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 3.

人権


【総論】


人権・民主主義は普遍的な価値であり、その基盤が各国において十分に整備されることは、平和で繁栄した社会の確立、ひいては、国際社会の平和と安定に資するものである。国連では、アナン前国連事務総長の提唱した、国連のすべての活動で人権の視点を重視するという「人権の主流化」の流れの中で、2005年9月の国連首脳会合において人権分野の重要性が再認識された。これを受けて2006年3月の国連総会では、従来の人権委員会に替わり、人権理事会を総会の下部機関として設置することが決定された。日本は2006年の創設当初から人権理事会の理事国を務めており、任期満了に伴って2008年5月に実施された第3回理事国選挙において、アジアグループで155票を得てトップで再選を果たした。

日本は、国連を始めとする多数国間の場における人権・民主主義にかかわる取組と、人権対話や開発援助等を通じた二国間の場における取組を相互に連携させつつ、開発援助を通じた人権・民主主義基盤の整備等を通じ包括的に人権・民主主義外交の強化を図っていく考えである。



【各論】


 (1) 

国連における取組


国連人権理事会は、2006年6月にジュネーブにて設立後の初回会合を開催し、その後1年かけて組織・活動方法の見直しを行ったが、2008年には、このような議論を重ねて構築された制度が本格的な運用を開始した。

人権理事会通常会合が合計3回(3月、6月、9月)開催されたことに加え、1月にはパレスチナ占領地域に対するイスラエル軍の侵入による人権侵害についての特別会合、5月には世界食糧危機に関する特別会合、11月にはコンゴ民主共和国東部の人権状況に関する特別会合が開催された。また、人権理事会の下で、国連加盟国すべての人権状況を平等に審査する枠組みとしての普遍的・定期的レビュー(UPR)も開始され、4月、5月、12月に開催されたUPR作業部会で、日本を含め合計48か国が審査を受けた。

3月の第7回人権理事会ハイレベル・セグメントには、日本から中山外務大臣政務官が出席し、日本の人権政策や、拉致(らち)問題を含む北朝鮮の人権問題等に言及するステートメントを行った。また、日本は、国際社会として引き続き北朝鮮の人権状況を把握する必要があるとの観点から、北朝鮮の人権状況について調査・報告を行う特別報告者のマンデート(任務)を延長する決議案をEUと共同で提出し、この決議案は賛成多数で採択された。

5月には、UPRの対日審査が行われた。各国から、死刑制度、女性の人権問題、差別問題への対応、代替収容制度等につき指摘がなされる一方、日本の国際刑事裁判所(ICC)への加入やハンセン病への取組、日本の技術協力供与に対する評価が示された。日本の審査に対する報告書は、第8回人権理事会で結果文書として採択された。

6月の第8回人権理事会では、日本は、全世界でハンセン病に関連する差別問題に苦しむ人々の人権を守るために、人権理事会においてハンセン病差別問題を議論し、差別を撲滅するための実効的な方法等を検討することを目的とする、「ハンセン病差別撤廃決議」を主提案国として提出した。本決議案は59か国による共同提案の下、全会一致で採択された。

10月には、自由権規約第5回日本政府報告に対する審査が約10年ぶりにジュネーブで実施され、この審査を踏まえて、自由権規約委員会は10月30日に最終見解を採択した。最終見解の中には、女性差別問題、死刑制度、代替収容制度等多岐にわたる事項に関し、同委員会としての懸念事項及び勧告が含まれている。

自由権規約以外の条約の日本政府報告にしては、4月に「女子差別撤廃条約」第6回政府報告、「児童の権利条約」第3回政府報告、「児童の権利条約」の二つの選択議定書(武力紛争における児童の関与に関する選択議定書、児童の売買・児童買春及び児童ポルノに関する選択議定書)それぞれについて第1回政府報告を、また、8月には「人種差別撤廃条約」に関する第3回~第6回政府報告をまとめて提出した。

10月から11月にかけてニューヨークで開催された第63回国連総会第3委員会では、国別やテーマ別の人権問題に関して議論が行われ、約60本の決議が採択された。日本は、拉致問題への言及も含む北朝鮮人権状況決議案をEUと共に提出し、決議案は4年続けて賛成多数で採択された。この決議案は、北朝鮮における組織的、広範かつ重大な人権侵害に対して極めて深刻な懸念を表明し、北朝鮮に対してすべての人権と基本的自由を完全に尊重するよう強く要求するものである。拉致問題については、前年同様、北朝鮮当局に対し、拉致被害者の即時帰国を含め、拉致問題の早急な解決を強く要求することが明記されている。同決議は、12月の国連総会本会議においても、多数の支持を得て採択された。

