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第2章 分野ごとに見た国際情勢と日本外交


第1節 政治・安全保障
1.日本の安全の確保

(1)総論
(2)日米安全保障体制
2.地域紛争への包括的取組
  (1)中東
(2)旧ユーゴー
(3)国連平和維持活動(PKO)
3.軍備管理・軍縮の促進及び不拡散体制の強化
(1)大量破壊兵器の軍縮・不拡散
(2)通常兵器の規制、移転問題
(3)輸出管理体制の強化
第2節 国際経済
1.世界経済の繁栄の確保
(1)概観
(2)ウルグァイ・ラウンド後の問題
(3)多角的協力と地域統合
(4)資源・エネルギー問題
(5)日本の政策努力
2.途上国・移行国の開発問題
(1)開発のための諸課題
(2)移行国の経済
(3)日本の政府開発援助(ODA)
第3節 地球規模問題及び国際交流・協力
1.地球規模問題解決のための努力
(1)環境、人口・エイズ
(2)人権、社会開発、女性
(3)麻薬・国際犯罪・テロ
(4)難民
2.国際文化交流の推進
(1)国際文化交流・国際文化協力の必要性
(2)相互理解の促進
(3)国際文化協力
3.原子力の平和的利用
(1)原子力安全確保のための国際協力
(2)日本の核燃料リサイクル政策
4.科学技術に関する協力
(1)科学技術と国際社会
(2)科学技術を巡る国際協力




第1節 政治・安全保障

1. 日本の安全の確保

(1) 総論

  今日の国際社会には、依然として様々な流動的要素が存在している。また、日本を取り巻くアジア太平洋地域は、高い経済成長をも背景にして、政治的・社会的な安定性を高めつつあるものの、核戦力を含む大規模な軍事力の存在や、多数の国による軍事力の拡充・近代化、朝鮮半島における緊張の継続等、依然として不透明・不確実な要素が残されている。  このような安全保障環境の中、日本は、(イ)日米安全保障体制の堅持、(ロ)適切な防衛力の整備、(ハ)国際の平和と安全を確保するための外交努力、という三つの柱からなる安全保障政策を推進している。
(イ)日米安保体制(下記(2)参照
(ロ)防衛力整備
 日本は、日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないとの基本理念に従い、節度ある防衛力の整備に努めている。この基本方針に則り、11月28日、「防衛計画の大綱」(76年10月29日国防会議・閣議決定)が19年振りに見直され、「平成8年度以降に係る防衛計画の大綱」(新防衛計画大綱)が安全保障会議及び閣議にて決定された。
(ハ)国際の平和と安定を確保するための外交努力
 国際的な相互依存が深まりつつある今日、日本の安定と繁栄は、アジア太平洋地域、ひいては世界全体の平和と繁栄と不可分一体に結びついている。このような観点から、日本の安全と地域の平和と安定を確保していくためには、米軍の存在を前提としつつ、(a)個々の紛争・対立の解決を図り、地域の安定を図っていくための二国間ないし関係国間の対話と協力、(b)アジア太平洋全域における、お互いの政策の透明性と安心感を高めるための政治・安全保障対話及び協力、(c)域内各国の経済発展への支援・協力を通じた地域の政治的安定性の増大といった、様々なレベルでの努力を積み重ねていくことが重要である。北東アジアにおける二国間対話としては、94年より日中安全保障対話が開催され、95年1月には東京で第2回会合が開催された(96年1月に第3回会合を北京で開催)。また、この地域の関係国間の協力としては、北朝鮮の核問題解決のための日米韓を中心とする協力があるが、今後は中長期的観点から北東アジア地域の安定に向けた話合いを行っていくことも重要である。また、アジア太平洋地域の全域的政治・安保対話については、ASEAN地域フォーラムにおける対話が進められている(ARFについては、第1章2.(2)参照)。

(2) 日米安全保障体制

 [日米安保体制の意義]

 日本が、必要最小限の防衛力を保持するとの政策の下、平和と繁栄を享受していくためには、今後とも日米安保条約に基づく米国の抑止力が必要である。また、日米安保体制は、国際社会における広範な日米協力関係の政治的基盤となっており、さらに、アジア太平洋地域の安定要因として米国の存在を確保し、この地域の平和と繁栄を促進するためにますますその重要性を高めてきている。
 この様な認識の下、日米安保体制を効果的に運用し、安全保障面での協力を進めていくため、日米間では、密接な対話と意見交換が重ねられている。最近では、95年9月に日米安全保障協議委員会(「2+2」)が開催され、また、11月には、ペリー国防長官及びゴア副大統領がそれぞれ訪日し、日米安保体制が日本の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定の維持のための不可欠な要素であることを再確認した。

 [日米安保体制の円滑かつ効果的な運用のための努力]

 日本政府は、在日米軍の駐留を支援するため、「駐留経費に関する特別協定」に基づき米軍従業員の労務費及び米軍の光熱水料を負担するなど自主的にできる限りの努力を行ってきている(95年度には、在日米軍駐留経費として右特別協定関係部分を含め約6,257億円を負担)。12月には、96年3月に失効する現行の特別協定に代わる新たな特別協定を締結し、この協定によって日本は、労務費負担等の従来からの支援を96年度から更に5年間にわたり継続することとなったほか、騒音問題の解消等を目的として日本側の要請により行われる訓練移転に要する経費も新たに負担することとなった。米国政府は、この様な日本側の努力を高く評価しており、駐留経費負担をはじめとする日本の努力は、この地域における安定要因としての米軍のプレゼンスを確保する上で重要である。

 [沖縄県における米軍施設・区域]

 在日米軍の活動が米軍施設・区域の周辺の住民に与える影響等をいかに小さくするかという問題は、従来より、日米安保体制を円滑に運用していく上で大きな課題であったが、95年9月初めに沖縄県で女子小学生が3名の米軍兵によって暴行されるという不幸な事件が発生し、沖縄県における米軍の駐留に伴う諸問題に対する関心が大きく高まった。政府は、沖縄県民の負担を軽減するために、また、日米安保体制の信頼性向上のためにも、沖縄県民の声に対し誠心誠意耳をかたむけこのような問題に誠実に対処することが極めて重要との認識に立って、米国政府との協議を行いつつ、各般の措置をとった。先ず、被疑者たる米軍人等の身柄の日本側への引き渡しの問題については、9月の河野外務大臣とモンデール駐日米国大使との会談において、日米地位協定に基づく刑事裁判手続に改善の余地がないかを検討するために「刑事裁判手続に関する特別専門家委員会」が設置された。この特別専門家委員会は精力的に検討を行い、10月末に、一定の場合に起訴前であっても被疑者の身柄が日本側当局に引き渡される途を開く日米合同委員会合意がまとめられた。
 また、米軍の施設・区域が高度に集中している沖縄県と国との意思疎通に万全を期すとの観点から、11月には国と沖縄県との協議機関として「沖縄米軍基地問題協議会」が設置された。日米両政府間においても、同月の村山総理大臣とゴア米国副大統領の会談において、日米間のハイレベルの協議機関として「沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会」が正式に設置された。この特別行動委員会においては、日米安保条約の目的達成との調和を図りつつ、米軍の施設・区域の整理、統合、縮小や、訓練、騒音、安全等の米軍の活動に関連する諸問題について検討し、1年を目途に結果をまとめることとなった。
 沖縄県に所在する米軍施設・区域内の民公有地のうち、駐留軍用地特別措置法に基づき使用している土地は97年5月に使用期間が満了することとなり、また、賃貸借契約期間の満了(96年3月)に伴い所有者が契約更新を拒否することとしている土地があったため、95年3月、政府は、やむを得ず、駐留軍用地特別措置法による使用権原取得手続に着手した。この手続の一環として、沖縄県知事に対し、土地調書等の作成に必要な署名押印を要請したが、同知事がこれを拒否したため、内閣総理大臣は、地方自治法に基づく手続をとることとし、12月、同知事を被告とし、職務執行を命ずる判決を求める訴訟を提起した。

 [安全保障及び防衛面での米国との協力]

 防衛分野において、日本との技術の相互交流に対する米国側の関心は高く、日米の技術交流を進めることは日米安保体制の効果的な運用を確保する上で重要になっている。現在、すでに進められているダクテッドロケット・エンジンの共同研究に加え、95年10月には先進鋼技術及び戦闘車両用セラミック・エンジンの共同研究が開始されることとなった。また、現在進められている航空自衛隊の次期支援戦闘機(F-2)の共同開発については、10月に試作機1号機による初飛行に成功した。これを踏まえ、12月の「中期防衛力整備計画(平成8~12年度)」の策定と同時に、今後F-2を130機調達することが閣議了解された。
 クリントン政権は、大量破壊兵器の拡散の危険等を踏まえ、米国の前方展開戦力及び米国の同盟・友好諸国をミサイル攻撃から守る戦域ミサイル防衛(TMD)の開発を進める方針を明らかにしている。米国はTMD構想について同盟国との協力を呼びかけているが、日本政府としては、今後の防衛政策を検討していく上で重要な検討課題であると考え、日米間で事務レベルの検討を行っている。

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2.地域紛争への包括的取組

 冷戦後、国際社会は、アフリカ、中東、旧ユーゴー、ハイティ等における紛争の解決に協力して取り組んできた。95年は、中東和平の進展や旧ユーゴーにおける和平合意等に見られるとおり、そうした努力が実を結び、和平に向けての気運が高まった年であった。同時に、和平合意の履行の確保や、復旧・復興支援、難民問題等、解決すべき難しい問題が依然として残されており、引き続き国際社会の協力が必要である。
 地域紛争の中には、地理的には日本から遠い地域のものもあるが、その解決と予防は、冷戦後の国際秩序の構築に係わるグローバルな問題である。従って、日本は、個々の地域紛争の状況に応じ、資金援助、人道救援活動、平和維持活動をはじめ様々な協力を適切に組み合わせ、一層積極的な役割を果たしていく必要がある。

(1) 中東

 [中東和平プロセスをめぐる状況]

 91年10月のマドリッド会議以来進められている中東和平プロセスは、米国の仲介により、大きな進展が見られた。95年9月には、パレスチナ暫定自治を西岸全域へ拡大する合意がイスラエルとPLO間で成立し、ワシントンで署名式典が行われた。この合意は、94年5月の「ガザ・ジェリコ合意」で開始された暫定自治を西岸全域に拡大するとともに、6都市をはじめとする西岸各地域からのイスラエル軍の引き揚げ、パレスチナ人側に対する民生権限の移譲、パレスチナ評議会選挙等を内容としている。署名式典には日本より河野外務大臣が出席し、合意を歓迎するとともに日本の貢献策を含めた演説を行った。95年11月4日に、ラビン首相が和平交渉に反対するイスラエル青年に射殺されたことは、国際社会に大きな衝撃を与えたが、国際社会は和平進展を支持して結束を示し、ペレス新首相も、ラビン首相の遺志を継いで、和平へのコミットを明確にしている。中東和平プロセス全体としては、イスラエルとシリア、レバノン間の交渉の進展を図ること、さらには96年5月から開始される西岸及びガザ地区の恒久的地位に関する交渉が今後の大きな課題となっている。

