目次 | 前の項目に戻る |  次の項目へ進む

   第2節   


地球規模課題への取組と国際協力


 1.

国際協力の推進


【総論】


2006年8月の外務省国際協力局発足以来、新しい体制の下、日本政府は国際協力の戦略性の強化と、より一層の効果的実施に取り組んできた注1

具体的には、内閣総理大臣が主宰する「海外経済協力会議」注2や、外務省の「国際協力企画立案本部」注3等の議論を踏まえて策定した2008年度の「国際協力重点方針・地域別重点課題」注4において、[1]環境・気候変動問題に関する開発途上国支援、[2]食料価格高騰問題に関する開発途上国支援、[3]平和の構築や定着、復興、[4]開発途上国の経済成長と日本の経済的繁栄の促進、[5]人間の安全保障の確立を重点事項として国際協力を実施することとしている。

政府開発援助の一層効果的な実施を図るため、2008年10月には国際協力機構(JICA)と国際協力銀行(JBIC)海外経済協力部門が統合し、技術協力、有償資金協力及び無償資金協力の三つの援助手法を一元的に実施する機関として新JICAが発足した。また、政府が資源・エネルギーの確保や環境・気候変動問題に取り組むに当たり、民間企業との連携をより一層推進するため、2008年4月、「成長加速化のための官民パートナーシップ」注5を発表した。こうした日本政府の取組については、国内外で積極的な広報を行っている。

2008年は、日本はG8議長国として、4月にG8開発大臣会合、7月にG8北海道洞爺湖サミットを主催した。同サミットにおいては、環境・気候変動、開発・アフリカ等を主要議題として議論し、G8としてミレニアム開発目標(MDGs)注6の達成に向けた決意を表明した。また、G8北海道洞爺湖サミットに先立ち、5月には横浜で第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)を開催し、成長の加速化、人間の安全保障の確立等について活発な議論を行い、アフリカ開発の取組・方向性に関する「横浜宣言」等を打ち出した。

今後も、開発途上国の開発及び地球規模課題に積極的に取り組むことを通じて世界の平和と繁栄に貢献し、また、日本の外交政策を反映させた国際協力の推進に一層努め、特にアフリカ開発、気候変動、国際保健、食料安全保障等の課題において、日本のリーダーシップを発揮していく方針である。


2008年度の地域別重点課題

2008年度の地域別重点課題


【各論】


 (1) 

日本の政府開発援助(ODA)の実績と主な地域への取組


 イ  

日本の実績と国際公約の達成

2007年の日本の政府開発援助(ODA)の実績は、国際機関向け出資・拠出等の支出実績や債務救済が減少したことなどを受け、対前年比31%減の約76.8億米ドルとなり、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)諸国中、米国、ドイツ、フランス、英国に続く第5位の援助国となった。また、対国民総所得(GNI)比も0.17%に減少し、DAC加盟22か国中、第20位となった。

一方、日本は、2005年4月のアジア・アフリカ首脳会議で表明した、3年間でアフリカ向けODAを倍増するとの公約を達成した。また、2005年7月のG8グレンイーグルズ・サミットで、2005年~2009年の5年間のODA事業量について、2004年実績と比較して100億米ドルの積み増しを目指すことを表明し、2008年5月のTICAD IVでは、2012年までにアフリカ向けODAを倍増することを表明した。さらに、日本は、2009年1月に、現下の金融・経済危機に対して、アジア諸国の取組を後押しするため、ODAについては、総額1兆5千億円以上の支援を行う用意がある旨表明した。これらの国際公約を着実に実行するため、今後も積極的にODAの実績を積み重ねていく方針である。


 ロ  

主な地域への取組

(イ) アジア

アジア地域は、政治、経済、文化等、様々な面で日本と密接な関係にあり、日本の安全と繁栄に重要な意義を有する。2007年の日本の対アジア地域二国間政府開発援助は、約16.3億米ドルで、二国間政府開発援助全体に占める割合は約28.3%である。

日本は、ASEAN諸国に対し、ODAによる経済・社会インフラ基盤整備等の支援を行うとともに、民間投資や貿易の活性化を図るなど、公的資金と民間の活動を有機的に連携させた経済協力を進め、同地域の発展に貢献してきた。さらに、気候変動対策、鳥インフルエンザ、海上の安全確保等の地球規模・地域全体の課題に対するASEAN諸国の取組に対しても支援を行っている。特に、日本はメコン地域を支援の重点地域とし、2007年から3年間、カンボジア、ラオス、ベトナムの各国及び地域全体に対するODAを拡充することとしている。

