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環境・気候変動 |
気候変動や生物多様性の損失を含む地球環境問題は人類の生存に対する深刻な脅威である。日本は、地球環境の保全は地球の未来に対する我々の責任であると認識し、外交上の重要課題として取り組んできている。特に、地球環境問題の解決に向けて、高い技術水準をいかし、環境・省エネの分野でも世界をリードする国家として、政府開発援助等を通じた環境分野での開発途上国支援のほか、多数国間環境条約などの国際的ルールづくりを通じ、地球環境問題への取組を主導している。
日本が議長国を務め、7月に開催されたG8北海道洞爺湖サミットでは、環境・気候変動を主要議題の一つと位置付け、気候変動の次期枠組み交渉を促進すべく議論をリードした。また、森林、生物多様性、3R(Reduce、Reuse、Recycle)、持続可能な開発のための教育(ESD)への取組の促進に努めた。
気候変動問題については、2012年で終了する京都議定書の第一約束期間後の国際的枠組みに関する議論が活発化している。この枠組みに関する交渉は2009年末にデンマークで開催される気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)までに合意を得ることとされており、2008年9月、国連の下での交渉において、日本は基本的な考え方に関する提案を行った。
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気候変動問題 |
気候変動問題は、先進国、開発途上国を問わず、国境を越えて人間の安全保障を脅かす喫緊の課題であり、国際社会による一致団結した取組の強化が急務となっている。2007年11月の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書統合報告書は、各国が現在の政策を継続する場合、世界の温室効果ガス排出量は今後20年~30年の間増加し続け、21世紀末には20世紀に観測されたものより大規模な温暖化がもたらされると予測しており、この問題の深刻さと速やかな対応の必要性を示唆している。
2007年12月にインドネシア・バリで開催されたCOP13において、気候変動枠組条約の下に次期枠組みについて議論する新たな作業部会が設置され、2009年末のデンマークでのCOP15において次期枠組みにつき合意を得ることとされた。これを受けて2008年も引き続き気候変動に関して様々な場面で活発な議論が行われた。日本としては、G8議長国として、G8北海道洞爺湖サミットに向けて各種イニシアティブを発表したほか、国連の下での交渉においても提案を行った。
2008年1月、福田総理大臣は、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席し、G8サミット議長として「クールアース推進構想」を発表した。その中で、IPCCが、破局を避けるためには地球全体の温室効果ガスを次の10年から20年の間にピークアウトし、2050年には少なくとも半減しなければならないと警告を発していることに言及し、日本としては主要排出国と共に、今後の温室効果ガスの排出削減について、国別総量目標を掲げて取り組む決意を示した。その取組には、各国間の削減負担の公平さを確保するため、各産業分野の削減可能量を分析するセクター別アプローチを活用し、エネルギー効率や今後活用される技術など、科学的かつ透明性の高い尺度を用いた積み上げ方式による作業を進めることを提案した。また、100億米ドル規模の資金を活用し、開発途上国の気候変動対策に対して支援の手を差し伸べる「クールアース・パートナーシップ」の構築を提案し、開発途上国とも連帯を強化し、地球全体での温室効果ガス削減を目指す考えを示した。本パートナーシップは、2008年12月現在、インドネシアに対し「気候変動対策プログラム・ローン」(供与限度額約308億円)の供与に係る交換公文(E/N)を締結するなど、約70か国と推進されている。
G8北海道洞爺湖サミット直前の6月、福田総理大臣は「『低炭素社会・日本』をめざして」と題するスピーチを行った。排出量削減の長期目標については、2050年までに世界全体で温室効果ガス排出量を半減するという目標をG8及び主要排出国と共有することにより、先進国として開発途上国以上の貢献をすべく、日本としては2050年までに温室効果ガス排出量を現状から60%~80%削減するという目標を提示した。中期目標については、セクター別アプローチにより、排出削減可能量の分析を行い、その成果をCOP14に報告するよう各国に働き掛けるとともに、セクター別積み上げ方式に対する各国の評価などを踏まえ、共通の方法論を確立すべく各国の理解を得ることとした。なお、日本の国別総量目標については2009年のしかるべき時期に発表することとした。
7月のG8北海道洞爺湖サミットでは、環境・気候変動を主要議題の一つと位置付け、以下の成果を上げた。[1]長期目標について、G8は、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも50%削減するとの目標を、気候変動枠組条約の全締約国と共有し、同条約の下での交渉において検討し採択することを求めることが確認された。[2]中期目標については、G8各国が自らの指導的役割を認識し、すべての先進国間における比較可能な努力を反映しつつ、排出量の絶対的削減を達成するため、野心的な中期の国別総量目標を実施することで一致した。[3]セクター別アプローチについて、G8は、各国の排出削減目標を達成する上でとりわけ有益な手法であり、エネルギー効率を向上し温室効果ガス排出量を削減するための有用な手法とした。G8サミットの際には同時に主要開発途上国も含めて「エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国首脳会合」(MEM)が初めて開催され、主要開発途上国が排出量削減のため適切な行動をとることで一致した。