・図表1-1(中東和平クロノロジー) ・図表1-2(中東和平プロセスの枠組み)

 この中東和平プロセスを下支えするため、国際社会はパレスチナの暫定自治に対する支援や中東和平多国間協議を通じた域内協力の促進を行っている。また、地域経済の活性化を支援するため、94年より中東・北アフリカ経済サミットが開催されている。95年10月のアンマン・サミットには、60数か国から1,000名以上(日本からは福田政務次官ほか)の官民関係者が参加し、「地域観光機関」設立、中東開発銀行設立に向けた協議等を盛り込んだアンマン宣言が採択された。

 [村山総理大臣の中東訪問と日本の役割]

 後述の通り(第3章6.参照)、村山総理大臣は、95年9月、中東諸国を訪問したが、その際、エジプト、シリア、ジョルダン、イスラエル、ガザ地区において中東和平当事者に対して、日本の和平プロセス進展に向けた積極的な姿勢を示し、歓迎された。
 日本は、前述のパレスチナ人支援や環境・観光分野を中心に中東和平多国間協議への貢献に積極的に参画している一方、96年1月に実施されたパレスチナ評議会選挙に協力するため、国際監視団への参加や物的支援を行ったほか、2月には、ゴラン高原に展開している国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)に自衛隊部隊等を派遣する等、中東和平プロセスの進展と当該地域の安定の確保のために積極的な貢献を行っている。

(2) 旧ユーゴー

 [旧ユーゴー紛争を巡る状況]

 冷戦終結後に発生した最大の地域紛争として、91年6月以降4年余りにわたり継続してきた旧ユーゴ-紛争は、95年に、解決に向けて大きな進展をみた。
 95年前半には、旧ユーゴー情勢は、引き続き厳しい状況が続いた。ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(以下ボスニア)においては、イスラム教徒・クロアチア人勢力側とセルビア人勢力との間の戦闘が継続し、その中でセルビア人勢力はNATOによる空爆を契機として国連PKO要員を人質に取った。こうしたセルビア人勢力の行動に対し、国際社会は武力の行使を含む強い対応が必要との認識で一致し、6月のハリファックス・サミットでの合意により、国連緊急対応部隊が派遣されるとともに、NATOによる空爆が繰り返し実施された。この結果、セルビア人勢力の軍事的攻勢は封じ込められた。また、クロアチアにおいては、クロアチア政府の撤退要求に対応して国連PKOの規模が大幅に縮小された後、8月、クロアチア政府は、同領内セルビア人居住地域(クライナ)を軍事的に制圧した。

・図表2(旧ユーゴースラヴィア情勢クロノジー)

 一方、こうしたセルビア人勢力の軍事的な退潮という新たな状況の変化は、和平に向けた交渉開始の糸口となり、95年8月以降、米国を中心とした和平努力が進展した。この和平努力においては、(A)将来のボスニアの体制、各紛争当事者の支配地域の画定、ボスニア・セルビア人勢力と関係の深い新ユーゴーに対する国連安保理経済制裁の解除等、相互に関連する諸問題について、米国が各紛争当事者と個別に交渉する和平工作と、(B)和平が合意された場合、その当事者による履行を確保するための軍事面・民生面での国際的な支援体制作りが並行して進められた。和平工作については、11月21日にオハイオ州デイトンにて、(A)単一の国家としてのボスニアの存続とボスニアの大統領及び議会選挙の実施、(B)ボスニアにおけるボスニア連邦(イスラム教徒・クロアチア人主導)及びセルビア人共和国の二つの政治的主体の認知と両者の領域の画定、(C)新ユーゴーに対する制裁の停止等を骨子とする和平合意が仮署名された。和平の履行支援については、軍事面では、国連PKOに代わり、6万人規模のNATOを中心とする和平実施部隊(IFOR)が派遣され、必要とあらば強制力を用いて和平合意の遵守を確保することが合意された。民生面では、12月8日、9日に和平履行会議がロンドンにおいて開催され、人道・難民支援、選挙実施等の政治的措置、及び復旧・復興について、支援措置の調整メカニズムが合意された。これらを受け、12月14日のパリ会議で和平合意が正式に署名された。

 [日本の役割]

 このように、国際社会の一致した協力により、旧ユーゴー和平への道筋が付けられたことの意義は大きい。しかし、今回の和平合意は脆弱性も種々含んでおり、この地域における永続的和平の確立に向けて、当事者による合意の履行を確保していくため、軍事面及び民生面で国際社会が一致協力して支援していくことが次の課題である。日本は、旧ユーゴー紛争は欧州における地域紛争ではあるが、同時に冷戦終結後の国際秩序の構築にかかわる国際的な課題と認識し、これまで総額約1.8億ドルの人道・難民支援、周辺国への経済支援等を通じた予防外交、あるいは95年4月から5月にかけての河野外務大臣のこの地域の訪問を通じた紛争各当事者に対する政治的働きかけ等、紛争の平和的解決のために積極的な役割を果たしてきた。そして、前述のロンドン会議(河野外務大臣が出席)では、日本は新たに設置された民生面の和平履行に関する運営委員会の一翼を占めることとなった。日本は、今後、同運営委員会の一員として、民生面での和平合意の履行のための国際社会の努力に積極的に参画し、貢献していく必要がある。

・図表3(ボスニア・ヘルツェゴビナの現状)

(3) 国連平和維持活動(PKO)

 冷戦の終結に伴い、地域紛争を解決するための手段として国連平和維持活動(PKO)の役割が注目されたが、カンボディア、モザンビーク等におけるPKOが成功を収めた反面、近年ソマリア、旧ユーゴーでのPKOが、期待された成果を上げえず、その限界を示したことにより、国連PKOのあり方を再検討する必要に迫られている。また、カンボディアで見られたようなPKOの大型化、及び、冷戦終了後に設立されてきたPKOの量的拡大に伴い、初動段階における要員等の確保が容易ではなくなってきているほか、PKO財政も逼迫している。
 特に、PKO財政については、上記のようなPKOの質的・量的拡大のほか、PKO分担金支払の遅延、滞納の深刻化に伴い、極めて憂慮すべき状況にある。こうした財政逼迫により、要員派遣国に対する経費償還の遅延が生じ、ひいてはPKO要員の確保を困難にするという悪循環も生じている。このような状況を打開し、健全な財政基盤を確保するため、現在国連では、「財政状況に関する作業部会」においてPKO予算制度の見直しも含めた検討が行われている。

・図表4(国連平和維持活動(PKO)

 こうした中、95年1月にブトロス=ガーリ国連事務総長が発表した「平和のための課題の追補」は、紛争当事者の同意、中立性の確保、自衛に限定した武器使用といったいわゆる伝統的なPKOの諸原則の重要性を改めて強調している。また、同報告書では国連の緊急対応能力の向上の必要性が提唱されており、現在国連において種々の構想が検討されている。
 国連PKOは、こうした課題を抱えているが、地域紛争の解決にあたり引き続き重要な役割を担っており、その効果的な実施のための方策を執っていく必要がある。日本は、国連PKO特別委員会の副議長国として、この立案に積極的に参画してきており、このような日本の姿勢は昨年9月に河野外務大臣が国連総会一般演説において、国連PKOの更なる改革を進めていくことが重要であると述べたことにも反映されている。特に、日本がかねてより主張してきたPKO要員の安全確保の問題については、「国際連合要員及び関連要員の安全に関する条約」
が94年12月に国連総会で採択され、日本は、95年6月に同条約を締結した。  また、日本は、92年に成立した「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(国際平和協力法)」に基づき、これまでカンボディア、モザンビーク等のPKOに参加してきており、さらに、前述した通り(第2章第1節2.(1)参照)、96年2月にはゴラン高原の国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)に自衛隊輸送部隊等45名を派遣した。また、PKOではないが、94年にはルワンダ難民救援のため、ザイールに自衛隊部隊を派遣した。こうした日本の協力については、国際社会から高い評価を得ているほか、国内においても理解と支持が高まっており、95年10月に総理府が実施した「外交に関する世論調査」では、日本のPKOへの参加を支持する人の割合が約7割に達している。なお、国際平和協力法は95年8月に施行後3年が経過し、いわゆる法律の見直し作業が開始された。現在、過去の国連平和維持活動への参加の経験も踏まえ、関係省庁において問題点の洗い出しを行っている。日本は、今後とも国連平和維持活動や人道的な国際救援活動に対し積極的に協力していく必要がある。

・図表5(「平和のための課題」(92.6)と「平和のための課題の追補」(95.1)の比較)

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3. 軍備管理・軍縮の促進及び不拡散体制の強化

 冷戦終結後も、核兵器をはじめ化学兵器及び生物兵器等の大量破壊兵器の拡散の危険は依然として存在しており、これらの軍縮・軍備管理及び不拡散体制の強化が国際社会全体が取り組むべき課題となっている。95年には、核兵器についての努力とともに(核軍縮・不拡散をめぐる動きについては、第1章6.参照)、生物兵器、化学兵器についても着実に取組が進められた。
 また、冷戦終結後多発している地域紛争や開発途上国の経済発展等により、通常兵器の需要が高まっているが、その安易な移転と過度の蓄積は国際社会の大きな不安定要因となりうる。したがって、通常兵器について、その移転の透明性を高めるとともに過度の移転と蓄積を防止していくことが必要である。95年は、国連において、対人地雷及び小火器等についての取組が行われるとともに、通常兵器及び関連汎用品・技術に関する新しい国際的輸出管理体制(ワッセナー・アレンジメント)が設立されるなど大きな前進が見られた。
 日本は、軍備管理・軍縮の促進および不拡散体制の強化に積極的に取り組んできており、例えば、95年、国連における軍縮に関する決議案の内、十五の決議案を共同提案し、そのうち特に四つの決議を実質的に主導して作成するなどイニシアティヴを発揮した。

(1) 大量破壊兵器の軍縮・不拡散

 [化学兵器禁止条約]

化学兵器の廃絶を目指す包括的な条約である化学兵器禁止条約(CWC)(注1)は、93年1月に署名のために開放され、95年12月現在160か国が署名し、45か国が批准している。この条約は96年中にも発効する可能性があるが、現在、その発効に向けて、化学兵器禁止機関(OPCW)(注2)の設立にかかわる行・財政問題及び検証手続に関する検討が行われている。日本は、この条約を95年9月に批准し、この検討に積極的に貢献してきており、CWCの早期発効に向けて準備を行っている。

 [生物兵器禁止条約]

