貿易理事会に通報されているサービスを含むEPA/FTAの数は20)。例えば、2000年発効のEU・メキシコ・サービスEPA/FTAは、原則としてGATSにおける全サービス分野を協定の対象としている。
従来は、地理的に近接した同一地域内の国同士で結ばれることの多かったEPA/FTAだが、近年では、米州自由貿易圏(EPA/FTAA)構想やEU・メキシコEPA/FTAのように異なる地域間でのEPA/FTAも見られる。さらに、交渉中ではあるが、EU・メルコスールEPA/FTAのように、関税同盟同士のEPA/FTAも検討されている。
EUは旧植民地であるACP(アフリカ、カリブ、太平洋)諸国と旧来、もっぱらEU市場の特恵的開放のみを規定したロメ協定を有していたが、その片務性を見直し、双務的に改訂することを目指したコトヌ協定に合意した。またEUへの統合を前提にしたEPA/FTAを中東欧諸国と結んでいる。
米はキューバを除くすべての中南米諸国との間のEPA/FTAであるFTAA(米州FTA)の交渉を進める一方、アンデス諸国、中米諸国、チリと個別にEPA/FTAを交渉している。
この他、所謂EPA/FTAには当たらないものの、貿易自由化を推進するものとして、APECのように、協定という法的枠組みを持たず、参加メンバーの自主的な貿易・投資の自由化・円滑化措置を域外国にも広く適用させ、「開かれた地域主義」を標榜するものも存在する。
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日本のEPA/FTA------包括性、柔軟性、選択性
日本はシンガポールとの包括連携協定に署名したが、これは法的枠組みとしては、NAFTAやEU並みの先進的なEPA/FTAに属する協定である。今後は、これをモデルにして、モノ・サービスの貿易、投資、競争、基準認証、ハーモナイゼーション、人の移動、紛争処理手続等を含む包括的な協定を優先度の高い国との間で目指すことが1つの重要な選択肢としてある。特に、ASEAN諸国との間では、将来、日ASEAN全体のEPA/FTAを視野に入れて、日シンガポール経済連携協定をモデルに累次の枠組みを作っていくことが有効である。ただし、対象範囲や自由化のレベルは、当該国との貿易実態(とりわけ日本への農林水産品有税割合)や経済発展状況(自由化よりも開発支援的要素がより強い要請としてある国など)にあわせて柔軟に考えていくべきであろう。すなわち、対象分野については、シンガポール・プラスあるいはマイナスもあり得よう。また、国によっては、特定の分野(例えば投資、サービス)の先行ないし限定にとどめる方が適切な場合もあり得よう。
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日ASEAN包括的経済連携構想の実現に向け考慮すべき事項
日ASEAN包括的経済連携構想を含む東アジア諸国とのEPA/FTAについては、この地域の地域協力を他の地域の経済統合に比肩し得るものとし、地域全体の近代化を促進してゆくとの観点から可能な限り高度な貿易・投資の自由化を行うこと、及び、これに留まらず競争や政府調達、税関手続の簡素化や相互承認・基準認証といった幅広い分野での連携を目指すべきである。このような先進的なEPA/FTAの締結の準備が国内的に整っていない国に対しては、日本は低い水準の協定を締結するより、当面は、技術支援等の支援を行ったり、履行期間を長く認めたりすることにより、将来的に全体として出来る限り質の高い協定締結を目指していく。
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途上国支援としてのEPA/FTAの活用の可能性
アフリカを含む開発途上国の経済発展を促すためには、開発援助(ODA)のみならず、貿易・投資から得られる資金も活用する包括的アプローチが重要である。かかる観点から、日本のODAの供与のみでは真にこれらの国の自立的経済発展が達成できず、また日本とも安定的経済関係を構築できないことから、従来の一般特恵関税や対LDC特恵関税の供与からさらに一歩踏み出し、一定の条件が整う場合にはEPA/FTAを特定の途上国との間で締結することも、政策的手段の一つとして検討対象に加えることも考えられよう*13。具体的にEPA/FTA締結を途上国側に提案するに当たっては、発展段階や経済規模を考慮し、途上国側に国内改革の推進や周辺諸国との経済統合の深化などを条件とすることで、先方市場が日本にとって意味のあるものとなるよう働きかけることが同時に重要である*14。
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