このようなG8サミットの成果やその他の日本の基本的な考え方を次期枠組み交渉に適切に反映させるため、9月、日本は気候変動枠組条約事務局に対して次期枠組みに関する提案を行った。その中で、日本は、[1]G8で共有された長期目標を気候変動枠組条約の下で採択することを提案したほか、[2]先進国の国別総量目標設定に当たっては、セクター別アプローチを活用し、比較可能性を担保すること、[3]先進国としての義務を負う国の基準を作成し、経済協力開発機構(OECD)加盟国やそれに比肩し得る国も先進国として扱うこと、[4]国を経済の発展段階等により分類し(「差異化」)、主要開発途上国に対しては主要セクター及び経済全体の効率目標を拘束力のある目標として設定すること、[5]経済発展段階に応じて国を上位の分類に移行する仕組み(「卒業」)を作成することなどを主張した。
12月にポーランドのポズナンで開催されたCOP14は、2009年末に開催されるCOP15に向けた中間地点であり、2009年の交渉本格化に向けた論点整理の場であった。COP14では、2009年の交渉の基礎とするため、議長が次期枠組みに関する各国の提案を整理した文書を作成し、その中に日本が提案した長期目標、「差異化」、「卒業」等の考え方も反映された。また、先進国の削減目標設定のための分析方法として、日本が主張するセクター別アプローチの考え方も反映された。
2009年は、次期枠組みに関する交渉が本格化し、気候変動枠組条約の下での作業部会や京都議定書の下での作業部会のほか、イタリアにおけるG8サミットの際に行われる主要経済国首脳会合(MEM)など国連交渉の枠外でも活発な議論が行われる。日本としては、すべての主要経済国が責任ある形で参加する実効的な枠組みの構築を目指し、引き続き国際的な議論に貢献していく考えである。
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森林保全・違法伐採 |
日本は、国際熱帯木材機関(ITTO)等を通じて、違法伐採対策を含む持続可能な森林経営に向けた取組を推進している。3月には、前年に続いて主要木材生産国、消費国、国際機関、NGO等が参加した第2回違法伐採国際専門家会議を主催した。また、7月のG8北海道洞爺湖サミットでは、森林減少・劣化に由来する温室効果ガスの排出削減(REDD)のための行動を奨励することなどが確認された。
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水と衛生 |
国際衛生年であった2008年、日本は、衛生分野(トイレ、汚水処理等)の重要性も強調しつつ、世界の水と衛生の問題の解決のために取り組んだ。まず、2月には、高村外務大臣は、水と衛生の問題に関する政策演説を行い、世界の水と衛生の問題への国際社会の取組に関する日本の考え方を明らかにした。5月には、水と衛生分野における国際社会の取組に関する提言を行っている国連「水と衛生に関する諮問委員会」(皇太子殿下が名誉総裁)の活動を支援するため、第10回会合を東京で開催した。7月のG8北海道洞爺湖サミットにおいては、議長国である日本が水と衛生に関する議論を主導した結果、「循環型水資源管理」の重要性が確認され、各国政府に対して衛生へのアクセスを優先課題とするよう呼び掛けること、アフリカ及びアジア太平洋地域に焦点を当てることなどが確認された。9月には、国連ミレニアム開発目標(MDGs)に関するハイレベル会合に際し、サイドイベント「すべての人に水と衛生を」をドイツ、オランダ、タジキスタンと共催し、水と衛生に関するミレニアム開発目標を達成するための国際的な取組を強化することを国際社会に呼び掛けた。12月には、G8北海道洞爺湖サミットのフォローアップとして、第1回G8水と衛生に関する専門家会合を北海道帯広市にて開催し、「G8エビアン水行動計画」の進ちょく報告及び水と衛生に関するG8実施戦略の作成に関し、今後の作業の方向性についての共通認識を醸成した。
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生物多様性条約 |
5月には、ドイツで生物多様性条約(CBD)第9回締約国会議が開催され、2010年目標(2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させるという目標)の達成に向けた各課題の進ちょく状況や、「遺伝資源へのアクセスと利益配分」に関する国際的枠組みに係る2010年までの検討プロセスが議論された。また、「国際生物多様性年」に当たる2010年に生物多様性条約第10回締約国会議が愛知県名古屋市で開催されることが決定された。G8北海道洞爺湖サミットでは、2010年生物多様性目標へのコミットメントを改めて表明することなどで一致した。
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その他の環境問題 |
オゾン層保護については、11月、オゾン層の保護のためのウィーン条約締約国会議及びオゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書締約国会合がカタールで開催された。前回会議で削減スケジュールが前倒しされた代替フロン(HCFC)の削減について、開発途上国支援の方策が協議されるとともに、オゾン層破壊物質のバンク(市中に出回っている冷蔵・冷凍・空調機器等に含まれているもの)について、適切な処理方策の検討を進めることとなった。
湿地の保全・賢明な利用については、11月、ラムサール条約第10回締約国会議が韓国で開催された。日本が韓国と共同で提出した、「人工湿地である水田における生物多様性の保全を促進する決議」が採択された。
日本海及び黄海の海洋汚染については、日本、中国、韓国、ロシアによる北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)の枠組みの下、漂流・漂着ゴミ対策を含む海洋保全に関する連携が図られており、9月にはロシアで初の国際海岸クリーンアップキャンペーンを実施した。
環境と経済が両立する循環型社会の構築のために日本が提案した3R(Reduce、Reuse、Recycle)については、G8北海道洞爺湖サミットで、資源循環を最適化するために適切な場合には目標を設定することなどで一致した。
環境教育については、2004年から毎年アジア協力対話の枠組みで「環境教育推進対話」を開催している。2008年は10月に滋賀県において「水と衛生問題に関する教育」をテーマに開催した。また、第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)やG8北海道洞爺湖サミットにおいても、持続可能な開発のための教育(ESD)の促進などにつき一致した。
G8北海道洞爺湖サミット―環境・気候変動分野の成果―