生物兵器禁止条約(BWC)は、生物兵器の生産、貯蔵、保有、移転等の禁止を目的とする条約であるが、1976年の条約採択当時から検証制度がないことが大きな欠陥とされてきた。このため、91年以降、専門家会合によって、科学的、技術的見地から検証手段の検討を行ってきた成果を踏まえ、94年9月に締約国の特別会議が開催され、検証制度を含め、条約強化を目的とした新たな法的枠組みを検討するための専門家会合の設置が決定された。この専門家会合では、95年7月から作業が開始され、日本も条約強化に向けて積極的に努力している。なお、BWCの締約国数は、95年6月30日現在日本を含め132か国である。

(2) 通常兵器の規制、移転問題

 冷戦終了後の新たな国際環境においては、大量破壊兵器だけでなく通常兵器についても、その過度の移転と蓄積による地域の不安定化の防止が重要な課題となっている。
 軍備の透明性・公開性を向上させることを目的として日本等のイニシアティヴにより92年1月より国連軍備登録制度が発足したが、これまでに93年の登録(92年の数量の報告)については92か国が、また、94年(93年の数量の報告)については90か国が、さらに95年(94年の数量の報告)についても90か国が、戦車、戦闘機などの7種類の攻撃兵器の輸出入数量を報告している(95年12月現在)。この制度については、参加国の拡大を通じた普遍性確保が大きな問題であり、日本は、アジア太平洋ワークショップの開催等を通じて各国の理解と参加を促進するなど国連軍備登録制度の円滑な運営に大きな役割を果たしている。また、この制度上軍備保有に関するデータの提供は求められていないが、日本は、これも自発的に提供するなど、他国と協力して制度の充実に向けて努力している。
 また、通常兵器の安易な移転が人道上の問題を惹起しているとの問題もある。特に、紛争発生時に無差別に設置された後放置された対人地雷による文民への被害が深刻化し、人道的観点からも大きな問題となっている。このため、93年の国連総会においては、地雷に関する規制を含む特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の再検討を求める決議が採択された。この決議に基づき、対人地雷の規制強化を目的として95年9月にCCW再検討会議が開催されたが(その準備プロセスとして4回の政府間会合が行われた)、地雷に関する強化について、会議参加国の立場の相違は埋まらず、96年1月及び4月に再検討会議を継続し、改正議定書の採択を目指すこととなった。
 アフリカ等の一部地域の内戦における戦闘の拡大や死傷者の増加の背景となる小火器の安易な移転及び不正取引も取り組むべき課題となっている。日本は、第50回国連総会に対し、この課題の解決のための方策を検討するために、国連事務総長の下に政府専門家パネル会合を設置することを求める「小火器」決議案を提出するイニシアティヴを取り、この決議案は圧倒的多数で採択された。

(3) 輸出管理体制の強化

 [大量破壊兵器及びミサイルの不拡散のための輸出管理体制]

 大量破壊兵器等の不拡散のためには、単にその保持を禁止するのみならず、新たな取得を防止するための輸出管理体制を整備することが重要である。このような観点から、核兵器、生物・化学兵器及びその運搬手段となるミサイルについては、これらの兵器の製造に使用されうる関連物資と技術に関する国際的な輸出管理体制の下で協調した規制を行っている。核兵器関連品目についてはロンドン・ガイドライン(注3)に基づく原子力供給国グループ(NSG;32カ国が参加)が、生物・化学兵器の関連品目の輸出管理についてはオーストラリア・グループ(AG;29カ国が参加)が、ミサイルについてはミサイル関連技術輸出規制(MTCR;28カ国が参加)があり、日本はこのような国際的な輸出管理レジームに積極的に参加している。特に、ロンドン・ガイドラインについては、パート2設立時よりその事務局を日本の在ウィーン国際機関代表部が引き受けてきたが、4月よりパート1の事務局も併せ引き受ける等積極的な貢献を行っている。

・図表6(大量破壊兵器、ミサイル、通常兵器及び関連物資等の軍縮・不拡散体制の概要)


 [ワッセナー・アレンジメント(The Wassenaar Arrangement:通常兵器関連輸出管理のための新たな国際体制)の設立について]

 通常兵器関連品については、大量破壊兵器の場合と異なり、94年3月末にココム(旧共産圏に対する戦略物資及び技術の輸出規制を目的とした輸出規制委員会)が解消された後、国際的な輸出管理体制は存在していなかったが、95年12月、2年あまりに亘る協議を経て、通常兵器及び関連汎用品・技術に関する新たな輸出管理体制である「ワッセナー・アレンジメント(TWA)」(注4)の発足について意見の一致をみた。(注5)
 旧ココムが旧共産圏諸国という特定の規制対象国を持っていたのに対し、このワッセナー・アレンジメントは、あらかじめ特定の地域を対象とするものではなく、地域の安定を損なうおそれのある通常兵器の過度の移転と蓄積を防止することを目的とする。また、規制対象物資の輸出のためには他の参加国の承認を必要とした旧ココムとは異なり、各国間の情報交換に基づき、輸出許可・不許可の決定は各国の判断に任されることとなる。
 同アレンジメントの現在の参加国は日本、米国、欧州諸国、韓国等31か国(注6)であるが、旧ココムの規制対象国であったロシア及び東欧諸国も参加している。わが国は、冷戦後の国際社会における通常兵器の問題への取り組みを重視し適切な国際的輸出管理体制の早期発足のために積極的に貢献してきたが、今後は同アレンジメントの着実な発展のために他の諸国とともに更に努力をしていく考えである。

 [第三国の輸出管理の整備・強化への協力]

 また、国際的な輸出管理の実効性を高めるため、NSG、MTCR、AG等の上記の輸出管理レジームは、レジームの非参加国に対しても、輸出管理制度の整備・強化を呼びかけている。日本も、アジア諸国やNIS諸国等に対し、セミナーや研修等の実施を通じて、輸出管理分野での協力、対話を進めている。

(注1)
化学兵器禁止条約(CWC〉:化学兵器の開発、生産、保有などの禁止と並んで保有する化学兵器及び化学兵器生産施設の廃棄、化学産業に対する厳格な検証制度、更には、条約違反の疑いがある場合には、締約国の要請により、他の締約国において、いつ、いかなる施設に対しても査察を行うことができる制度(中立てによる査察)などを規定。化学兵器を有する国は、条約発効後10年以内に化学兵器の全廃を義務づけられている。
(注2)
化学兵器禁止機関(OPCW)こ化学兵器禁止条約の実施を確保し、締約国間の協議及び協力のため同条約に基づきハーグに設置される機関。この機関の技術事務局が締約国への査察の実施にあたる。
(注3)
原子力専用品についてはロンドン・ガイドライン・パート1で、原子力・非原子力の両分野に使用される品目については同パート2で規制。
(注4)
協議が行われてきたオランダの地名にちなんだ名称。
(注5)
96年4月及び7月の総会を経て正式に発足の予定
(注6)
アルゼンティン、オーストラリア、ベルギー、カナダ、チェッコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本、韓国、ルクセンブルグ、オランダ、ニユー.ジーランド、ノールウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、スペイン、スロヴァキア、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国

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第2節 国際経済

1. 世界経済の繁栄の確保

(1) 概観

 世界経済の相互依存関係が深まる中、その繁栄の確保のための国際協調の努力が世界貿易機関(WTO)などのグローバルな枠組みや、日本が95年に議長国を務めたアジア太平洋経済協力(APEC)などの地域的な枠組み及び二国間など様々な場で推進された。日本経済の繁栄のためには世界経済の繁栄が前提であり、日本もその中で自国のみならず、世界全体の経済の繁栄を実現するべく積極的な役割を果たしていく必要がある。

 [世界経済の概況]

 先進国経済は、95年にはやや減速したものの、総じて堅調であり、特に、物価上昇率は先進国平均で約2.6%(注1)と60年代初頭以来の低い水準で推移しており、インフレなき持続的成長の条件が整っている。
 経済のグローバル化はますます進展しており、95年前期の世界貿易は23%の伸びを示し、前年同期の倍近い増加率となっている。しかし、90年代初頭の景気低迷により財政支出が拡大したことを反映した高い水準の財政赤字等の問題は依然として残っている。さらに、経済のグローバル化により、新たな課題も生じてきている。
 欧州などの先進諸国では、経済が回復しているにもかかわらず失業率が10%前後に留まる「雇用なき成長」が問題化しているが、これは主として経済環境の変化に対して、産業構造が円滑に転換されず新規の雇用機会が生まれていないことや労働市場が硬直化していることによるものである。この問題に対しては、各国による適切なマクロ経済政策運営はもとより構造改革を通じて雇用を創出・拡大していく必要がある。日本も、内需主導型の経済運営、思い切った規制緩和、市場アクセスの改善等、一層の政策努力を行っていかなければならない。
 また、経済の相互依存関係の深化により、従来国内政策のみの対象と見なされていた規制、基準等の制度や慣行が国際的な場で取り上げられることが多くなっている。このような状況を背景として、国内政策の国際的協調や、貿易と環境、貿易と労働基準、貿易と競争政策の関係といったいわゆるウルグァイ・ラウンド後の「新たな課題」について将来的なルール作りも念頭に置いた検討が行われている。
 金融面においてはメキシコ通貨危機や欧州通貨不安を契機として、95年初めから4月にかけてドルが下落した。特に行きすぎたドル安・円高等のファンダメンタルズから乖離した為替相場が問題となり、4月のG7蔵相・中央銀行総裁会議はその秩序ある反転が望ましい旨合意し、ハリファックス・サミットでもこれが確認され、7月以降、ドル相場は回復に向かった。
 開発途上国や移行国の経済は、全体として世界経済に占める重要性を増大させており、これを国際経済システムに一層取り込んでいくことが課題となっている(詳細は第2章第2節2.参照)。

(注1)
OECD「OUTLOOK」による。OECD(除トルコ)のGDPデフレター。

 [WTOの発足、自由貿易・投資体制の強化]

 このような経済のグローバル化に伴う諸課題に対応するため、多角的経済体制の更なる強化が必要となっている。95年1月のWTOの発足は、多角的自由貿易体制の強化に向けての歴史的な一歩であった。多角的自由貿易体制の強化は不断の努力の下にはじめて前進していくものであり、このためには、日本、米国、EUといった主要先進国のみならず途上国を含めた全ての加盟国がウルグァイ・ラウンドの結果であるWTO協定を着実に実施していくとともに、WTOを多角的自由貿易体制を強化する上で効果的な機関として確立するための一層の努力をする必要がある。とりわけWTOの下で強化された紛争解決制度が十分活用され、尊重されるようにすることが重要である。また、サービス分野(基本電気通信及び海運)での継続交渉を合意された期限までに妥結させるとともに、シンガポールでの第1回WTO閣僚会議に向け、先に述べたウルグァイ・ラウンド後の「新たな課題」(詳細については本節(2)参照)に積極的に取り組み、前進を得ることが重要である。
 グローバルな体制強化の動きと並行して、EU、NAFTA、APEC等の地域統合・協力や二国間の経済交渉を通じ、貿易や投資の自由化、円滑化が図られているが、これらの動きは、あくまでもこのWTOを中核とするグローバルな体制を補完・強化するものとしなければならない。