また、日本は「日印戦略的グローバル・パートナーシップ」の下で、インドとの間の様々な分野での関係強化と協力関係を進展させている。10月のシン首相訪日において、両国首脳は、日本のODAがインドの経済発展に貢献し、インド国民の間に親日感情をはぐくんできたとの認識を共有するとともに、日本のODAが、インドにおける貧困削減、経済・社会インフラ整備、環境問題への対応及び人的資源開発の面で、一層の役割を果たすべきであるとの認識を共有した。

中国への援助については、円借款の新規供与が2007年度分を最後に終了した。また、2008年5月の胡錦濤(こきんとう)国家主席訪日時には、両国が協力して環境問題等に取り組んでいくことが日中首脳間で確認された。また、同月12日に四川省で発生した大地震への対応として、日本は、国際緊急援助隊の派遣、緊急援助物資の供与、緊急無償資金協力による支援物資の供与や輸送を行った。


(ロ) アフリカ

アフリカは、依然として深刻な貧困や紛争等の問題に直面している一方、近年では、平和の定着や民主化の進展も見られ、年5%以上の経済成長を遂げる国も少なくない。日本は、「アフリカ問題の解決なくして、世界の安定と繁栄なし」との考えに基づき、アフリカの諸問題に対して国際社会の責任ある一員として貢献していく。

日本は、アフリカの自助努力(オーナーシップ)と国際社会の協力(パートナーシップ)を基本哲学とするアフリカ開発会議(TICAD)プロセスを基軸として、アフリカに対する協力を実施してきている。2008年5月にはTICAD IVを開催し、「元気なアフリカを目指して-希望と機会の大陸」を基本メッセージに、「成長の加速化」、「人間の安全保障の確立」及び「環境・気候変動問題への対処」を重点事項として、アフリカ開発の方向性について活発な議論が行われた。全体議長を務めた福田総理大臣は、日本の支援策として、2012年までのアフリカ向けODA倍増、民間投資の倍増支援等を打ち出した。また、同会議において、今後のアフリカ開発の取組・方向性に関する政治的意思を示す「横浜宣言」、TICADプロセスの具体的取組を示す「横浜行動計画」、同プロセスの実施状況の検証を行うための「TICADフォローアップ・メカニズム」の三つの文書が発出された。7月のG8北海道洞爺湖サミットにおいては、TICAD IVへの貢献が歓迎されるとともに、アフリカの経済成長のためのビジネス環境整備、インフラ整備、農業、ガバナンス、平和と安全等が重要であることで認識が一致した。

日本は、TICADプロセスで表明した公約を着実に実施してきている。2003年のTICAD IIIでは、保健医療、教育、水や食糧支援等の基礎生活分野において5年間で10億米ドルを目標に無償資金協力を実施することを発表し、累計1,355億円(約12億米ドル)を2008年3月までに供与した。


 (ハ)   中東

世界の主要なエネルギー供給地域であり、日本の原油輸入の約9割を占める中東地域の平和と安定の確保は、国際社会全体の平和と繁栄にも直結する重要な課題である。日本は、国際社会と連携しつつ中東地域の平和と安定の確保を図ること、また、日本のエネルギー安全保障を確保することの2点を主要な目標として、中東外交に積極的に取り組んでいく。

イラクに関し、2003年のマドリード会合にて当面の支援として表明した15億米ドルの無償資金協力は、表明額を上回る約1,872億円(約16.9億米ドル)の使途を決定し、支出済みである。現在は、中長期的な支援として表明した最大35億米ドルの円借款による支援に重点を移しつつあり、これまで計12案件、総額約2,768億円(約24.5億米ドル)の供与を決定した。また、研修を通じた能力構築も継続していく。

アフガニスタンでは、日本は政治プロセス・ガバナンス、治安の維持及び復興の三つの柱注7を中心に支援を行っており、2008年12月までに総額約1,687億円(約14.6億米ドル)の支援を実施・決定済みである。暫定政権への行政経費支援や選挙監視支援、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)、非合法武装集団の解体(DIAG)、地雷対策、警察分野など治安維持への支援を行ってきた。さらに、難民・避難民の再定住支援、農業・農村開発支援、教育支援、インフラ整備等を行っている。