12月には、世界人権宣言採択60周年を記念する行事が国連本部や人権理事会において開催された。日本においても、12月6日、外務省、法務省等の共催による記念行事が行われた。

2005年9月の国連首脳会合では、国連における人権分野での取組の重要性にかんがみ、今後更に国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の役割を強化することが決定された。日本としても、国際社会での人権分野の活動に積極的に関与するという姿勢に基づき、2008年度分として前年度の約3倍に当たる約1億円を同事務所に拠出した。日本は、2008年7月に新たに選出されたピレー国連人権高等弁務官に最大限協力し、日本と同事務所の協力関係を更に促進していく考えである。



 (2) 

二国間人権対話


人権の保護・促進のためには、二国間の対話を通じた相互理解の醸成も効果的な手段であることから、日本は二国間の人権対話の実施を重視している。

7月には、約8年ぶりに日中人権対話(第4回)を北京で開催し、両国の人権分野における政策と実践や国際人権分野における協力について意見交換を行った。

8月に行われた第3回日・カンボジア人権対話においては、カンボジア側から、同国の人権状況及び人権分野での取組等について説明が行われた。さらに、日本は、人権理事会でのカンボジア人権状況決議の主提案国としての立場を踏まえつつ(同決議は9月の第9回人権理事会で採択)、今後の課題等について意見交換を行った。

10月には、前年に引き続き、イランとの間で5回目となる人権対話を行い、両国がそれぞれ自国の人権状況及び人権の保護・促進に向けた取組や相手国の課題について意見交換を行った。また、政府間対話と並行して、学者及び専門家等を参加者とする、女性の人権に関するセミナーも開催された。

また、12月に行われた日・ウズベキスタン外務省間実務者協議においては、人権にかかわる諸問題について意見交換を行い、日本側から人権状況の改善に向けた一層の努力を働き掛けた。



 (3) 

弱者の保護


児童の性的搾取問題は重大な人権侵害であり、インターネットやIT技術の発展により、問題はより深刻化している。11月、リオデジャネイロで「第3回児童の性的搾取に反対する世界会議」が開催され、約140か国からの各国代表団を含む3,000人以上が出席した。開会式では、第2回横浜会議(2001年)の主催国である日本政府を代表し、西村外務大臣政務官がスピーチを行い、今後も日本が児童の性的搾取の問題に国際社会と共に積極的に取り組む方針であることを述べた。

6月、紛争予防・平和構築の過程における女性、児童等の弱者の保護に焦点を当てた国連安保理決議第1820号が全会一致で採択された。安保理理事国10か国及び日本を含む51か国が共同提案国となった。

難民に関しては、国際貢献等の観点から、2007年9月、関係省庁で第三国定住による難民の受入れに関する勉強会を立ち上げ、検討を重ねた結果、2008年12月には、閣議了解及び難民対策連絡調整会議での決定により、2010年度から、パイロットケースとして、タイの難民キャンプから約30人(家族単位)のミャンマー難民を受け入れ、日本語教育及び職業紹介等の定住支援を行うこととなった。


「第3回児童の性的搾取に反対する世界会議」にてスピーチを行う西村外務大臣政務官

「第3回児童の性的搾取に反対する世界会議」にてスピーチを行う西村外務大臣政務官(11月25日、ブラジル・リオデジャネイロ)



 (4) 

国際人権・人道法模擬裁判


日本は、国際法に関心を有するアジア諸国(日本を含む)の大学生の能力向上を支援するとともに、広く国際人権・人道法の知識の普及及び理解の増進等の啓発を行うため、「国際法模擬裁判」を開催している。6回目となる2008年は、「強制行動にともなう個人の拘留に関する事件」をテーマに、インドネシア、シンガポール、タイ、中国(香港)、パキスタン、フィリピン、ベトナムの7か国から40人近くの学生が来日し、日本の学生と共に、英語による書面陳述及び弁論能力等を競った。また、国際法を専門とする大学教授や国際法に経験のある実務家など、内外の著名な専門家が裁判官として審査に参加した。


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