 [国際機関の見直し]

 多角的自由貿易・投資体制のみならず、各種の国際機関についても、その活動が時代の要請に適合したものであるか、改めて見直しを行うことが急務となっている。95年のハリファックス・サミットの経済宣言では、IMFを中心とする国際金融体制と、世銀、国連機関を中心とする開発の問題に関わる国際機関の見直しについて、具体的な問題意識と方向性を打ち出した。国際金融体制については、国際的な金融危機を誘発するおそれのあるメキシコ型の金融危機に対応するため、このような事態を早期に把握するためのIMFによる早期警戒システムの改善、及び、万一金融危機が発生した場合のIMFによる緊急融資のための仕組みを強化することが打ち出された。また、開発に関わる機関については、持続可能な開発にむけて、貧困の削減のための政策を採るように求めるとともに、国連諸機関については、重複や無駄を省き、より効果的、効率的な組織とするための改革を一層促進するよう奨励し、諸機関の機能の整理、経済社会理事会の調整機能の強化の必要性等が指摘された。これらの内容については、現在G7各国等で協調しつつ、それぞれの機関において各種フォローアップ作業が進められている。

(2) ウルグァイ・ラウンド後の問題

 ウルグァイ・ラウンドの妥結とWTOの発足は、世界の自由で多角的な貿易体制を強化する上で画期的なものであった。しかし、貿易の一層の促進や世界経済の継続的発展を確保するためには、ウルグァイ・ラウンドの結果の実施にとどまることなく、新たな課題に取り組んでいく必要がある。

 [サービス貿易の分野における継続交渉]

 ウルグァイ・ラウンドの主要な成果の一つは、サービス貿易(金融取引、輸送、流通等)、知的所有権(特許権、商標、著作権等)及び貿易関連投資措置(ローカル・コンテント要求等)といった新しい分野についての規律を策定したことであったが、金融、海運、基本電気通信、自然人の移動といった各国の利害が複雑に絡み合い交渉が難航した分野に関しては、自由化の約束について合意に至ることが出来ず、ウルグァイ・ラウンド終了後も交渉が継続されていた。その中で、金融サービスの分野では、95年7月、期限付きではあるが、大多数の主要加盟国の間で、WTOの最重要原則である最恵国待遇(MFN)の原則を維持しつつ自由化合意が成立した。しかし、WTOの主要加盟国である米国が、金融というサービス貿易の最も重要な分野でMFN原則を受け入れていないことは好ましくなく、米国の再考を求めていく必要がある。また、自由化約束を巡りいまだ立場の相違が存在する他のサービス分野の交渉についても、各国サービス産業の自由化度や競争力の相違などの事情に配慮しつつ、自由化合意に向けて引き続き働きかけを行っていく必要がある。

 [構造改革]

 世界経済が全体としては拡大基調にある一方で、欧州を中心に先進国における失業率が依然高い水準にあり、雇用・失業問題は多くの先進国において大きな経済・社会問題となっている。一方、近年におけるグローバル化の進展や技術革新といった経済環境の変化は、先進国経済にさらなる構造改革を促しており、こうした改革は将来に向けた新たな雇用創出につながるものである。OECDでは92年以来、雇用・失業問題に関する包括的研究を進め、労働市場の柔軟性拡大や労働者の技能向上等、詳細な政策提言を行うとともに、95年5月の閣僚理事会において、各国ごとの政策提言実施のモニターとテーマ別レビュー(積極的労働市場政策、租税・給付と雇用、マクロ経済政策と構造政策との関係、技術・生産性・雇用の相互の関係)を実施していくことが確認された。6月のハリファックス・サミットでも、引き続き各国が協調して適切なマクロ政策を実施していくとともに、訓練や教育、規制緩和、労働市場の硬直性除去などの構造政策への取組や、技術革新・競争強化など、質の高い雇用創出に向けた改革努力によってこれを補完することの必要性が確認された。こうした一連の国際的議論を通じ、構造改革への取組に向けた先進国政府の意思が明確にされている。これらの構造改革は適応過程で痛みを伴う場合もありうるが、経済全般に対し効率性と柔軟性をもたらしうるものであり、短期的視点のみに基づいた新たな規制導入等を求める動きにつながらないよう、注意していく必要がある。

 [新たな課題]

 世界経済の更なる発展に向けた取組のなかで、経済のグローバル化と各国国内政策の両立を確保するための検討や、多角的経済体制を一層促進するための新しい枠組みづくりに取り組む必要が出てきている。具体的には、貿易政策と環境政策や競争政策との関係、貿易と労働基準の関係についての検討があげられるが、これらの問題については、ここ数年来、OECDを中心に充実した議論が進められているほか、貿易と環境の関係についてはWTOの下でも検討が進められている。また今日、自由な直接投資が世界経済の成長や貿易の拡大に大きな役割を果たすようになっている状況を踏まえ、これまで存在しなかった投資に関する包括的な国際的ルールを策定すべく、95年9月よりOECDの場において多数国間投資協定(MAI:仮称)交渉が開始されたことは特筆されよう。今後、97年のOECD閣僚会議に向けMAI交渉を前進させるとともに、将来の途上国の枠組みへの参加を確保するための検討を種々の国際フォーラムにおいて行っていく必要がある。
 これらの問題については、引き続きOECD、WTO、G7サミット及びAPECといった場を中心に国際的に取り組んでいくことになるが、日本としても、多角的自由貿易体制の維持・一層の強化に貢献するとの観点から、これらの議論が保護主義的な措置の導入につながらないように十分注意し、また開発途上国の関心及び関与の確保にも配慮しつつ、その議論に積極的に参画していく必要がある。

(3) 多角的協力と地域統合

 95年も、世界各地域における地域統合、地域協力の動きが活発であった。地域統合の動きとしては、年初の欧州連合(EU)へのスウェーデン、フィンランド、オーストリアの新規加盟、南米共同市場(MERCOSUR)の関税同盟としての発足、ASEAN自由貿易地域(AFTA)における、目標の2003年を早め、2000年までに可能な限り多くの品目について域内関税率を5パーセント以下に前倒しで引き下げることへの合意やサービス及び知的所有権に関する枠組み協定への署名、EUにおける通貨統合に向けた動きや人の移動の自由化を目指すシェンゲン協定の発効などに見られる地域統合の拡大、深化の動きが見られた(WTO事務局によれば、94年末現在、109の地域取極が通報されている)。また、欧州連合と北米自由貿易協定(NAFTA)を合わせた大西洋自由貿易圏構想(TAFTA)等に見られる地域統合相互の協力という新たな構想の可能性が議論されたことも注目された。
 このような地域統合は、規模の経済、域内産業の競争力強化と構造調整の進展などによる域内経済の活性化を通じ、世界経済の発展に貢献し得るものである。また国際貿易等に関して多角的なルールが未成熟な分野において関心を共有する諸国が地域的に協力することが有益な場合もある。その一方で、地域統合が域外差別的なものとなり、貿易を歪曲する可能性もあるという問題があり、特に世界経済の発展が停滞するような場合には、世界経済がブロック化し、多角的自由貿易体制の危機を招来しかねない危険がある。したがって多角的自由貿易体制に経済発展の基盤を有してきた日本としては、地域統合とWTO協定との整合性を確保するのみならず、地域統合が多角的自由貿易体制を補完し強化するものであることを確保するよう努めていかなければならない。
 この様な観点から、地域統合については、WTOやOECDなどの多国間協議の場で、WTO協定に基づく多角的自由貿易体制との整合性等につき明確な基準を作成し、これに基づきモニター・分析していくことが必要である。WTOの一般理事会においては、20を超える地域貿易取極に関する作業部会が並立している現状を改善するとともに、地域貿易取決めの多角的自由貿易体制に及ぼす影響といった広い問題を総合的に検討するため、地域貿易取決めに関する単一の委員会を設置しようという動きが見られる。OECDにおいても、これまで地域統合の動きと多角的な自由貿易体制との関係について貿易委員会の場で議論が行われてきており、95年5月には「地域統合と多角的貿易体制」と題する報告書が公表された。また、95年のOECD閣僚理コミュニケにおいても、「地域的な貿易上のイニシアティブが、新たに強化された多角的貿易体制と整合的であることを確保することを助けるため、地域統合の進捗状況に対する監視を行っていく」との記述が盛り込まれた。
 地域協力の動きとしては、95年、日本が議長国として開催したAPEC大阪会合の成功があげられる。大阪会合においては、「大阪行動指針」を採択し、APECの自由化の成果は域外国にも広く均霑されることが規定され、各メンバーによるウルグァイ・ラウンド合意の自主的な前倒しや規制緩和措置が「当初の措置」として提示された。これは、APECが内向きの経済ブロックや保護主義の動きに反対するとともに、多角的自由貿易体制の維持・強化に貢献していくものであることを行動をもって示したものである。日本としては、このようなAPECにおける「開かれた地域協力」をマルチのレベルにおける更なる貿易自由化を目指す新たな方式として積極的に推進していくことが適当である(APEC大阪会合の詳細については第1章2.(1)参照)。

(4) 資源・エネルギー問題

 発展途上国の力強い経済成長を背景に、世界のエネルギー需要は今後も急速な伸びを続け、2010年にかけて4割以上増大するといわれている。さらに、エネルギー消費の増加による地球温暖化の加速等、環境問題に対する関心も高まっている。エネルギーを大量に消費し、そのほとんどを輸入に依存している日本としては、石油危機を経て蓄積した省エネ等の分野での技術・知見を活かしつつ、これらの問題に関する国際協力を積極的に進める必要がある。
 日本は、95年5月にパリで開催された国際エネルギー機関(IEA)の閣僚理事会で、エネルギー需要の伸びの著しい途上国との協力の重要性を訴えた。11月のAPEC大阪会合では、日本が提案したアジア太平洋エネルギー研究センターの設置等、エネルギー分野での協力の強化が決定された。
 また、食糧需給については、人口の急速な増加、経済成長に伴う開発途上国の食糧消費水準の上昇、地球上の資源・環境問題への配慮から、世界的な関心が高まりつつある。こうした中で、95年10月にはカナダ・ケベックで国連食糧農業機関(FAO)の創設50周年を記念し、「食糧と農業に関する50周年記念宣言(ケベック宣言)」が採択され、飢餓から人類を解放することの重要性が再確認された。また、10月の第28回FAO総会では、96年11月にローマで「世界食糧サミット」を開催することが決定された。
 漁業分野では、世界人口が増加する中で、環境問題と漁業の調和を図りながら海洋生物資源を持続的に利用していくための包括的な議論が行われている。特に公海における漁業のあり方について、95年8月に国連公海漁業協定が作成され、また10月には、秩序ある漁業のための国際協力を目的とした、責任ある漁業のための行動規範がFAOの総会で採択された。さらに、12月に京都において日本が主催した持続的漁業国際会議では、96年11月のFAO世界食糧サミットに向けて漁業の役割の重要性を強調する「京都宣言」が採択された。