中東和平支援については、日本は、1993年以降、約10億米ドルの対パレスチナ支援を実施するとともに、イスラエルとパレスチナが共存共栄する二国家構想の実現を支持し、アッバース・パレスチナ自治政府(PA)大統領による和平努力を一貫して支援してきている。また、日本独自の中東和平への中長期的な取組として、イスラエル、ヨルダン、パレスチナとの協力を通じてヨルダン渓谷の経済開発を図る「平和と繁栄の回廊」構想を提唱し、その具体化に向け積極的に取り組んでいる。2007年12月、パレスチナ支援プレッジング会合がパリで開催され、日本は、パレスチナ改革・開発計画(PRDP)への支援、「平和と繁栄の回廊」構想の具体化支援、人道支援を中心に、当面1.5億米ドルの支援を実施していくことを発表し、2008年12月までの1年間で総額約4,400万米ドルの無償資金協力を実施した。さらに、2008年12月に開始されたイスラエルのガザ地区への空爆以降悪化した人道状況に対応するため、2009年1月、麻生総理大臣がアッバースPA大統領に対し、1,000万米ドル規模の緊急人道支援を表明し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)(300万米ドル)、国連児童基金(UNICEF)(300万米ドル)、国連世界食糧計画(WFP)(400万米ドル)を通じた支援を実施した。



 (2) 

地球規模課題


近年、テロ、貧困、感染症、環境破壊等、国際社会が協調して対処すべき様々な地球規模課題が、外交全般における主要課題として顕在化している。これらの脅威に対処するに当たって、日本は一人一人の人間に着目し、保護と能力強化を通じてその豊かな可能性の実現を目指す「人間の安全保障」の理念を重視し、その国際的な普及に取り組んできた。また、1999年に国連に設置した人間の安全保障基金を通じ、世界各地で人間の安全保障の向上を実践する活動を支援してきた。こうした取組により、2008年5月には国連総会において初めて人間の安全保障が討論されたほか、人間の安全保障基金にタイ及びスロベニアが拠出するなど、この理念は着実に浸透しつつある。

2008年は、MDGsの2015年までの達成に向けた中間年でもあった。この節目の年にTICAD IV、G8北海道洞爺湖サミットを開催した日本は、人間の安全保障の理念の下で、保健、水・衛生、教育というMDGsの重要分野に焦点を当てることを早期に打ち出し、各分野における政策形成をリードし、国際社会の取組を方向付けた。そして、国連MDGsハイレベル会合(9月)やカタールのドーハにおける「モンテレー合意実施レビューのための開発資金国際会議フォローアップ」会合(11月29日~12月2日)等の国連の主要な会議の場においても、これらの諸課題への取組を決して後退させないとの決意を一貫して表明し、国際社会が一丸となって取り組むことを訴えた。

とりわけ国際保健分野においては、世界で年間500万人が三大感染症で命を落とし、960万人の5歳未満児及び50万人の妊産婦が死亡しており、その多くは予防可能な原因による。この現状に対処すべく、日本は世界で400万人、アフリカで150万人に上る保健従事者の不足に着目し、感染症対策、母子保健、人材育成を含む保健システム強化への包括的な取組の重要性を訴えた注8。さらに、G8保健専門家会合を立ち上げ、国内外の官民の関係者と議論を重ねたことで、サミットにおける「国際保健に関する洞爺湖行動指針」注9の発表が実現した。日本は、5月に三大感染症に関する国際会議注10、11月に保健システム強化に関する国際会議を開催注11するなど、様々な取組を通じてけん引役を務めている。

また、水・衛生分野においては、2月に「循環型水資源管理」注12という概念を打ち出し、G8北海道洞爺湖サミットを含む種々の国際会議の場で、この概念に基づいた国際社会の取組の重要性を一貫して訴えた。また、12月にはG8サミットの成果を踏まえてG8水と衛生に関する専門家会合を北海道帯広市で開催し、今後の進め方についてG8の認識の共有を図った。

さらに、教育分野においては、ファスト・トラック・イニシアティブ(FTI)注13共同議長国として、4月にFTI実務者会合及び関連会合を開催した。同月、高村外務大臣は、基礎教育の更なる充実と基礎教育を超えた多様な教育段階の支援強化の重要性を訴え、今後5年間でアフリカにおいて約1,000校の学校建設や1万校の学校運営改善、全世界で30万人の理数科教員能力の向上等に取り組むことを表明した。

