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国際社会における「法の支配」 |
日本は、国際社会における「法の支配」の促進を外交政策の柱の一つとして位置付け、様々な取組を積極的に行ってきている。国際社会における「法の支配」の確立は、国家間の関係を安定的に深化させ、個人・企業等の活発な国際的活動を保障するための必要不可欠な基盤である。
日本が自国の領土、海洋権益等にかかわる国益や日本国民の安全・繁栄を確保していくためには、日々行われている政治・安全保障、経済、人権、環境等の国際的なルール形成及び国際慣習法の法典化作業に構想段階から積極的に参画し、日本の理念・主張を国際法秩序に適切に反映させていくことが重要である。日本は、国連国際法委員会(ILC)及び国連総会第六委員会における法典化作業、ヘーグ国際私法会議や国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)等の各種フォーラムにおける国際私法分野の条約作成作業等のほか、気候変動に関する2013年以降の枠組みに関する議論、国際刑事裁判所(ICC)や世界貿易機関(WTO)におけるルールづくり等に積極的に参画している。
このように形成された国際ルールを実施し、紛争を国際法に基づき平和的に解決していくことは、国際社会における「法の支配」のもう一つの側面を構成している。日本が締結した国際約束の適切な実施は、日本外交の継続性と一貫性を維持し、日本外交に対する信頼感を高める重要な意義を有する。また日本は、各種の国際司法機関の役割を重視し、国際司法裁判所(ICJ)、国際刑事裁判所(ICC)、国際海洋法裁判所(ITLOS)等に裁判官を輩出するなど、人材面を含めた貢献を通じてその活発な活動と普遍化を強力に支援するとともに、WTO紛争解決制度を含め、外交における国際裁判等の積極的活用にも努めている。
2009年2月には、小和田恆国際司法裁判所裁判官が日本人として初のICJ所長に選出された。同所長の更なる活躍が期待される。
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刑事分野における取組 |
日本は、2007年10月以来、国際社会の関心事である最も重大な罪を犯した個人を国際法に基づいて訴追・処罰するための世界初の常設国際刑事法廷である国際刑事裁判所(ICC)に加盟しており、最大の財政上の貢献国であるのみならず、人材面においてもその活動に貢献している。2009年1月の裁判官選挙では、日本から立候補していた齋賀富美子裁判官が再選を果たした。また、「侵略犯罪」の定義に関する議論やアジア諸国の加盟促進等、ICCをより普遍的な組織として発展させるための活動を行っており、今後もこれらの活動を通じて、国際社会における重大な犯罪行為の撲滅と予防、国際刑事法・人道法の発展に積極的に参画していく考えである。
![]() 国際刑事裁判所における審理の様子 |
また、近年の国境を越えた犯罪の増加を受け、日本は、刑事司法分野における国際協力を推進する法的枠組みの整備に積極的に取り組んでいる。刑事事件の捜査、訴追等に必要な証拠の提供等を一層確実に行い、その効率化及び迅速化を可能とする刑事共助条約の締結は、そうした取組の一例である。中国との間では、2008年10月24日に麻生総理大臣及び温家宝国務院総理の立会いの下、批准書の交換が行われ、同年11月23日に効力を生じた。この条約は、米国及び韓国との間の条約に続き、日本が締結した3番目の刑事共助条約である。また、香港との間の刑事共助協定についても、2008年5月23日に香港で署名を行った。
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日本の外交・安全保障の基盤の枠組みづくり |
日本の外交・安全保障の基盤を強化するためには、日米安全保障条約の円滑かつ効果的な運用が引き続き重要である。こうした観点から、現在、在日米軍の再編を始めとする主要課題に対し、日米安全保障条約及び関連取極等と整合的な形で対応している。また、東アジアの安全保障環境を整備する観点から、重要課題である六者会合や日露平和条約の締結等に向けた交渉に引き続き取り組んでいる。
大量破壊兵器や通常兵器の軍縮及び不拡散も、良好な安全保障環境を形成し、世界全体に平和を築く上で重要な課題であり、日本は、この分野において、国際的な枠組みやルールの設定、それらの普遍化等に取り組んでいる。2008年については、不発弾も含めて文民に無差別な被害を及ぼすクラスター弾に関し、使用・開発・生産等を禁止するクラスター弾に関する条約に関する交渉が進展した。日本は、クラスター弾のもたらす人道上の懸念を深刻に受け止め、同条約の交渉に積極的に参加し、12月に同条約に署名した。
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経済・社会分野における取組 |
諸外国との経済面での協力関係を法的に規律する国際約束は、貿易・投資の自由化や人的交流の促進につながり、日本国民及び企業の海外での活動の基盤整備に役立つ重要な政策手段である。また、環境、航空、人権等のいわゆる社会分野での国際約束も、国民の生活に大きく影響するものであり、日本及び国際社会全体にとって有益な法的枠組みを構築することが重要である。こうした観点から、経済・社会分野の国際約束の交渉・締結について、国民のニーズを的確に把握した積極的な取組を行っている。2008年には、日本は、ASEANとの間を始めとする経済連携協定、各国との投資協定、租税条約及び社会保障協定を締結した。多数国間の枠組みにおいても、国際物品売買契約条約を始め、関税撤廃等(医薬品関連)や漁業、通信などの分野で様々な国際約束を締結している。また、日本は、気候変動に関する2013年以降の枠組みに関する議論を始めとした社会分野の国際的なルールづくりにも積極的に参画している。加えて、日本国民及び企業の生活・活動を守り、促進するために、WTO紛争解決制度の活用を始めとして、作成された国際ルールの適切な実施が確保されるよう取り組んでいる。