・図表7(我が国の規制緩和プロセス)

(5) 日本の政策努力

 日本は、世界経済の主要な担い手として、適切な経済運営や思い切った規制緩和をはじめとする経済構造改革の推進を通じ、世界経済の健全な発展に適切な役割を果たしていく必要がある。また、内需を中心とした安定成長の確保や市場アクセスの一層の改善などにより、引き続き経常収支黒字の意味のある縮小を図り、国際社会と調和のとれた経済社会を創出していく国際的責務を担っている。
 日本経済は、バブル崩壊の後遺症に加え、95年年初以来の震災や円高等の影響により景気の足踏み状態が長引くとともに、金融機関の不良債権問題が深刻化するなど、全般的には依然として厳しい状況が続いた。こうしたなかで、政府は景気を本格的な回復軌道に乗せ、また日本経済の中長期的な発展のための構造改革を推進すべく累次にわたる経済対策等の政策努力を行った。
 具体的な施策としては、まず3月に、内需の拡大や輸入の促進、国民生活の質の向上等を目指すため、今後5年を期間とし、11分野1091事項の規制緩和措置を盛り込んだ「規制緩和推進計画」が策定された。本計画は内外からの意見・要望、行政改革委員会の監視結果等を踏まえ、毎年度改定されるものであり、その改定プロセスにおいては、中間検討状況の公表等、透明性の確保に特別の配慮が払われている。
 さらに95年年初以来の急激な為替レートの変動を受け、4月に「緊急円高・経済対策」を策定した。これは日本経済の中長期的発展を確保するため、機動的に内需振興を図る一方、「規制緩和推進計画」の実施期間の3年間への短縮、輸入促進策、経済構造改革の推進等の施策を盛り込んだものである。これに続いて、6月には、「緊急円高・経済対策の具体化・補強を図るための諸施策」、8月には、「円高是正のための海外投融資促進策」等の一連の円高対策が講じられた。
 9月には、為替や株式市場に明るい兆候がでてきた中で、景気回復を確実なものとするために、経済構造改革の一層の推進や過去最大規模の内需拡大策を盛り込んだ総事業規模14.2兆円の「経済対策」の実施を決定した。
 また、11月には、92年に策定された「生活大国5か年計画」に代わる新経済計画「構造改革のための経済社会計画」が発表された。この新経済計画は、日本の中長期的発展のため、自由で活力ある経済社会の創造、豊かで安心できる経済社会の創造、地球社会への参画という3つの方向性に沿った構造改革策を示すとともに、「高コスト構造是正・活性化のための行動計画」等を打ち出している。

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2. 途上国・移行国の開発問題

(1) 開発のための諸課題

 [最近の傾向]

 冷戦下の国際社会においては、先進国と開発途上国の関係は、ともすれば東西対立の影響を受けて政治問題化されやすい傾向にあったが、冷戦の終結の結果、より現実的な対話やパートナーシップを進める機運が生じている。
 東アジアや中南米を中心とするいくつかの開発途上国は、急速な経済発展(注1)を示し、世界経済に良い影響をもたらしてきている。一方、アフリカ等の多くの開発途上国はいまだ貧困や低開発の問題に直面している。また、経済発展を遂げた開発途上国の経済も脆弱性をはらんでいる。94年末からのメキシコの通貨危機は、比較的順調に経済発展を進めてきた開発途上国ですらその経済基盤が脆弱であることを露呈するとともに、これが世界経済全体に大きな影響を及ぼしかねないことを示した。
 このことから、世界経済の安定的な発展のためには、開発途上国の経済・社会状況に応じて、その開発を促し、世界経済の枠組みに組み込んでいくことが重要である。その際、東アジアの開発途上国においては経済の自由化・開放が成長の原動力であるとの認識が生まれているが、このような東アジアの経験を他の地域に伝達していくことが重要である。
 さらに、多くの開発途上国における貧困や低開発は、社会的不安や紛争等の原因にもなりかねないという点で、国際社会の平和と安定をも脅かすものでもある。この意味でも開発問題への取組は緊急の課題であるといえよう。

(注1)
1981年以降の経済成長率の平均は、G7諸国全体の2.5%に対し、東アジアでは7.3%、中南米ではl.7%、開発途上国全体では4.7%。

 [新しい開発戦略]

 このような状況の中、開発に対する新たな戦略が必要となってきている。日本はこの問題に積極的に取り組んでおり、第50回国連総会の一般討論演説でも、河野外務大臣が以下のような新たな開発戦略の必要性を訴えた。
政府開発援助は引き続き重要な役割を担っていくものであり、日本は引き続き援助の拡充に努めていく。
開発途上国を世界経済に統合していく上では、政府開発援助だけでなく、貿易、投資、マクロ経済政策、技術移転、社会インフラの整備等の様々な政策手段を総合的に組み合わせる「包括的アプローチ」が重要である。
個別の国の発展段階に応じて、上述の政策手段の中から最適なものを組み合わせる「個別的アプローチ」も重要である。
また、そのための具体的な指針として(A)開発の成果を具体的に示す現実的な開発目標の国連の場等で検討し設定すること、また、そのような目標の実現に向けて開発途上国と援助国が協力すること、(B)政府のみならず、NGO、地方自治体といった新たな開発主体を巻き込んだ「参加型」の開発を促進すること、(C)「南南協力」を一層推進すること、が重要である。

 [開発途上国の国際的・地域的枠組みへの取り込み]

 上記の新しい開発戦略を実施していく上で開発途上国を国際的な枠組みに組み込んでいくことが重要であり、以下に見るとおり、様々な分野で努力を積み重ねていく必要がある。
(A)グローバルな枠組みへの統合
 国連では、総会の下に設置された作業部会において、ブトロス=ガーリ事務総長の提出した「開発のための課題」に関する報告書を受けて、新たな開発戦略の策定とこれに基づく国連諸機関の改革が議論されており、またIMF、世界銀行等の国際金融機関の改革に関する議論も進められているが、これらの議論に対する開発途上国の建設的役割を求めていくことが重要である。
 貿易・投資の面では、国際的な貿易・投資の中に占める開発途上国の比重の高まりに伴い、開発途上国に対して既存の国際ルールの遵守とともに、新しい国際ルールの作成への建設的関与を求めていくことが極めて重要となっている。その意味で、中国をはじめとするWTO未加盟国・地域がWTO協定の規律を受け入れ、その加盟国となることが重要である。また、OECDでは、アジアやラテン・アメリカの「活力ある非加盟経済」(DNMEs)との間で政策対話を行い、貿易・投資の問題に関する国際社会のルールへの習熟を促すとともにポスト・ウルグァイ・ラウンドの課題に開発途上国の考え方をも反映させるように努めているが、このような努力を継続していくことが重要である。また、OECDで交渉が開始された多数国間投資協定交渉に開発途上国の参加を得ていくことも課題となっている。  特に、高度成長を続け、世界経済への影響力を増している中国の世界経済への統合は重要である。OECDとの間では、「中国貿易・投資ワークショップ」の開催や、OECD事務局ハイレベルミッションの訪中など、対話と協力が進められつつある。また、WTOへの中国加盟については、その条件を巡って交渉が継続しているが、中国経済の世界経済における重要性からも、早期加盟の実現が期待される。
(B)地域的な枠組みへの統合
 開発途上国を含んだ地域統合・協力は、APECの他に欧州連合(EU)による中・東欧諸国、地中海諸国との自由貿易協定の締結、NAFTAの拡大や米州の経済統合の動きなど世界各地で見られるが、このような開発途上国を含んだ地域協力は、あくまで多角的自由貿易体制を補完するべきものであり、WTO協定に従って行われる必要がある。その意味でもAPECが開かれた地域協力の性格を維持していることが重要である。また、日本の提案により、APEC大阪会合において、発展段階の異なるメンバーがパートナーとして経済・技術協力を推進していくスキームとして「前進のためのパートナー(PFP)」が合意されたが、これは地域的枠組みにおける先進国と開発途上国の協力の一つのモデルを示したといえる。


 [経済の脆弱性の克服]

 開発途上国の経済の脆弱性の克服も開発に関する重要な問題である。開発途上国の経済の多くは、依然、構造的供給過剰を基調として価格の不安定な一次産品の輸出に依存しており、累積債務問題も依然として深刻である。短期的には市場原理に基づいた一次産品市場の安定化努力や債務救済等、国際社会全体がこの問題に取り組む必要があるが、問題の根本的な解決のためには、経済構造の改善、構造調整の実施等、開発途上国の自助努力による経済再建が重要である。

(2) 移行国の経済

 移行期にある諸国においては、依然厳しい状況の中で、民主化、市場経済の導入及び世界経済への統合に向けた努力が続けられており、全体では90年代に入って初めて経済成長がプラスに転じるなど、経済は回復軌道に乗り始めている。
 このような努力は中・東欧、旧ソ連をはじめとして、アジア、アフリカ、中南米などの地域でも継続している。しかし、中・東欧諸国に見られるように徐々に成果をあげ始めている国がある一方で、依然として困難を抱えている国も多い。例えば、ロシアでは、インフレの段階的低下、工業生産の下げ止まりの兆しなど、明るい兆候がある一方で、低所得者の生活の悪化、構造改革の遅延など、問題も多く残っている。他の旧ソ連諸国でも、インフレには終息の兆しが見え、国民所得の落ち込みは94年に比べて総じて緩やかであるものの、ベラルーシ、ウクライナを始めとする多くの国で引き続きマイナス成長を見せている。
 民主化・市場経済の導入に向けて移行期にある諸国における改革を成功させることは、それら諸国自身の安定と発展にとって不可欠であると同時に、世界全体の平和と繁栄の枠組みを形作っていく上でも極めて重要である。もとより、問題の解決のために最も重要なのは改革のための移行国自身の努力であるが、同時に、政治・経済の混乱、新たな生起した社会問題、国民生活の一時的な悪化による市民の支持の低下など改革を継続する上での困難が存在することが多く、こうした困難を軽減するためにも国際社会が協調して改革努力を支持・支援していく必要がある。
 ハリファックス・サミットでは、G7諸国がロシア、ウクライナをはじめとする移行国における改革に対する支持を再確認したが、日本はこれらの諸国の政治・経済両面における改革をG7諸国をはじめとする国際社会と協調しつつ、支援を実施している。また、日本は二国間の経済協力を活用し、中・東欧、カンボディア、ヴィエトナム、ラオス等の経済改革、民主化等にも協力している。