日本は、人道支援分野における積極的な対処にも力を入れている。2007年10月以降の食料価格の急騰は、世界の飢餓人口を9億6,300万人に増加させる注14など、支援需要を急激に拡大させた。また、イラク、アフガニスタン、ダルフール等で改善が見られない中、グルジア情勢を含む新たな紛争や、ミャンマー、中国等での大規模自然災害も発生し、難民、避難民をめぐる状況は依然として深刻である。日本はこうした事態に対し、食糧支援を含む緊急人道支援や、復旧・復興への継ぎ目のない支援等を速やかに実施に移している。また、国際機関との緊密な協議・調整を進め、現場では各機関の現地事務所、JICA及び日本のNGO等の連携に努めている。

これらはいずれも、人間の安全保障に直接かかわる課題であり、日本としては引き続き、保健、水・衛生、教育、ジェンダーといった開発分野間の相乗効果を図る「分野横断的」なアプローチ、そして、開発途上国から援助国、国際機関、民間財団、企業、学界に至るまで幅広い関係者の力を結集する「全員参加型」のアプローチを活用しながら、21世紀にふさわしい戦略的視点をもって、国境をまたがる問題に積極的に取り組んでいく考えである。


-
(注1) 政府開発援助(ODA)については外務省が別途発刊する「政府開発援助(ODA)白書日本の国際協力」( 外務省ホームページhttp://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo.html)を参照。
(注2) 日本の海外経済協力に関する重要事項を機動的かつ実質的に審議し、戦略的な海外経済協力の効果的な実施を図るために、2006年4月に内閣に設置された会議。議長は内閣総理大臣、議員は内閣官房長官、外務大臣、財務大臣、経済産業大臣。同会議は、2008年は6回開催され、「法制度整備支援」「アフリカ(TICAD IV)」「ODAの量と質」「現下の世界情勢を踏まえた海外経済協力の在り方」「東アジアに対する海外経済協力」について議論した。
(注3) 海外経済協力会議で審議された基本戦略の下、ODAの具体的な企画・立案・調整の中核を担う外務省が設置した会議。本部長は外務大臣。2008年に開催した同本部では、「平成20年度国際協力重点方針」「新JICA発足に向けた準備状況」について議論した。
(注4) 海外経済協力会議の結果やODA大綱・ODA中期政策と国ごとの援助指針である国別援助計画を踏まえつつ、外交政策を踏まえた国際協力を推進するため、2007年度から外務省において年度別に策定。
(注5) 民間企業の活動とODAを中心とする公的資金との連携促進に資する実施可能な改善策を検討するため、2007年12月以降の政府側と民間側との間での議論を踏まえ、外務省、財務省、経済産業省合同の官民連携促進策として策定。
(注6) 2000年の「国連ミレニアム宣言」を受け、21世紀に全世界が取り組むべき共通の開発課題として、貧困の撲滅や初等教育の完全普及等、2015年までに達成すべき八つの目標を設定したもの。
(注7) 2002年に川口外務大臣が提唱した「平和の定着」構想に基づく。
(注8) 高村外務大臣政策演説「国際保健協力と日本外交-沖縄から洞爺湖へ-」(2007年11月)。
(注9) 本文書は、G8保健専門家によるG8首脳に対する提言書であり、G8北海道洞爺湖サミット成果文書において歓迎された。
(注10) 5月23日~24日、東京で「国際シンポジウム-沖縄から洞爺湖へ『人間の安全保障』から見た三大感染症への新たなビジョン」を共催。
(注11) 11月3日~4日、東京で、G8北海道洞爺湖サミット・フォローアップ「保健システム強化に向けたグローバル・アクションに関する国際会議」を共催。
(注12) 水は希少かつ代替不可能な一方で持続的な利用が可能である資源であるとの認識の下、水資源を繰り返し利用すべく様々な水循環を包括的に管理すること。
(注13) 初等教育の完全普及に向けて2002年に設置された国際的な支援枠組み。日本は2008年1月から1年間、FTI共同議長国を務めた。
(注14) 国連世界食糧農業機関(FAO)報告による2008年12月現在の数値。

テキスト形式のファイルはこちら

▲このページの上へ