(3) 日本の政府開発援助(ODA)

 [94年の日本のODA実績]

 世界的に開発需要が多様化し、増大する中、日本は引き続き援助の拡充に努め(注1)、94年のODA実績は、132.4億ドル(東欧向けを除く)となった。これは、4年連続で世界最大であるとともに、OECD開発援助委員会(DAC)21カ国合計の22.9%にあたる。援助の質(援助供与条件が緩和されている度合い)に関しては、贈与比率、グラント・エレメント(注2)ともに、依然DAC平均を下回っているが、贈与(注3)の絶対額は、世界第3位のODA供与国である仏の援助総額を上回っている。また、援助を受けている国・地域の中ではアジア地域が引き続き最大(注4)であるが、供与先の多様化が進み、158カ国・地域に及ぶ(注5)など、日本のODAは世界のほとんどの途上国においてその経済・社会開発に極めて重要な役割を果たしている。

 [ODAを巡る国際環境]

 ODAを巡る国際環境は依然厳しく、他の主要な援助国はいずれも94年の援助額を減少させ、94年のDAC全体では落ち込みが激しかった93年から僅かに2.4%の増加(注6)にとどまった。
 一方、ODAに対する需要は、貧困問題の深刻化、冷戦構造の崩壊による援助対象国の拡大等に加え、地域紛争の増大に伴い旧ユーゴーやルワンダでの大量の難民・避難民への対処や、モザンビークやアンゴラでの緊急人道援助と復興援助・開発援助との連続性確保の必要性が認識されるなど、以前にも増して拡大している。また、地球規模の問題への対処、途上国の女性支援(WID)、途上国・移行国の民主化・市場経済化支援等、援助需要の多様化も進んでいる。さらに、開発に対する考え方も、一連の国連主催の会議(注7)に見られるように、「経済開発」のみならず、環境との調和を重視した持続可能な成長の達成、人間と社会の発展に焦点を置いた「人間優先の社会開発」へと広がってきている。
 国際社会における相互依存関係が一層緊密化する中で、日本が、ODAにより、これらの課題等に対処し、開発途上国の経済・社会発展に貢献することは、国際社会の平和と繁栄、ひいては日本の国益の確保につながるものである。ODAは、途上国との友好関係構築、外交活動を行っていくための環境整備といった意味で大きな役割を果たし、まさに日本の最も重要な国際貢献及び外交の重要な柱の一つ、日本外交の重要な一部となっている。こうした観点より、日本は積極的にリーダーシップを発揮し、近年財政状況が極めて厳しい中、第5次中期目標に基づき引き続き援助の拡充に努めるとともに、ODAの新たな分野に対しても多大な貢献を行っている。
(注1)
対前年比の伸び率は、円ベースで8.1%、ドルベースで17.6%。
(注2)
金利、償還期間を基に算出した援助の譲許性の程度。
(注3)
無償資金協力、技術協力及び国際機関への出資等。94年で89億84万ドル(東欧向けを除く)
(注4)
二国問ODAの57.3%に当たる55.4億ドルがアジア諸国向け。
(注5)
日本は93年には34カ国で最大の援助国、更に、29カ国で第二位の援助国。
(注6)
94年のDAC全体のODA実績総額(支出純額)は577.5億ドルで、日本の増加分19.8億ドルを除いた他のDAC諸国のODA額は93年より6.4億ドルの減少となる。
(注7)
95年には社会開発サミットと世界女性会議が開催された。

 [最近の援助動向]

 日本は、途上国の幅広い開発ニーズ、異なる発展段階に対応して、各種の援助形態を活用し、経済インフラの整備から基礎生活分野(BHN)、さらには途上国の経済構造改善努力への支援等幅広い分野を対象としてバランスのとれた援助を行っている。途上国の経済開発を支援するためには援助の供与という手段のみでは十分ではなく、貿易、直接投資を含む包括的な取組が重要であり、貿易や民間資金の流入が容易となるような基盤整備や、民間資金が流入しにくい分野への補完的援助を一層積極的に行うための検討も進められている。
 また、日本は経済・社会基盤整備のためのハード面での協力とともに、人材育成、経済社会制度造りといったソフト面での協力、地方公共団体や途上国で活動するNGOに対する支援や青年海外協力隊の活動等草の根レベルの協力を重視し、これらの援助の積極的充実に努めている。特に、阪神・淡路大震災等を契機とし、国民の間でボランティア活動等を通じた社会的貢献や国際協力への参加の意欲が急速に高まっており、政府としても国民参加型の援助のより一層の推進を図る方針である。
 日本の援助は真に国民の支持と理解を得たものであることが必要であり、「政府開発援助(ODA)大綱」の理念・原則を踏まえた適切な援助の実施に努めている。また、援助に関する情報が広く国民に公開されることが重要であり、広報活動の積極的推進とともに、ODA白書の刊行やODAの実施状況に関する年次報告の公表など情報公開を進めている。

・図表8(政府開発援助大綱の概要)

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第3節 地球規模問題及び国際交流・協力

1. 地球規模問題解決のための努力

(1) 環境、人口・エイズ

 [環境]

 人類全体の生存に脅威を与える地球環境問題の解決のためには、各国ごとの努力だけでは不十分であり、グローバルな取組及び地域的な取組が不可欠である。地球環境の破壊は、現時点で目には見えない場合でも、数十年後、百年後に現実の脅威となる性質を有しており、長期的な観点からの取組が必要である。また、地球環境問題にどう取り組むかは、各国の経済発展に大きな影響を及ぼしうる問題であり、各国の経済政策との調整が必要となるため、異なる発展段階と経済情勢にある百数十ヶ国の国々が協調的行動を行うことは容易ではない。従って、各国の間の認識の相違や利害の対立を調整し、全地球的、世代を超えた観点からの適切な取組を行うためには、多大な外交的努力が必要である。
 地球環境問題に対する関心は、92年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(UNCED、いわゆる「地球サミット」)において大きな高まりを見せ、この会議の成果として採択された「環境と開発に関するリオ宣言」及び「アジェンダ21」などは、現在の国際社会の議論と取組の出発点となっている。国際社会は、これまで、各国国内や国連持続可能な開発委員会(CSD)などにおいてこれらの成果を着実に実施に移すべく努力してきている。また、97年には、地球サミット以降の様々な取組を包括的に評価するための国連環境特別総会も予定されている。この総会を一つの節目として、地球サミットでの成果を更に前進させるための努力が続けられている。
 例えば、地球温暖化問題については、95年4月に開かれた気候変動枠組条約の第1回締約国会議において、これまで決まっていなかった2000年以降の温室効果ガスの取り扱いに関する検討が開始されることとなった。森林問題についても、95年4月の第3回CSD会合で「政府間森林パネル」が設置され、97年までに国際的取組のあり方について結論が出される予定である。さらに、95年11月には陸上での活動を原因とする海洋汚染を防止するための「世界行動計画」が採択された他、今後、化学物質の規制に関する条約交渉も開始される。また、国連改革の動きが高まる中で、持続可能な開発委員会(CSD)、国連環境計画(UNEP)といった環境分野の国際機関等についても、より有機的な連携の下で効果的・効率的な活動が行われるよう見直すべく議論が深まりつつある。
 このように様々な分野で国際社会での動きが活発化し進展する中で、日本としても地球環境問題を日本外交の主要課題の一つとして位置づけ、最大限の努力を行ってきている。第一に、地球環境問題の解決へ向けた国際的な法的枠組みの強化のため、各種環境関連条約の作成過程における開発途上国と先進国との立場の調整や、条約交渉会議等への開発途上国の参加を促すための経費支援等の面で、日本は主要な役割を果たしてきている。第二に、地球サミットにおいて、日本は92年度より5年間で環境ODAを9,000億円から1兆円を目途に拡充・強化する旨表明したが、94年度までの3年間で既に約7,000億円の実績を達成した。第三に、環境保護と経済発展の両立を図るための技術の開発と開発途上国への移転の分野で、「UNEP国際環境技術センター」を日本に誘致し、プロジェクト等の経費支援をも行っている他、ODAを通じて中国、タイ、インドネシアなどに環境保全の拠点を設置し協力を行ってきている。第四に、開発途上国の地球環境問題に対する取組の支援のための基金として設立された「地球環境ファシリティ(GEF)」についても、日本は、設立当初より積極的に支援してきており、94年7月から3年間の第一次増資においては全体額の約20%である約450億円を拠出した。
 日本は、グローバルな取組のみならず、経済成長の著しい東アジア地域で環境問題が今後深刻化する可能性を念頭に置いて、APEC、東アジア地域での協力といった地域的協力、及び、日米、日EU、日中等の二国間の政策対話を通じて、意見交換、政策調整等を行ってきており、今後こうした取組も強化していく方向にある。

 [人口]

 世界人口は現在57億5千万人を越えている。特に開発途上国では、著しい人口増加が経済・社会開発における阻害要因となっているほか、緑地の砂漠化や地球温暖化等の地球環境問題にも悪影響を及ぼしており、人口問題は人類が直面する緊急課題の一つとなっている。
 94年9月にカイロで開催された国際人口・開発会議(ICPD)において、今後20年間の人口問題への取り組みの指針となる「行動計画」が採択された。また日本は、この会議に先立ち、94年2月に1994年度から2000年度までの7年間に人口・エイズ分野でODA総額30億ドルを目途とした途上国援助を行うための「地球規模問題イニシアティブ」(GII)を発表した。ICPD「行動計画」においては、人口問題への取り組みにおける教育、開発、女性の地位向上等の重要性が謳われているが、日本も、GIIの実施においては、家族計画、母子保健等の直接的協力のほか、人口問題が経済社会問題全体に深く関わっていることから、基礎的保健医療、女性の初等教育及び職業訓練等の間接的協力を含む包括的アプローチを採用している。また、日本は、人口分野での多国間協力も積極的に行っており、国連人口基金(UNFPA)等への拠出は86年以降第1位となっている。

 [エイズ]

 エイズの蔓延は世界的に深刻な状況にある。世界保健機関(WHO)は、95年6月末までの累計エイズ感染者数を2000万人と推計し、毎日6000人の感染者が発生していると報告した。特に、アジアにおける感染者が急増しており、将来はアフリカにおける新規感染者を上回る可能性があると予測している。エイズは人類に対し多大の苦悩を与えるのみでなく、多くの開発途上国において経済発展の阻害要因となっている。94年8月の横浜国際エイズ会議や同年12月のパリでのエイズ・サミットにおいてエイズ問題は「人類共通の課題」として全世界が緊急に取り組まなければならないとの認識が高められた。このような国際的な動きの中、96年1月には、エイズ対策に取り組んでいる国連の6機関が、より効果的にかつ共同でエイズ対策にあたることを目的とした国連エイズ共同プログラム(UNAIDS)を発足させた。

(2)人権、社会開発、女性

 [人権]

 (人権をめぐる国際社会の取組)
 近年、人権問題に対する国際的な関心が高まってきており、特に、93年6月の世界人権会議で採択された「ウィーン宣言・行動計画」に基づき、様々な取組が行われている。
 国連は、従来より国連人権委員会や国連総会などのフォーラムにおいて、特に重大な人権侵害を行っている国に対して、人権状況の改善を求める決議を採択したり、人権関係条約等の国際的な人権基準を採択してきたが、近年、各国の人権状況改善に向けた努力を国連が直接支援するため、人権分野における技術的支援にも力を入れてきている。具体的には、国連人権センターが各国からの要請に応え、人権状況の改善のため、専門家を派遣して助言を与えたり、セミナーを開き公務員を訓練するなどの活動の支援を行っている。
 国際的な人権意識の向上のための取組としては、95年1月1日に開始した「人権教育のための国連10年」が挙げられる。この下では、国連人権高等弁務官を中心とする国連諸機関、世界各地の人権機構、各国政府、地方政府等広範な機関が人権教育の促進に携わり、2004年までの10年間を通じて世界各地における人権意識の向上が期待されている。日本としては、「人権教育のための国連10年」を履行すべく、95年12月、総理大臣を本部長とした推進本部体制を設置した。
 (日本の人権外交)
 日本は、人権が人類共通の普遍的価値であり、世界の平和と繁栄の基礎であるという考え方に基づき、人権状況に問題がある国に対しては、機会をとらえて日本の懸念を伝えるとともに、人権状況を改善する努力を求めてきている。また、ODAの実施に当たっては、ODA大綱に基づき、重大な人権侵害が見られた国に対しては、援助方針を見直すなどの措置を採ってきている。
 また、国連との協力という点では、日本は82年以来継続して国連人権委員会のメンバー国であり、国連の人権活動の強化に積極的に貢献してきている。
 95年7月には、国連大学との共催で「アジア太平洋地域人権シンポジウム(第1回人権セミナー)」を開催し、アジア太平洋地域における人権の擁護・促進のための国際協力の可能性について議論した。アジア太平洋地域は他の地域に比べて多様性に富む文化圏であり、この地域の国々の人権に対する考え方は様々であるが、このようなセミナーを通じて人権に関する共通認識が醸成されていくことが期待される。
 さらに日本は、95年12月15日、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の締結を実現した。この条約を締結することは、人種差別の撤廃に関する日本の姿勢を内外に示すものであり、また、国際社会における人権の尊重の一層の普遍化に貢献するという意味からも、極めて重要なものである。

 [社会開発]

 貧困、失業及び社会的弱者の疎外などの問題は、開発途上国のみならず先進国にも共通する問題であるが、これまで国際レベルでまとまった形で取り上げられることがなかった。しかし、冷戦後、国際社会全体として社会問題の解決に取り組むべきであるとの考え方が強くなり、このような政治的決意を最高レベルで表明することを目的に、国連総会決議に基づき3月11日及び12日、コペンハーゲン(デンマーク)において社会開発サミットが開催された。このサミットには、村山総理大臣をはじめ118カ国の政府首脳あるいは国家元首が出席し、「コペンハーゲン宣言及び行動計画」を採択し、社会開発に向けての国際的取組みを示した。日本は、このサミットの準備の過程より社会開発の理念として社会的公正の実現を中心課題に据えることを主張するなど積極的な貢献を行うとともに、村山総理大臣は、ODAの中での社会開発分野の重視、教育・職業訓練等の技術協力の推進及び途上国の女性支援の強化を表明した。

 [女性]

 95年9月、ナイロビ世界会議以来10年振りに、第4回世界女性会議が中国の北京で開催され、北京宣言及び行動綱領を採択した。行動綱領は、貧困、教育、健康、人権、暴力など12の重大問題領域を指摘し、これらの分野において西暦2000年に向けて各国、国連などが取るべき措置や行動を示したもので、女性の地位向上に向けての国際的及び国内的活動の推進に大きな弾みを与えるものとなっている。
 日本からは、野坂内閣官房長官兼女性問題担当大臣が出席し、その演説で女性のエンパワーメント(女性が実力をつけること)の重要性、女性の人権の尊重、男女間、政府とNGO、及び国境を越えたパートナーシップの促進の3点を強調した。また、女性のエンパワーメントのための日本の国際的な貢献として「途上国における女性支援(WID)イニシァティヴ」を発表し、これを推進することを表明した。
 第4回世界女性会議後の第50回国連総会第3委員会において、日本は、女性に対する暴力問題は国際社会が一致協力して取り組むべき問題であるとの考えの下、また、世界女性会議で採択された行動綱領のフォローアップの一環として、「女性に対する暴力撤廃における国連婦人開発基金の役割」決議を提出し、これがコンセンサスで採択された。

(3)麻薬・国際犯罪・テロ

 [麻薬]

 麻薬の主要生産地は、世界に広く存在しており、ヘロインについては、タイ、ラオス、ミャンマーの「黄金の三角地帯」やアフガニスタン、パキスタン、イランの「黄金の三日月地帯」のほか、近年では、ペルー、コロンビア等中南米地域においても生産されている。コカインについては、ペルー、ボリヴィア、コロンビア等で生産され、欧米地域のほ
 この国際的麻薬問題の現状に対し、日本はアジア太平洋地域を中心に、国連特に国連薬物統制計画(UNDCP)に対して積極的に貢献を行っている。
 日本が提唱した構想に基づき92年3月にバンコックで開所したUNDCP東南アジア地域センターが、「黄金の三角地帯」等の国境地帯における共同対策プロジェクト策定を積極的に推進するとともに、タイ等の生産地のある政府も麻薬問題への真剣な対応を開始している。日本は、このセンターの活動も含めUNDCPへの支援を強化しており、95年度には600万ドルを拠出した。また、麻薬対策に関連する先進国の援助政策等の討議を行うダブリン・グループ等が積極的な活動を行っており、日本は95年には同グループの議長国を務めるなど一層積極的に協力してきている。
 その他、日本はアジアにおける麻薬対策の人材育成等に取り組むためのコロンボ計画に対する資金協力や、中南米地域で麻薬対策に中心的役割を果たしている米州機構(OAS)全米麻薬乱用取締委員会(CICAD)に対する資金協力等を実施している。
 また二国間の協力として、95年麻薬対策関連研修等の実施のほか、ミャンマー等で麻薬に代わる作物の生産促進にも資する食糧増産援助等の協力を実施した。さらに95年には、日米包括協議の下、コモン・アジェンダの一環として麻薬問題作業部会が開催され、本問題に関するグローバルな日米協力について協議が行われた。

 [国際犯罪]

 近年、組織犯罪・経済犯罪等の国際犯罪がますます活発となっており、その防圧が国際社会の共通の課題として受けとめられている。
 まず、日本は、国連の犯罪防止刑事司法委員会のメンバーに1992年の発足時から連続して選出されており、その政策決定過程に積極的に参加してきている。また、一国の銃器管理のあり方が他国の銃器情勢に大きな影響を与えるようになっていることを重視し、日本は、95年春にカイロで開催された第9回国連犯罪防止会議において「犯罪の防止と社会の安全のための銃器規制」と題する決議案を提出し、採択された。現在、この決議を受けて、各国の銃器規制制度、銃器犯罪・銃器流通の状況等を調査する、銃器規制プロジェクトが国連の下で進められており、日本は、調査経費のうち約16万ドルを負担するとともに、調査計画作成のための専門家を派遣するなど、率先して貢献を行ってきている。
 さらに、95年6月のハリファックス・サミットの議長声明においてG7及びロシアが国際組織犯罪に協力して対処する旨謳われたことを受けて、同年中に2回にわたり専門家会合が開かれたが、日本は、積極的に議論に参加した。
 また、麻薬取引等による不正資金の洗浄の防止(いわゆるマネー・ローンダリング)対策としては、金融活動作業部会(FATF)での議論を踏まえ、各国とも諸般の対策を講じてきており、日本としても95年12月の第3回アジア・マネー・ローンダリング・シンポジウムの東京開催に貢献する等、積極的に対応してきている。

[テロ]

 テロは、冷戦後の平和と繁栄のための新たな枠組み作りを阻害し、また、市民の安全を直接脅かすものとして、その脅威は国際的に極めて深刻な問題となっている。特に、95年には、東京地下鉄サリン事件(3月)、米オクラホマ連邦ビル爆破事件(4月)、仏国内連続爆弾事件(7~10月)、ラビン首相の暗殺(11月)を含む中東和平関連テロ等、主要テロ事件が相次いで発生し、テロ対策に係る国際的取組の重要性が強く認識された。
 ハリファックス・サミットでの合意に基づき、12月にオタワでG7及びロシアの治安担当大臣等が出席してテロ対策閣僚級会合が開催され、行動指針を含む「テロ対策に関するオタワ閣僚宣言」が採択され、協力的措置の強化が合意された。日本からは、深谷国家公安委員会委員長が出席し、地下鉄サリン事件を踏まえ、化学・生物テロ対策の強化を提唱し、各国の賛同を得た。
 あらゆる形態のテロリズムを非難し、断固としてこれと闘うこと、テロリストに対し譲歩しないこと及びテロリストを裁判にかけるための法の支配の適用は、サミットでも累次強調されてきた基本方針であり、日本としても同方針に基づき断固たる態度をもって臨んでいる。
 日本赤軍については、メンバー十数名を国際手配しているが、3月、ルーマニアに潜伏していた重要メンバー1名を発見、ルーマニア政府の協力を得て逮捕した。

(4) 難民

 冷戦終結後も世界各地では、民族的、宗教的対立などに起因する地域紛争が多発しており、これに伴いおびただしい数の難民、国内避難民が長期にわたって発生している(世界の難民数は、94年末現在、推定約3,000万人)。
 こうした難民問題は、人道上の問題であるのみならず、難民流出国やその滞留地域、ひいては世界全体の平和と安定に大きく影響を及ぼしかねない全世界的問題となっており、その解決に向けて国際社会は一致協力して取り組む必要がある。難民・避難民に対する支援に関しては、多くの場合、政治的、民族的、宗教的背景等により、二国間援助の対象となりにくく、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)等の国際機関が中立、公正な立場から支援を行ってきている。
 95年は、新たな大量難民発生こそなかったものの、200万人のルワンダ難民、350万人の旧ユーゴー難民問題が引き続き世界の注目を集めた。ルワンダ難民については、UNHCRがザイール、タンザニアなど難民受入国とも精力的な協議を行い、難民の本国への帰還を開始したが、そのペースは遅く、国際社会の更なる努力が必要となっている。旧ユーゴー難民については、12月に和平合意が成立し、96年春から本格的な難民の帰還が開始されることとなったが、紛争で破壊された社会全体の復旧・復興の問題も残されており、楽観は許されない。
 日本はこうした難民・避難民に対する人道援助を国際貢献の重要な柱の一つと位置づけ、UNHCRをはじめとする人道・難民支援国際機関の主要拠出国として積極的な役割を果たしている。95年は、特に、旧ユーゴーのクロアチア共和国においてUNHCRと共同で難民収容センターを建設し、日本人スタッフによる運営を開始したほか、活発化しつつある日本のNGO活動を積極的に支援した。

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2. 国際文化交流の推進


(1) 国際文化交流・国際文化協力の必要性

 冷戦終結を受けて新しい国際秩序を模索している現在の国際社会にとって、各国民が文化的相違に対する理解を深め、相互に尊重しあえる状況を構築することが重要である。また、新しい世界を社会的にも公正で豊かなものとしていくために、異なる文化が触れあうことにより世界文化の一層の発展を促進することも必要である。
 日本に関して言えば、文化面における活動を通して日本人の意見や思考形式を正しく紹介し、経済面に焦点が当てられがちであった対日観をバランスの取れたものとすることが重要となっている。また、国際的に文化面での豊かさが増すことは、日本社会にも潤いをもたらすものであり、日本は、文化面においても国際社会に対し積極的な貢献を行う必要がある。
 以上の観点から、日本はこれまで様々な国際文化交流、文化協力を推進してきている。さらに、95年10月には、戦後50周年を契機に発表された平和友好交流計画の一環として、アジア諸国との相互理解と文化的協力関係の促進を目的とするアジアセンター事業部が国際交流基金内に創設された。

(2) 相互理解の促進

 [文化の相互紹介]

 政府は海外における日本文化の紹介及び国内における海外文化の紹介にも協力している。具体的には、現地の大使館が日本武道実演、日本人形展などの行事を開催しているほか、国際交流基金を中心に、舞台芸術の紹介、展覧会の開催、日本のテレビ番組・映画の放映の促進といった事業を行っている。95年には、多様な日本文化紹介行事を組み合わせた「イタリアにおける日本」、「日本ブラジル修好100周年記念事業」、「ハーバーフロント現代日本芸術祭(カナダ)」、「日本インドネシア友好祭」等の開催を支援し、総合的な日本文化紹介に努めた。

 [日本語教育・日本研究支援]

93年の調査によれば海外の99の国や地域で約162万人が日本語を学習しているが、政府は、海外における日本語教育の一層の普及を図るべく日本語教育専門家の海外派遣、海外の日本語教師の日本での研修及び教材の寄贈などを行っている。以上の事業を更に効果的に行うため、専門的日本語研修を行う施設として国際交流基金関西国際センターの建設が進められている(96年末完成予定)ほか、海外の日本語センター(現在6か所)の充実も図られている。
 海外での日本研究は、従来からの文学、歴史といった分野に加えて、経済学など現代日本を対象とした分野へと多様化しており、これを支援することは海外での対日理解を促進するとの観点より、政府は現地の大学・研究機関への客員教授及び講師の派遣、若手研究者の招聘等の事業に取り組んでいる。

 [人物交流]

 人物交流は相互理解の礎であり、青年層から各国を代表する有識者まで幅広い人物交流が行われている。
 94年の調査では5万人以上の留学生が日本で学んでいるが、彼らを受け入れることは、相互理解、友好親善に寄与し、日本の良き理解者を育成するとの観点から、政府は様々な形でこれを推進している。青年招聘計画では、政府は世界各国から有為な青年をグループで日本に招聘し、相互理解の促進を図っている。また、JETプログラムにより、創設後10年間でのべ2万3千人以上の外国青年が来日し、全国の中・高等学校における外国語指導などに従事し、地域レベルでの国際交流に大きく貢献している。
 また学者、研究者、文化人などの知的指導者間の交流は相互理解に役立つほか、新たな国際秩序の構築に重要な指針を与えうるものであり、様々な形でその促進が図られている。政府はスポーツを通じた交流にも力を入れており、スポーツ専門家の派遣や招聘等を行っているほか、オリンピックなど主要な国際スポーツ大会開催を支援している。また2002年サッカーワールドカップ日本招致に関し、政府も、日本サッカー協会がワールドカップを日本に招致することについて、2月21日に閣議了解を行い、招致活動を支援している。


(3) 国際文化協力

 [文化財の保存]

 世界各地の文化遺跡や文化財、伝統文化は、急速な経済発展や社会変化に伴い、失われる危機に直面しているものも多い。こうした有形・無形の文化財を保存し次世代に伝えるため、政府は、ユネスコに89年に設立された文化遺産保存日本信託基金を通じてカンボディアのアンコール遺跡、中国の大明宮含元殿などアジア地域を中心に遺跡保存協力に取り組んでいる。特にアンコール遺跡については人的貢献を重視し、現在、建築学、考古学等の分野の日本人専門家がカンボディア人専門家とともに遺跡保存活動を展開している。また93年度より、ユネスコの無形文化財保存・振興日本信託基金に拠出を行い、舞踊、音楽、漆芸、陶芸などアジアの無形の伝統文化財の保存に努めており、その一環として95年9月には、東京でアジア太平洋無形伝統文化保存国際会議を開催した。

 [開発途上地域での文化振興に対する協力]

 政府は、開発途上国が文化活動や教育活動の振興に必要な機材を購入する資金を供与する文化無償協力を実施しており、94年度には合計58件、総額25億円の供与を行った。また、開発途上国における文化にかかわる様々な分野での人材の育成に協力するため、日本の専門家の派遣、各国の専門家に対する研修の実施を行っている。

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3. 原子力の平和的利用

(1) 原子力安全確保のための国際協力

 旧ソ連・中東欧地域における原子力発電所の安全の確保は、86年の旧ソ連・ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所の事故を契機として緊急の課題として認識されるようになったが、冷戦の終結を受け、G7を中心とする取組が本格化した。ウクライナについては、95年4月、クチマ・ウクライナ大統領が2000年までのチェルノブイリ原子力発電所の閉鎖を発表したことを受けて、12月、同原子力発電所の閉鎖に関するG7・ウクライナ間の覚書が署名された。今後、G7、ウクライナ及び関係国際機関の間の協議を通じて、2000年までの同原子力発電所閉鎖のための具体的なプログラムが策定される予定である。このほか、日本は、国際原子力機関(IAEA)による旧ソ連・東欧地域における原子力発電所の安全性確保のための支援計画、原子力発電所の安全評価ミッションにも積極的に参加している。また、6月のハリファックス・サミットにおいて、エリツィン・ロシア大統領の提案を受けて、96年4
月、モスクワにおいて、原子力の安全等に関する首脳会合を開催することとなった。  原子力発電所の安全の確保については、この分野で初めての国際約束である「原子力の安全に関する条約」(94年作成、未発効。日本は95年5月締結)の早期発効が期待されている。また、日本はIAEAにおける放射性廃棄物管理の安全に関する条約の策定のための検討作業にも積極的に参加している。
 ロシアによる日本海における放射性廃棄物の海洋投棄の問題については、日本がロシアと協力して進めている極東における液体放射性廃棄物貯蔵・処理施設の建設のための交渉が妥結し、96年1月、契約が署名された。同施設の建設により、海洋投棄の再開を将来にわたり防止することが期待される。

(2) 日本の核燃料リサイクル政策

 原子力発電に伴い発電所から出る使用済核燃料には、核燃料として再利用が可能なプルトニウム等が含まれているので、資源の有効利用を図り、原子力発電によるエネルギー供給の安定化を目指す観点から、日本は、使用済核燃料を再処理し、プルトニウム等を回収して積極的に利用する「核燃料リサイクル」の確立を目指している。このような政策の推進にあたっては、核燃料リサイクルの国際的な意義及び日本の原子力の利用が平和目的に限られており、かつ、安全に行われていることにつき各国の理解を得ることが重要である。国際的に強い関心を呼んだ95年2月から4月にかけての高レベル放射性廃棄物ガラス固化体の日本への返還輸送の際にも、日本の核燃料リサイクル政策及び輸送の安全対策等につき、関係国に対し説明を行い、理解を得るよう努力を行ったが、今後も一層の努力を継続していくことが重要である。

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4. 科学技術に関する協力

(1) 科学技術と国際社会

 科学技術は、従来より国際協力の重要な分野として位置づけられきたが、特に近年、環境問題等地球的な規模で解決を迫られる問題がクローズ・アップされてきたこと、冷戦の終結に伴い、旧東西陣営の国々の間での協力がより推進される環境が整ってきたこと等により、国際社会の中で、より一層の協力を行う機運が高まっている。
 具体的には、旧ソ連がかつて軍事部門において蓄積した科学技術関係の膨大な人的・物的資源を、平和目的に利用していくことが、国際社会の緊急かつ重要な課題となっている。一方、戦後世界の科学界をリードしてきた米国においては、先進諸国を始め国際社会と協調して、経済協力開発機構(OECD)等の場において、大型科学プロジェクトなどの国際協力を推進する方向に進みつつある。
 さらに、上記で述べた旧東西陣営間及び先進諸国間の協力の他に、近年は、先進国と開発途上国の間でも、科学技術協力を推進する機運が高まっている。10月には、北京でアジア太平洋経済協力(APEC)の枠組みの中で科学技術担当大臣会合が開催され、各国の科学技術政策の紹介、APEC域内の重点協力分野及び共同プロジェクトの特定がなされ、これらの成果を盛り込んだ共同声明が採択された。
科学技術の分野で世界の最高水準に達している日本にとって、以上の状況は、国際的に大きな役割を果たす好機であり、また、世界からの期待も大きい。

(2) 科学技術を巡る国際協力

 [二国間協力]

 日本は、現在20以上の国との間に科学技術協力協定を有しており、これら諸国を中心に、定期的に二国間会合を開催し、両国の科学技術政策の紹介、共同研究課題の選定や、協力促進のための協議を行っている。12月には、94年6月に締結された日英科学技術協力協定を受けて、第1回日・英科学技術協力合同委員会が開催されたほか、年間を通じ、各国との会合が行われている。

 [多国間協力]

 日、米、EU、ロシアにより94年3月に発足した、「国際科学技術センター」は、旧ソ連の大量破壊兵器関連科学者及び技術者に対する平和目的の研究プロジェクトの提供を目的として、その後も順調に運営されており、95年には、約3,400万ドル相当にあたる100を越えるプロジェクトに対して支援表明を行った。また、上記4極の協力により、国際熱核融合実験炉(ITER)の共同研究開発プロジェクトも進行中である。
 また、日、米、欧、加の共同参加による平和目的の国際協力プロジェクトである宇宙基地計画については、93年に表明されたロシアの参加要望を受け、現在、ロシア参加の具体的な条件等について5極間で協議が進行中である。


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